魔女は世界を救えますか?

ハコニワ

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Ⅴ 救済の魔女 

第69話 級友たち

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 わたしが今からやるゲームを後ろから見守る。わたしをここへ連れてきた少女に「よく連れてきたなぁ」とハイタッチしてる。
 紙飛行機て、どれも同じじゃない。折った折り紙を飛ばしてみた。なんと、わたしの足元で落ちた。飛ばなかった。
「え……嘘でしょ?」
 普通に折ったよ。なのに飛ばないなんて、ありえない。まさか
「折り紙になんか、細工を?」
「できるわけないじゃん」
 ですよね。それじゃあ、わたしの折り方がなんか違うのかな。ダイキが試しに折ってみると、同じにしかみえない。けど、飛ばしてみると、遠くまで飛んでいった。
「え、何で!? どうして!?」
 わたしの紙飛行機は全然飛ばなかったのに、ダイキの紙飛行機はよく飛ぶ。もう目がぱちくり。信じられない。
 ダイキはまんざらでも笑っている。まんざらでも笑うとき、やっぱりあの頃から変わっていないあどけない表情。
 大人なのに、子どもぽい。
 どうして飛ばなかったのか、詳しく解説してくれた。折り紙を折りながら。
「紙飛行機を長く飛ばしたいなら、翼の調整が大事。あと、飛ばすんじゃなくて、空中に落とす感じかな」
 ダイキがゆっくり解説しながら、紙飛行機を折っていく。わたしもそれに習って折ってみる。わたしが知っている紙飛行機の折り方じゃない。
 長く飛べる紙飛行機の折り紙らしい。

 ダイキが再び飛ばした。またさっきみたいに壁元まで飛んでいった。さっきの記録を超えてる。
 また記録を塗り替えたから、子供たちが群がった。ダイキ先生に周りに我よと群がる。ダイキは、子供ぽい性格だから、どの子供たちにも好まれる。人気者の先生だ。
 子供たちに群がられ、幸せそうにしている。まるで、自分の子供に囲まられているような感じだ。

 わたしも試しに、この紙飛行機を飛ばしてみた。すると、ダイキが飛ばした紙飛行機まで飛んだ。凄くて、空いた口が塞がらない。
 凄い。紙飛行機て、あんなに飛べるの。自分で折ったのに、信じられない。ダイキと並んだ記録を叩き出したことに、子供たちも大歓声。
「お姉ちゃん凄い! 飴玉あげるね!」
「お姉ちゃん、次こっち! こっちこっち!」
「初対面なのに、人気者だなー」
 子供たちの歓声な声、キラキラしたまんまるな瞳、賑やかな空気、ここは疎まれる場所じゃない。みんなが笑える場所だな。

 わたしが紙飛行機ゲームをやり終えたとき、ようやく他の観客が現れた。それは知っている顔ぶれだった。
 車椅子を押して歩く、二人の影。それは、学生時代最も関わった人たちだ。
「マドカ先輩、ナズナ先輩、マナミ先輩! 来てくれたんですね!」
 わたしが駆け寄ると、足音、声で察知したマドカ先輩がニコリと笑った。 
「お久しぶりですね、ユナさん。それにシノさんとその殿方」
 わたしとシノはペコリと会釈。ダイキは何故か顔を真っ赤にさせている。マドカ先輩とは卒業しても、ちょくちょく顔を出している。会っていない期間は、たったの二ヶ月だ。
「忙しいのに、わざわざ来てやったわよ~、感謝してよね」
 マドカ先輩の車椅子を押して歩いてたナズナ先輩が高らかに言った。その横にいたマナミ先輩がぷぷと笑う。
「一ヶ月前からこの日をチェックして、休んでたじゃん」
 マナミ先輩に指摘され、ナズナ先輩は図星の表情。笑われているのに何も言い返さなかった。

 この二人もマドカ先輩みたいに、卒業してもよく学校に現れていた。というか、半ば遊びに来ている。
 この二人は良くも悪くも変わっていない。二人揃って学校でも大物で、ファッション業界の大物なのは、まぁ、変わっていない。
 マドカ先輩は、魔女学校の生徒会長を務めていた功績があったから、すぐに職場が見つかった。
 マドカ先輩は、この体だからとネガティブな思想していたけど、実際誰よりも早く見つかった。その職場は、王政を取り仕切る秘書官。

 この世界は、魔女制度が終わって新たに王政復活。ウルド様がこの地に降りて来る前は、王政制度で、ウルド様が降りてきて、王政が何も言えない状態になり、静かに王政制度が腐敗。
 王がどんなに強くても、神には逆らえない。神世紀になった。
 でも、数万年の時を超え、王政復活。その制度は、10年いや、たったの三年でこの世界を支配した。
 それに最も関わったのが、王政を取り仕切る秘書官。常に王様の側にいるような、役職じゃない。どちらかというと、影で支える闇役職。
 マドカ先輩は、宇宙空間の戦いで誰よりも優れた勘、頭の回転の速さ、機動力、それらを王政の者に目をつけられて、スカウト。
 それでも、マドカ先輩は充実しているそうだ。かれこれ動いていなかった王政に、仕事が山積み。
 逃げる人も現れるとか、でも、マドカ先輩にはそれでもいいと。

 今日は、孤児院バザーだと聞いて速攻で早退して来たんだと。この人のそういう所、ほんと凄いな。
「さてさて、来たんだから、お姉さん楽しませてよね!」
 ナズナ先輩が、子供たちに向かって宣言。そう言われると、子供て意地になって盛り上がるんだよね。
 子供たちは、知らない人だというのに無邪気な笑顔で接し、ぐいぐい引っ張った。マナミ先輩とナズナ先輩が別れていく。
 マナミ先輩を引っ張ったのは、紙飛行機ゲームを看板娘。ナズナ先輩は、段ボールで作った迷路に無理やり送り込まれている。

「園の中の人以外の大人に、はしゃいでる」
 シノがその姿を見て、ふふと微笑んだ。
「こりゃ、大人がさきにバテるな」
 ダイキが関心か、それとも呆れか、よく分からないため息をついた。園の中は、子供のキンキン声が響きわたっている。
 街中に響きわたりそうな、元気な声。
 ナズナ先輩たちが子供たちの的となり、複数の子供たちが、そちらに流れている。

 楽しそうにジャンプしたり、一緒に遊んで、こちらには目もくれない。
 すると、マドカ先輩の前に、一人の女の子が現れた。五~七歳くらいの女の子。とても小さい子。
「お姉ちゃん、目見えないの?」
「すいません。あなたがどんな姿しているのか、分からないですね」 
  聞いた子供は、興ざめした返事を返した。マドカ先輩はゆっくりと手を伸ばした。
 少女の頭に手を置こうとしている。その頭が何処にあるのか、声を発した高さで察知する。頭の上にぽんと、置くとマドカ先輩が、ほっとした表情を浮かべた。
「あなたは、ここにいて、楽しいですか?」
「うん! 楽しいよ!」
 それを聞いて、ますます安堵した表情に。
「ユナさん、彼女はどういう姿を?」
 おもむろに聞いてきた。頭を撫でながら。
「えっと、五~七歳くらいの小さな子で、髪の毛は赤毛で、とても可愛らしい女の子です。名前は――」「ナナ」 
 シノがぼそっと耳打ちしたことを間一髪聞こえていない。名前はナナと言うと、マドカ先輩は、ナナと呼ばれる女の子の頬に手を添えた。
「良き名前ですね。名は体を現す。ナナさんはきっと、幸福をもたらすのですね」
 神経が溶けてしまいそうな優しい声。
 ナナちゃんは、褒められたと思ってわっと喜んだ。マドカ先輩の車椅子をガンガン押して、自分たちが仕切るゲーム場へ。
「こら! 走るんじゃないの!」
 シノが一喝。でも、その一喝を背で受け止め、中々止まらない。シノは「全く」とぶつぶつ文句を言っている。
 ダイキは、その横でマドカ先輩のあとを追う。
「まぁ、ちょっと言ってくるよ。あいつら、マドカ先輩に無理なことしそうだし」
 残ったのは、わたしとシノ。

 わたしは、次、輪投げのあるところに行ってみることに。シノは、みんなが危険なことしてないか、周りを観察する役割で、ゲームに参加しないで、ずっとウロウロしている。でも、役割だし仕方ないね。
 シノとお別れして、輪投げゲームへ。輪投げは昔から、大の大の得意だもんね。他の誰かより絶対功績残してやる。
 輪投げ一回につき、五十円。
 距離は、お祭りのときよりも遠くはない。所詮、子供が考えたもの。こんなの、大人の長い腕では、簡単に通るよ。
 でも、子供たちは勝ち誇ったような態度で終始、見ていた。なんだろう。不思議に思いながらも、立ち止まらない。

 ぶん、と輪投げを飛ばす。何かに遮断されて、輪投げが虚しくコロコロと足元に転がる。
 わたしは目をぱちくりして、驚いて声が出た。こんな輪投げゲームはじめてだ。
 輪投げが通る棒と投げるポジションの間に、罠が。四角い箱から飛び出してきた、おかしな格好のピエロが地面から。それで遮断された。
 木の棒でつくられたピエロ人形。

 子供たちは引っかかった大人を見て、お腹を抱えて大爆笑。簡単に成功させないつもりだな。簡単だといったのは撤回。
 こんな卑怯じみた、輪投げゲーム絶対勝ってみせるんだから。
 輪投げゲーム内にて、熱い戦いが始まる。

 それを遠くから見ていたシノは呆れてため息。「程々にお願いね」と。でもその声は、子供たちの歓声で全く届くことすらできなかった。
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