魔女は世界を救えますか?

ハコニワ

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Ⅴ 救済の魔女 

第95話 慈愛の雨

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 子供たちが掘っていても、大人のわたしでも、全然掘っているのか分からない。瓦礫の中には、釘があって、当たると痛い。
 七人目の子は、長時間生き埋めで大丈夫だろうか。頭を打っていれば、すぐに救出しないと。
 すると、子供たちがわたしのために、大人を連れてきてくれた。
「ハルト!?」
 わたしはびっくりして二度見した。
 子供たちが呼んできたのは、ハルトだった。恐らく、子供たちを見かけてついてきたのだろう。
 ハルトは、無地のシャツを着ていた。あの黒服は着ていない。ハルトがここにいるなら、リュウたちもここにいる。
「まだこんなところにいたの!?」
 ハルトはびっくりしている。
 ユグドラシルが、もうそこまで接近しているからだ。ハルトに事情を説明して、一緒に瓦礫を掘ってくれた。
 それまで苦戦していたのが、サクサク掘っていく。やっぱり男の子なんだな。細腕でも、ちゃんと力がある。

 ハルトのおかげで、七人目の子が助け出された。生きている。心臓の音は弱い。呼吸が浅い。頭から出血して、右足がありえない方向を向いている。
 ナズナ先輩に来てもらいたい。だめだ。重傷患者を見つけると、すぐにナズナ先輩に頼るクセがついている。
 そりゃ、治療専門の魔女具は珍しいからナズナ先輩に頼るけど、ナズナ先輩の周りには、もっと多くの患者がいる。呼び出してきたら、その人たちが大変だ。
 こうなれば、わたしたちが処置して助ける。頭の出血を止めるために、頭にハンカチを巻いた。右足のほうは、鉄パイプなどで固定して処置した。
 
 ユグドラシルが近づいてきている。建物が激しく揺れ、天井が崩れた。急いでここから離れないと。ハルトが背負って、わたしたちは出口へ。
 でも、出口のほうでは天井が崩れて瓦礫の山だった。ここは二階。飛び降りても助からない。
「完全に詰んだよ」
 子供たちは、これが終わりだと葬式ムードになった。
「みんな、諦めないで! 助かる道はあるよ!」
 葬式ムードの中で、わたしは声を張った。わたしも瓦礫の山を見て、絶望しかけたけど、子供たちの前で、そんなところは見せられない。
 わたしはふと、窓の外に視線がいった。
 ユグドラシルの幹が見えた。凧みたいた大きくて、〝あれに当たったら確実に死ぬ〟と本能が言っていた。

 わたしは、みんなの手を引いて、逆方向に。出口は出られないのなら、非常階段とか入り口とかにも門がある。可能性が希望になる。わたしたは、非常階段に向かった。
 非常階段は、確かにあった。でも、渡れそうにない。ユグドラシルの幹や地震の揺れで天井が崩れたことで、下まで渡れない。
 また引き返して出口を探すのは、時間がいる。それに、もうユグドラシルの樹が目の前に。建物が一気に壊れた。悠長な時間なんてない。飛び降りるんだ。

 わたしたちは覚悟を決めて、飛び降りた。
 下をみるのが怖いから、わたしは目をつぶった。もう地面についててもおかしくないのに、全然痛くない。
 恐る恐る、目を開いた。なんと、宙に浮いている。空を飛んでいる。
 わたしたちを間一髪救出してくれたのは、ブリュンヒルデ様。翼のある天馬に乗って救ってくれた。
 他の子やハルトは、天馬に乗ったワルキューレたちが助けてくれた。天馬に乗せてくれている。
『なんと無茶な』
 呆れて言われた。
 言い返す言葉も浮かびません。
「ありがとうございます!」
『礼はいい。スクルドはどこ?』
 切羽詰まった口調。長く主神オーディン様の乙女をやっていても、この状況は初めてらしい。
「ヴェルザンティ様が普段から管理していたから、スクルド様は止められないと」
『知っている。だからこそ、スクルドにお姉さんを連れてきてほしい』
 人間界にノルンを連れてきたのは、スクルド様。当然、行き来できる門をしっている。わたしが斬ったあの、ブラックホールの他にもある。
 スクル様とは、ナズナ先輩たちと合流したときに呆然としていて、それっきり。姿は見ていない。棒のように立ち竦していた姿が最後。
 あれで、動いてなければあの場所だ。
 わたしはスクルド様のもとに、案内した。子供たちとハルトを乗せた天馬は、ユグドラシルが通らない安全な場所まで、乗せていってくれる。
 昨日の敵は今日の友というけど、一瞬で味方になってくれた。共通の相手ができると味方になる。

 やっぱり、ナズナ先輩たちより離れたところにいた。周りが慌てふためいてるときに、スクルド様は、その後ろ姿を眺めていた。
 天馬に乗って登場するや、周りに驚かれた。ブリュンヒルデ様は一目散にスクルド様を捉えた。腕を捕まえる。
『この状況見えてる!? ユグドラシルが暴走して、大変なの! 救出もしないし、暴走は止めてないし、代わりにやれるのは、お姉さんを呼び出すことでしょ!』
 スクルド様は、きっと睨みつけて乱暴に腕を離した。
『やってるわ! ただ、ゲートの錠が難しいだけ!』
 呆然としているようで、裏でそんな難しいことを。お姉さんを呼んで、あとはその門を開くだけ。でも、施錠が難しい。厳重に閉めたからだ。
 神様同士の揉め合いで、近くにいた住民たちが何事という表情。わたしは間に入って仲介をした。

 揉めてる場合じゃない。スクルドがその錠を開けるまで、わたしたちはひたすら助けるんだ。ブリュンヒルデ様もそれに従い、また瓦礫だらけの街中へ。
 すると、子供たちと合流。わたしたちは抱擁した。七人目の子は、ワルキューレたちが医師のもとに運んでくれると。
 既に天馬に乗ったワルキューレの姿はない。ハルトもいない。
「ハルトは?」
 訊くと、子供たちは困ったように眉をさげた。
「ハルトお兄ちゃん、また何処かに行った」
「私たちみたいに、困っている人を助けに行ったの」
 そういえば、ハルトに再会したとき、真夏のマラソンをしていたような汗だくだった。無地のシャツが埃やススで、やや黒くなっていた。
 あそこに来るまでに、何人も助けていたんだ。それは皇太子だからじゃない。人として見捨てれなかったんだ。
 ハルトのその優しいところ、素敵だ。でも、一人じゃ危ない。瓦礫が崩れたりしたら、大惨事だ。わたしはハルトの跡を追った。

 すると、鼻先に冷たいものが当たった。手のひらを翳すと、天井から雫が落ちてくる。それは次第に、激しくなり音を出した。
「雨!」
「雨だぁ!」
 子供たちがぴょんぴょん跳ねた。
 ブリュンヒルデ様は、驚いて天に手のひらを翳していた。この雨に、街中は静かになった。騒然とした瞬間に訪れる、この不気味な雨。
 人々は空を見上げ、屋内にいた人は窓から顔を出していた。
  血と埃と焦げ臭い臭いが充満してたのが、雨の匂いに。雨はひだまりみたいに暖かった。心の中までその雫が浸透してきて、浄化されていく。なんだか、涙が出てくるほどほっとする雨だ。

 地面に水たまりができるほど激しく降った。
 ユグドラシルが止まっている。それに、ススや瓦礫の中にいたせいで、服が汚かったのに真新しくなっているし、傷がない。
 住民たちは、わっと歓喜に。ぎゅと抱擁して泣いている。まるで、戦争が終焉したかのような和やかさ。
『この雨は……』
 何か心当たりあるような浮かない表情。 
 サァと周りが見えないほど降って、水溜りをつくった。ひだまりのような暖かさ、優しい雨だった。
 次第にぽつりぽつり小さくなり、雨が止んだ。人々は空を見上げ、神に祈りを捧げた。目の前にいるのに。
 あながち、あの雨は天からの贈り物かもしれない。怪我しているところが治ったり、服が綺麗になったり、あまつさえ、ユグドラシルの暴走を止めた。こんなことができるのは、神様しかいない。
 天からの贈り物は雷だったり、雨の雫だったり、これは一体、誰の仕業?

 一筋の光が現れた。天井の照明は壊されて、明かりも何もつかない。それなのに、一筋の光が街を照らした。輝かしい光。暗かった世界に光が照らし、雨粒が艷やかに光った。世界の色が鮮やかになった。
 天から降ってきたものは、他にも。一筋の光から、一人の神様が降りてきた。ノルンたち、ワルキューレたちも頭をたれた。雨を降らせたのは、このお方しかいない。

 ヴェルザンティ様。
 あまり肌を見せない白い衣に、身に纏い、その美しさ、下品さ、その姿は息もできないほど圧倒する。
 天から街を見下ろした。仮面を被っているから、どんな表情しているのか分からない。住民たちは、膝をついて頭を垂れた。
 聖教者は、涙を流して祈っている。
 人々は、神様の登場で静かになった。大きな波紋がやがて、小さくなり、凪のように水平に。 
『わたくしはノルン次女、ヴェルザンティ。ウルドの妹であり、スクルドの姉になります。人間よ、顔を上げなさい。腰をあげ、希望を輝かすのです』
 そう言ったヴェルザンティ様の一言で、住民が、世界が、顔をあげた。どんな聖教者だろうか、神様の一言はそれ以上のもの。
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