60 / 126
Ⅲ 戦場に咲く可憐な花たち~16歳~
第60話 愛した者たちへ
しおりを挟む
それでも、説得を試みた。
「カイ君、意識があるならはっきりして! デイマアァイズ発動したら――君は――」
さらに突風が舞い降りた。逆鱗に触れたかのような荒々しい、暴走したような風が襲った。鬼化してもこの突風には、逆らいきれないらしい。ちょっと体が浮くと、風に飲み込まれた。
「うわああぁぁぁぁ!」
「アブソルートシールド!」
もうすぐで、壁に激突するところをジンの結界でなんとか防いだ。結界の中で美樹は、安堵の息をこぼした。うるうると涙目で遠くにいる、ジンにむけて、好評価のグッドサインをだした。
「ジン君、凄い! 惚れ惚れするよぉ、あ、でも惚れないから」
「なにそれ、傷つく」
苦笑し、グッドサインを返す。
もう一度、説得を試みようと立ち上がる美樹にジンは待ったをかけた。
「アカネちゃん失って、このあと親友まで失うなんて黙って見過ごせない。それにあいつには、言いたいことがある」
カイに目をむけると、さらに状況は悪化してどんどん、邪鬼のような醜い姿になってきている。
頭から触覚のような二本の角が生え、進化の現状をみている感じだ。
美樹は納得し、腰を低くさせた。抱いていたアカネを地面におろした。結界内だから、砂ぼこりも突風も来ない、安全な場所だ。
たとえ、死んでいても絶対に守る。
地上に二人を残し、黒い霧に近づく。薄気味悪い霧。指先に触れると、冷たくも暖かくもない。匂いもない。他人に触れられた嫌悪感が圧倒的に凄い。そこからゾワゾワと鳥肌が浮かぶ。
本体は、ここから遠い。なのに、霧はその本体の分身のように動いている。
「ふざけんな。怒りたいのはこっちだ! 夕食の唐揚げ一個取ったろぉ!?」
ゴォゴォと吹き荒れる嵐の中、その声は、空にこだました。遠い空の果まで。
それを訊いた美樹は、愕然とした。「ジン君の言いたいことって、それだったの!?」と文句を叫ぶが、虚しくも、その文句は空に響かなかった。
霧がすぅ、と消えたのをジンは見過ごさなかった。雲のようにモワモワ広がっていたのが、少しずつ、隙間があく。
やっぱり、まだ意識があるんだ
その確信を得て、ジンは動いた。
カイの足元に奇妙な四角形の線が浮かび、数秒後、下から上へ息をふきかけるようにして透明な結界となった。
外から中の様子もうかがえるし、中からも外の様子がうかがえる結界。自慢の技、シールドを発揮。
だが、ここからは違う。誰にも見せていない技に挑戦。
結界に封じたことに、突風がピタリとやんだ。黒い霧も、本体から切断され、暫くは本体を探して辺りを浮いていたが、やむなくすぅと消えた。
一方、結界内では、胎内にいる赤ん坊がここから出して、と言いたげに力任せに蹴破っているのと同じ、中からボコボコと千切れそうなほど蹴っている。
黒い霧が充満し、どこに本体がいるのか。美樹が後ろに来、どうするのか黙って観察する。
「これにはまだ技名はないんだけど、敢えていうなら、スポイットとか? ま、いいや。これは、結界内に封じた人物の力を吸い取る技。効くかどうか……」
目をきつく瞑り、念じた。
意識を深く暗闇に落とし、澄み通す。サァ、と風がなる。聴覚が膨大して風の音が飛行機のような雑音に。
砂ぼこりが満ちた匂いが嗅覚をさらに刺激し、神経をブチブチ破いた。
美樹のゴクリと唾を飲み込む音が鮮明に聞こえた。
深く落とした意識の中、光を見つけた。その一筋は、雲の隙間から見える太陽の温もり。その光に手を伸ばした。
カッ、と目を見開き呪文を唱える。
瞬間、ドス黒い結界内に隙間が見えた。ごくごく、と黒い霧を一気飲みしていく。だが、ジンがフラリと倒れそうになり、慌てて美樹は飛んだ。
倒れそうになったことで、結界が薄れ、黒い霧が生えてしまった。ジンを全身で支える美樹は、金切りに訊いた。
「ねぇ、これ吸収したらその霧は何処に向かうの? まさか……」
息を飲む。
頭上にいるジンを凝視した。まさか、術者にかかるのでは? 心配した束の間、ジンからは意外な答えが返ってきた。
「心配いらないよ。吸収したものはその結界内で永遠に閉じ込める。今、倒れたらその結界はなかったことになるけど」
ヨロヨロと立ち上がった。
全身に夥しい汗をかき、シャツがビチョビチョ。額か汗がらつぅ、と顎を滴り落ちると、ポタポタと地面をぬらした。それほど体への負担が大きい技。それでもなお呪怨を再び開始する。
なんの為にそうさせるか、それは、答えは決まっている。親友のため。
そのとき、結界内で火花が飛んだ。バチバチと線香花火のようにオレンジの飛沫が飛んでいる。まさか、邪鬼化が進行しているのか。でも、黒い霧はスポイットで消え、結界内にいるのはカイのみ。
疑問詞を抱くが、ここでギブアップ。霧が消えたところで、すぅと結界が消えた。術者であるジンとカイが同時に倒れた。
「ジン君!」
美樹は駆け寄り、うかがうと、ジンは勝ち誇ったように笑った。
「良かった……初めてだったけど成功した……」
「ジン君、目……」
大きな技には、大きい代償が必要である。
顔に大きな洞窟が一つ。覗き込むようにポッカリあいている。赤黒い穴だった。
上空で邪鬼と闘っているシモン先輩たちがやっと決着をつけた。
「シモン様、左です! 次に右、真上、横っ!」
数秒後に起きる出来事を小夏先輩が指示し、それをかわすシモン先輩。二人の連携はピッタリだ。
「これで終わりだ。クイーンコントロール」
創り出した空間内全てに、先端が鋭く尖った剣が出現。
黄金の剣たち。
シモン先輩が合図を送ると、その剣は一斉に邪鬼に向かった。ズタズタに切り裂かれていく。
フィールドをはっても雨のように降り続ける剣に、フィールドは簡単に弾かれた。核だけじゃなく体までもズタズタに切り刻まれ、そうして、邪鬼は消えた。
黒い霧に覆われた辺りから意識が混乱していたのは確か。でも、ジンや美樹が必死に俺を助けようとしているのを暗い場所で微かに見えた。
保健室のベットで目が覚め、ジンたちと再会。邪鬼じゃない、本物の自分の目で再会を果たした。
直後、美樹には、拳で頬を叩かれた。しかも、鬼化した拳で。
「何勝手に死のうとしてんの!? 周りのこと考えてっ! ちょっとはこっちのこと、考えてよぉ」
うるうると涙目で睨まれた。威圧がないけど。俺は、美樹にもジンにも顔を向けて深く謝った。
「ごめんなさい。もう、暴走するようなことはしません。それと、ジンには本当に取り返しのつかないことを、俺は、どうしたら……」
左目から頭を回って包帯をつけているジンにおもむろに顔をあげた。包帯から血が溢れ、じわりと滲み出ている。痛痛しい。ジンは、穏やかな表情で解決させるがそれじゃあ、話にならない。
「せめて、ずっと側にいるから!」
「キモいなぁ」
言われるとへこむ。それじゃぁ、これでどうだ。
「唐揚げだけはこれから一生奢るから!」
「おっ! サンキュー」
包帯があるせいでか、ひきつった笑み。それでも、右目の目は、キラキラと眩しく輝いていた。
保健室の廊下でうずくまるルイ。シクシクと泣いて、声もガラガラ。顔なんか赤猿のようにしわくちゃだった。
そんなルイに、AAクラス二人が堂々と廊下を歩いてきた。取り巻きがちらほらいるも、小夏先輩のゴミを見る眼差しと辛辣な言葉で、取り巻きは去る。
通り過ぎるのかと思いきや、ルイの前で立ち止まった。シモン先輩が懐から何かを取り出し、ルイに差し出す。
それは、赤い核の欠片。リゼ先生のだった。鮮明な赤。照明により輝きを増して、ダイヤモンドのように光沢している。
「これ……」
受け取ったルイは顔をあげた。
「あんなに泣き叫んでいたら、殺せるわけないでしょ?」
優しい眼差しで言うと、人差し指を唇にくっつけた。内緒よ、と小声で呟く。泣きすぎて、パンパンになった涙袋からまた、涙が伝う。
「あぁん、もう泣かないの」
ポケットからハンカチを取り出し、涙を拭き取る。
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」
一生離さないと誓うように、核を両手で握りしめた。
§
数日後。
ジンがリハビリを終え、やっと寮に帰ってくる日だ。
「本当に凄いねぇ。長期間のリハビリだって言われたのに」
美樹が凄い凄いと何度も口にしてジンを褒め称える。
「だろう? すげーだろ」
ジンはふんと呼吸し、鼻を伸ばした。そんな二人をよそに、俺はただただ、財布の中をチェックしていた。
「今月でこんなに……お前唐揚げ食い過ぎ! どんだけだよぉぉ」
今月だけでありえない出費に、俺は先行きが不安になった。あのときの約束撤回しようかな。
「唐揚げって美味しいか?」
ため息混じりに訊くと、ジンはニカッと笑った。左目に黒い眼帯をつけているので、まっすぐに顔を向ける。
「美味しいぜ。なんか、食べていると、誰かを思い出すんだ」
「へぇ誰? 彼女?」
興味津々に訊くと、ジンは右目をパチパチさせ「さぁ?」と謎の返答。すると、俺たちに遅れてルイがやってきた。
「おはよー。ごめんね。これに手間どっちゃて」
首につけたアクセサリーを指差し、席につく。ここは食堂。久しぶりに美樹班四人が揃った。
ルイが遅くなった原因のアクセサリーは、小さな瓶に、星砂と赤い欠片が入ったものだった。星砂を見て、美樹がじぃとアクセサリーに顔を近づける。
「これ、綺麗だねぇ」
「うん! お気に入りなの!」
その笑顔は、太陽のように眩しかった。
「カイ君、意識があるならはっきりして! デイマアァイズ発動したら――君は――」
さらに突風が舞い降りた。逆鱗に触れたかのような荒々しい、暴走したような風が襲った。鬼化してもこの突風には、逆らいきれないらしい。ちょっと体が浮くと、風に飲み込まれた。
「うわああぁぁぁぁ!」
「アブソルートシールド!」
もうすぐで、壁に激突するところをジンの結界でなんとか防いだ。結界の中で美樹は、安堵の息をこぼした。うるうると涙目で遠くにいる、ジンにむけて、好評価のグッドサインをだした。
「ジン君、凄い! 惚れ惚れするよぉ、あ、でも惚れないから」
「なにそれ、傷つく」
苦笑し、グッドサインを返す。
もう一度、説得を試みようと立ち上がる美樹にジンは待ったをかけた。
「アカネちゃん失って、このあと親友まで失うなんて黙って見過ごせない。それにあいつには、言いたいことがある」
カイに目をむけると、さらに状況は悪化してどんどん、邪鬼のような醜い姿になってきている。
頭から触覚のような二本の角が生え、進化の現状をみている感じだ。
美樹は納得し、腰を低くさせた。抱いていたアカネを地面におろした。結界内だから、砂ぼこりも突風も来ない、安全な場所だ。
たとえ、死んでいても絶対に守る。
地上に二人を残し、黒い霧に近づく。薄気味悪い霧。指先に触れると、冷たくも暖かくもない。匂いもない。他人に触れられた嫌悪感が圧倒的に凄い。そこからゾワゾワと鳥肌が浮かぶ。
本体は、ここから遠い。なのに、霧はその本体の分身のように動いている。
「ふざけんな。怒りたいのはこっちだ! 夕食の唐揚げ一個取ったろぉ!?」
ゴォゴォと吹き荒れる嵐の中、その声は、空にこだました。遠い空の果まで。
それを訊いた美樹は、愕然とした。「ジン君の言いたいことって、それだったの!?」と文句を叫ぶが、虚しくも、その文句は空に響かなかった。
霧がすぅ、と消えたのをジンは見過ごさなかった。雲のようにモワモワ広がっていたのが、少しずつ、隙間があく。
やっぱり、まだ意識があるんだ
その確信を得て、ジンは動いた。
カイの足元に奇妙な四角形の線が浮かび、数秒後、下から上へ息をふきかけるようにして透明な結界となった。
外から中の様子もうかがえるし、中からも外の様子がうかがえる結界。自慢の技、シールドを発揮。
だが、ここからは違う。誰にも見せていない技に挑戦。
結界に封じたことに、突風がピタリとやんだ。黒い霧も、本体から切断され、暫くは本体を探して辺りを浮いていたが、やむなくすぅと消えた。
一方、結界内では、胎内にいる赤ん坊がここから出して、と言いたげに力任せに蹴破っているのと同じ、中からボコボコと千切れそうなほど蹴っている。
黒い霧が充満し、どこに本体がいるのか。美樹が後ろに来、どうするのか黙って観察する。
「これにはまだ技名はないんだけど、敢えていうなら、スポイットとか? ま、いいや。これは、結界内に封じた人物の力を吸い取る技。効くかどうか……」
目をきつく瞑り、念じた。
意識を深く暗闇に落とし、澄み通す。サァ、と風がなる。聴覚が膨大して風の音が飛行機のような雑音に。
砂ぼこりが満ちた匂いが嗅覚をさらに刺激し、神経をブチブチ破いた。
美樹のゴクリと唾を飲み込む音が鮮明に聞こえた。
深く落とした意識の中、光を見つけた。その一筋は、雲の隙間から見える太陽の温もり。その光に手を伸ばした。
カッ、と目を見開き呪文を唱える。
瞬間、ドス黒い結界内に隙間が見えた。ごくごく、と黒い霧を一気飲みしていく。だが、ジンがフラリと倒れそうになり、慌てて美樹は飛んだ。
倒れそうになったことで、結界が薄れ、黒い霧が生えてしまった。ジンを全身で支える美樹は、金切りに訊いた。
「ねぇ、これ吸収したらその霧は何処に向かうの? まさか……」
息を飲む。
頭上にいるジンを凝視した。まさか、術者にかかるのでは? 心配した束の間、ジンからは意外な答えが返ってきた。
「心配いらないよ。吸収したものはその結界内で永遠に閉じ込める。今、倒れたらその結界はなかったことになるけど」
ヨロヨロと立ち上がった。
全身に夥しい汗をかき、シャツがビチョビチョ。額か汗がらつぅ、と顎を滴り落ちると、ポタポタと地面をぬらした。それほど体への負担が大きい技。それでもなお呪怨を再び開始する。
なんの為にそうさせるか、それは、答えは決まっている。親友のため。
そのとき、結界内で火花が飛んだ。バチバチと線香花火のようにオレンジの飛沫が飛んでいる。まさか、邪鬼化が進行しているのか。でも、黒い霧はスポイットで消え、結界内にいるのはカイのみ。
疑問詞を抱くが、ここでギブアップ。霧が消えたところで、すぅと結界が消えた。術者であるジンとカイが同時に倒れた。
「ジン君!」
美樹は駆け寄り、うかがうと、ジンは勝ち誇ったように笑った。
「良かった……初めてだったけど成功した……」
「ジン君、目……」
大きな技には、大きい代償が必要である。
顔に大きな洞窟が一つ。覗き込むようにポッカリあいている。赤黒い穴だった。
上空で邪鬼と闘っているシモン先輩たちがやっと決着をつけた。
「シモン様、左です! 次に右、真上、横っ!」
数秒後に起きる出来事を小夏先輩が指示し、それをかわすシモン先輩。二人の連携はピッタリだ。
「これで終わりだ。クイーンコントロール」
創り出した空間内全てに、先端が鋭く尖った剣が出現。
黄金の剣たち。
シモン先輩が合図を送ると、その剣は一斉に邪鬼に向かった。ズタズタに切り裂かれていく。
フィールドをはっても雨のように降り続ける剣に、フィールドは簡単に弾かれた。核だけじゃなく体までもズタズタに切り刻まれ、そうして、邪鬼は消えた。
黒い霧に覆われた辺りから意識が混乱していたのは確か。でも、ジンや美樹が必死に俺を助けようとしているのを暗い場所で微かに見えた。
保健室のベットで目が覚め、ジンたちと再会。邪鬼じゃない、本物の自分の目で再会を果たした。
直後、美樹には、拳で頬を叩かれた。しかも、鬼化した拳で。
「何勝手に死のうとしてんの!? 周りのこと考えてっ! ちょっとはこっちのこと、考えてよぉ」
うるうると涙目で睨まれた。威圧がないけど。俺は、美樹にもジンにも顔を向けて深く謝った。
「ごめんなさい。もう、暴走するようなことはしません。それと、ジンには本当に取り返しのつかないことを、俺は、どうしたら……」
左目から頭を回って包帯をつけているジンにおもむろに顔をあげた。包帯から血が溢れ、じわりと滲み出ている。痛痛しい。ジンは、穏やかな表情で解決させるがそれじゃあ、話にならない。
「せめて、ずっと側にいるから!」
「キモいなぁ」
言われるとへこむ。それじゃぁ、これでどうだ。
「唐揚げだけはこれから一生奢るから!」
「おっ! サンキュー」
包帯があるせいでか、ひきつった笑み。それでも、右目の目は、キラキラと眩しく輝いていた。
保健室の廊下でうずくまるルイ。シクシクと泣いて、声もガラガラ。顔なんか赤猿のようにしわくちゃだった。
そんなルイに、AAクラス二人が堂々と廊下を歩いてきた。取り巻きがちらほらいるも、小夏先輩のゴミを見る眼差しと辛辣な言葉で、取り巻きは去る。
通り過ぎるのかと思いきや、ルイの前で立ち止まった。シモン先輩が懐から何かを取り出し、ルイに差し出す。
それは、赤い核の欠片。リゼ先生のだった。鮮明な赤。照明により輝きを増して、ダイヤモンドのように光沢している。
「これ……」
受け取ったルイは顔をあげた。
「あんなに泣き叫んでいたら、殺せるわけないでしょ?」
優しい眼差しで言うと、人差し指を唇にくっつけた。内緒よ、と小声で呟く。泣きすぎて、パンパンになった涙袋からまた、涙が伝う。
「あぁん、もう泣かないの」
ポケットからハンカチを取り出し、涙を拭き取る。
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」
一生離さないと誓うように、核を両手で握りしめた。
§
数日後。
ジンがリハビリを終え、やっと寮に帰ってくる日だ。
「本当に凄いねぇ。長期間のリハビリだって言われたのに」
美樹が凄い凄いと何度も口にしてジンを褒め称える。
「だろう? すげーだろ」
ジンはふんと呼吸し、鼻を伸ばした。そんな二人をよそに、俺はただただ、財布の中をチェックしていた。
「今月でこんなに……お前唐揚げ食い過ぎ! どんだけだよぉぉ」
今月だけでありえない出費に、俺は先行きが不安になった。あのときの約束撤回しようかな。
「唐揚げって美味しいか?」
ため息混じりに訊くと、ジンはニカッと笑った。左目に黒い眼帯をつけているので、まっすぐに顔を向ける。
「美味しいぜ。なんか、食べていると、誰かを思い出すんだ」
「へぇ誰? 彼女?」
興味津々に訊くと、ジンは右目をパチパチさせ「さぁ?」と謎の返答。すると、俺たちに遅れてルイがやってきた。
「おはよー。ごめんね。これに手間どっちゃて」
首につけたアクセサリーを指差し、席につく。ここは食堂。久しぶりに美樹班四人が揃った。
ルイが遅くなった原因のアクセサリーは、小さな瓶に、星砂と赤い欠片が入ったものだった。星砂を見て、美樹がじぃとアクセサリーに顔を近づける。
「これ、綺麗だねぇ」
「うん! お気に入りなの!」
その笑顔は、太陽のように眩しかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる