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Ⅲ 戦場に咲く可憐な花たち~16歳~
第31話 新入
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高等部に進学した俺たち。いよいよ、戦場にたつ時がきた。
代々、先輩たちが命をかけて守ってきたこの学園を絶対に守りぬいてみせる。
高等部になった一日目から俺たちは先生たちに戦闘服を用意された。戦闘服は軍服に似ている。新品なため、シワもないし、ピカピカしている。嗅いでみると新しい鮮明な香りだ。
着慣れない戦闘服に少し、戸惑うがなんとか着れた。黒い服に白い手袋、戦闘員を象徴する銀色のバッチを胸に。
戦場にたつのは夜だ。邪鬼は夜しか活動しない。まだ朝なのに胸の高鳴りが異常におかしい。
若干、恐怖と好奇心が揺らめいている。
「なぁ、何班に入る?」
同室のジンが問いかけてきた。奴はもう戦闘服に着替え、ベッドでくつろいでいる。
新品の戦闘服が、もうシワになっている。全く、勿体ないなぁ。
「そうだな……今は分からないや」
素直な感想だった。
俺たちは五~六人で纏まるチーム、班に強制的に入るのだ。その班は複数あって主にAAクラスかAクラスが仕切る。
「あー、それよりこれきついな」
ジンが軍服の襟のボタンを二個外した。
「おいおい、もうすぐ開会式だぞ」
「わあってるよ。あぁ、それよりみものだなぁ」
「なにが?」
ジンはニタニタと不敵に笑った。その目の奥はギラリと光っている。
まるで、獲物を遠くの野原で見つけた狩人のよう。俺は不気味さを感じつつ、訊ねた。ジンは上体を起き上がり、くるりと体を転回させた。
「女子の戦闘服だよ。楽しみだなぁ」
「女子……?」
「まっさか知らないの!? ふふん! なら、教えてあげようホトトギス! 男子はこんなガッチリした軍服だけど、女子の戦闘服はどうやら違うらしいぜ! 超がつくほどのミニスカしかも、男が誰でもそそる白のストッキングだぜ! な、見たいだろ!?」
目を少年のように輝かせ、語るジン。でも、その笑みは真っ黒で邪な顔が完全にでている。
このとき、脳裏に思いだしたのはアカネの顔だった。あいつも今ごろ、そんな戦闘服をきて、開会式に向かっているのか。なんだか、妙に腹がムカムカしてきた。
「あと三分で開会式が始まる。急ごう」
素っ気なく応えて、ドアに向かった。
ジンは残念そうに、肩をおろす。
二年前、邪鬼が暴走して足を竦んでいたあの頃とは違う。今から、本番なんだ。
四年前、学園を守る結界を破き、夜な夜な邪鬼と闘うあの現場をこの目で見た。
醜い死に方、邪鬼の金切り悲鳴、血の臭い。それを掻い潜り、邪鬼を倒すのもこの目で。
今、その役割が来た。
心臓が、脊椎が、身震いしている。早くも心が高揚していた。
扉を開けるや、人影が視界に入った。開けて、一歩を踏み出そうとした矢先にいるもんだから、流石に声をだして驚いた。
人影は俺の顔を見るや、わっと驚いた。目と鼻の先にいたのは、アカネとルイ。ジンの言った通り、パンティが見えそうなミニスカート姿。
「あっ……カイくん、ジンくん!」
ルイがさきに手を振ってきた。
去年の上半期からいきなり、髪の毛を束ねて長くする、と宣言。今やアカネほどの長さはないが、肩までのショートカットがひとつ結びで、肩を覆うくらいの長さ。
ジンがのそっ、と部屋から顔をだしてきた。俺の腕をスルリと抜け、廊下へと歩み寄る。
「おー! ルイちゃん似合う似合う! アカネちゃんもね」
アカネは、頬を真っ赤にさせ、顔をプイとそらした。
「もね、って何!? もねて!」
さっきまで、ツンとした態度を見せたがあっという間にボロが出で、普段のキレるアカネの姿。
「女子の制服って、そんななのか」
アカネの制服姿を頭のてっぺんから付け根までまじまじ見つめた。
「男子の制服も、その……かっこいいわね」
後半ボソボソしてたので上手く聞き取れなかった。アカネは、風呂上がりみたいに頬が真っ赤。
「よしっ! 開会式、みんなで行くぞ!」
「痛っ!」
ジンが俺の首に腕を回し、連れ出す。ジンとの身長差は然程変わらない。が、ジンのほうが二㌢上だ。ズルズルと引っ張られていく。
みんなで、って言ったのにアカネとルイはあの場所で留まっている。何やら女子トーク中。
「似合うって言われた~」
ヒシッと抱きついた。
「うん。良かったね」
「はっ!! あれ、ルイも含んでるよね?」
ルイは微笑んだ。
「違うよ。ほら行こう」
前を走ったルイに、あとを追う形でアカネも走る。
開会式が始まった。俺たちは学園創立して十代目の呪怨者。九代目と八代目の先輩たちが見守る中、開会式が幕を開かれた。
緊張が走る空間。
クシャミも欠伸も許されない非常に重い空気。すると、背中をトントンとキツツキのように叩かれた。
こんな空気によく、そんな勇気出せる非常識がいるな、と不快に思いながら、振り向くと美樹が目と鼻の先にいた。
「どうしてAクラスの美樹が?」
問い出すと、美樹は誇るかのように胸を突き出し笑った。
「簡単だよ。AクラスとDクラス隣じゃないか。隣のクラスに紛れ込むなんて、造作もない」
そんなの自慢にしないでくれ。
いいや、それよりも、もっと重要な問題が。
「何しに来たんだよ。開会式だぞ」
普段授業居眠りしてるのに、こんなとき真面目な面をして生真面目に問いた。
美樹は、大きな目を細め、少し腰を低くした。実際、ここはDクラスの集まる場所。茶髪で尚且つ、Dクラスには収まらない綺麗な顔たちは、しゃがんでも悪目立ち感半端ないぞ。
「カイくん、もう班決まった? 決まってないのなら、ボクのとこ、来ないかい?」
勧誘か。
確かに決まってないし、何処に所属するか凄く迷っていた。この話は、美味しいな。
『九年生、代表挨拶シモン・デ・アスパラガス』
美樹の話に気を取られ、ここが開会式で、周囲の緊張の糸があったことを忘れていた。
コツコツ、と壇上から響き渡る靴音。
堂々とした歩み。
腰まであるストレートな金髪を風に揺らし、アクアマリンのような美しい瞳をこちらに向けた。
『十期生の皆さん、おはよう御座います』
水銀を震わす凛とした声。
その声は、軽く耳に通り、心がスッと落ち着くほど、繊細で優しい。
彼女、シモン・デ・アスパラガスさんは、壇上に立ち、温かな目でそう言った。
学生のころから、噂は聞いたことがある。上級生をフルボッコにしたとか、呪怨テストや期間テストで毎回一位を獲ってたとか、そんな良くも悪くも、数多くの噂が。
でも、皆同じことを口走る。〝学園一最強の女〟だと。
快晴に心地よいひだまりが注ぐこの日、壇上に立つ彼女は、見た事ないほど鮮明に美しく、全てが輝いてみえた。
「うわぁ……出た」
美樹がうんざりした感じで呟いた。
隣にいたジンが小声でありながらも、怒声をあげた。
「何だよ。文句ありたげだな。あんな美人に向かって!」
「ジンくん、酷いなぁ。ボクは確かにうんざりだなぁ、とは思ったけど、口にはしてないよ?」
美樹は困ったように、眉を潜めた。そして、壇上に立つシモンさんを恨めしそうに見上げる。
「成績優秀、才色兼備、運動神経抜群、しかもコミュ力もあるし、チームを率いるリーダー素質も持っている。こんな完璧な人、どこにいる? 嫉妬しない奴なんているわけないだろ?」
確かに。嫉妬しない奴なんていないな。
美樹は、中等部からクラス委員長だ。みんなをまとめる力も、素質もそれなりにある。
でも、その素質さえを上回るのをシモンさんは持っている。美樹はそれを妬んでいるみたい。
「うへぇ」
女心ある嫉妬心を見て、ジンは舌をだした。理解できないと言いたげに、不快な顔する。
「ジンくんは美人なら誰でもいいんだね」
美樹は、やれやれと手のひらを天に向かせた。ジンは若干ムッ、とするが、すぐに表情を変えた。
「美人と胸、男だったらこれでしょ」
「うわぁ、腐ってるぅ」
天真爛漫な美樹がニコニコ蔑む笑みで言った。
『以上――九年生代表、シモン・デ・アスパラガスでした』
いつの間にか、会場に拍手が埋まっていた。
しまった。こいつらと話していて、シモンさんの話を聞いていなかった。
シモンさんは来たときと同じように、堂々と歩き、壇上から降りていく。
代々、先輩たちが命をかけて守ってきたこの学園を絶対に守りぬいてみせる。
高等部になった一日目から俺たちは先生たちに戦闘服を用意された。戦闘服は軍服に似ている。新品なため、シワもないし、ピカピカしている。嗅いでみると新しい鮮明な香りだ。
着慣れない戦闘服に少し、戸惑うがなんとか着れた。黒い服に白い手袋、戦闘員を象徴する銀色のバッチを胸に。
戦場にたつのは夜だ。邪鬼は夜しか活動しない。まだ朝なのに胸の高鳴りが異常におかしい。
若干、恐怖と好奇心が揺らめいている。
「なぁ、何班に入る?」
同室のジンが問いかけてきた。奴はもう戦闘服に着替え、ベッドでくつろいでいる。
新品の戦闘服が、もうシワになっている。全く、勿体ないなぁ。
「そうだな……今は分からないや」
素直な感想だった。
俺たちは五~六人で纏まるチーム、班に強制的に入るのだ。その班は複数あって主にAAクラスかAクラスが仕切る。
「あー、それよりこれきついな」
ジンが軍服の襟のボタンを二個外した。
「おいおい、もうすぐ開会式だぞ」
「わあってるよ。あぁ、それよりみものだなぁ」
「なにが?」
ジンはニタニタと不敵に笑った。その目の奥はギラリと光っている。
まるで、獲物を遠くの野原で見つけた狩人のよう。俺は不気味さを感じつつ、訊ねた。ジンは上体を起き上がり、くるりと体を転回させた。
「女子の戦闘服だよ。楽しみだなぁ」
「女子……?」
「まっさか知らないの!? ふふん! なら、教えてあげようホトトギス! 男子はこんなガッチリした軍服だけど、女子の戦闘服はどうやら違うらしいぜ! 超がつくほどのミニスカしかも、男が誰でもそそる白のストッキングだぜ! な、見たいだろ!?」
目を少年のように輝かせ、語るジン。でも、その笑みは真っ黒で邪な顔が完全にでている。
このとき、脳裏に思いだしたのはアカネの顔だった。あいつも今ごろ、そんな戦闘服をきて、開会式に向かっているのか。なんだか、妙に腹がムカムカしてきた。
「あと三分で開会式が始まる。急ごう」
素っ気なく応えて、ドアに向かった。
ジンは残念そうに、肩をおろす。
二年前、邪鬼が暴走して足を竦んでいたあの頃とは違う。今から、本番なんだ。
四年前、学園を守る結界を破き、夜な夜な邪鬼と闘うあの現場をこの目で見た。
醜い死に方、邪鬼の金切り悲鳴、血の臭い。それを掻い潜り、邪鬼を倒すのもこの目で。
今、その役割が来た。
心臓が、脊椎が、身震いしている。早くも心が高揚していた。
扉を開けるや、人影が視界に入った。開けて、一歩を踏み出そうとした矢先にいるもんだから、流石に声をだして驚いた。
人影は俺の顔を見るや、わっと驚いた。目と鼻の先にいたのは、アカネとルイ。ジンの言った通り、パンティが見えそうなミニスカート姿。
「あっ……カイくん、ジンくん!」
ルイがさきに手を振ってきた。
去年の上半期からいきなり、髪の毛を束ねて長くする、と宣言。今やアカネほどの長さはないが、肩までのショートカットがひとつ結びで、肩を覆うくらいの長さ。
ジンがのそっ、と部屋から顔をだしてきた。俺の腕をスルリと抜け、廊下へと歩み寄る。
「おー! ルイちゃん似合う似合う! アカネちゃんもね」
アカネは、頬を真っ赤にさせ、顔をプイとそらした。
「もね、って何!? もねて!」
さっきまで、ツンとした態度を見せたがあっという間にボロが出で、普段のキレるアカネの姿。
「女子の制服って、そんななのか」
アカネの制服姿を頭のてっぺんから付け根までまじまじ見つめた。
「男子の制服も、その……かっこいいわね」
後半ボソボソしてたので上手く聞き取れなかった。アカネは、風呂上がりみたいに頬が真っ赤。
「よしっ! 開会式、みんなで行くぞ!」
「痛っ!」
ジンが俺の首に腕を回し、連れ出す。ジンとの身長差は然程変わらない。が、ジンのほうが二㌢上だ。ズルズルと引っ張られていく。
みんなで、って言ったのにアカネとルイはあの場所で留まっている。何やら女子トーク中。
「似合うって言われた~」
ヒシッと抱きついた。
「うん。良かったね」
「はっ!! あれ、ルイも含んでるよね?」
ルイは微笑んだ。
「違うよ。ほら行こう」
前を走ったルイに、あとを追う形でアカネも走る。
開会式が始まった。俺たちは学園創立して十代目の呪怨者。九代目と八代目の先輩たちが見守る中、開会式が幕を開かれた。
緊張が走る空間。
クシャミも欠伸も許されない非常に重い空気。すると、背中をトントンとキツツキのように叩かれた。
こんな空気によく、そんな勇気出せる非常識がいるな、と不快に思いながら、振り向くと美樹が目と鼻の先にいた。
「どうしてAクラスの美樹が?」
問い出すと、美樹は誇るかのように胸を突き出し笑った。
「簡単だよ。AクラスとDクラス隣じゃないか。隣のクラスに紛れ込むなんて、造作もない」
そんなの自慢にしないでくれ。
いいや、それよりも、もっと重要な問題が。
「何しに来たんだよ。開会式だぞ」
普段授業居眠りしてるのに、こんなとき真面目な面をして生真面目に問いた。
美樹は、大きな目を細め、少し腰を低くした。実際、ここはDクラスの集まる場所。茶髪で尚且つ、Dクラスには収まらない綺麗な顔たちは、しゃがんでも悪目立ち感半端ないぞ。
「カイくん、もう班決まった? 決まってないのなら、ボクのとこ、来ないかい?」
勧誘か。
確かに決まってないし、何処に所属するか凄く迷っていた。この話は、美味しいな。
『九年生、代表挨拶シモン・デ・アスパラガス』
美樹の話に気を取られ、ここが開会式で、周囲の緊張の糸があったことを忘れていた。
コツコツ、と壇上から響き渡る靴音。
堂々とした歩み。
腰まであるストレートな金髪を風に揺らし、アクアマリンのような美しい瞳をこちらに向けた。
『十期生の皆さん、おはよう御座います』
水銀を震わす凛とした声。
その声は、軽く耳に通り、心がスッと落ち着くほど、繊細で優しい。
彼女、シモン・デ・アスパラガスさんは、壇上に立ち、温かな目でそう言った。
学生のころから、噂は聞いたことがある。上級生をフルボッコにしたとか、呪怨テストや期間テストで毎回一位を獲ってたとか、そんな良くも悪くも、数多くの噂が。
でも、皆同じことを口走る。〝学園一最強の女〟だと。
快晴に心地よいひだまりが注ぐこの日、壇上に立つ彼女は、見た事ないほど鮮明に美しく、全てが輝いてみえた。
「うわぁ……出た」
美樹がうんざりした感じで呟いた。
隣にいたジンが小声でありながらも、怒声をあげた。
「何だよ。文句ありたげだな。あんな美人に向かって!」
「ジンくん、酷いなぁ。ボクは確かにうんざりだなぁ、とは思ったけど、口にはしてないよ?」
美樹は困ったように、眉を潜めた。そして、壇上に立つシモンさんを恨めしそうに見上げる。
「成績優秀、才色兼備、運動神経抜群、しかもコミュ力もあるし、チームを率いるリーダー素質も持っている。こんな完璧な人、どこにいる? 嫉妬しない奴なんているわけないだろ?」
確かに。嫉妬しない奴なんていないな。
美樹は、中等部からクラス委員長だ。みんなをまとめる力も、素質もそれなりにある。
でも、その素質さえを上回るのをシモンさんは持っている。美樹はそれを妬んでいるみたい。
「うへぇ」
女心ある嫉妬心を見て、ジンは舌をだした。理解できないと言いたげに、不快な顔する。
「ジンくんは美人なら誰でもいいんだね」
美樹は、やれやれと手のひらを天に向かせた。ジンは若干ムッ、とするが、すぐに表情を変えた。
「美人と胸、男だったらこれでしょ」
「うわぁ、腐ってるぅ」
天真爛漫な美樹がニコニコ蔑む笑みで言った。
『以上――九年生代表、シモン・デ・アスパラガスでした』
いつの間にか、会場に拍手が埋まっていた。
しまった。こいつらと話していて、シモンさんの話を聞いていなかった。
シモンさんは来たときと同じように、堂々と歩き、壇上から降りていく。
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