雲の羽衣をキミへ

月夜 雪姫

文字の大きさ
8 / 9
現実

夢遊病

しおりを挟む
誰もいない静かな学校。
そのとある廊下に響いた言葉。

「夢遊病」

直緒ははっきりそう呟いた。
でも、僕はその言葉の意味が分からなかった。
初めて耳にする言葉だった。
「夢」に「遊ぶ」「病」と書いて「夢遊病」。

直緒は、両親ともに医者で病院を経営している。
そのため、親からは当然のことながら後継ぎをするよう言われているため、予備校にも通っている。

そんな知識豊富な直緒が発する言葉で、僕が理解できないものは今までいくつかあったが、漢字や文字の配列などを見れば、だいたいその言葉の意味が分かった。

しかし、今回は本当に分からない。

まったく想像がつかない。


夢遊病。


ただ、自分が病気であるということしか読み取れなかった。

反応に困って何も言えずにいると、直緒が先に口を開いた。

「お前、さっきの授業中、寝てただろ。俺、見てたんだ。お前が寝てるところ。起こそうかなとも思ったけど、お前、あんまり気持ちよさそうに寝てるから。」

直緒は少し笑みをこぼしてそう言った。

そして、すぐに真顔になって僕を真っ直ぐ見て言った。

「でも、次の瞬間、お前急に立ち上がったんだ。そして突然歩き始めた。どこに行くかと思えば、お前は教室の扉を不器用に開けて教室を出て行こうとしたんだ。そこで、先生はあわててお前を引っ張って机に戻した。そして、教科書で頭を1回叩いた。」

「あぁ、あのとき頭に衝撃を感じたのは先生に叩かれたからか、、って、え!?僕が、急に立って歩き出したって、、え!?」

僕はあまりの衝撃の事実に直緒の話の途中で驚きを隠せず発狂してしまった。

呆れた顔の直緒が1回溜息をつき、また口を開く。

「春、落ち着け。夢遊病なんて大した病気じゃないんだ。ただ寝てる間に変なことをしちゃうってだけだよ。」

直緒が僕を落ち着かせるようにそう言い聞かせる。

変なことって、、

しかも記憶がないとか最悪すぎるだろ。
黒歴史を製造する病気じゃないか。
こんなんじゃろくに睡眠もできないのか
よ、、

あれ、僕、そのあと保健室で寝た、よな。

もしかして、結城先生と玲那が心配そうな顔をしてたのは、僕が寝ている間になにかしたってこと、、?

「ごめん、直緒。用事思い出したから今日部活行けない!結にも伝えておいて!」

確かめずにはいられなかった。
僕がもし、寝ていた間になにかしていたとしたら、、。

嫌気がさした。
階段を一段とばしで駆け下りる。

窓の外は桃色に染まっていた。
夕焼けに染まる寸前のその色は、優しい色をしていたが、どこか寂しく物足りない感じもした。  
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 7月31日完結予定

処理中です...