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第二章 魔導士学園 編
力が欲しいか
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俺たちは食事が終わるとボイラの案内で森を抜ける事にした。
森には大型の熊や角の大きな鹿の魔物に出くわしたが、全て俺の氷の魔法で瞬殺していった。
「すごいな。そんな能力があるなんて」
ボイラはしきりに俺の能力に感心していた。
「こんな危険な森で何をやっていたんんだ?」
変身能力という事を考えれば、何故こんな魔物が出るような危険な場所にいたのか不思議に思った。
「……あれだ、人族の住まうジパンニというところに行こうと思ってな。気配を消しながら進んでたつもりが、蜂の魔物に見つかってしまって……」
俺は一瞬警戒を強める。やはり、妖怪族とやらは人族を襲う種族なのかもしれない。
「ジパンニで何を? 結界があるんじゃないのか?」
「それは……知ってると思うけど、ジパンニには【賢者の滴】があるだろ。それを手に入れようと思ってな。オイラの能力なら人族に化ければ結界を通れるかもしれないだろ」
うむ、全然知らない。
俺は思わず聞き返してしまった。
「【賢者の滴】って?」
「なんだ【賢者の滴】を知らないのか? 言い伝えでは超常の力を得る事ができる液体だろ。あっ、それほどの力があればもういらないのか??」
【賢者の滴】は妖怪族なら知っていないといけないワードのようだな。どうやらヘマをしたようだ。
ボイラは様子を伺うような目を俺に向ける。
「そうだな。それにしても、ボイラの家はまだ遠いのか?」
俺は話題を変える。
「後少しだ。あそこの叢をぬければすぐだ」
木々の間に俺の背丈ほどはある草が生い茂っていた。
その叢を抜けると平原が広がっている。
そしてそこを抜けると和風の屋敷が建っているのが見えた。
周りには建物がなく、一軒だけポツンとたたずんでいた。
「あそこだ」
俺達はボイラの後について屋敷の玄関をくぐる。
そして、屋敷の奥にある大広間へとついていった。
「おっ母、帰ったぞ」
「どこへ行っていたのじゃ!! 昼に帰らないから心配したじゃないか」
広間の中央には人より一回りほど大きい体躯をした狐が寝そべっていた。その体を覆う毛はまるで金色のような色合いをして、触り心地のよさそうな毛並みをしていた。
そして、その尾には2本の尻尾がふさふさと揺れいていた。
「ちょっと……ジパンニへ行こうと思って……」
「なんという愚かな……それにお前にはまだ森は危険すぎると言っていただろう」
ボイラは少し泣きそうになりながら、俺の方を見る。
しかし、何て助け舟を出せばいいのかは分からなかった。
「いえ、一人で森を抜けているようでしたよ」
何かを言わねばと見当違いの事を口走ってしまう。森をぬけたとしても、あそこからジパンニまではまだまだ遠い。それにボイラにとって森は危険そうなのは俺の目か見ても明らかだった。
「そうだ。おっ母、オイラ一人でも森を抜ける事ができたんだ。だから、この調子でいけばいずれジパンニに行けるようになるはずだ」
「……誰じゃ? お前達は」
そこでボイラの母親は俺達の存在に気がついたようだった。
「森で危ないところを助てもらったんだ。雪女族だってさ。それで、昼ごはんを御馳走になったんだけど、すごい美味しかったんだ。これを食えばおっ母も元気になると思って連れてきたんだ」
「やはり危ない目に合っているんじゃないか。うちの息子が世話になったようじゃ。本当に感謝する」
ボイラの母親は俺達に頭を下げた。
「元気そうに見えるのですが、どこか具合が悪いんですか?」
「……なに、力がな……妾の力が失われつつあるというだけじゃ」
「だから【賢者の滴】がいるんじゃないか」
ボイラは叫ぶ。
ボイラは母親のために【賢者の滴】を手に入れようとしているのか?
元気になるように俺の料理を食わせたいって……ええ話や。素敵やん。
師匠の薬で力を取り戻す事ができるかもしれないが、その力で人族を襲うという事を考えればそれはしない方がいいだろう。俺がいろいろと考えているとボイラの母親が【賢者の滴】について語りだした。
「【賢者の滴】か……その存在をお前が知る事になるとは……誰かから聞いたのであろうが、あれは知らぬ方がいいものじゃ。言い伝えで語られる【賢者の滴】とは力を手にいれることができるなんて、そんな生易しいものではない。あれを知っているものはあれを【賢者の滴】とは呼ばん。あの液体の事は【転魔の滴】と、そう呼んでいるのだ。そうだろう? 妾と同じく時を生きるものよ」
俺達に同意を求める。
しかし、俺には【賢者の滴】も【転魔の滴】も分からない。
「そうですね」
俺は森でのヘマを思い出し頷いて同意する。
「使い魔か……」
ボイラの母親は呟くが、どういう意味かは分からない。
「だからあの時……」
ボイラも呟く。
「【賢者の滴】は……1滴飲めば飢えを忘れ、2滴飲めば限界を超えた力を身につけ、3滴飲めば能力を強化する。一部のものにはそう伝わっている。それは確かに真実じゃ。だがそれには代償が伴うのだ。あの時もそうじゃった」
ボイラの母親はどこか遠くを見て、昔を思い出しているようだった。
「力が手に入るならいいじゃないか。オイラはシキから聞いたぞ。【賢者の滴】を手に入れれば、おっ母の力も取り戻せるって」
「シキか……若いものは知らない事だからな……【賢者の滴】を知ってしまったのなら話さねばならん。あれを欲してはならない理由を……あの液体が初めてこの地にもたらされたのは今から1400年くらい前の事じゃ。鬼族の者がそれを手にしてこの地を訪れたのじゃ。そしてこう言った。「力が欲しいか? それならこの液体を口にするといい。誰にも邪魔されぬ力を手に入れることができるぞ」とな。そして一部の力の弱い妖怪族はその液体を口にした。そして、それにより新たな力をつけた者達がいた。しかし、それを口にした者達は鬼族と共に人族を蹂躙し始めたのじゃ。そして、それを止めようとした妖怪族達もまた傷つき殺されることになった。その時からじゃ、それまで一緒に共存していた人族と妖怪族が住み分けて暮らすようになったのは。たぶん、それを口にした者達は力を得る代わりに記憶を奪われ、鬼族に操られていたのだろう。たぶんだがな……」
「そ、そんな事が? でも何でそれがジパンニにあるんだ?」
ボイラが質問する。
「1400年前にその鬼族達を追い払った者の中に人族の勇者がいた。その勇者がジパンニでその液体を有効に使う方法を編み出したのじゃ。そのためにジパンニに賢者……いや【転魔の滴】があるのじゃ。それから月日が流れ、妖怪族の中には力を求めてジパンニを目指すものが後を絶えん。力を求めるものは真実を知る妾達の忠告を聞く事はない。自分は操られる事なく制御できるとでも思っておるんじゃろう。だが、あれは……そんな簡単に制御はできんのじゃ。一度は終わったと思っておった悪夢が700年くらい前にも起きた。妖怪族の中には暴走状態になってジパンニに向かう者達がまたも現れたのじゃ。あの時はどこからか現れた龍によってその者達は返り討ちにあったようじゃが……あの状態は1400年前と同じような状態だった。何を引き金にまた暴走状態に陥るのか……いつ、また同じ事が起きるのか……【転魔の滴】は分からぬことが多すぎる……」
という事は、ボイラの母親は人族を襲うつもりはないということか? 部長のクロエも力を持つ妖怪はジパンニの結界を破れるが近づかないといっていたな……それでは、なんの為に力を求めるのか?
「力を取り戻して何を?」
俺は聞いた。
「同胞を止めるためじゃ。ジパンニに向かう妖怪族をできるだけ、ここで食い止めたいと思っておる。一人ではたかが知れておるがな。それでも、最近はジパンニに向かうものは少なくなった。ジパンニの近くに龍がいるからだろう……」
「おっ母も食い止めているからだろ。それで傷ついて力を失ったんじゃないか」
ボイラは母親に抱きついた。
俺は話を聞いて師匠の薬を飲ませてあげることにした。しかし、ここで薬を出すにはエレインに北の大陸の言葉で色々説明せねばならない。先ほど薬の事を知っているので、いきなり妖怪族に薬を飲ませれば事情を知らないエレインがどういう行動に出るか分からない。
それに飲ませても力が戻るとは限らない。ボイラ親子に変な期待させる事は言わない方がいいだろう。
そこで俺は2つを解決できるいい案を思いついた。
料理に混ぜればいいのではないか。それならば、エレインにもばれないし、もし師匠の薬で力が戻らなくても落胆させることはない。
その時フードの中で眠っていたアーサーが起きだして理想的な発言をした。
「そろそろ夕飯の時間ですにゃ」
「そうだ。おっ母、あそこにいるアギラの料理はすごい美味しいんだ。食べればおっ母も元気になるぞ」
「……そうか。では御馳走になろう」
母親は俺の方を見て、再び頭を下げた。多分力が戻るとは思ってはいないだろう。
ボイラは俺を厨房へと案内する。
「ここにある材料は何でも使っていいぞ。油揚げは使ってくれろ。おっ母も大好物だからな」
俺はアーサーから調理器具を受け取り、油揚げを使った料理を作る。
稲荷寿司と油揚げの入ったうどんと……
そこで気づいたのは師匠の薬を料理に入れると5人分に薄まってしまうのでは…と。1人分の飲み物に混ぜるのが一番いいのではないだろうか。しかし、飲み物は持っていな……いや、持っている事を思いだした。味も濃そうだからちょうどいいのではないか。
それは、ソロモンがくれたトマトジュースである。大量にあるから余っているのだ。先生達に勧めたら先生に全力で拒否されたので全部残っている。
「アーサー、ソロモンから貰ったトマトジュースを出せ」
「あれを使うんですかにゃ。分かりましたにゃ」
アーサーは亜空間からトマトジュースを取り出して俺に渡した。
よく見ると丸い印がついていた。
「たしか印のついていないやつならば飲んでいいと言っていなかったか?」
「そんな事言ってましたかにゃ? ……じゃあ、こっちでいいですかにゃ?」
俺から印のついたトマトジュースを受け取り、印の付いていないトマトジュースを5パックほど俺に渡す。
このままでもいいが、一応鍋に入れて熱する。この一手間で味が変わるのならやらない手はない。料理は愛情とは言ったものである。
そして、コップに一度鍋の中で熱したトマトジュースを入れた後、師匠の薬を一つのコップにさらに注ぐ。
「いい匂いだな」
匂いにつられてボイラがやって来る。
「これを母親に持っていってくれ」
お盆には稲荷寿司とうどんと特製トマトジュースがのっている。
「なんだ、この赤いのは。血か?」
「血じゃない。トマトジュースだ。健康にいい飲み物だ」
「そうなのか? おっ母のために作ってくれたのか? ありがとう」
ボイラはお盆を持って母親に届けにいく。
俺は残り4つのお盆を、2つづつに重ねて両手で一気に運ぶ。
広間に戻るとエレインとボイラの母親は黙って座っていた。
「おっ母、これを食ってみろ。凄い美味しいから。きっと元気になるぞ」
ボイラは母親に勧める。いろいろと話を聞いた今となっては俺も出来る事なら元気になってほしい。
「そうか。いい匂いじゃな」
稲荷寿司を口に運ぶ。
「こ…これは」
無言になりどんどんと食べる。
「どうだ? 美味しいだろ? これも飲んだ方がいいらしい。元気になるらしいぞ」
ボイラはトマトジュースも母親に勧める。
俺もトマトジュースを飲んでみる。その味はトマトというよりフルーティーな甘さを持つ果物のような味のジュースになっていた。うどんには合わないかもしれないが、単独であればすごく美味しい飲み物だった。どちらかというと、食後にデザート感覚で飲む方が良かったかもしれない。
しかし、そんな心配は杞憂のようだった。皆、トマトジュースの美味しさに舌鼓をうった。
「こんな美味しい飲み物だったんですかにゃ。こんなことならもっと早く飲むべきでしたにゃ。まだたくさんありますし、これから毎日飲みますにゃ」
アーサーはトマトジュースを気に入ったようだった。
エレインは相変わらず黙々と食事を口に運ぶ。その表情をみれば問題はないことは一目瞭然である。
ボイラ親子はトマトジュースもだが、油揚げを食べる時に一番至福の表情をしていた。
俺は食べ終わった母親を見たが、トマトジュースと混ぜたのがいけなかったのか、力を取り戻すという事に師匠の薬は役にはたたなかったのか、特に何かが変わったようには見えなかった……
【 残り予備血液パック 40パック 残りトマトジュース 25パック 】
森には大型の熊や角の大きな鹿の魔物に出くわしたが、全て俺の氷の魔法で瞬殺していった。
「すごいな。そんな能力があるなんて」
ボイラはしきりに俺の能力に感心していた。
「こんな危険な森で何をやっていたんんだ?」
変身能力という事を考えれば、何故こんな魔物が出るような危険な場所にいたのか不思議に思った。
「……あれだ、人族の住まうジパンニというところに行こうと思ってな。気配を消しながら進んでたつもりが、蜂の魔物に見つかってしまって……」
俺は一瞬警戒を強める。やはり、妖怪族とやらは人族を襲う種族なのかもしれない。
「ジパンニで何を? 結界があるんじゃないのか?」
「それは……知ってると思うけど、ジパンニには【賢者の滴】があるだろ。それを手に入れようと思ってな。オイラの能力なら人族に化ければ結界を通れるかもしれないだろ」
うむ、全然知らない。
俺は思わず聞き返してしまった。
「【賢者の滴】って?」
「なんだ【賢者の滴】を知らないのか? 言い伝えでは超常の力を得る事ができる液体だろ。あっ、それほどの力があればもういらないのか??」
【賢者の滴】は妖怪族なら知っていないといけないワードのようだな。どうやらヘマをしたようだ。
ボイラは様子を伺うような目を俺に向ける。
「そうだな。それにしても、ボイラの家はまだ遠いのか?」
俺は話題を変える。
「後少しだ。あそこの叢をぬければすぐだ」
木々の間に俺の背丈ほどはある草が生い茂っていた。
その叢を抜けると平原が広がっている。
そしてそこを抜けると和風の屋敷が建っているのが見えた。
周りには建物がなく、一軒だけポツンとたたずんでいた。
「あそこだ」
俺達はボイラの後について屋敷の玄関をくぐる。
そして、屋敷の奥にある大広間へとついていった。
「おっ母、帰ったぞ」
「どこへ行っていたのじゃ!! 昼に帰らないから心配したじゃないか」
広間の中央には人より一回りほど大きい体躯をした狐が寝そべっていた。その体を覆う毛はまるで金色のような色合いをして、触り心地のよさそうな毛並みをしていた。
そして、その尾には2本の尻尾がふさふさと揺れいていた。
「ちょっと……ジパンニへ行こうと思って……」
「なんという愚かな……それにお前にはまだ森は危険すぎると言っていただろう」
ボイラは少し泣きそうになりながら、俺の方を見る。
しかし、何て助け舟を出せばいいのかは分からなかった。
「いえ、一人で森を抜けているようでしたよ」
何かを言わねばと見当違いの事を口走ってしまう。森をぬけたとしても、あそこからジパンニまではまだまだ遠い。それにボイラにとって森は危険そうなのは俺の目か見ても明らかだった。
「そうだ。おっ母、オイラ一人でも森を抜ける事ができたんだ。だから、この調子でいけばいずれジパンニに行けるようになるはずだ」
「……誰じゃ? お前達は」
そこでボイラの母親は俺達の存在に気がついたようだった。
「森で危ないところを助てもらったんだ。雪女族だってさ。それで、昼ごはんを御馳走になったんだけど、すごい美味しかったんだ。これを食えばおっ母も元気になると思って連れてきたんだ」
「やはり危ない目に合っているんじゃないか。うちの息子が世話になったようじゃ。本当に感謝する」
ボイラの母親は俺達に頭を下げた。
「元気そうに見えるのですが、どこか具合が悪いんですか?」
「……なに、力がな……妾の力が失われつつあるというだけじゃ」
「だから【賢者の滴】がいるんじゃないか」
ボイラは叫ぶ。
ボイラは母親のために【賢者の滴】を手に入れようとしているのか?
元気になるように俺の料理を食わせたいって……ええ話や。素敵やん。
師匠の薬で力を取り戻す事ができるかもしれないが、その力で人族を襲うという事を考えればそれはしない方がいいだろう。俺がいろいろと考えているとボイラの母親が【賢者の滴】について語りだした。
「【賢者の滴】か……その存在をお前が知る事になるとは……誰かから聞いたのであろうが、あれは知らぬ方がいいものじゃ。言い伝えで語られる【賢者の滴】とは力を手にいれることができるなんて、そんな生易しいものではない。あれを知っているものはあれを【賢者の滴】とは呼ばん。あの液体の事は【転魔の滴】と、そう呼んでいるのだ。そうだろう? 妾と同じく時を生きるものよ」
俺達に同意を求める。
しかし、俺には【賢者の滴】も【転魔の滴】も分からない。
「そうですね」
俺は森でのヘマを思い出し頷いて同意する。
「使い魔か……」
ボイラの母親は呟くが、どういう意味かは分からない。
「だからあの時……」
ボイラも呟く。
「【賢者の滴】は……1滴飲めば飢えを忘れ、2滴飲めば限界を超えた力を身につけ、3滴飲めば能力を強化する。一部のものにはそう伝わっている。それは確かに真実じゃ。だがそれには代償が伴うのだ。あの時もそうじゃった」
ボイラの母親はどこか遠くを見て、昔を思い出しているようだった。
「力が手に入るならいいじゃないか。オイラはシキから聞いたぞ。【賢者の滴】を手に入れれば、おっ母の力も取り戻せるって」
「シキか……若いものは知らない事だからな……【賢者の滴】を知ってしまったのなら話さねばならん。あれを欲してはならない理由を……あの液体が初めてこの地にもたらされたのは今から1400年くらい前の事じゃ。鬼族の者がそれを手にしてこの地を訪れたのじゃ。そしてこう言った。「力が欲しいか? それならこの液体を口にするといい。誰にも邪魔されぬ力を手に入れることができるぞ」とな。そして一部の力の弱い妖怪族はその液体を口にした。そして、それにより新たな力をつけた者達がいた。しかし、それを口にした者達は鬼族と共に人族を蹂躙し始めたのじゃ。そして、それを止めようとした妖怪族達もまた傷つき殺されることになった。その時からじゃ、それまで一緒に共存していた人族と妖怪族が住み分けて暮らすようになったのは。たぶん、それを口にした者達は力を得る代わりに記憶を奪われ、鬼族に操られていたのだろう。たぶんだがな……」
「そ、そんな事が? でも何でそれがジパンニにあるんだ?」
ボイラが質問する。
「1400年前にその鬼族達を追い払った者の中に人族の勇者がいた。その勇者がジパンニでその液体を有効に使う方法を編み出したのじゃ。そのためにジパンニに賢者……いや【転魔の滴】があるのじゃ。それから月日が流れ、妖怪族の中には力を求めてジパンニを目指すものが後を絶えん。力を求めるものは真実を知る妾達の忠告を聞く事はない。自分は操られる事なく制御できるとでも思っておるんじゃろう。だが、あれは……そんな簡単に制御はできんのじゃ。一度は終わったと思っておった悪夢が700年くらい前にも起きた。妖怪族の中には暴走状態になってジパンニに向かう者達がまたも現れたのじゃ。あの時はどこからか現れた龍によってその者達は返り討ちにあったようじゃが……あの状態は1400年前と同じような状態だった。何を引き金にまた暴走状態に陥るのか……いつ、また同じ事が起きるのか……【転魔の滴】は分からぬことが多すぎる……」
という事は、ボイラの母親は人族を襲うつもりはないということか? 部長のクロエも力を持つ妖怪はジパンニの結界を破れるが近づかないといっていたな……それでは、なんの為に力を求めるのか?
「力を取り戻して何を?」
俺は聞いた。
「同胞を止めるためじゃ。ジパンニに向かう妖怪族をできるだけ、ここで食い止めたいと思っておる。一人ではたかが知れておるがな。それでも、最近はジパンニに向かうものは少なくなった。ジパンニの近くに龍がいるからだろう……」
「おっ母も食い止めているからだろ。それで傷ついて力を失ったんじゃないか」
ボイラは母親に抱きついた。
俺は話を聞いて師匠の薬を飲ませてあげることにした。しかし、ここで薬を出すにはエレインに北の大陸の言葉で色々説明せねばならない。先ほど薬の事を知っているので、いきなり妖怪族に薬を飲ませれば事情を知らないエレインがどういう行動に出るか分からない。
それに飲ませても力が戻るとは限らない。ボイラ親子に変な期待させる事は言わない方がいいだろう。
そこで俺は2つを解決できるいい案を思いついた。
料理に混ぜればいいのではないか。それならば、エレインにもばれないし、もし師匠の薬で力が戻らなくても落胆させることはない。
その時フードの中で眠っていたアーサーが起きだして理想的な発言をした。
「そろそろ夕飯の時間ですにゃ」
「そうだ。おっ母、あそこにいるアギラの料理はすごい美味しいんだ。食べればおっ母も元気になるぞ」
「……そうか。では御馳走になろう」
母親は俺の方を見て、再び頭を下げた。多分力が戻るとは思ってはいないだろう。
ボイラは俺を厨房へと案内する。
「ここにある材料は何でも使っていいぞ。油揚げは使ってくれろ。おっ母も大好物だからな」
俺はアーサーから調理器具を受け取り、油揚げを使った料理を作る。
稲荷寿司と油揚げの入ったうどんと……
そこで気づいたのは師匠の薬を料理に入れると5人分に薄まってしまうのでは…と。1人分の飲み物に混ぜるのが一番いいのではないだろうか。しかし、飲み物は持っていな……いや、持っている事を思いだした。味も濃そうだからちょうどいいのではないか。
それは、ソロモンがくれたトマトジュースである。大量にあるから余っているのだ。先生達に勧めたら先生に全力で拒否されたので全部残っている。
「アーサー、ソロモンから貰ったトマトジュースを出せ」
「あれを使うんですかにゃ。分かりましたにゃ」
アーサーは亜空間からトマトジュースを取り出して俺に渡した。
よく見ると丸い印がついていた。
「たしか印のついていないやつならば飲んでいいと言っていなかったか?」
「そんな事言ってましたかにゃ? ……じゃあ、こっちでいいですかにゃ?」
俺から印のついたトマトジュースを受け取り、印の付いていないトマトジュースを5パックほど俺に渡す。
このままでもいいが、一応鍋に入れて熱する。この一手間で味が変わるのならやらない手はない。料理は愛情とは言ったものである。
そして、コップに一度鍋の中で熱したトマトジュースを入れた後、師匠の薬を一つのコップにさらに注ぐ。
「いい匂いだな」
匂いにつられてボイラがやって来る。
「これを母親に持っていってくれ」
お盆には稲荷寿司とうどんと特製トマトジュースがのっている。
「なんだ、この赤いのは。血か?」
「血じゃない。トマトジュースだ。健康にいい飲み物だ」
「そうなのか? おっ母のために作ってくれたのか? ありがとう」
ボイラはお盆を持って母親に届けにいく。
俺は残り4つのお盆を、2つづつに重ねて両手で一気に運ぶ。
広間に戻るとエレインとボイラの母親は黙って座っていた。
「おっ母、これを食ってみろ。凄い美味しいから。きっと元気になるぞ」
ボイラは母親に勧める。いろいろと話を聞いた今となっては俺も出来る事なら元気になってほしい。
「そうか。いい匂いじゃな」
稲荷寿司を口に運ぶ。
「こ…これは」
無言になりどんどんと食べる。
「どうだ? 美味しいだろ? これも飲んだ方がいいらしい。元気になるらしいぞ」
ボイラはトマトジュースも母親に勧める。
俺もトマトジュースを飲んでみる。その味はトマトというよりフルーティーな甘さを持つ果物のような味のジュースになっていた。うどんには合わないかもしれないが、単独であればすごく美味しい飲み物だった。どちらかというと、食後にデザート感覚で飲む方が良かったかもしれない。
しかし、そんな心配は杞憂のようだった。皆、トマトジュースの美味しさに舌鼓をうった。
「こんな美味しい飲み物だったんですかにゃ。こんなことならもっと早く飲むべきでしたにゃ。まだたくさんありますし、これから毎日飲みますにゃ」
アーサーはトマトジュースを気に入ったようだった。
エレインは相変わらず黙々と食事を口に運ぶ。その表情をみれば問題はないことは一目瞭然である。
ボイラ親子はトマトジュースもだが、油揚げを食べる時に一番至福の表情をしていた。
俺は食べ終わった母親を見たが、トマトジュースと混ぜたのがいけなかったのか、力を取り戻すという事に師匠の薬は役にはたたなかったのか、特に何かが変わったようには見えなかった……
【 残り予備血液パック 40パック 残りトマトジュース 25パック 】
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彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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