転生して竜人に育てられた俺は最強になっていた (旧題 two of reincarnation )

カグヤ

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第二章 魔導士学園 編

絶対防御 【H2O2】

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~十二柱の一人・アスタロスの視点~


 何なのよ。本当に。
 どうして、あの黒い物体に魔力を流したのに動かなかったのよ。壊れていたっていうの? それともやり方が間違っている? 数百年ぶりに、こんなに頑張っているというのになかなか上手くいかないわ。
 昔、魔王が使っている時は【魔王の支配デモンズ・ルール】のせいで触れる事もできなかったから知らなかったけど、黒い物体には魔力認証によるロックがかかるなんてね。
 魔力を供給したものがいないと起動できないシステムと分かっていれば、見つけた時に私が最初に魔力を流していたのに……
 まぁ、いいわ。他にも探せば、きっと見つかるわ。
 そして私が【魔王の支配デモンズ・ルール】から抜け出す方法を探し出すのよ。
 
 それにしても、めんどくさそうな雰囲気だったから逃げて来たけど、上手くやっているかしら。馬鹿猫は馬鹿だから今頃串刺しにされてしまっているかもしれないわね。あっ、変な時空魔法を使えるから大丈夫か。ちっ。
 あの少年は……かなり魔法が上手だから大丈夫よね。人族にんげんにしては、昔いた賢者レベル? いえ、もっとかしら、ベルゼブブのやつが魔王と間違ってしまうのも頷けるくらいよね。前の遺跡では私は危うく死にかけてしまったもの。
 光魔法の最高位浄化魔法『 聖光魔浄陣レイデァント・レクイエム 』を1人で発動させるなんてね。 私の水魔法で浄化の光を屈折させて弱めなければ、確実に死んでいたわ。今思い出しても、背中に冷や汗が出るわ。危ない。危ない。

 でも、甘いところがあるのよね。あれっ、それで言えば、同族を殺すことができるのかしら? もしかして、今ピンチに陥ってしまってるってこともあるんじゃ……? そうしたら、あの美味しいご飯が食べられなくなってしまうじゃない。
 面倒だからってあの場を離れたのは間違いだったわ。
 今すぐ戻って助けてあげるしかないわね。本当にしょうがないわ。私の100年分くらいの労力をさいてあげるわよ。ついでにあの馬鹿猫に恩を売っておくのがいい考えね。

 それにしても、ここは木ばっかりで方向感覚が分からないわね。あっちは嫌な予感がするから、嫌な感じがしない方へといけばいいわね。そもそも、このジパンニに到着した時から嫌な感じはしてたのよ。それがこんな感じで的中したんだから。今回は私の感性に従って移動した方がいいわね。

 私は歩いた。300年分くらいは歩いた。しかし、少年と合流する事ができない。出会うのは魔物ばかり。一体ここは何処かしら。

 本当に、なんなのよ。嫌な感じはしなくなったけど、いっこうにジパンニがどこにあるかわからないわ。喋れる魔物がいれば話は早いというのに、そんな魔物には一切出会わないじゃない。

 夜通し歩き、昼過ぎになってようやく建物が見つかった。

「やっとたどり着いたわ。来た時とは違う場所みたいだけど、ぐるぐる回って違う入り口に到着したみたいね」
 ここで巫女のいる場所を聞いて、少年と合流するのが良さそうね。嫌な感じもしないし、私の第六感が告げているわ。この中で聞けば全て上手くいくってね。

 私は扉を開けて中に入った。

 すると受付のカウンターの人形が言葉を発した。
「ヨウコソ、オ越シクダサイマシタ」

「巫女のいる場所はどこなの?」
 
「旅でオ疲レでショウ。マズはオフロで疲レをオトリクダサイ。アチラがオ風呂にナリマス。男性は左側、女性は右側にナリマス。オ風呂ニ入ル際ハ、入念ニ洗っテカラオ入リクダサイ。上ガリマシタラ、アチラヘトオ越シクダサイ。回復ヲ早メ、体ノ調子ヲ整エル料理ヲゴ用意シマス。キット気に入ッテ貰エルでショウ」

「はっ?! 何言ってるのよ。巫女がいる場所を聞いているのよ。風呂も食事もどうでもいいわ」
 あの少年の料理を知ってしまった私に他の料理などどうでもいいのよ。そもそも悪魔族はご飯を食べなくても生きていけるし。お風呂も【アバロン】でずっと堪能してたからどうでもいいわ。そんな事より早く戻らないと手遅れになってしまうかもしれないわ。

「オ風呂はアチラにナリマス」

「だからお風呂はどうでもいいのよ。巫女のいる場所はどこなのよ?」

「ゴ主人様はタダイマ料理ノ御用意をシテオリマス。オ風呂ニ入ッテユックリとオ待チクダサイ」

「アンタ、バカァ? 何回同じやり取りを繰り返すのよ。巫女の場所を教えなさいよ」

「オ風呂ハアチラにナリマス」

「風呂はどうでもいいのよ。分かったわ。そのご主人様とやらはどこにいるのよ? そいつに聞くわ」

「ゴ主人様はタダイマ料理ノ御用意をシテオリマス。オ風呂ニ入ッテユックリとオ待チクダサイ」

「それはさっき聞いたって言ってるでしょっ」

 私が人形の首を掴むと、ぽろっと首が下に転がる。

「あっ!! こ、壊すつもりはなかったのよ」

 私は焦って周りを見回した。

 誰も見てないわね……

 私はそっと首を元の場所にくっつけようと試みた。しかし、バランスが悪く少しの振動を加えただけで、首が取れそうになる。何より、さっきまで、お風呂、お風呂と連呼していたのに、今は全く喋らなくなってしまったようである。完全に壊れてしまっている。

 いや………最初から壊れそうな状態だったんだわ。運悪くそこへ私がやって来た。きっとそうよ。いやそうに違いないわ。だいたいちょっと触れただけで壊れるなんて、ありえないもの。

 という事は、私は加害者じゃなくて被害者じゃないの。あやうく濡れ衣を着せられるところだったわ。

 ていうか、こんな人形なんてどうでもいいのよ。巫女の住んでる場所よ。ご主人様がどうとか言ってたって事は、人形以外にも誰かいるはずよ。
 あっちがお風呂と言ってたから、こっちかしら。
 さっきから物音もするしね。

 私は物音のする方に進んでいき、そちらにある扉を開けた。

 その扉の先には丸いテーブルがいくつか置いてあり、一つのテーブルには所狭しと皿が並んでいる。その皿の上の料理は、ほとんど食べつくされていた。

 そのテーブルの周りには顔をこちらに向けて倒れている4人の姿があった。

「それがあなた達のお仲間ですか……くふっ、くふふ。」

 声のする方を見ると、顔と体型がアンバランスな獣人がいた。そいつの言葉に私の頭の中にはクエスチョンマークが浮かぶ。
 
 仲間??

 あっ、そういえば、少年と一緒に他に4人いたわね。その子達かしら。人間って特徴が薄いから見分けがつきにくいのよね。もっと、こうインパクトのある特徴を一人一人持ってほしいものだわ。悪魔族なんてみんな目の模様が違うから、それだけで見分けがつくっていうのに。
 覚えようと頑張れば見分けがつくんだけど。あの4人なんて私にとってはどうでもいいものね。頑張って覚えるのも面倒だわ。

 それにしても、この状況なんなのかしら。

 あれからどういった事が起きたの? 黒い物体は大仰に祭られていたから、壊れた事によってジパンニ側と揉めてしまったってところかしら。1日も経っていないというのにせわしないわね。

 さて、どうするか?

 この4人なんてどうでもいいんだけど……少年の居場所は知っておきたいところね。

 ひとまず戦闘中のようだから、巻き込まれないように水の絶対防御は展開しておきましょうか。4人の状況を見て、私の長年の戦闘経験から適切な選択肢をチョイスする事にした……
  


~バロワ商会の一人・ドゥラーの視点~

 なんでこんなところに幼女が……この集落の住人か? 最初に思ったのはそれだった。
 しかし目の前の獣人もどきの反応を見る限りそれは否定された。

「それがあなた達のお仲間ですか……くふっ、くふふ」

 俺の言葉が功を奏したようで、現れた幼女を俺達の仲間だと勘違いしたようだ。しかし、これからどうするか。今のこの状況を見れば、怯えて逃げていくだけだろう。何か、何かチャンスはないのか。残された時間はあと少しである。

 瞬間的に頭をフル回転させて考えたが、何もいいアイデアなんて思いつきやしない。

 獣人の注意がこちらに向いてしまうと思われたが、幼女はすぐに逃げ出さなかったためにこちらには注意が向かなかった。怖くて動けないといったところか。与えられた時間を俺は無駄にしないために、さらに考えようとした時、幼女は何かを呟いた。

 その刹那少女の周りを丸い水球が覆いつくした。中心部分は空洞になっているようで、幼女が溺れているような様子はない。

 あれは幼女がやったのか?

「くっ、くふふ。水魔法ですか。少し舐めていたようですね。そんな魔法が使えるとは。しかし、しかしですよ。私の能力の前ではそんな水の防御壁なんて、まるで無意味。無意味なんですよ。あなたも魔法使いなら、鬼王ゴモラの生贄になってもらいます」

「鬼王ゴモラ? 昔、死んだはずじゃあ?」

「おや? 鬼王ゴモラを知っているのですか? まあ、人族の勇者も関わっていましたからね。人族の間でも伝承されていたという事ですか……鬼王ゴモラとは物語の中の架空の登場人物ではないんですよ。くっ、くふふ。もっとも死にゆくあなたには関係ない話でしたね」

 獣人と幼女の話は【何かの物語】の事を話しているようである。何の話なのかは、俺には思い当たらなかった。しかし思った以上に時間を稼いでくれている。俺は関節の痛みに耐えながら、這うようにして獣人と距離をとった。

「ちょっと関係なくないわよ。教えなさいよ。鬼王ゴモラってどういう事よ? もしかして、復活させようとしているんじゃないでしょうね?」

「くふふ。その通りですよ。あなた達の魔力を含む血液がその礎となるのです。どうかお喜びください。憧れの物語の一部になる事ができるのですから」

 獣人は大きく狼のような毛と爪のある手を突き出した。

 ………

 しかし、幼女には一向に変化は現れない。

「???……馬鹿な……何故だ。何故効かない!!」

 獣人は焦りだす。

「あんた細菌を操ってるんでしょう。目に見えて4人に症状が出てるわよ。外的症状がでるなんて、まだまだ三流だわ」

「なん……ですと……見破られていたと言うのですか……し、しかし、水如きで私の【白い巨塔ホワイト・タワー】を防ぐことなんてできるはずがないんですよ」

「残念。これはただの水じゃないのよね」

「なん……ですと……、そ、それは、何だって言うんですか?」

「あはは、それこそあんたに教える必要がない事よね」
 
 幼女の水球からは鼻を突きさすような匂いが漂う。これは殺菌で使われる……過水……の匂いか? 俺が匂いの記憶を辿っていると、同じく何かに気付いたネリィが呟いた。

「そ、そんな、水魔法で【オキシルフェン】を精製したというの? そんな事が……? それにあの状態。液体が揮発しているわ。明らかに【オキシルフェン】が高濃度である証拠。魔法でそんな事ができるなんて……」

 ネリィはワナワナと体を震えさせている。
 それが細菌による症状なのか、幼女の魔法に魅入られているのか。いわずもがな、後者であるのは明白だろう。

 【狂った魔術師マッド・マジシャン】と呼ばれるネリィすらも知らない魔法を扱うあの幼女は一体何者なのか?

 ただ一つ言えるのは、俺たちは助かるかもしれないという事である。どうやら幸運の女神は俺達に微笑みかけてくれているようである。

「さぁ、あんたには聞きたいことがあるわ」

 今度は幼女が呪文を詠唱しながら腕を動かす。

「く、くそっ」

 幼女のの周りに小さな水球が無数に発生する。それは全て獣人の周りに漂い、獣人の退路すらをも塞ぐ。

「良かったわね。聞きたいことがあるから殺さないであげるわ」
 幼女が、さらに腕を振ると、水球は獣人目掛けて飛来し重なり合う。そして、大きな一つの水球となり獣人をその中に閉じ込めた。

 あっけなく終了した……俺たちは助かったのだ。

 そう思った時、獣人の後ろから植物の蔓が伸びた。その蔓は水の中にいる獣人の周りに巻き付いた。そして、その蔓は俺達の方にも迫りくる。回避する事ができずに、蔓は俺の体に巻き付いた。見ると俺だけでなく、倒れている他の3人の体も蔓が巻き付いている。

 その蔓は獣人だけでなく、俺達も幼女と反対方向へ引っ張り上げた。
 その引っ張られる先には白衣を着た男がいた。その男の手の裾から蔓が伸びていて、この蔓こそが俺達を拘束している事が目で蔓を辿っていくと分かる。

 獣人だけは蔓から解放され、現れた白衣の男と会話をする。

「連絡を受けて来てみれば、まだやってたのかい」

「くふふ。助かりましたよ。一人厄介な魔法使いがいましてね。私の能力を見破っただけでなく、通用すらしないようです」

「ふーん。なら一旦退こう。せっかく4人も手に入ったんだ。まずは4人だけでも届けないと。4人を連れていけば、人質としても使えるだろうし」

「くふふ。それはいい考えですね。仲間を返して欲しければ、追ってきてもいいですよ。周りは敵だらけですがね。くふっ、くふふ。あなたにその勇気がおありですか? くふふふ」
 
 俺はこの時、今の危機的状況に焦りを覚える。幼女の目的は分からないが、命を懸けてまで俺達を救いには来るとは思えない。
「では、行くよ」

 新たに現れた白衣を纏った男は俺たちを蔓で持ち上げたまま、後ろの扉から出ようとする。

「待ちなさい!! 聞きたいことに答えてもらってないわ」

 微かな希望。

 先ほどと同じように、こちらに向けて無数の水滴が放たれる。幼女は再び2人を拘束しようとしているのだ。

 しかしその希望は無残にも床から伸びて出てきた木の壁によって遮られた……



~十二柱の一人・アスタロスの視点~


「あっ!!」

 逃げられたわ。こんなことなら拘束じゃなくて、半殺しにするつもりで攻めるべきだったわ。でも、それをしたら、あの4人も巻き添えだったし。何かいろいろ本当に面倒だわ。き~っ。私はその場で地団駄を踏んだ。

 さて、これからどうするか? 追ってまで戦うか? でも、複数と戦うのは面倒だし。う~ん。

 巫女の場所……というより少年の場所も聞きたかったけど……
 
 もう一つ気になる言葉……鬼王ゴモラ……

 本当に復活させるつもりなの? そんな事が可能なのかしら?

 それって確か1000年以上前の魔王の名前よね……
 
  





 ※【オキシルフェン】とは過酸化水素水(H2O2)のこの世界の名称です。化学式が似てるし水魔法って事でOK牧場って事にしてください。

 次回はやっと主人公回になります。

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