モクモク星人

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モクモク星人

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僕はモクモク星人。煙の星からこの地球にやって来た。と言うか、不時着した。僕は一人で宇宙を探索する任務に就いていたのだけれども、途中で乗っていた宇宙船が故障して、それ以上、安定して飛ぶことができなくなった。しかも通信装置も故障していて故郷のモクモク星と連絡が取れないでいた。モクモク星には、もう帰れなかった。そこで僕はどこかの星に降りることにした。死ぬまで宇宙空間を彷徨い続けるのは嫌だった。一人で心もとないし、不安だし、何より地面が恋しかった。降りる星を探し始めた時、僕はちょうど太陽系の近くを通りかかっていた。すぐに綺麗な星を見つけた。本当に綺麗だった。一人で寂しく人生を終えるしかないのなら、場所はせめてこの綺麗な星の上がいいと思った。それが地球だった。僕はそこに降りることを決意した。けれども宇宙船は故障して思い通りに動かなくなっていたから闇雲に操縦するしかなかった。しばらくは、あっちに行ったり、こっちに来たり、くるくる回ったりを繰り返していた。非常にもどかしかった。それでもめげずに操縦を続けていると、ある時、奇跡的に宇宙船が地球に対して角度ゼロで進み始めた。シャールタル──地球の言葉で言う「しめたものだ」──と思った。僕は運がよかったのだろう。なんとか地球に向かうことができた。段々と僕に近づいてくる綺麗な星を見て、と言っても正確には僕が近づいていったのだけれども、僕は嬉しくなった。数えきれないほどのきらきら輝く宝石を一度に手に入れたかのような気分だった。うっとりしていた。すると突然、宇宙船が激しく揺れ始めた。けれども僕は慌てなかった。宇宙探索者として乗り物の揺れには慣れていたし、宇宙船はすでに故障していたから気にする必要もなかったし、もうすぐ地上に降りられると思ったから落ち着いていた。宇宙船の外が燃えていることについても冷静に考えて、この星には空気があって、僕は今、大気圏に突入したのだ、という結論を出した。しばらくすると揺れも炎も収まった。落ち着いていて正解だった。どんな状況でも落ち着いていなければならない宇宙探索者は、やっぱり僕の天職だと思った。けれども、そんな僕でも宇宙船の外を見た時は少し興奮してしまった。空気が透き通っていた。少しも濁っていなかった。煙に覆われたモクモク星では視界は遮られていて遠くまでは見ることができなかったけれども、この星では視力の限界まではっきり物を見ることができた。煙じゃない空気を見て、と言うか空気が見えなくて、僕はわくわくした。そして、そのまま落ちていった。宇宙船は故障していたと言っても着陸用の装置だけは機能していたから僕は生きたまま地上に降りることができた。さっそく宇宙服を着て宇宙船から外に出てみた。なんと、そこは森だった。僕が降り立ったのは、植物が密集している場所。つまり、この星にも生命が存在することが確認された。と言っても、モクモク星の植物とは違っていたから本当に植物なのかはわからなかったけれども、とにかく植物らしかった。次に僕は下を見た。けれども土は、土だった。モクモク星の舗装されていないところの地面との違いはないように見えた。だから観察するまでもないと思って次に空を見上げようとした時、視界の中で何かが動いたような気がした。そこで再度、注意深くそこを見てみると、やっぱり動いていた。僕は驚いた。それは生き物だった。けれども、かなり小さかった。形はモクモク星のキョレックサーに似ていたけれども大きさは百分の一にも満たないほどだった。それでも生き物を発見したことには変わりない。生命が存在することを知って僕は思わず安心した。けれども、それで緊張が緩和しすぎて変な気を起こしてしまった。いっそこのまま全てのことから解放されたいと思った。どうせこの星で死ぬのだから同じことだと考えて、思い切って宇宙服を脱いでみた。一瞬の間に悲惨な未来も想像したのだけれども、結局、脱いでも呼吸ができた。命拾いした。それで実はもう一つ命拾いしたことがある。これは後で知ったことなのだけれども、地球は表面積の約七割が海らしい。僕はたまたま陸地に降りられただけだった。無事に着陸できて本当によかったと思う。もし海に落ちていたら、と考えるとぞくぞくする。けれども結局、僕は運がよかったのだろう。「不幸中の幸い」の「幸い」の部分がいくつも続いていた。地球を見つけられたこと。無事に降りられたこと。宇宙服を脱いでも呼吸ができたこと。呼吸ができるとわかってから僕はまず地球の匂いを嗅いだ。そして感動した。匂い自体はモクモク星でも嗅いだことがあるような気がしたのだけれども、鼻から体の中に入ってくる空気がやっぱり綺麗だと思った。機器で空気の成分を測定したわけじゃないから何が綺麗だったのかを言うことはできないけれども確かに体で感じることができた。何度か空気を肺いっぱいに吸い込んで味わってから僕は地球を探索することにした。僕が降り立った森はそこまで広くなかったみたいで少し歩くと、すぐに開けた場所に出た。そこで僕は衝撃を受けた。僕は山の中にいたらしくて、そこも少し高い場所だったから平地を見下ろすことができたのだけれども平地には無数の建造物が建っていた。横には視界の端まで並んでいたし、縦にも果てがないと思えるほど奥にずっと続いていた。僕はその光景に圧倒されて、しばらく動くことができなかった。地球には「見渡す」という言葉があるけれどもモクモク星では視界が煙に遮られて見渡すことができなかったから、なおさら衝撃が強かった。我に返ってから、とにかく建造物がある場所まで行ってみようと思って再び歩き始めた時、僕は足の裏の感触がそれまでと違っていることに気がついた。地面を見ると、舗装されていて滑らかだった。モクモク星と変わらないと思って奇妙に感じた。僕は情報を総合して、この星には高度な文明が存在していたのだ、という結論を出した。興奮した。一刻も早く文明の跡を見てみたいと思って舗装された道を下っていった。しばらく下ると、何かの音が聞こえるようになった。僕はどきどきして辺りを見回したのだけれども音の正体は見つからなかった。生き物の鳴き声だとは思えなかった。それよりも滝の音に似ていた。短い音じゃなくて長く連続した音だった。少し不気味に思いながら、さらに下っていくと音も大きくなった。近づいたのだと思った。そこから少し歩くと、もう麓だった。その時、音の正体がわかった。なんとも形容しにくい、強いて言うならケライソラマキに似た物体が舗装された地面の上を滑っていた。しかも物体は一つじゃなくて、いくつも続いて滑っていた。正確には滑っていたんじゃなくて下についた車輪が回転して進んでいたのだけれども、モクモク星にも似たような乗り物があって、つまり車だった。車は中が透けて見えた。だから中には何があるのだろうと思って目を凝らして見てみたのだけれども、中にはモクモク星の人類によく似た生き物がいた。そして車を操縦しているように見えた。驚くべきことに、この星には僕たちと同じような知的生命体がまだ普通に住んでいた。僕はそれを自分の目を通して知った。衝撃的すぎて気絶しそうだと思った。そして気絶しそうだと思いながら実際に気絶した。目が覚めると僕は四角い部屋の中にいて、真ん中に置かれた台の上に横になっていた。どうしてこんな場所にいるのだろうと考えながら起き上がった。後で知ったのだけれども、そこは医療用の施設の中だった。僕は地球の知的生命体に気を失っているところを発見されて、医療が必要な状況だと考えた知的生命体によってそこに運び込まれたらしかった。どうするべきかわからなくて、しばらく悩んでいた。すると突然、知的生命体が、今後は地球の言葉で「人」と言うことにするけれども、部屋の中に入ってきた。僕はとっさに後ずさった。けれども、その人は僕を見ると慌てた様子ですぐに部屋から出ていった。僕は呆然とした。何が起きたのだろうと思っていると、また人が部屋の中に入ってきた。今度は大勢だった。人たちは僕が乗っていた台を取り囲んだ。一人が僕に向かって何かを喋った。けれども何を喋っているのかわからなかった。僕は地球の言葉を理解できなかった。けれども響きは綺麗だと思った。優しい感じがした。それはその人の口調だったのかもしれないけれども僕はすぐに地球の言葉が好きになった。話しかけられて何も返事をしないのは悪いと思ったから僕は正直に、何を言っているのかわからないという意味のことをモクモク星の言葉で言った。すると人たちは驚いた様子で顔を見合わせ始めた。そして何かを言い合った。そして一人が僕の方を向いて「イングリッシュ」と言った。僕は思わず笑ってしまった。と言うのも「イングリッシュ」はモクモク星の言葉で、あることを意味しているのだけれども、人が真剣な顔でそれを言うのがおかしかった。人たちは不思議そうに僕を見つめていた。それからしばらくすると四角い板が運ばれてきた。板の上には、よくわからない物がいくつも載っていた。僕がそれを睨んでいると運んできた人は開いた口に手を近づけて口を閉じると顎を動かした。それでわかった。食べ物だった。手前に置かれた二本の棒が何を意味するのかわからなかったから無視した。後で知ると、それは「箸」と言って食べる時に使う物なのだけれども、僕はそれを使わずに食べ物を直接、手で持って口に運んだ。僕はまた感動した。感動しすぎて涙を流すところだった。地球の食べ物は本当に、とても美味しかった。それほど美味しい物をモクモク星では食べたことがなかった。すぐに全部食べた。幸せだった。僕はモクモク星の言葉しか喋れなかったけれども、食べ物を持ってきてくれた人に美味しいということと感謝を伝えようとして喋った。その人は言葉がわからないのに察してくれたみたいで僕に向かって微笑んでくれた。その時は僕も笑っていた。それから何日か経って、その間に色んな人が来て色んなことを喋っていったけれども僕には一つもわからなかった。このままでは埒が明かないと思った僕は、自分が異星人だということを人に伝えることにした。けれども誰でもよかったわけじゃなくて、あの時、最初に僕に話しかけてきた人がよかった。僕はその人を優しい人だと思っていた。だから、その人が部屋に入ってきた時に、部屋には窓がついていて外が見えていたのだけれども、外を指差した。そして歩いていって部屋を出る扉を開けながら、ついて来てほしいという意味でその人と自分の尻を順番に指差した。部屋から出ると、その人は僕が望んだ通りに後ろについて来た。部屋の窓から外を見ていて、そこが一階じゃないことを知っていたから僕は一階に下りる道を探した。そして下りるための物だと思われる連続した段差を見つけた。「階段」と言うのだけれども、それを使って僕とその人は下りていった。慣れない運動だったから疲れたけれども無事に一階まで下りることができた。そこから建物の出口を探して見つけて、なんとか外に出ることができた。けれども僕は困った。宇宙船がある森までの道のりがわからなかった。と言うか今自分がいる場所がどこなのかすらわからなかった。せめて気絶した場所がわかればいいと思った。だから僕は自分の胸を指差してから目をつぶって上半身を傾けた。それでも人は理解していないみたいだったから、いっそ地面に寝転んでみた。すると人は意味がわかったらしく何度も頷いてから僕を見ながら手のひらを下に向けて開いた手を上下に数回動かして、そしてまた建物の中に入っていった。僕は戸惑って何もできなかった。だから、そこにたたずんでいた。すると車が一つ僕のところにやって来た。さっきの人が乗って操縦していた。扉が開いた。人が僕と車の中を交互に指差したから、乗れ、という意味だと思って乗った。車の中には座るのにちょうどいい高さの台があったから座った。扉が閉まった。車が動き出した。地球の車に乗ったのは初めてだったけれどもモクモク星の車とほとんど同じだったから別に楽しくはなかった。人はずっと喋り続けていたけれども、やっぱり何を喋っているのかわからなかった。モクモク星で過ごしていた遠い日を思い出していると、車が止まって、人が操縦席から僕の方を振り返って何かを言った。そして扉が開いた。着いたのだと思った。僕が車から降りると、人も降りてきて僕を見て手を振りながら歩いていった。ついて来いという意味の動作だと思った僕は、その人に続いて歩いた。人はすぐに立ち止まった。そして地面を指差した。つまり僕が気絶して倒れていた場所だった。僕はそこに立って、初めて人を見た時のことを思い出した。道を下ってきて、ここに着いたのだから反対に上っていけば宇宙船がある森にたどり着くだろうと思った。そして道の先を指差して歩き始めた。人もついて来た。ところで「人」と言っても全員が人でわかりにくいから、ここで呼び方を変えて、最初に話しかけてきた人だから「サイショ」と呼ぶことにするけれども、僕とサイショは道を歩き続けた。そして、あの場所に着いた。無数の建造物を見渡せる場所。僕がその光景に圧倒された場所。再び見渡してみて僕はまた感動した。あの時は全てが過去の遺産だと思っていた。けれども実際は生きていた。それを考えながら見ると、やっぱり地球は綺麗だと思えた。そこから振り返って僕たちは森の中に入っていった。記憶を頼りに歩いた。少し迷ったけれども最終的には宇宙船を見つけることができた。サイショはかなり驚いたみたいで取り乱していた。そして僕に何かを言った。説明を求められていると思った僕は、まず自分を指差して次に宇宙船を指差して、それから空を指差して最後に地面を指差した。サイショは目を見開いた。口もぽっかり開いていた。僕みたいに気絶するんじゃないかと思って心配したけれどもサイショはなんとか持ちこたえた。けれども発狂してしまった。にやにや笑いながら何かを言って走り回ったかと思うと僕の肩を掴んで揺さぶった。なんだか楽しそうだったから僕も楽しくなった。サイショは自分を指差してから僕を指差して、また自分を指差して僕を指差した。けれども僕にはそれが何を意味するのかわからなかった。僕とサイショは興奮しながら山を下りて施設に戻った。数日経って僕は施設を出た。サイショの家に住むことになった。サイショの家族と思われる人たちに会った。普通の人が一人と小さい人が二人だった。全員、優しい人だと思った。特に小さい人は綺麗だと思った。僕はそれからサイショの家で食べ物を食べた。驚愕した。とても美味しいと思っていた施設で食べた物よりも、さらに美味しかった。そして、それから、そんな美味しい物を毎日食べ続けることができた。サイショの家に住むということは、つまりそういうことだった。段々と箸の使い方も学んでいった。それと同時に地球の言葉も学んでいった。けれども、その頃から僕の中で変な感じが起こり始めた。なんとなく不安になることがあった。そして、それは時が経つにつれて段々と多くなっていった。地球の言葉をある程度喋れるようになった頃には、もうずっと不安だった。サイショの奥さんがそんな僕を見て「元気ないんじゃない?」と尋ねてきて、そして「ホームシック?」と言った。奥さんは僕が異星人だということを知っていて配慮してくれた。けれども僕はモクモク星が恋しかったわけじゃない。なぜだかわからないけれども、とにかく不安になっていた。それから、僕は暇だったから、よく考えごとをしたのだけれども、その考えごともほとんどが暗い物で、しかも払拭するのが難しかった。その一つが、宇宙は今、崩壊しているのだ、という物だった。僕は怖くなった。崩壊の連鎖が今にも僕のところにたどり着いて、無が僕を飲み込んでしまうんじゃないかと思った。と言うか、いつも思うようになった。だから四六時中、怯えていた。そして、ときどき恐怖が僕の頭を完全に支配してしまうことがあった。僕は、どんな状況でも落ち着いていられることを自負していたけれども、その時だけは、いても立ってもいられなかった。恐怖を紛らわすためだったのかは自分でもわからないけれども、とにかく走り回った。その様子を見たサイショとサイショの家族は僕を心配してくれた。けれども僕は自分の恐怖を打ち明けることができなかった。自分一人で抱え込む物だと当然のように考えていたし、それに何より、どういう打ち明け方をすればいいのかわからなかった。サイショは気分転換になればいいと考えてくれたみたいで僕をよく外に連れ出してくれたけれども、僕は家にいてもサイショとどこかに出かけていても、ずっと怯えているしかなかった。不安も恐怖もない元の状態には戻れそうもないと感じたから、これから死ぬまで怯え続けるのだと思って嫌になった。そして、よくない考えがちらつき始めた頃、僕はいつもと同じようにサイショに誘われて外に出かけたのだけれども、そこで小さい棒を口にくわえて煙を吐き出す人を見かけた。初めて見る物だったから思わず「あれは何」とサイショに尋ねた。サイショは「あれはタバコ。俺も昔は、やってたよ」と答えた。それから僕はタバコが気になった。それは、闇の中にいるかのようで何も感じられなかった僕に一瞬だったけれども興味を持たせた物だった。希望の光が見えたような気がした。僕はサイショに「やりたい」と言った。サイショは最初、少し戸惑っているようにも見えたけれども、すぐに納得したみたいで「そうか。そういえば故郷は煙の星とか言ってたもんな。やっぱり恋しいか」と言った。言われて気がついたのだけれども僕はやっぱりモクモク星が恋しかったのかもしれない。すぐに「うん」と答えた。それからサイショと僕はタバコを入手できる場所に行ったのだけれども、それは至るところで見かける一階建ての建物の中だった。サイショが「なんて言うか、弱いのから強いのまであるけど、どれがいい?」と聞いてきた。僕は欲張って「強いの」と答えた。するとサイショは「じゃあ俺のオススメで」と言った。そしてサイショと僕は青色の箱一つと、タバコは火をつける物らしいから、その火をつけるための道具を入手して建物を出た。「ここで吸ってく?」とサイショが言った。僕が「うん」と答えたから、さっそく建物の前で吸うことになった。タバコをすることは「吸う」と表現するのだと知った。サイショが青色の箱を開封してタバコを一本取り出して僕にくれた。僕はタバコを口にくわえた。サイショが道具を操作して火を出して、その火で僕がくわえていたタバコの先端を炙った。そして「吸って」と言った。だから僕はタバコで空気を思い切り吸い込んだ。まず初めに、懐かしいと思った。自然とモクモク星が思い出された。けれども、それでまた宇宙が崩壊していることを連想してしまった。ピラポルケ──地球の言葉で言う「しまった」──と思った。走り出す準備をした。けれども、その後、僕はなんだか、すごく安心した。わけがわからなかった。今まで通りなら恐怖に支配されるはずだったけれども、僕はその時、不安も恐怖も、いっさい感じなかった。状況が飲み込めなかった。それで飲み込めないなりに考えて、いつもとの違いはタバコを吸っていることだけだったから、これはタバコの効果だ、という結論を出した。そして、もう「すごい」としか言えなかった。あれほどまでに僕を苦しめていた不安と恐怖をわずか数秒で消し去ってしまうタバコは本当にすごかった。すごすぎて、最初は信じられなかった。だから、もう一度、宇宙の崩壊を思い出して怯えようとしたのだけれども、やっぱり怯えられなかった。タバコは本物だった。僕は救われた。気がつくと、泣いていた。けれども笑っていた。サイショも、僕を見て微笑んでいた。それから僕はタバコをよく吸うようになった。初めの頃は、タバコを吸っていない時間には、やっぱり不安と恐怖を感じてしまっていたのだけれども、それも吸えば吸うほど薄れていった。しばらく吸い続けて僕は全快した。モクモク星人は煙がないと精神の状態がおかしくなるのだと知った。それと、タバコを吸って知ったことがもう一つある。地球では、タバコを吸う人は嫌われていた。嫌う人の言い分は「タバコは健康を害する」だった。けれども僕は、煙くらいで健康を害されてしまうほどの弱い体しか持っていない地球人を不憫だと思った。と言うか、僕からすれば、むしろ地球の綺麗な空気の方が健康を害した。今では、綺麗なのは悪いことだと考えている。けれども、タバコがあるから、地球も悪くない星だと思う。
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みんなの感想(1件)

夕霧
2023.12.07 夕霧

煙の星からやってきた異星人が地球に馴染んでいく話、面白かったです。
煙のない星に対しての違和感や、不安感をタバコで解消するのは、人間とも通ずるところがありますね。

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