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3 : 貧富の国

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 『モートルフォレスト』を出たあと、僕はひたすら歩いた。後ろを振りかえらず、あの事を考えながら。方法は分からない。だけど、絶対に魔王を倒す。僕たちを救うために。
でも一人でこれからやっていけるのか?確か、他のどんなに強い勇者でも負けて殺された、と聞いた覚えがある。ただでさえ、戦闘力がゼロの僕なのに…と勇気が失いかけている。
 お腹も空いてきたな、と思うと辺りは暗く、月が真ん丸に目立っていた。歩くのにも足が疲れてきた。もう駄目かも……
 すると、こんな夜遅くでも光輝いている建物が見える。あれは国か?僕は空腹ながらも、走って向かい、国の中へ入っていった。

「ご入国ですね、いらっしゃいませ。私は、本国『アスパレスト』の案内人です。」

綺麗な女の方が、丁寧に決まりの挨拶をいい、僕は国のゲートを通った。すると、後ろから先ほどの案内人がついてきていた。

「おや?もしくやそのご格好、勇者様でございますか?旅で疲れていると思いますが、もうすぐでホテルに着きますので…。」

「あ、はい。」僕は困惑を言葉に出してしまった。同時に、僕が全く能力のない勇者だと知れば、今の態度は無くなるんだろうな、という気持ちも。
 
 何処を歩いても、背の高い建物ばかりだった。ここは金持ちが住むところなのか、と偏見が生まれる。すると、建物と建物の間、路地裏で何か人影が見えた。それはとても細く、近くを通りすぎると、うめき声まで聞こえた。僕は咄嗟に振り返ったが、案内人は聞こえてないのか、何事もないかのように足を進める。止めようか迷っていると、距離はどんどん開いていくので、僕は諦めてついていった。

 ホテルにつくと部屋まで用意されており、すぐに休息を取れた。疲れが溜まっていた僕には、あの人影のことなど忘れていただろう。
食欲が眠気に負け、ベットに飛び込んだ。そして眠りに落ちた。





 -「お母さん?ねえ、こんな真っ暗な時にどこ行くの?」

  「大丈夫よ、アルマ。すぐ戻ってくるから。」

  「やだよ、寝るときはお母さんと一緒じゃないと……」

  「それなら、あの真ん丸のお月様を見なさい。ずっと見ていると眠れるわ。……だから、お留守番、今日も宜しくね。」

  という声と、ドアの閉まる音が聞こえた。
  お母さんはいつも夜遅くに家を出る。
  理由など教えてくれなかった。
  僕は二階の寝室に戻り、月を見た。
  月がとても大きく感じる       -







 夢を見ていて目覚めると朝が来ていた。僕は食事を済ませ、ホテルを出ようとすると、案内人が話しかけてきた。

「旅の疲れはとれましたか?」

はい、とだけ言い、ポケットに入っていた小銭を取りだそうとすると、その手を止められた。

「勇者様には旅の疲れをとってもらいたいので、料金は結構ですよ。ご利用ありがとうございました。」

こちらこそ。とだけ言ってホテルを抜けた。

国を出ようかと思ったが、あの人影のことを思いだしあの場所へ引き返した。
 路地裏を覗くとあの人影の正体が見えた。想像した通り、細い身体に顔色の悪い姿をしていた。僕は話しかける。

「あ、あの…大丈夫ですか?」

「ヒ、ヒイ!な、なんだお前!また借金を取りに来たのか!」

「違いますよ。僕はこの国に訪れた、ただの勇者です。」

「な、ならいいんだ…。はあ……俺に話しかけて何のつもりですか?」

「いや……顔色悪かったから大丈夫かなーって…」

「ははは…心配しなくたって、俺の人生はもう終わるんだ。見た通り、食いもんもなく、金もないしさ。」

僕は自分のポケットバックに小さなパンを入っている事を思いだし、彼に差し出した。

「え?大丈夫、要らないさ。さっき言ったけど、そのパンを食べようが食べまいが俺は死ぬんだ。お前さんと話せただけでも、最後の良い思い出になったさ。ありがとな、こんな優しい会話をしたのは何十年も前のことだからな…」


「で、でも……。」

「ほら、行きな。お前さんは旅をしてるんだろ。今後このパンが必要になるときが来るかもしれない。自分の命の方を大事にしろよ、じゃあな!」

「僕も、久々ですよ。こんなにも優しい会話をしたのは…」

僕はボソッと呟いて、路地裏を抜けた。後ろから声がしたが、わざと無視して歩き出す。あの人が決めた道は僕には否定出来ない。だから止めなかったと言っても、不正解でもない。
 
 入る時とは反対側のゲートを抜けようとすると、また足を止められた。

「あ、良かった。まだ居たのですね!我が国の王がアルマ様をお呼びとのことなので、来ていただけないでしょうか?」

王様からの呼び出しはろくな思い出がない。しかし断るわけにもいかない。僕は王様の元へ向かった。

 城へ着くと、家来が案内してくれた。特に怒っている様子や、雑に扱われている感覚はしなかったので、安心して進む。そして、大きな扉が開かれた。

「おおー!やっぱりアルマじゃないか!久しぶりだな!」

馴れ馴れしすぎる口調に、聞き覚えのある声僕は声の元へ目を向けた。
 視界に入ったのは養成学校の同学年、幼馴染みの『コルー』だった。

「よう、元気にしてたか?あと、遂に一人立ちしたんだな、おめでとう!」

「違うよ、コルー…って、何で国の王やってんの?」

「いやー前さ、この国を色々と手助けしたらさ、なんか王になった。まあ、そんな事どうでもいいんだよ!」

「はあ、相変わらずだな。あと僕はまだ見習い勇者だ。ただ『アンクレット』を追い出されただけ。で、旅をしている。」

相変わらずの適当さに僕は溜め息をついた。コルーは養成学校の頃に、一緒に練習してくれた優しい奴だ。

「あはは、遂に追い出されたか!」

「わ、笑い事じゃないんだぞ!…て何で呼んだんだよ?」

「え?特に理由はないけど。」

優しい奴…なのか?僕の中でいろんな思考が横切る。用も無いのに呼び出された飽きれと、一応王様だという敬意で一つの言葉が出た。

「もう帰っていい?」

「ちょ!わ、わかった!聞きたいことがある!お、お前は旅、をしているのか?もしそうなんだったら何のために?戦闘力のないお前が?」

今はあの誓いがあるから胸を張って言える。

「魔王を倒す為だ。魔王を倒して、地位転変を起こすんだ。僕を虐めた彼奴等の上に立つんだ。」

「ふ、分かったよ。僕は君を応援する。ついていくことは出来ないけど。」

馬鹿にされるかと思っていたが、意外と素直に受け入れてくれた。

「ありがとう。じゃあ一個だけいい?…一緒についてきてくれる勇者が欲しい。」

一人では出来ない。だから僕は人を『利用』する。そう脳内で考えていると一つ教えてくれた。海を渡った所にある『リューズシー』という島に一人、勇者がいる、と。僕はコルーに礼を告げ、その島へ向かおうと港へ出る。コルーは最後に「頑張れよ。」とだけ言ってくれた。コルーがなぜ僕に協力してくれたかは分からない。だけど過ぎたことはどうでもいい。頑張るよ、帰ったら君の所にも寄るからさ。
 波に乗る船に揺らされながら、遠くを眺めていた。



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