愛してくれない人たちを愛するのはやめました これからは自由に生きますのでもう私に構わないでください!

花々

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3.逃亡することにしました

1話

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 王宮から出た私は、神殿には帰らず一人で王都の街を歩いていた。

 神殿から城まで馬車で送ってくれた御者には、今日は王宮に泊めてもらうことになったと嘘を吐いて神殿に帰ってもらった。

 もう神殿に帰るつもりはない。

 王家とも神殿ともベルニ公爵家とも全て縁を切って生きていくつもりだ。


 そのためには、このままフルリール王国にいるわけにはいかないだろう。

 私は国境まで歩いて、そこから隣国へ忍び込むつもりだった。

 ジルベルト様にも公爵家の家族にももう未練はなかったけれど、神殿のことだけは心残りだった。

 私をいつも気遣ってくれた神官様や、仲良しだったシスターたち。病院の患者さんたちや、孤児院の孤児たちのことも気になる。

 せめて最後の挨拶くらいはしていきたかったけれど、私はこの先王家から逃亡者として追われることになるであろう身だ。

 彼らが事前に話を聞いていたなんて思われることは避けたい。


 私は思いを振り切るように頭を振った。

 もう都合よく扱われるだけの自分をやめにしたい。

 神殿での生活は決して大変なことだけではなかったけれど、それでも私は搾取される生活をやめたかった。

 王宮の奥に忍び込んでから今日までの間、私は時間の許す限り魔道具や魔法薬に光魔法を込めてきた。あれらが少しでも役に立ってくれたらいいと思う。



 神殿のことを考えながらしんみりしていると、道を歩く人たちがちらちらこちらを見ているのに気がついた。

 貴族のご夫人らしき人たちも、職人風の男性も、身なりの良い貴族服の老人も、みんな不思議そうにこちらを見ている。

 それで私はようやく、ドレスに身を包んだ貴族令嬢が一人で王都の街を歩いていたら不自然であろうことに気がついた。

 嘘をついて逃げてきた興奮で周りの目のことがすっかり頭から抜け落ちていた。


 私は慌てて近くの洋服店に入り、町人風の服を購入した。

 焦げ茶色のワンピースに白いエプロンのついたシンプルな服。長い髪は黒いリボンで縛ってまとめた。


 洋服店で部屋を借りて着替えた私は、人混みに紛れるようにして外を歩いた。

 やはり服が違うと違和感も減るようで、人々からの視線は随分少なくなった。

 貴族に多い銀色の髪が多少目立っているように感じるけれど、それでも先ほどまでよりはずっと歩きやすい。


 それから私は、それまで着ていたドレスと身に着けていたアクセサリーを売ってお金にした。

 どちらも随分と高値で売れた。現金はほとんど持っていないので助かった。

 売ったドレスとアクセサリーは、全てジルベルト様にもらったものだ。

 手放す際はジルベルト様からプレゼントを贈られたときのことを思い出して少し悲しくなったけれど、王宮で聞いた北の魔獣の話を思い出すとしんみりした気持ちも吹き飛んだ。

 ドレスもネックレスもイヤリングも、きっとただ私を逃がさないためのご機嫌取りでくれただけなのだろう。
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