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中編
ーー俺はお前のことは知らん。お前だって俺のことは知らん。とりあえず結婚したらなんとかなるだろ。
そんな見切り発車全開な結婚は、書類一枚提出しただけで終わった。
困ったのは学校だった。朝、職員室に行って担任にその書類を見せる。
「…結婚したので苗字が変わりました」
普段、可もなく不可もない成績で全く喋らず全く友達を作ろうともしない生徒がそんなことを言ってきたわけで、担任は至極驚いていた。面倒なのでその書類をデスクに置いてさっさと教室へ戻る。
自分の席へ座り、ぼーっと窓の外を眺める。柔らかい風に灰音の髪の毛がふわふわ揺れた。
(そういえばスマホが大変なことになってたなあ…)
スマホを取り出し眺めると、両親からの着信は百件を超え、メッセージなんて三百件を超えていた。
受理された婚姻届の書類の一部を撮り、両親に送りつけたのだ。
そして一言、悪魔と結婚しました、とだけメッセージを送った。
案の定、その瞬間からスマホは鳴り止まずうるさいので消音にするものの、次から次へと送られてくる否定的なメッセージにもはや笑った。
(最低最悪な親不孝できた気がして気分がいいや)
いつもの教室。いつもの風景。誰も話しかけて来ず、いるかいないのかわからない空気のような存在の自分。
でもどうしてだろう、いつもの不安感がどっか行った。
誰かに話しかけた方がいいのか、おはようぐらい言った方がいいのか、でも何も話題がないし、そもそも自分のような存在が口を開いてもいいものかーー「気持ちが悪い存在」「なんであんたのような子が生まれてきた」ーーいつも頭を占領する言葉と共に普段抱える不安感が、なぜか消えた。
にしし、と笑った灰音はグレイにメッセージを送った。
結婚っておもしろいね、と。
ワンルームの部屋へ帰るとグレイがソファーに座っていた。
どうやって入ってきたの、とか、鍵かけたよね、とか言いたいことは色々あるけれど。
「よう、おかえり」
「聞いて!」
「どうした」
「初めて学校が楽しいって思えたよ!」
「お、友達でもできたか?」
「まさか! できるわけがないじゃん! でもなんかすっごくいい気分! あはは、変な感じ~」
ケラケラ笑いながらグレイの隣に腰掛けた。
「朝さ、結婚しました、って書類を先生に出したんだけどさあ、すっごいびっくりしてた! びっくりしすぎて声も出なかったみたい! まあそりゃそうだよね、普段一言も喋んなくてオドオドしてる僕が! 結婚! あはは、なんかおかしい~」
「ずいぶんとハイになってんな」
わしゃわしゃと髪の毛を撫でられいつもなら怒るのに今日は「そうだよ?」と笑ってしまう。
「お前、そうやって笑えるんだな」
「は? 僕を一体なんだと?」
「ずーっと怒り顔しか見てないもんで。笑え、灰音。そっちの方がかわいい」
頬を撫でられ、むう、と唇を尖らせ「別にかわいくなくていい」と言うものの、にへえ、と顔が綻ぶのをやめられない。
「お父さんとお母さんからも罵詈雑言のメッセージたくさん来たよ! 特別に見せてあげる!」
そう言ってスマホを見せるとグレイに白い目を向けられた。
「…悪魔に親っつー概念はないけどさ、さすがにこれらはどうかと思うんだが…。いわゆる毒親ってやつか?」
「んーん、どっちかっていうと毒子。原因は僕だよ」
「は?」
「ウチの両親さあ、二人とも魔法使えないんだ。魔力も一切なくて。それなのに一人っ子の僕はとんでもない魔力を持って生まれちゃってねえ。ちっちゃい頃から気持ち悪いだのお前は誰の子だとかなんでお前のような子が生まれてきたってずーっと言われてるからねえ」
だから原因は僕、と自分を指差して言うと、グレイは盛大に眉間に皺を寄せた。
「お前はただ生まれただけだろ。それの何が悪いんだ?」
「そう思うでしょ? でもねー、ずっと言われてごらん? こっちが悪いのかな、って思うようになれるよ!」
「洗脳じゃねえか」
スマホを仕舞いながら、ふふふ、と灰音は笑う。
「でもこれでお父さんとお母さんに復讐できた気がする。グレイ! 結婚してくれてありがと!」
両腕を広げて勢いよくグレイに抱きつく。グレイが驚いた顔をするもののすぐに笑って抱き返してくれた。
「お前はかわいいな」
「は? どこが?」
「ずっと怒ってるしツンデレかと思いきや大泣きするし意外に素直。そういう威勢がよくて素直で表情がコロコロ変わるかわいい子が俺の好みなんだよ」
灰音はぽかんと口を開ける。
かわいいなんて言われるのも初めてだし、こんな風に柔らかな目線を注がれるのも初めてだ。
灰音は胸が、ぎゅ、と握りしめられる優しい感覚に陥った。
「なあ、灰音。一緒に住まないか?」
「へ? 別に構わないけど…ここ狭いからキミん家に引っ越しだよ?」
「ああ引っ越してこい、今すぐ」
「えー今すぐ? あはは、キミはせっかちだなあ。じゃあちょっとマンションのオーナーに電話しよう」
話はすぐに終わり「一週間以内だってさ!」と伝える。
「六年間ココに一人暮らししてたけど、まさか結婚して出て行くことになるとは思わなかった!」
さて荷造りしよう、と立ち上がりかけて腕を引っ張られ、グレイの膝の上に座った。
「お前…六年間も一人暮らししてたのか? 中学生から?」
「そうだよ。お前の顔は見たくないって言われて無理矢理一人暮らしさせられた。お金は僕の口座に使いきれないほど送金されまくってるから金銭面は全然平気。家事もできるし特に不自由ないよ」
「俺はなあ、メンタル面での話をしてんだ。ったく、頭のネジ外れやがって…」
盛大なため息をついたかと思いきや、わしゃわしゃと勢いよく髪の毛をかき混ぜられて、そして両頬を包まれた。
「んもー、なにさ!」
「俺は決めた」
「なにを?」
「絶対にお前を幸せにする。俺と結婚したからには絶対にお前を幸せにしてみせる」
真っ直ぐに見つめてくる瞳が綺麗だーー灰音は思った。
思えば誰かからこんなにも真っ直ぐに見つめられたことあったっけ?
親ですら、強い魔力を持つ自分を気持ち悪がりどこか目線を逸らして話をされた。
友達なんていない。気軽に話をする人もいない。
初めてだ。
こんなにも真っ直ぐな瞳をぶつけられストレートな感情をぶつけられるのは。
込み上げてくる感情すら、嬉しいやら楽しいやらおもしろいやら明るいものばかりだった。
グレイの大きな手のひらの中で、ふへへ、と灰音は笑った。
「僕を幸せにできるように頑張ってね!」
ニヤリと笑ったグレイに「生意気なガキめ」と笑われながら唇にキスをされ、灰音は顔を真っ赤にさせながらも、楽しいからいっか! なんて考え目を閉じて受け入れた。
そんな見切り発車全開な結婚は、書類一枚提出しただけで終わった。
困ったのは学校だった。朝、職員室に行って担任にその書類を見せる。
「…結婚したので苗字が変わりました」
普段、可もなく不可もない成績で全く喋らず全く友達を作ろうともしない生徒がそんなことを言ってきたわけで、担任は至極驚いていた。面倒なのでその書類をデスクに置いてさっさと教室へ戻る。
自分の席へ座り、ぼーっと窓の外を眺める。柔らかい風に灰音の髪の毛がふわふわ揺れた。
(そういえばスマホが大変なことになってたなあ…)
スマホを取り出し眺めると、両親からの着信は百件を超え、メッセージなんて三百件を超えていた。
受理された婚姻届の書類の一部を撮り、両親に送りつけたのだ。
そして一言、悪魔と結婚しました、とだけメッセージを送った。
案の定、その瞬間からスマホは鳴り止まずうるさいので消音にするものの、次から次へと送られてくる否定的なメッセージにもはや笑った。
(最低最悪な親不孝できた気がして気分がいいや)
いつもの教室。いつもの風景。誰も話しかけて来ず、いるかいないのかわからない空気のような存在の自分。
でもどうしてだろう、いつもの不安感がどっか行った。
誰かに話しかけた方がいいのか、おはようぐらい言った方がいいのか、でも何も話題がないし、そもそも自分のような存在が口を開いてもいいものかーー「気持ちが悪い存在」「なんであんたのような子が生まれてきた」ーーいつも頭を占領する言葉と共に普段抱える不安感が、なぜか消えた。
にしし、と笑った灰音はグレイにメッセージを送った。
結婚っておもしろいね、と。
ワンルームの部屋へ帰るとグレイがソファーに座っていた。
どうやって入ってきたの、とか、鍵かけたよね、とか言いたいことは色々あるけれど。
「よう、おかえり」
「聞いて!」
「どうした」
「初めて学校が楽しいって思えたよ!」
「お、友達でもできたか?」
「まさか! できるわけがないじゃん! でもなんかすっごくいい気分! あはは、変な感じ~」
ケラケラ笑いながらグレイの隣に腰掛けた。
「朝さ、結婚しました、って書類を先生に出したんだけどさあ、すっごいびっくりしてた! びっくりしすぎて声も出なかったみたい! まあそりゃそうだよね、普段一言も喋んなくてオドオドしてる僕が! 結婚! あはは、なんかおかしい~」
「ずいぶんとハイになってんな」
わしゃわしゃと髪の毛を撫でられいつもなら怒るのに今日は「そうだよ?」と笑ってしまう。
「お前、そうやって笑えるんだな」
「は? 僕を一体なんだと?」
「ずーっと怒り顔しか見てないもんで。笑え、灰音。そっちの方がかわいい」
頬を撫でられ、むう、と唇を尖らせ「別にかわいくなくていい」と言うものの、にへえ、と顔が綻ぶのをやめられない。
「お父さんとお母さんからも罵詈雑言のメッセージたくさん来たよ! 特別に見せてあげる!」
そう言ってスマホを見せるとグレイに白い目を向けられた。
「…悪魔に親っつー概念はないけどさ、さすがにこれらはどうかと思うんだが…。いわゆる毒親ってやつか?」
「んーん、どっちかっていうと毒子。原因は僕だよ」
「は?」
「ウチの両親さあ、二人とも魔法使えないんだ。魔力も一切なくて。それなのに一人っ子の僕はとんでもない魔力を持って生まれちゃってねえ。ちっちゃい頃から気持ち悪いだのお前は誰の子だとかなんでお前のような子が生まれてきたってずーっと言われてるからねえ」
だから原因は僕、と自分を指差して言うと、グレイは盛大に眉間に皺を寄せた。
「お前はただ生まれただけだろ。それの何が悪いんだ?」
「そう思うでしょ? でもねー、ずっと言われてごらん? こっちが悪いのかな、って思うようになれるよ!」
「洗脳じゃねえか」
スマホを仕舞いながら、ふふふ、と灰音は笑う。
「でもこれでお父さんとお母さんに復讐できた気がする。グレイ! 結婚してくれてありがと!」
両腕を広げて勢いよくグレイに抱きつく。グレイが驚いた顔をするもののすぐに笑って抱き返してくれた。
「お前はかわいいな」
「は? どこが?」
「ずっと怒ってるしツンデレかと思いきや大泣きするし意外に素直。そういう威勢がよくて素直で表情がコロコロ変わるかわいい子が俺の好みなんだよ」
灰音はぽかんと口を開ける。
かわいいなんて言われるのも初めてだし、こんな風に柔らかな目線を注がれるのも初めてだ。
灰音は胸が、ぎゅ、と握りしめられる優しい感覚に陥った。
「なあ、灰音。一緒に住まないか?」
「へ? 別に構わないけど…ここ狭いからキミん家に引っ越しだよ?」
「ああ引っ越してこい、今すぐ」
「えー今すぐ? あはは、キミはせっかちだなあ。じゃあちょっとマンションのオーナーに電話しよう」
話はすぐに終わり「一週間以内だってさ!」と伝える。
「六年間ココに一人暮らししてたけど、まさか結婚して出て行くことになるとは思わなかった!」
さて荷造りしよう、と立ち上がりかけて腕を引っ張られ、グレイの膝の上に座った。
「お前…六年間も一人暮らししてたのか? 中学生から?」
「そうだよ。お前の顔は見たくないって言われて無理矢理一人暮らしさせられた。お金は僕の口座に使いきれないほど送金されまくってるから金銭面は全然平気。家事もできるし特に不自由ないよ」
「俺はなあ、メンタル面での話をしてんだ。ったく、頭のネジ外れやがって…」
盛大なため息をついたかと思いきや、わしゃわしゃと勢いよく髪の毛をかき混ぜられて、そして両頬を包まれた。
「んもー、なにさ!」
「俺は決めた」
「なにを?」
「絶対にお前を幸せにする。俺と結婚したからには絶対にお前を幸せにしてみせる」
真っ直ぐに見つめてくる瞳が綺麗だーー灰音は思った。
思えば誰かからこんなにも真っ直ぐに見つめられたことあったっけ?
親ですら、強い魔力を持つ自分を気持ち悪がりどこか目線を逸らして話をされた。
友達なんていない。気軽に話をする人もいない。
初めてだ。
こんなにも真っ直ぐな瞳をぶつけられストレートな感情をぶつけられるのは。
込み上げてくる感情すら、嬉しいやら楽しいやらおもしろいやら明るいものばかりだった。
グレイの大きな手のひらの中で、ふへへ、と灰音は笑った。
「僕を幸せにできるように頑張ってね!」
ニヤリと笑ったグレイに「生意気なガキめ」と笑われながら唇にキスをされ、灰音は顔を真っ赤にさせながらも、楽しいからいっか! なんて考え目を閉じて受け入れた。
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