半魔との恋は前途多難ーヒスイ編ー

ユーリ

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第3話「近づく終わり」

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「うーん…僕ってセンスないなあ…」
目の前の花壇を見ながらぶつくさ呟いた。
用務員の仕事の中に中庭の手入れというものがあるが、少し前に苗から植えた植物が花を開いたものの、色んな色がランダムに並ぶ様はあまり見栄えがよくなかった。
「黄色をこっちにやって、赤をこっち? うん? あれ? イメージ難しい…」
頭の中ではうまくできないので、魔法を使って根を切らないようにそっと空中に浮かべる。
花壇から数センチ浮かせて花の配置を変えて見るが、結局よくワカラナイ。
「こういうのって雫くん得意そうだよなあ。あとで聞いてみようかな…」
ぶつぶつ言っていると、生徒数人が中庭を通る気配を感じ、咄嗟に大きな噴水の後ろに隠れた。
「卒業式いつだっけー。あと四日ぐらい?」
「今年の代表誰だっけ。主席が卒業証書を代表で受け取るんだろ? 俺ら縁ないし」
あ、主席だけが受け取れるんだ。
(ということは雫くんこの学園でトップなんだ…)
改めてその凄さを思い知る。
そして、だからこそ卒業式に来てほしいという理由が今わかった。
「あー、A組のアイツだろ? なんか半年前に急に編入してきた」
「ああ、あれ? 前の大学追い出されたんじゃねーの? すげーガラ悪いし」
…僕を追いかけて来ました。
噴水の裏でひとり真っ赤な顔を隠す。
「それがいきなり主席とかすげームカつく。マジ嫌いだわ」
「卒業式妨害してやる? 全部ダメにしてやりたいわー」
ジャバジャバ流れる噴水がピタリと止まったことに、彼らは気づかない。
頭の上に大量のスコップの先端が向いていることにも、彼らは気づかない。
ついでに大量の土で埋めてやろうかと思ったときだった。
「キミってそういう感情あったんだねえ」
いつの間にか隣に校長が膝を抱えて座っていた。
「…何のことですか」
「あの子の悪口言われてムカついて、怪我させてやろうと思ってるでしょ。危ないからやめようねえ」
再び噴水が動き出し、スコップたちは元の場所へ戻った。生徒たちは気づくこともなくいなくなる。
「いやあ良いこと良いこと、良いことだよ。あの子が絡むとキミって変わるよねえ。なんていうんだろうねえ。そう! 可愛いだ! キミ、あの子の前では可愛いんだよ! ……ごめん、調子に乗ったね。謝るからそんな睨まないで。怖いから本当に」
「……舌打ちの仕方教えてもらっていいですかね」
「どうせ教えてもキミ不器用だからできないよ。ああごめん、今にも胸ぐら掴みそうな顔しないで」
「……何の用ですか」
「ううん、別に何もないんだけど」
そう言って校長は立ち上がると、噴水を見つめた。
「そこから見てるんでしょ? 出てきてもいいんじゃないの?」
上へ上へ向かう噴水がぱっかりと半分に割れ、中から雫が飛び出してきた。
「雫くん!?」
「キミねぇ、結界張っていいとは言ったけど、もう少しバレないようにしなさい。マークも好きなところに貼っていいから、もっと繊細に。あと監視の仕方も雑です。来月から教師なんだからね」
「へーい」
「じゃあボクはこれで失礼するよ。キミ、卒業式の打ち合わせあるから、後で講堂に集まりましょう」
白い髭に触れながら、校長はのんびりと歩いて行った。
じゃばじゃばと噴水の溢れる音が辺りに散らばる。今日も青空で良い天気だ。
よいしょ、と雫がヒスイの隣に腰掛けた。
「…いつから見てたの?」
「僕ってセンスないなあ、って言ってるとこから」
最初からじゃないか。恥ずかしさやら何やらで、ヒスイは顔を赤くしたり青くする。
「ヒスイせんせってさー」
「はい」
「絶対もう俺のこと好きだよね」
「……ノーコメント」
「あっれ~? いつもだったら、僕は恋愛しません~、とか、来世に期待~、とか言ってんの、誰だっけ~?」
すすす、と雫から距離を取るものの、すすす、とその分近寄られる。
「う、うるさいなあ」
「はは、顔真っ赤。かわいーー」
ハッと雫が顔を上げた瞬間、ヒスイも異変に気づく。
「俺の結界内に見たことないもんが来た……なんだ、あれ……」
ヒスイは空を見上げた。
先ほどまで真っ青の晴天だったのに、今は真っ暗だ。まだ昼間だというのに特に森の方が暗闇に近い。
心臓が、ドクドクと変な音を上げる。言うならば警報に近い。
ーーこれから何をすべきか、どう動くべきか、ヒスイは瞬時に判断した自分を褒めた。
「雫くん、何か変なものが近づいてるの、わかる?」
「わかる、けど、まだ見えねえ。でも…たぶん魔族だ。それも大群で来やがった」
「校内放送かけて。全生徒を講堂に避難させて。寮にいる生徒も先生もみんな集めて。校長先生に講堂の上から結界貼ってもらって。それで…凌げるはずだから」
「わかった」
雫が走り出すも、すぐに振り返った。
「ヒスイせんせ…なんで座ってんだ? お前も早く行くぞ」
ヒスイは微笑んだ。
できる限り、慌てないように。
できる限り、気づかれないように。
できる限り…笑え、僕。
「家に忘れ物しちゃったから、取りに行ったらすぐに戻るよ」
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