生贄の救世主

咲乃いろは

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第二章 繋がる命

同じ血を含むもの

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日が明けても、雨があがる様子はなかった。教会には雨粒が屋根を叩く音が絶えず続いている。不安を煽るような音に、皆の会話も少なくなっている。
その中に突然、一際大きな音が響いた。雨音ではない。何か硬いもの同士ががぶつかる、ゴツッという、鈍い音。

「っつ・・・っ!」
「うあいっったーっ!!」
「殿下!?ユズハさん!?」

アリスと柚葉が二人とも頭を押さえ、悶絶していた。アリスは後頭部を、柚葉は額を。いつの間にか睡魔に襲われていた柚葉が、船を漕いでバランスを失った勢いで、アリスに猛烈な頭突きを食らわせたのだ。

「っ、ユズハ・・・てめぇ・・・」
「ううう・・・すみませ・・・」
「お前、敵が来たら叩き起こしますとか言ってなかったか・・・?」
「言ってた気がします・・・いや、寝言・・・?」

アリスに無言でデコピンをくらった。ダリアの可哀そうなものを見るような目が痛い。
最悪のモーニングコールを賜ったアリスは、後頭部を押さえながらも身を起こす。起きがけの頭突きは結構きたらしく、しばらくは座ったままで俯いていた。疲労していた身体に誠に申し訳ない。

「あの、アリスさ・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃあるか馬鹿。頭ぐわんぐわんする・・・」
「あ、いや、それもですけど・・・疲れ、少しは取れました?」
「お前の頭突きの方が数倍ダメージなくらいにはな」

いや、申し訳ない。
柚葉ももちろん痛かったのだが、多分アリス程はない。昔から石頭で、よく喧嘩の時はこの武器を使い倒したものだ。お陰で金盥ぐらいの衝撃なら何ともない。

「そういえばダリア、ここに寝ていた男の子、どこいったか知らない?」
「え?あ、そういえば・・・」

ここに運んできた少年は、いつの間にか姿を消していた。昨日まで柚葉の横で意識を失っていたのだが、見るとその場所には泥と血の跡だけ残っていた。あんな怪我で、どこに行ったというのか。少なくとも、この教会内にいる気配はなかった。

「黙っていなくなるなんて・・・ユズハさん達に助けてもらったんですよね?」
「まあ、動けるくらいになったんならよかったよ」

見返りを求めて助けたのではない。やるべきことだったからやったまでだし、それはアリスとて同じなはずだ。怪我の具合は心配だが、無事ならそれでいい。
ようやく眩暈が治まったらしいアリスが、億劫そうに立ち上がった。火をかりて朝食を温めてくるという。今は魔力を使うのを少しでも避けたいらしい。ちなみに、教会に集まった怪我人の人たちには、教会から提供された朝食がある。それを柚葉たちにも配られたが、怪我人でもなければ、この町の人間でもないので、受け取らなかった。

「ユズハ、お前食べれるか?」
「え?そりゃもちろん!お腹空きました」
「・・・あっそ。ま、吐いて胃の中空っぽだろうからな」

何故そんなことを訊いてくるのだろうと思ったら、そういうことだった。昨日の夕食は遠慮したが、実はその時からお腹空いてましたなんて言えない。
奥の方へ歩いていくアリスをダリアは不思議そうに見つめて、呟いた。

「なんか、ペットを育ててるみたいですね、アリス様」
「?」














アリスと柚葉は、軽く朝食を済まし、早々にこの町を出ることにした。本当にこの町を襲った男が魔族の血で、アリスを狙っているのなら、これ以上の長居は危険だ。牧師に支援物資や人材を国から派遣することを伝え、荷物をまとめた。服はまだ濡れていて、牧師はせめて乾くまではここにいなさいとの心遣いをもらったが、恐らくこの雨ではすぐに乾きそうにない。これ以上町を危険にさらすわけにはいかないので、丁重にお断りした。

「殿下、ユズハさん、ありがとうございました」
「こちらこそ。・・・おばあちゃん、見つかるといいね」
「・・・・はい。ちゃんと、見つけます」

悲しそうな顔には変わりないが、ダリアはどこか強い心を反映したような目をしていた。

「道中、気を付けて。あの男の魔法、本当にすごかったんです」
「・・・うん、分かってる」

あの惨状を見れば、そこら辺の人物が使った魔法とは思えない。何もかも吹き飛ばすような、爆発的な魔法だっただろう。
アリスに促され、教会を後にした。ダリアは、見えなくなるまで手を振っていてくれた。いつかまた、何もかも終えた時に再会できたらいい。

町を抜けるには、中心街を通るしか道はない。あまりうろうろしたくはないが、物資調達も必要だったので、手短に済ませることにして、町の奥の方へ急いだ。
中心街は、町が襲われたことで少々不穏な空気が流れてはいるが、いつも通り人は歩いていたし、店は営業していた。
店の中を吟味しながら、アリスは独り言のように口を開く。

「あのダリアって娘」
「ん?可愛い子でしたよね。惚れました?」
「そうじゃない。・・・あの娘も、魔力の祖の血が濃い人間だったな」
「え!?」

いつもと変わらないテンションで、りんごを見ながら一体何を言い出すのかと思った。

「な、なん・・・分かるんですか?ダリア、そんなこと一言も・・・」
「”多分”だがな。純血というには遠い、他より少し濃いくらいだと思うが」

アリスが言うには、血が濃い人は、同じ血が濃い人間がなんとなく分かるという。そこに証拠はなく、ただただなんとなく感じるだけだ。もし魔族の血がダリアを見つけたら、気付かれるかもしれないが、恐らく取り込もうとするほどの濃さではないらしい。多分彼女自身に自覚もなく、周りも気付いていないようだった。それで済むならその方がいい。知ったら知ったときの大変さもあるのを知っているアリスは、りんごを買いながらそう言っていた。

中心街を抜けるころには、雨も小雨になってきたものの、傘など邪魔になる荷物は持ち合わせていないため、少しは乾いていた服をまた濡らすこととなった。もうこれはいっそ水着でも着た方が良くないだろうか。

「せめて晴れていたら・・・・あれ?」

柚葉は天を仰いでいた目線を元に戻すと、遠いところに、人影をみる。アリスにもそれは見えているようだが、柚葉が声をあげたのは人がいることに対してではない。

「アリスさん・・・あの子・・・」
「見えん。お前の視力は一体どうなっている」
「先住民族並だと言われていました・・・・じゃなくて、アリスさん、あの子、あの少年です!」

教会に運び、いつの間にか姿を消した少年。
しっかり地面を踏みしめ、こちらを見ている。血だらけの服で泥だらけの顔だが、意識をしっかり持って、こちらを真っ直ぐ見ていた。無事でよかったと安心した半面、妙な違和感が柚葉の中を駆け巡る。

「誰かと一緒にいますね・・・・一体誰、」
「ユズハ、下がっていろ」
「!」

肩をぐっと後ろに押され、よろめきながらもアリスを見上げると、彼は表情を一変させていた。
真剣というよりも、警戒を塗り固めたような、厳しい表情。その人物の顔が見える程の視力はアリスにはないはずなのに、少年の横に立つ者を真っ直ぐ見つめている。・・・いや、睨んでいる。

柚葉はすぐに察した。



血の濃い者は、同じ血の濃い人間が分かる。

それが濃くなれば濃くなるほど明確に。



純血なら尚更。





「魔族の血だ」


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