魔法学院の迷いネコ

すけるとん

文字の大きさ
1 / 1

季節は変わって……

しおりを挟む
 目の前にはネコがいた。
 綺麗な毛並みにクリッとしたひとみが特徴的だ。
 彼女はじっとこちらを見つめていた。それに合わせるようにこちらも彼女の瞳を見つめた。

「あんたは……?」

 なんとも不躾ぶしつけな質問だった。

「…………」

 彼女は自分の耳を押さえながら、沈黙を貫いた。が、やがて質問に答えるように、彼女は名乗った。
 相手が名乗ったのだ。こちらも名乗るべきだろう。
 ということで、こちらも自分の名を彼女に伝えた。
 それから、

「……もしよければだけどさ、オレと少し話さないか?」

 そんな提案をしてみた。
 一瞬逡巡しゅんじゅんした彼女だったが、すぐにコクリと静かに頷いた。















 季節の変わり目が訪れると気分も一緒に新しくなるものだ。
 肌寒い時期が終わりを迎え、近頃はポカポカと温かい日差しが顔を出している。
 季節は春。心機一転が最も多いだろう季節だ。

「ふあ~」

 ポカポカな陽気にあてられたのか、ラルフ=アークライトは欠伸あくびを1つかいた。

「眠い……」

 ゴシゴシと目をこするラルフ。
 今日は寝不足気味だ。というのも、今日という日が楽しみで昨日あまり寝付けなかったのだ。
 けれど、無理もない。今日から生活が大きく変わるのだから。
 今現在、ラルフが向かっている場所はこの街──『フェリス』では知らぬ者のいないほど有名な『リチェルカ魔法学院』。あと何分か歩けば着くはずだ。
 もうすぐ学院に着くというのに、頭が働かないのは困る。そう思ったラルフはなんとなく顔を上げた。
 大して身体を酷使こくしする必要のない土木作業の類や空飛ぶ絨毯じゅうたん。あちらこちらで今日も魔法は大活躍だった。

「おう兄ちゃん!」

 と、突然声をかけられた。
 一瞬、それが自分に向けられたものか迷ったが、すぐに振り向いた。
 視界に捉えたのはスキンヘッドの体格のしっかりした男。おそらく彼が声の主だ。

「オレ……ですか?」
「おめぇ以外に誰がいる? ……っと、それはそうと、その服ってことは兄ちゃん、リチェルカの生徒かい?」

 リチェルカ魔法学院の生徒は共通の制服を身にまとっている。ラルフは制服を3日ほど前に手に入れていた。

「はい。1年で」
「やっぱりそうかい……」

 男はそう言って、自分の店と思われる所に向かって、何かを取り出して持って来た。

「だったらほら。俺から入学祝いだ」

 男は手に持っていたものを差し出してきた。大きな肉だった。男が肉を持つ姿は妙に様になっていた。……まあ、この見た目でケーキとかを出してきたら失礼ではあるが、目の前で腰を抜かす自信があった。
 しかし、それはそれとしてだ。男は「入学祝い」と言って、これを差し出してきたが、彼とは初対面なはずだ。
 ラルフは首を傾げた。

「そんな不思議そうな顔するなって。俺はリチェルカの新入生にはこうして入学祝いをあげてんだよ。もっとも兄ちゃんが1人目なんだけどな」

 男は声を出して「ははッ‼︎」と笑った。なんとも豪快な笑いだ。
 どうしたものか……、とラルフは考える。これは素直に受け取るのが良さそうだが、肉が結構な高級品に見える。どうにも躊躇ためらわれるところだ。

「気にするな。受け取ってくれ」

 すると男はラルフの思考を読んだように、ぐいっと肉をラルフに寄せた。
 勢いで思わず受け取る。

「あ、ありがとうございます」
「なに、気にすんな」

 男は再度「がははッ‼︎」と豪快ごうかいに笑った。

「リチェルカは卒業までが長いからな。頑張れよ、兄ちゃん!」

 最後にそう激励げきれいして、男は送り出してくれた。見た目に似合わず、かなり良い人だった。

「さて、これどうするかね……」

 ラルフは手に持つ、大きな肉を見た。
 まだ時間はたっぷりある。男も入学祝いを渡すのはラルフが最初と言っていた。

「ここで食っていくか」

 そうと決めたら早かった。
 ラルフは適当に空いてるベンチを見つけて、腰をかけると、肉を1口頬張った。

「うま……ッ‼︎」

 肉が柔らかい。味付けもしっかりしている。この味はコンソメだろうか。2口3口と続けて、肉を口にする。
 今度あの辺を通ったら、これを買おう……。ラルフはそう思った。


     ◇   ◇   ◇


「さて……」

 後半からは根性で肉を胃袋におさめたラルフはしばらく休憩していたが、よっ、と腰を上げた。
 かなりの時間を使ったが、まだまだ時間に余裕はある。……本当にどれだけ早く来てしまったのか、と少し反省する。早めの行動は悪いことではないが、さすがに今回は早過ぎた。
 目的地まではここからそこまで距離はない。
 少し歩いたら、リチェルカ魔法学院が見えてきた。
 今日からかなりの期間、お世話になる場所だ。
 ラルフは希望を抱きながら、学院の敷地しきちに足を踏み入れた。

「すごいな、これは……」

 唖然あぜんとするラルフ。
 人の数がすごい。が、ここで真に驚いたのはそこではない。
 敷地内に足を入れた途端、周囲の雑音が一気に大きくなった。どうやら、学院とその外の境界線きょうかいせんには音を和らげる結界が張ってあるらしい。
 おそらく、他にも結界は何かの役に立っているのだろうが、今は些細ささいなことでしかない。
 ラルフは思考を切り替えた。
 確か、まず初めは入学式が行われるはずだ。
 場所は学院のホールだったはずだが、どこにあるのかがわからない。……まあ、適当に歩いていれば案内板の1つでもあるだろうし、なんなら他の生徒について行ってもいい。たぶん、現在この辺にいる生徒の多くは同じ学年の者たちだろうからだ。
 周囲の生徒たちは時間にまだ余裕があるためか、その辺をぶらついたり、談笑だんしょうに花を咲かせたりしている。

「知り合いのいる奴はいいよな……。オレはぼっちだってのに……」

 ラルフはできる限り早めに友人を作ることを決意した。


     ◇   ◇   ◇

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

泥まみれの英雄譚 〜その手が掴んだ温もりは〜

夢見中
ファンタジー
彼は異世界召喚に巻き込まれるが、そこで待っていたのは「ハズレ」の烙印と、城からの追放だった。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

落ちこぼれの【無属性】魔術師、実は属性そのものを定義する「概念魔法」の創始者だった

風船色
ファンタジー
「魔法とは才能(血筋)ではなく、記述されるべき論理(ロジック)である」 王立魔導学院で「万年最下位」の烙印を押された少年、アリスティア・レイロード。属性至上主義のこの世界で、火すら出せない彼は「無属性のゴミ」と蔑まれ、ついに卒業試験で不合格となり国外追放を言い渡される。 しかし、彼を嘲笑う者たちは知らなかった。アリスティアが、既存の属性魔法など比較にならないほど高次の真理――世界の現象を数式として捉え、前提条件から書き換える『概念魔法(コンセプト・マジック)』の使い手であることを。 追放の道中、彼は石ころに「硬度:無限」の概念を付与し、デコピン一つで武装集団を粉砕。呪われた最果ての森を「快適な居住空間」へと再定義し、封印されていた銀嶺竜の少女・ルナを助手にして、悠々自適な研究生活をスタートさせる。 一方、彼を捨てた王国は、属性魔法が通用しない未知の兵器を操る帝国の侵攻に直面していた。「助けてくれ」と膝をつくかつての同級生や国王たちに対し、アリスティアは冷淡に告げる。 「君たちの誇りは、僕の昼寝より価値があるのか?」 これは、感情に流されない徹底した合理主義者が、己の知的好奇心のために世界の理を再構築していく、痛快な魔導ファンタジー。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

処理中です...