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番外編
2 アイドルごっこと観客
令嬢の――モモリー様の提案はおよそ見当もつかないものだった。一日の終わり。忙しい王太子妃としての教育のストレスを発散するように歌ったり踊ったり。実に楽しそうだ。
部屋の片隅で。俺はそれを毎日見守った。
時折、彼女は俺に意見を求めてくる。どっちの動きが可愛いか。この動きはおかしくないか。正直大差ないし、くだらない質問が多かった。それでも彼女との取引に応じたからには、と真剣に考えその都度答えていく。
「驚いた時の表現で迷っているの。 どっちがいいかしら」
①目を見開いてパチパチ。
②続いて、目と口を大きく開いて、口の方を手で隠す。
貴族女性として大口を開けるのははしたないが、なんとなく、2番目の方がよく感じたので、小さく机をトントン、と二回たたく。
取引には応じたが、なるべく身バレは防ぎたい。その思いから決して声を出さなかった俺に彼女が提案してきた意思の疎通方法だ。吹き出した声は聞かれてしまったが、あれから声は出していない。取引も「了承してくれるなら――そうね、何かを一回叩いて音を出してくれる?」それに応じる形で了承した。
「うん。そうね。確かにこっちのが分かりやすいわ!
でも、少し口を開けすぎね。ほんの少し抑えましょう」
モモリー様は俺の意見を取り入れて、鏡に向かって改良を始めた。これも、いつものことだ。それを見て、俺は不思議に思う。
俺は感情が動かない。好きだとされているものを食べても嫌いだとされているものを食べても、特に気持ちに変化はない。ただ、食事を摂るだけだ。そもそも、それが本当に好きなものなのかも分からない。日持ちをする固いパンが好きで、温かい食べ物が嫌い。そう教わった。24時間の警護では温かい物を食べることなど難しいから、それで丁度良かったと思う程度のこと。
だから、そんな俺が彼女の行動の些細な違いを選択して選んでいるのが不思議でならない。好き、嫌い。それすらよく分からないのに、なんとなくいいな、という方を選ぶ。
そんなことを繰り返していただけなのに。
いつの間にか、彼女は俺の好きな物だけでできていた。
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