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12 ふわふわの耳をした女の子との出会い(リュシー視点)
「初めまして、リュシー! よろしくね」
魔術治療院には先客がいた。同じ病室の女の子。お医者様によると、彼女も私と同じ猫獣人で、私と同い年らしい。
私の目が見えないことを知ると、彼女は「リュシーには特別よ」と言って、彼女のふわふわの耳を私に触らせてくれた。なるほど。確かに同じ猫獣人だ、と思った。
――毛並みも、何もかもが私とは違うけど。
彼女は貴族だった。心臓の治療の為にここの病院へと入院しているそうだ。かなり高位の貴族らしく、時折、身なりの良い使用人が様子を見に来るのだと看護師たちが話していた。
それを聞いて。成程、どうりで……と思った。いいニオイでサラサラの髪の毛。肌触りの良いパジャマ。それに、あのふわふわの耳。いつも何かが足りない私とは何もかもが違う。
何だか面白くなくて、私は彼女にちょっぴり意地悪をした。
窓際に在る彼女のベッド。寝る前、彼女がトイレに行っている隙に、私がそっちを奪ったのだ。そっと布団に潜り込むと彼女の使うベッドはシーツまでもがサラサラで、私のとは違った。
トイレから戻った彼女が使うのは廊下側に在る私のベッドだ。ざまあみろ、と思った。
「あ……リュシー、そっちは私の……」
トイレから戻った彼女が私に何かを言いかける。
「…うぅーん……なぁにぃ…?」
……と、私はわざと眠そうな声を出した。
本当はしっかり起きていたから、彼女が病室へと戻る際に廊下を歩く音が聞こえていたし、戻った後も、こっちに来ようかどうか迷っているようなごく小さな足音が聞こえていたけれど、それには気付かぬふりをした。
「あ……ううん、何でもないの。起こしてゴメンなさいね、リュシー。お休みなさい……」
そう言って、彼女はそれまで私が使っていたベッドへと潜る。
私の使う廊下側のベッドも孤児院とは比べ物にならないくらいに清潔で、シーツや布団も質が良いけれど、彼女のベッドはそれ以上だった。私とは違う貴族の彼女。家の力で特別に揃えて貰ったのだろう。嫌がらせに成功した満足感と寝心地の良い寝具に、あっという間に私は眠りについてしまった。
しかし、しばらくして。その日の深夜――。
「はあ……はあ…う……は…、あ…」
「しっかり! しっかりして!」
「どうしてちゃんと自分のベッドを使わなかったの!?」
「魔法医の先生を呼んでくるわ!」
バタバタバタ……バタバタバタ……
ドタドタドタ……ドタドタドタ……
看護師さん、先生、とにかく大勢の人の足音に目を覚ます。
皆が皆忙しく動き回っていて、色々な音が聞こえる。機械の音。治療魔法の詠唱。焦ったような話し声。
そして――彼女の苦しそうな息遣い。
全ての音が落ち着いたのは朝になってからだった。
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