47 / 64
リリーside
13 取引
しおりを挟む
帰国予定時間ちょっと前に。ギャル達が来てお別れパーティーをやってくれた。
最後の最後で好きな人と心も体も結ばれたのに、元の世界に帰らなきゃいけないのがつらい――。
泣きながら思いっきり愚痴ったらスッキリした。どうせ彼女達とはもう会わないんだから、少しくらい話したっていいわよね。期待していた通り慰めてくれた。
前世でも今世でも、あまり関わらなかったタイプの子たちだったけど、明るい彼女達と話しているとあまり深刻に考えるのも馬鹿らしくなってくる。
お陰で王子にお土産を用意する心の余裕もできた。
そして時間になって――王子が直接迎えにやって来て驚いた。私と悪役令嬢を呼び出した人達による配慮らしい。
……いや、余計なことしてんじゃないわよ!!まだ、顔を合わせる心の準備が出来てないのに。どんな顔すればいいのか……そう思ってたのに。
王子はこっちを見なかった。まるで私のことなんか存在ごと忘れてしまったかのように――悪役令嬢を見つめている。
知ってるわ。あの表情。ゲームで何度も見てきたもの。何か、好ましいものを見た時の表情。ヒロインが何か面白いことをする度に、そんな表情で見ていたわよね。
金色の髪に紫色の目。相変わらずの美しい顔。
でも、そんなのはどうでもいいの。ユージにそっくりのその髪色で、目で、悪役令嬢を見たりしないで。
「クリス様ぁ! 私もクリス様にお土産を用意したんですぅ」
タイミングを計って会話に割り込むと、私は王子にお土産のお菓子を渡した。ギャル達が持ってきてくれたお菓子の残りだ。
「庶民のお菓子」あえて、それを強調する。
聖女として国民と親しくし、彼らからも慕われている悪役令嬢に負い目を持っている王子は、「庶民、庶民的」という言葉に弱い。公務優先の悪役令嬢への反発心からだろう。自らの方が庶民に寄り添っていると信じ込みたいのかもしれない。だから、そこを突くのだ。更に庶民が使うもの、と念押ししてレジ袋を渡した。悪役令嬢の用意した刺繍入りのハンカチより有難がっていたのには大笑いだ。
生徒会長と悪役令嬢の仲を疑っている様子の王子をうまいこと誘導し――国外追放へと持ち込んだ。
ただ、護衛が生徒会長を刺したのは予想外だった。
悪役令嬢は必死に救おうとしているが、魔力が足りない。そりゃそうよ。昨日、卒業式であんな大技使って、その上今朝、私を純潔の状態に戻すために力を使ったんだもの。魔力がほぼ空だから、周辺の魔力をかき集めつつ治療をするしかないんだわ。
悪役令嬢の顔に焦りが見える。今にも泣き出しそうだ。
馬鹿ね。余計な力を使うから、いざというときに力を使えないのよ。でも……そうね。今朝、助けてくれたのには感謝している。だから貴女次第では協力してあげてもいいわ。
国外追放は決まったが、先ほどから少し揉めている。荷物が多すぎて、帰国用の魔法陣が発動しないらしい。荷物を減らせと言われるが、冗談じゃない。どれもこれも思い出の品よ。ユージとデートした服。持って行ったカバン。靴。化粧品。どれもこれも、思い出がある。帰る以上、一つだって減らしたくない。
そんな中、黒ずくめの人が「荷物を減らさないとなると、人を減らすしか」とか素晴らしいことを言い出した。
「それだわ!」
私はそれに声を上げて同意した。
たとえ国外追放になったとしても、同じ大陸にいる以上、手紙や通信魔法で例の件をバラされる恐れがある。
私は秘密を守りたい。
悪役令嬢は生徒会長の命を守りたい。
だから、これは取引よ。
ほんの少し――私の持つ魔力を悪役令嬢の方へと流す。王子や護衛に気付かれない程度に、少しだけ。
悪役令嬢が一瞬ピクリと反応する。気が付いたようだ。
ほんの少し治療が進む。
「どの道、国外追放になるのでしょう? だったらここも国外ではあるし、ヴィーナスさんを置いて行けばいいんじゃないかしら」
ここは異世界。一年五カ月もの間、王子と手紙のやり取り一つできなかった場所。だから――秘密を守るなら、国外へ追放するなら、ここが最適のハズ。
「私はそれで構いません」
流石に抵抗してくるかとも思ったが――即答だった。こちらがビックリするくらいあっさりと取引に乗ってきた。むしろ、王子の方が焦っていたくらい。
「この方の治療には、まだまだ時間がかかります。だから、それで構いません」
一切の迷いがない悪役令嬢に、明らかに王子は逆上してた。悪役令嬢の用意した荷物を取り上げて、小さなカバン一つで置き去りにした。何もそこまで――と思ったが。
「ありがとうございます、殿下。ご配慮感謝いたします。……私にはこれだけあれば十分です」
生徒会長を救うのに十分な量の魔力を渡したからだろうか。明らかに後悔したような、何か言いたそうな王子に対し。
悪役令嬢はスッキリとした笑顔で、満足そうに微笑んでいた。
最後の最後で好きな人と心も体も結ばれたのに、元の世界に帰らなきゃいけないのがつらい――。
泣きながら思いっきり愚痴ったらスッキリした。どうせ彼女達とはもう会わないんだから、少しくらい話したっていいわよね。期待していた通り慰めてくれた。
前世でも今世でも、あまり関わらなかったタイプの子たちだったけど、明るい彼女達と話しているとあまり深刻に考えるのも馬鹿らしくなってくる。
お陰で王子にお土産を用意する心の余裕もできた。
そして時間になって――王子が直接迎えにやって来て驚いた。私と悪役令嬢を呼び出した人達による配慮らしい。
……いや、余計なことしてんじゃないわよ!!まだ、顔を合わせる心の準備が出来てないのに。どんな顔すればいいのか……そう思ってたのに。
王子はこっちを見なかった。まるで私のことなんか存在ごと忘れてしまったかのように――悪役令嬢を見つめている。
知ってるわ。あの表情。ゲームで何度も見てきたもの。何か、好ましいものを見た時の表情。ヒロインが何か面白いことをする度に、そんな表情で見ていたわよね。
金色の髪に紫色の目。相変わらずの美しい顔。
でも、そんなのはどうでもいいの。ユージにそっくりのその髪色で、目で、悪役令嬢を見たりしないで。
「クリス様ぁ! 私もクリス様にお土産を用意したんですぅ」
タイミングを計って会話に割り込むと、私は王子にお土産のお菓子を渡した。ギャル達が持ってきてくれたお菓子の残りだ。
「庶民のお菓子」あえて、それを強調する。
聖女として国民と親しくし、彼らからも慕われている悪役令嬢に負い目を持っている王子は、「庶民、庶民的」という言葉に弱い。公務優先の悪役令嬢への反発心からだろう。自らの方が庶民に寄り添っていると信じ込みたいのかもしれない。だから、そこを突くのだ。更に庶民が使うもの、と念押ししてレジ袋を渡した。悪役令嬢の用意した刺繍入りのハンカチより有難がっていたのには大笑いだ。
生徒会長と悪役令嬢の仲を疑っている様子の王子をうまいこと誘導し――国外追放へと持ち込んだ。
ただ、護衛が生徒会長を刺したのは予想外だった。
悪役令嬢は必死に救おうとしているが、魔力が足りない。そりゃそうよ。昨日、卒業式であんな大技使って、その上今朝、私を純潔の状態に戻すために力を使ったんだもの。魔力がほぼ空だから、周辺の魔力をかき集めつつ治療をするしかないんだわ。
悪役令嬢の顔に焦りが見える。今にも泣き出しそうだ。
馬鹿ね。余計な力を使うから、いざというときに力を使えないのよ。でも……そうね。今朝、助けてくれたのには感謝している。だから貴女次第では協力してあげてもいいわ。
国外追放は決まったが、先ほどから少し揉めている。荷物が多すぎて、帰国用の魔法陣が発動しないらしい。荷物を減らせと言われるが、冗談じゃない。どれもこれも思い出の品よ。ユージとデートした服。持って行ったカバン。靴。化粧品。どれもこれも、思い出がある。帰る以上、一つだって減らしたくない。
そんな中、黒ずくめの人が「荷物を減らさないとなると、人を減らすしか」とか素晴らしいことを言い出した。
「それだわ!」
私はそれに声を上げて同意した。
たとえ国外追放になったとしても、同じ大陸にいる以上、手紙や通信魔法で例の件をバラされる恐れがある。
私は秘密を守りたい。
悪役令嬢は生徒会長の命を守りたい。
だから、これは取引よ。
ほんの少し――私の持つ魔力を悪役令嬢の方へと流す。王子や護衛に気付かれない程度に、少しだけ。
悪役令嬢が一瞬ピクリと反応する。気が付いたようだ。
ほんの少し治療が進む。
「どの道、国外追放になるのでしょう? だったらここも国外ではあるし、ヴィーナスさんを置いて行けばいいんじゃないかしら」
ここは異世界。一年五カ月もの間、王子と手紙のやり取り一つできなかった場所。だから――秘密を守るなら、国外へ追放するなら、ここが最適のハズ。
「私はそれで構いません」
流石に抵抗してくるかとも思ったが――即答だった。こちらがビックリするくらいあっさりと取引に乗ってきた。むしろ、王子の方が焦っていたくらい。
「この方の治療には、まだまだ時間がかかります。だから、それで構いません」
一切の迷いがない悪役令嬢に、明らかに王子は逆上してた。悪役令嬢の用意した荷物を取り上げて、小さなカバン一つで置き去りにした。何もそこまで――と思ったが。
「ありがとうございます、殿下。ご配慮感謝いたします。……私にはこれだけあれば十分です」
生徒会長を救うのに十分な量の魔力を渡したからだろうか。明らかに後悔したような、何か言いたそうな王子に対し。
悪役令嬢はスッキリとした笑顔で、満足そうに微笑んでいた。
35
あなたにおすすめの小説
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
【完結】悪役令嬢のカウンセラー
みねバイヤーン
恋愛
わたくしエリザベート、ええ、悪役令嬢ですわ。悪役令嬢を極めましたので、愛するご同業のお嬢さまがたのお力になりたいと思っていてよ。ほほほ、悩める悪役令嬢の訪れをお待ちしておりますわ。
(一話完結の続き物です)
帰還した聖女と王子の婚約破棄騒動
しがついつか
恋愛
聖女は激怒した。
国中の瘴気を中和する偉業を成し遂げた聖女を労うパーティで、王子が婚約破棄をしたからだ。
「あなた、婚約者がいたの?」
「あ、あぁ。だが、婚約は破棄するし…」
「最っ低!」
婚約者を処刑したら聖女になってました。けど何か文句ある?
春夜夢
恋愛
処刑台に立たされた公爵令嬢エリス・アルメリア。
無実の罪で婚約破棄され、王都中から「悪女」と罵られた彼女の最期――
……になるはずだった。
『この者、神に選ばれし者なり――新たなる聖女である』
処刑の瞬間、突如として神託が下り、国中が凍りついた。
死ぬはずだった“元・悪女”は一転、「聖女様」として崇められる立場に。
だが――
「誰が聖女? 好き勝手に人を貶めておいて、今さら許されるとでも?」
冷笑とともに立ち上がったエリスは、
“神の力”を使い、元婚約者である王太子を皮切りに、裏切った者すべてに裁きを下していく。
そして――
「……次は、お前の番よ。愛してるふりをして私を売った、親友さん?」
清く正しい聖女? いいえ、これは徹底的に「やり返す」聖女の物語。
ざまぁあり、無双あり、そして……本当の愛も、ここから始まる。
「予備」として連れてこられた私が、本命を連れてきたと勘違いした王国の滅亡フラグを華麗に回収して隣国の聖女になりました
平山和人
恋愛
王国の辺境伯令嬢セレスティアは、生まれつき高い治癒魔法を持つ聖女の器でした。しかし、十年間の婚約期間の末、王太子ルシウスから「真の聖女は別にいる。お前は不要になった」と一方的に婚約を破棄されます。ルシウスが連れてきたのは、派手な加護を持つ自称「聖女」の少女、リリア。セレスティアは失意の中、国境を越えた隣国シエルヴァード帝国へ。
一方、ルシウスはセレスティアの地味な治癒魔法こそが、王国の呪いの進行を十年間食い止めていた「代替の聖女」の役割だったことに気づきません。彼の連れてきたリリアは、見かけの派手さとは裏腹に呪いを加速させる力を持っていました。
隣国でその真の力を認められたセレスティアは、帝国の聖女として迎えられます。王国が衰退し、隣国が隆盛を極める中、ルシウスはようやくセレスティアの真価に気づき復縁を迫りますが、後の祭り。これは、価値を誤認した愚かな男と、自分の力で世界を変えた本物の聖女の、代わりではなく主役になる物語です。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
聖女の御技を使いましょう
turarin
恋愛
公爵令嬢スカーレットは、幼い頃から皇太子スチュアートの婚約者である。
穏やかな温かい日々を過ごしていたかが、元平民の聖女候補、メイリンの登場で、事態は一変する。
スカーレットはメイリンを妬み様々な嫌がらせをしたと噂される。
スチュアートもスカーレットを庇おうとはしない。
公爵令嬢スカーレットが、黙ってやられるわけが無い。幼い頃から皇太子妃教育もこなし、その座を奪おうとする貴族達を蹴散らしてきた百戦錬磨の『氷姫』なのだから。
読んでくださった方ありがとうございます。
♥嬉しいです。
完結後、加筆、修正等たくさんしてしまう性分なので、お許しください。
[完]聖女の真実と偽りの冠
さち姫
恋愛
私、レティシア・エルメロワは聖女としての癒しの力を発揮した。
神託を聞き、国の為に聖女として、そして国の王太子の婚約者として、努力してきた。
けれど、義妹のアリシアが癒しの力を発揮した事で、少しずつ私の周りが変わっていく。
そうして、わたしは神ではなく、黒魔術を使う、偽りの聖女として追放された。
そうしてアリシアが、聖女となり、王太子の婚約者となった。
けれど、アリシアは癒しの力はあっても、神託は聞けない。
アリシア。
私はあなた方嫌いではな。
けれど、
神は偽りを知っているわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる