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リリーside

13 取引

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 帰国予定時間ちょっと前に。ギャル達が来てお別れパーティーをやってくれた。

 最後の最後で好きな人と心も体も結ばれたのに、元の世界に帰らなきゃいけないのがつらい――。

 泣きながら思いっきり愚痴ったらスッキリした。どうせ彼女達とはもう会わないんだから、少しくらい話したっていいわよね。期待していた通り慰めてくれた。

 前世でも今世でも、あまり関わらなかったタイプの子たちだったけど、明るい彼女達と話しているとあまり深刻に考えるのも馬鹿らしくなってくる。

 お陰で王子にお土産を用意する心の余裕もできた。



 そして時間になって――王子が直接迎えにやって来て驚いた。私と悪役令嬢を呼び出した人達による配慮らしい。

 ……いや、余計なことしてんじゃないわよ!!まだ、顔を合わせる心の準備が出来てないのに。どんな顔すればいいのか……そう思ってたのに。



 王子はこっちを見なかった。まるで私のことなんか存在ごと忘れてしまったかのように――悪役令嬢を見つめている。



 知ってるわ。あの表情。ゲームで何度も見てきたもの。何か、好ましいものを見た時の表情。ヒロインが何か面白いことをする度に、そんな表情で見ていたわよね。



 金色の髪に紫色の目。相変わらずの美しい顔。


 でも、そんなのはどうでもいいの。ユージにそっくりのその髪色で、目で、悪役令嬢を見たりしないで。



「クリス様ぁ! 私もクリス様にお土産を用意したんですぅ」
 タイミングを計って会話に割り込むと、私は王子にお土産のお菓子を渡した。ギャル達が持ってきてくれたお菓子の残りだ。

「庶民のお菓子」あえて、それを強調する。

 聖女として国民と親しくし、彼らからも慕われている悪役令嬢に負い目を持っている王子は、「庶民、庶民的」という言葉に弱い。公務優先の悪役令嬢への反発心からだろう。自らの方が庶民に寄り添っていると信じ込みたいのかもしれない。だから、そこを突くのだ。更に庶民が使うもの、と念押ししてレジ袋を渡した。悪役令嬢の用意した刺繍入りのハンカチより有難がっていたのには大笑いだ。



 生徒会長と悪役令嬢の仲を疑っている様子の王子をうまいこと誘導し――国外追放へと持ち込んだ。


 ただ、護衛が生徒会長を刺したのは予想外だった。

 悪役令嬢は必死に救おうとしているが、魔力が足りない。そりゃそうよ。昨日、卒業式であんな大技使って、その上今朝、私を純潔の状態に戻すために力を使ったんだもの。魔力がほぼ空だから、周辺の魔力をかき集めつつ治療をするしかないんだわ。

 悪役令嬢の顔に焦りが見える。今にも泣き出しそうだ。

 馬鹿ね。余計な力を使うから、いざというときに力を使えないのよ。でも……そうね。今朝、助けてくれたのには感謝している。だから貴女次第では協力してあげてもいいわ。

 国外追放は決まったが、先ほどから少し揉めている。荷物が多すぎて、帰国用の魔法陣が発動しないらしい。荷物を減らせと言われるが、冗談じゃない。どれもこれも思い出の品よ。ユージとデートした服。持って行ったカバン。靴。化粧品。どれもこれも、思い出がある。帰る以上、一つだって減らしたくない。
 そんな中、黒ずくめの人が「荷物を減らさないとなると、人を減らすしか」とか素晴らしいことを言い出した。
「それだわ!」
 私はそれに声を上げて同意した。

 たとえ国外追放になったとしても、同じ大陸にいる以上、手紙や通信魔法で例の件をバラされる恐れがある。

 私は秘密を守りたい。
 悪役令嬢は生徒会長の命を守りたい。

 だから、これは取引よ。


 ほんの少し――私の持つ魔力を悪役令嬢の方へと流す。王子や護衛に気付かれない程度に、少しだけ。

 悪役令嬢が一瞬ピクリと反応する。気が付いたようだ。
 ほんの少し治療が進む。

「どの道、国外追放になるのでしょう? だったらここも国外ではあるし、ヴィーナスさんを置いて行けばいいんじゃないかしら」

 ここは異世界。一年五カ月もの間、王子と手紙のやり取り一つできなかった場所。だから――秘密を守るなら、国外へ追放するなら、ここが最適のハズ。

「私はそれで構いません」

 流石に抵抗してくるかとも思ったが――即答だった。こちらがビックリするくらいあっさりと取引に乗ってきた。むしろ、王子の方が焦っていたくらい。

「この方の治療には、まだまだ時間がかかります。だから、それで構いません」

 一切の迷いがない悪役令嬢に、明らかに王子は逆上してた。悪役令嬢の用意した荷物を取り上げて、小さなカバン一つで置き去りにした。何もそこまで――と思ったが。

「ありがとうございます、殿下。ご配慮感謝いたします。……私にはこれだけあれば十分です」

 生徒会長を救うのに十分な量の魔力を渡したからだろうか。明らかに後悔したような、何か言いたそうな王子に対し。

 悪役令嬢はスッキリとした笑顔で、満足そうに微笑んでいた。



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