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おまけ
召喚されてきた悪役令嬢を嫁にしたけど俺があげたプレゼントに対する子供達の評判がとんでもなく悪い
しおりを挟む「パパーぁ。ママーぁ。このカバンなあに?」
上の娘が、何やら懐かしいものを押し入れから引っ張り出してきた。大切に仕舞われたソレは、俺にとってはとても懐かしいもので――。
「まあ! 懐かしいわ、このカバン。よく見つけましたわね!」
どうやら妻にとってもそうであったようだ。大事そうに抱きしめて、過去に思いを馳せている。
古い、小さな旅行カバン。
あの日――ヴィーナが異世界へと帰還するはずだった日。彼女が唯一、あちらへと持ち帰ろうと用意した自分のための荷物だ。
異世界へ持って帰ることが出来るのは一人当たり段ボール五つまで。魔法陣の開発者からそう聞いた彼女は、迷うことなく国民の為に用意した非常用袋を優先させた。だから、四箱にはギッシリと非常用袋を詰め込んで、自らの為の荷物はこのカバン一つのみだった。
終始大事そうに持っていたそれの中身を俺は知らない。彼女曰く、『どうしても手放すことのできない、大切な宝物』らしいのだが――。
「これにはね、ママの大切な宝物が詰まっていますのよ」
「何!? 何の話!? ママ! お姉ちゃん! 私も! 私も一緒に宝物見たいー。仲間に入れてー」
「まあ、あなたも見たいの? うふふ、いいわよ」
そう言って、ヴィーナがチャックに手をかける。気になって俺も近づいた。それに気が付いたヴィーナが頬を赤らめて少し手を止める。なんだ?
「ねえ、何だと思う?」
「お姉ちゃん、私、宝石だと思うの。だって、宝物でしょ?」
「そうよね! ママってば元・異世界のすごいお嬢様だし! きっとすごい宝物に違いないわ」
「すごい宝物!? どれどれ!? 僕も見たい!」
すごい宝物と聞いて、静かに本を読んでいた息子まで集まってきた。ワクワクと、カバンに注目する子供達。中身への期待が高まっているようだ。
まあ、元公爵令嬢だった悪役令嬢――妻の元の身分から考えたらそうなるのだろうが、妻は突然こちらに召喚されたうえ、そのまま国外追放になってこちらに取り残されている。
支給されていた生活費は切り詰めて、買い物は激安量販店か100均。しかも、そうして余った生活費で魔物襲撃被害を抑えるための防災グッズを買いそろえていた。懐具合はお察しだ。
残念ながらそういったことを考えると、大したものは入っていない気がするが――。せっかく盛り上がっているところに水を差すのもよくないので黙っておく。
娘二人は現在、思春期真っ盛りだ。ヴィーナの教育のおかげで素直に育ってくれているので、難しい年頃ではあるものの父親である俺も娘に嫌われてはいない。
『大きくなったらパパと結婚する』という父親冥利に尽きる憧れの言葉も娘二人共から貰うことが出来た。まあ、小さい頃の話だけど。そして俺は悪役令嬢である妻一筋だけど。
息子は息子でお父さんみたいに勉強が出来るようになりたい! と毎日しっかり机に向かう真面目な子供に育ってくれている。俺としてはもう少し腕白でもいいと思っているのでこんな風に子供らしく宝物とやらに反応している様子は嬉しく感じる。
とにかく、妻そっくりの可愛い子供たちに囲まれて、こんな風に家族仲良く過ごせるのは幸せなことだと思う。
そうして妻がカバンの中から出したのは――。
可愛らしい絵柄の膝掛け
大人用のしつけ箸
ペットボトルカバー
タオル
ノート、鉛筆、消しゴム
その他もろもろ。その、全てに見覚えがあった。
あれ? コレって全部――。
「その……旦那様から――貴方たちのパパから、出会ったばかりの高校生時代に頂いたもの…………なのです。全てママの大切な宝物なのよ」
真っ赤な顔をして。愛おしそうに、カバンの中身を一つ一つ取り出していく悪役令嬢――こと俺の嫁。
その、一つ一つが思い出だった。
教室で。学食で。お出かけ先で。
寒そうだな、とか。箸が使いづらそうだな、とか。何となく、役に立てばといいな、と思って俺があげたもの。身一つできた彼女は、何も持っていなかったから。
しつけ箸を除けば、正直、大したものではない。おまけや福袋で使わなかった、家で余ってたやつ。
ただ、しつけ箸は少し探すのは大変だった。流石に家にはないし、店に子供用はたくさんあったけど、大人用のはなかなか見つけられなくて、あちこち探し回ったから。
高いものではないけれど、外国人用やら、ネット通販やら色々見て、一番使いやすそうなのを選んだんだよな。自分の分も購入し、利き手じゃない方で使い心地と性能を確かめてみたのを覚えている。そのおかげで箸だけは今でも両利きだ。
「なかでもこれだけは、絶対に持って帰りたかったのです。その……大切な、思い出の品、だったので」
妻の手が、しつけ箸をそっと撫でる。その姿に、指に、一緒にアルバイトをした日を思い出す。寒風吹きすさぶ中、キレイな指を真っ赤に染めて、試験の受付のバイトを続けていた悪役令嬢。
そのバイト代で婚約者だった第一王子にハンカチを購入しているのを見た時の、あの感情はよく分からない。俺が生きてきて初めて感じるものだったから。
年月を経て、十代特有の瑞々しい輝きは失われても、その美しさは変わらない。俺はヴィーナの手に、そっと自分の手を重ねた。
ああ、家事とパートで少し指先が荒れているな。これは、ハンドクリームが減ってきて少しケチって使っている証拠だ。新しいのを用意しよう。
新商品で気になるものが出ていたが、それは自分で試してからだ。ヴィーナはどれもこれも喜ぶばかりで効く、効かないを言わないから、俺がしっかり試してからにしなくては。
娘二人と、息子一人。元公爵令嬢の妻を働かせるのは申し訳なく思うが、本人はいたって楽しそうにうどん屋さんでのパートを続けている。
そんな働き者の手を持つ妻の手を、こうして握れることは奇跡に等しいと今でも思う。
遠く隔たれた異世界から。偶然召喚されてしまった悪役令嬢と自称ヒロイン。相変わらず俺の中での自称ヒロインへの評価は低いが、こうして悪役令嬢と手を繋いで離れずに済んだのは、あの自称ヒロインのお陰と言えなくもないかもしれない。
その点だけは感謝していい――のかな?
楽しそうにパート先でのことを話す悪役令嬢の話を聞くたびに嬉しくなったり、出前用魔法陣の使用頻度が上がるたびにヒヤヒヤしたりはするけれど、俺は俺なりに出来る精いっぱいでこの嫁と家族を守っていこうと思う。そのための努力は惜しまない。
その為にも――。
「これはひどい。好きな人へのプレゼントなのに、これなんかペットボトルのおまけだよ?」
「お姉ちゃんもそう思う? 結婚前だからってもうちょっと……ねえ?」
「ぼ、僕、勉強だけじゃなくて他にも学ぶことがあるかもしれない」
嬉しそうなヴィーナとは対照的に。子供達の中で何故か下がった俺の評判を取り戻すためにも、次の召喚記念日にはみんなが納得する何かを妻にプレゼントしようと思う。
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