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24 有能外交官の旅立ち
しおりを挟む当初の任期は五年間。既に延長している状態なので、これ以上の延長は無理だろう。両国の間で始まった共同事業も順調なので、今後はデュナミスのような訳ありの新人ではなく、もっと経験豊富で優秀な人材が回されるはずだ。
「そうか。では、これを……」
残念そうな、ホッとしたような。
デュナミスがこの国を離れると聞いた途端、アルテサーノ伯爵が形容しがたい不思議な表情を浮かべて何やら分厚い封筒を渡してきた。何だろうと不思議に思って中を見ると、国王からの感謝状に加え、竜人国への推薦状が入っていた。
それを見て、デュナミスは目を丸くする。
「君のおかげで、我が国が抱えていた問題の多くが一気に解決したからな。以前から推薦の話は出ていたんだ。まあ、君に対して個人的に思うところはあるが……感謝の気持ちだ。遠慮せずに受け取ってくれたまえ」
竜人国は長い歴史を持つことから外交先として非常に重要な国だが、外交官としての滞在許可を得るには一定の条件がある。獣人文化をしっかりと理解していることを証明するために、竜人国皇帝が認めた人物の推薦状が必要なのだ。まさか、それをこんな形で入手することになろうとは。
伯爵が竜人国と懇意にしていることは知っていたが、伯爵夫人への求婚の件で嫌われていると思っていたので意外だった。
「これが人間相手に発行されるのは久々だから、国交を持たない他国からも橋渡しを依頼されて、しばらくは息つく暇もないだろうな。まあ、仕事が落ち着いたら遠慮なく屋敷に遊びに来てくれたまえ。家族みんなで歓迎するよ」
愛する妻の腰をガッシリと抱えて、満面の笑みを浮かべる伯爵。
今現在、竜人国への滞在許可証を持っている人間の外交官は僅か数名。祖国ではたった一人だ。しかもかなりの高齢で世代交代が待たれていたから、これを受け取った以上はこの先、十年単位で忙しくなりそうだ。ちょっと隣国に遊びに……なんて時間はとてもじゃないが取れないだろう。
彼のスッキリとした表情を見る限り、もしやそれが狙いだったのだろうか。やはり、例の件を根に持たれているのは間違いなさそうだ。竜人も運命の番を大事にすると聞いているので、今度は気を付けようとしっかりと気持ちを引き締める。
それでも、デュナミスにとってこの推薦状は渡りに船だった。実は、大恋愛の末に隣国王子と結ばれた元婚約者の王女だが、あまり夫婦仲が上手くいっていないらしく、デュナミスのもとに少々面倒な手紙が届くようになっていたのだ。
仕事で多大な功績を挙げていたからこれまでは国の方で上手く抑えてくれていたが、帰国したら元婚約者がどんな行動をとるか分からない。
正直、面倒な事態に巻き込まれるのは遠慮したいので、のんびりせずに次の赴任先へと即出国できそうな免罪符を手に入れられたのはすごくありがたかった。
けれど、その代わり伯爵夫妻との再会は随分と先になりそうだ。
激務をこなしてのんびりする時間ができる頃には、デュナミスはすっかり歳を食っているに違いない。寿命の違う彼らは、それでも若く美しいままだけれど……
知ってか知らずか、夫に守られている伯爵夫人はニコニコといつもの幸せそうな笑顔を浮かべている。
デュナミスが何もしなくても彼女のこの笑顔が曇ることはなかったのかもしれないが、それでもこうして夫婦仲良く寄り添う姿が見られたことは無駄ではなかったと思う。運命の番である彼らにとって、お互いの笑顔が一番の幸せだろうから。
きっと、次に彼らと再会する時にはもっとたくさんの笑顔に囲まれていることだろう。そんな美しい未来を守ることができたのだから、この国に来たことは無駄ではなかったのだ。
デュナミスは素直に、そう思う。
ちょっぴり傷む胸を貴族の笑顔で隠しつつ、デュナミスは未来への招待状をポケットに仕舞い込む。
(やれやれ、自分はよほど結婚とは縁がないようだ。――ま、せっかく大きなチャンスを貰ったのだから、今後は変に目立つことなく、外交官として堅実に生きていこう……)
今回のことを教訓にそう結論づけたデュナミスはまだ知らない。
そう遠くない未来に新たな赴任先で竜人の皇族女性と運命的な恋に落ち、運命の番とは全く関係ナシに身分も寿命も乗り越えた、周囲をあっと驚かせるほどの大格差結婚をすることになるのだが――それはまた、今回とは別のお話。
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