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6:拡張DLCと、栽培バグ
744:おにぎりの煩悩と、クラス別成績順位表
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「こいつぁ、壮観だな!」
おれたちが点検用の小窓から、ヒラヒラと降りていくと――
片膝立ちの大女神像の前。
「そうですね、ヴゥヴッ!」
央都大聖堂大女神像の間を、埋め尽くすのは――
どうやら行軍の算段が付いたらしい、兵卒たち。
ふぉん♪
『>>コントゥル辺境伯私設軍132名。冒険者36名。その他285名になります』
うむ、何だか増えていやがるな。辺境伯の所の兵隊はわかるが、物見遊山の見物客たちまで一緒に並んでやがるぞ?
ふぉん♪
『リオレイニア>>央都近郊の有力貴族たちお抱えの商家や、各領地の駐在使たちが集結したようです』
おれの画面表示の隅にポコンと現れる、蜂の顔。
振り向けば吊り上がる、銅がかった白金の眼鏡。
その周囲を色んな小窓が、蠢いていた。
到頭、おれよか使いこなし始めたぞ。
既に茅野姫には追い抜かされているが、彼奴さまは世の理の埒外だ。
この世の住人であるリオレイニアにまで追い抜かれちまうと、女神の料理番としては立つ瀬が無ぇ。
いざとなったら虎型や轟雷を着ねぇと、とても太刀打ちできんぞ。
「そうわね♪ ご飯と魔法具の祭典――我々にとっての戦場におもむくわけデスのぉでぇ、腕が鳴るわねん♪」
ぽこん♪
根菜丸茸がビステッカが配った開催要項を取り出し、食い入るように見始める。
ぐぅぅぅぅ――うるせぇな。鳴いてるのは腹の虫だろぉーが。
§
「居たっ、シガミー!」
「シガミー殿、こちらの準備は整ったぞ!」
「シガミーさん、そしてリオレイニア特別講師。お話があります」
「ギュギュギュギュィィィィィ-ン!」
「シガミー、カラテェーはどこニャ? 早く行かないとオークションに間に合わなくなるニャ!」
「「「「「シガミーちゃん!」」」」」
「「「猪蟹屋殿!」」」
「みゃにゃぎゃにゃぁ?」
うへぇ!
レイダに、辺境伯に、学院長に、ガムラン町ギルド支部長に、ニャミカに、城塞都市ギルド支部長や冒険者たちに、木箱を抱え足踏みする強化服自律型一号。
何奴も此奴も、まるで阿弥陀仏の救いに群がる亡者の様だぜぇ――
「一先ず、落ち着けやぁ!」
おれは、おれを抱えるルガレイニアの細腕を持ち上げ、ヒラリと飛び降りた。
§
「やいお前! 本当に任せて、大丈夫なんだろぉなぁ?」
おれは指を指し、しつこく念押しする。
「おまえとは何ですの、シガミーちゃん!」
すっかり旅支度が済んだ様子の、辺境伯ご令嬢ビステッカ・アリゲッタが頬を膨らませる。
「みゃぎゃにゃぎゃぁーぅ♪」
何故か御令嬢に付き従うのは、化け猫風体の猫の魔物風。
背負った収納魔法具箱から取り出したのか、でかい木箱が2個に増えてやがる。
「くすくす、道案内ならビステッカちゃんに任せておけば大丈夫だよ。何と言ってもビステッカちゃんの故郷なんだから」
化け猫の背を押しているのは、商家の娘レトラベラ・ルリミット。
どうやら芋が詰まった木箱を両肩に担いだおにぎりを、手伝っているつもりらしい。
「違う違う今のは、おにぎりに言ったんだぜ!」
もう一度、指さした。
その指先が黄緑色の夏毛に触れた。
ぽきゅ――すると反射的に、片足を持ち上げようとする猫の魔物風。
「まてまてっ、そんな大きな荷物を抱えてるときに、やり返そうとするな!」
ふぉん♪
『シガミー>>危ねぇだろうが!』
両手が塞がっていれば、こうして足が出てくる。
おれは咄嗟に一行表示で叱りつけた。
この画面隅の一文は猪蟹屋の〝音が聞こえる耳栓〟をしてりゃ、全員が見られるが――
この〝>〟を二個に増やすと、猪蟹屋関係者にしか見えなくなる仕組みだ。
それでも蜂のお化け……もといリオレイニアは眼鏡の魔法具を使いこなして、〝>>〟が付いた文字も読むことが出来るようになっている。
「ぎゃにゃぎゅー――!?」
大きな木箱をぐらつかせながらも、浮かせた足を地に着け――ぽぎゅりぎゅり!
ぐりぐりと猫足を踏みしめ、〝おれにやり返す〟のを止めて、耐えている。
生まれてから随分と時が過ぎ、こうして〝分別〟のようなものを身につけつつあるのは良いことだ。
正邪の区別が付くというのなら、ソレは煩悩を生む要因になる。
新たな悪癖を身につけそうな気もするが、流石に煩悩まみれの、おれや根菜と比べりゃ、素直なもんだろぉ。
ふぉん♪
『おにぎり>>さきに行ってるんだもの。蟹味の揚げ芋をたくさん作るまでは、いまの一回やりかえすのを待ってあげるんだもの』
「ぎゅにぅぎぃぎぃー!」と今まで聞いたことがない、耳障りな鳴き声を発しながら、おにぎりが転移陣へ向かっていく。
――あんまり素直でもねぇな。
そして、おにぎりに生じた煩悩は、どうやら〝揚げ芋〟らしい。
『シガミー>>>やい根菜。ビステッカやおにぎりたちを、先に向かわせちまって良いのか?』
おれたちも一緒に行った方が良いんじゃね?
ならば今の手持ちじゃ、戦装束としちゃ心許ない。
迅雷さえ居りゃ、この大軍を率いたとて、向こう数年は余裕で戦えるが、今回は金絡みの戦になる。
屋根の上で〝蜂〟を相手にしている暇で、央都猪蟹屋本店の無人工房に行って使えそうな物を、収納魔法に詰めて来られたんだがなぁ。
その辺の金策絡みの話と、女神像の中身さまや迅雷が調子を戻した理由も、まだ聞けてねぇぞ?
ふぉん♪
『シガミー>>>やい丸茸。何とか言いやがれやい』
一行表示に返事がねぇ。画面隅の小地図によるなら、リオレイニアと辺境伯と一緒に居るが――
ふぉふぉん♪
『イオノ>>>はいはーい。向こうに行ってもやれることわあ、お祭り準備の手伝いくらいだからあ、慌ててもしかたないわよーん♪』
そうなのか……そういうことなら手持ちの食材だけでも何とかなりそうだが。
祭りと言やぁ何はなくとも――〝飯〟だ。
即ち料理番だからこそ、出来る事がある。
ふぉん♪
『シガミー>>>要するに大博打で擦っちまった分を、この祭りで取り返そうって訳だな?』
蟹の身の持ち合わせは、十分ある。
芋は、おにぎりが抱えてた程度じゃ足りんかもしれんが向こうには、ソレこそ美味い芋が売るほどにあるのだ。
おにぎりの煩悩じゃねぇが、〝蟹味の揚げ芋〟。
アレを売りさばけば、多少の実入りが見込めるだろう。
ぐふふふ、やべぇ。楽しくなってきたぞぉ!
おれが迅雷を引っつかみ、収納魔法具の中身を確認し始めた時――{>Logon__rpon__Connect>対話型セッション開始 ⚡ 龍脈言語server01.net}
§
くるりと身をひるがえすと、{Disconnect>対話型セッション終了}
おれは体の自由を、取りもどした。
此処は初等魔導学院の1年A組――つまり、おれたちの学級の教室だ。
ふぉん♪
『シガミー>>>やい星神、こんな所へ連れて来て、どういうつもりだぁ!?』
一行標示で文句を言ってやる。
星神の体はおれが、おれの数年後の姿を模して作った。
結局その体は、依代を無くした星神に取られちまって、今おれの体には、こうしておれが入っている。
ちとややこしいが基本的には、どちらも元はおれの体だ。
毎朝鏡を見る度に自分ですら、目を奪われるほどの器量。
金糸の髪に、透き通るようなきめ細やかな肌。
小さな頭に、実に均整のとれた目鼻立ち。
その双眸は儚げで。細い手足は、まるで弥勒菩薩の像の佇まい……つまり、思わず拝んじまう程に、姿が良い。
便宜上、姉と言うことになっている茅野姫と、猪蟹屋に二人並ぶと、それだけで人だかりが出来るしな。
そんなわけで、おれたち二人の差は、女神御神体一個分の身長くらいのものだ。
そのせいか、こうしてお互いに相手の体を操る事が出来る。
しかし、その力は星神の方がずっと強く、こうして、やろうと思えば、こちらが一方的に操られちまう。
ちっ、星神茅野姫からの一行標示がねぇ――
ふぉん♪
『シガミー>>>おれは揚げ芋を沢山、作らねえといけねえんだぞ。迅雷、何処に居る!?』
辺りを見渡せば、いつもの生意気な子供が肩を落として、しょぼくれてる。
他には……たしか王族に名を連ねる童と、その取り巻きが一人。
大きな教室には、おれたち4人しか居ない。
すっぽこん♪
『イオノ>>>いま誰か、揚げ芋って言った?』
揚げ芋という言葉に釣られ、おれの頭の上に落ちてきた美の女神の依代である、根菜もしくは丸茸さまを引っつかんだ。
§
「あなた方学生の本分は、学業を修めることです。シガミーさんならびに成績不振者には、本日より一週間の補習を受けていただきます」
壇上で、そう宣うのは学院長。
「アリゲッタ辺境伯家ならびに、一大穀倉地域であるポテフィール全域の存続も大事ですが――」
口元を歪めた担任教師ヤーベルトが、紙ぺらを配る。
『初等学院 前期クラス別 成績順位表』
ヤーベルトがトンと、紙の上を叩いた。
こりゃ、おれたちの成績順位か?
担任の指が、成績表の一番下まで落ちていく。
1年A組は全クラス中、最下位で――
指先の項目を見れば――
成績優秀者がクラスごとに3名ずつ、書かれていた。
わが教室からは――
『成績優秀者 1位:レトラベラ・ルリミット
2位:ビステッカ・アリゲッタ
3位:ヴィヴィエラ・R・サキラテ』
いつもの連中だった。
彼奴らめ、「勉強なんてしてない」と抜かしていた癖に……おれを謀りやがったな!
いや待て、眼鏡太朗が1位ってのはどういうことだぜ!?
常日頃から家で学問を修めてきた貴族さまなら、いざ知らず。彼女は商家の出だ。
「――わが学級の存続もー、とーてーもー大事でーす」
『成績不振者 ――位:レイダ・クェーサー
――位:アルミラージ・ラスクトール
――位:ルシィ・ジウェッソン
最下位:シガミー・ガムラン』
お貴族さまや、王族に名を連ねている奴でも、出来の悪いのが居るのなら――
その逆に平民や商家の出でも、出来の良い奴がいてもおかしくはねぇか。
黒板に書かれた『補習』や『追試日程』の文字から察するに、成績不振者であるおれたちは祭りの間もずっと、この教室で学問に励まねぇといけねぇらしい。
「えーっと、そこを何とか――そうだぜ! 芋の町の祭りが終わるまで待っ――」
辺りを窺うと、天井の梁が目に付いた。
まず天井に飛びついて、ソレから廊下側の窓へ飛び移れそうだ。
この際レイダにゃ悪ぃが、おれだけなら――
「はいダメー! 緊急職員会議による決定ですーので、くつーがえりーませぇーん!」
心なしか、やつれた様子の担任教師が――グワララランッ!
いつもの3本の魔法杖だけでなく、小脇に抱えていた追加の杖を、おれの席の両脇へ立てかけた。
ーーー
阿弥陀仏/全ての命を救い、全ての苦しみから解放する阿弥陀の光りを授ける存在。
分別/自己と他を区別する認識。またはソレにより生ずる煩悩に抗うことで、悟りへ至る実践的な教訓。
煩悩/人を煩わせ悩ませるもの。欲望、無知、執着にとらわれた状態。
弥勒菩薩/56億7千万年後にこの世に現れ悟りを開き、ありとあらゆる一切合切を一網打尽に救うとされる未来仏。
おれたちが点検用の小窓から、ヒラヒラと降りていくと――
片膝立ちの大女神像の前。
「そうですね、ヴゥヴッ!」
央都大聖堂大女神像の間を、埋め尽くすのは――
どうやら行軍の算段が付いたらしい、兵卒たち。
ふぉん♪
『>>コントゥル辺境伯私設軍132名。冒険者36名。その他285名になります』
うむ、何だか増えていやがるな。辺境伯の所の兵隊はわかるが、物見遊山の見物客たちまで一緒に並んでやがるぞ?
ふぉん♪
『リオレイニア>>央都近郊の有力貴族たちお抱えの商家や、各領地の駐在使たちが集結したようです』
おれの画面表示の隅にポコンと現れる、蜂の顔。
振り向けば吊り上がる、銅がかった白金の眼鏡。
その周囲を色んな小窓が、蠢いていた。
到頭、おれよか使いこなし始めたぞ。
既に茅野姫には追い抜かされているが、彼奴さまは世の理の埒外だ。
この世の住人であるリオレイニアにまで追い抜かれちまうと、女神の料理番としては立つ瀬が無ぇ。
いざとなったら虎型や轟雷を着ねぇと、とても太刀打ちできんぞ。
「そうわね♪ ご飯と魔法具の祭典――我々にとっての戦場におもむくわけデスのぉでぇ、腕が鳴るわねん♪」
ぽこん♪
根菜丸茸がビステッカが配った開催要項を取り出し、食い入るように見始める。
ぐぅぅぅぅ――うるせぇな。鳴いてるのは腹の虫だろぉーが。
§
「居たっ、シガミー!」
「シガミー殿、こちらの準備は整ったぞ!」
「シガミーさん、そしてリオレイニア特別講師。お話があります」
「ギュギュギュギュィィィィィ-ン!」
「シガミー、カラテェーはどこニャ? 早く行かないとオークションに間に合わなくなるニャ!」
「「「「「シガミーちゃん!」」」」」
「「「猪蟹屋殿!」」」
「みゃにゃぎゃにゃぁ?」
うへぇ!
レイダに、辺境伯に、学院長に、ガムラン町ギルド支部長に、ニャミカに、城塞都市ギルド支部長や冒険者たちに、木箱を抱え足踏みする強化服自律型一号。
何奴も此奴も、まるで阿弥陀仏の救いに群がる亡者の様だぜぇ――
「一先ず、落ち着けやぁ!」
おれは、おれを抱えるルガレイニアの細腕を持ち上げ、ヒラリと飛び降りた。
§
「やいお前! 本当に任せて、大丈夫なんだろぉなぁ?」
おれは指を指し、しつこく念押しする。
「おまえとは何ですの、シガミーちゃん!」
すっかり旅支度が済んだ様子の、辺境伯ご令嬢ビステッカ・アリゲッタが頬を膨らませる。
「みゃぎゃにゃぎゃぁーぅ♪」
何故か御令嬢に付き従うのは、化け猫風体の猫の魔物風。
背負った収納魔法具箱から取り出したのか、でかい木箱が2個に増えてやがる。
「くすくす、道案内ならビステッカちゃんに任せておけば大丈夫だよ。何と言ってもビステッカちゃんの故郷なんだから」
化け猫の背を押しているのは、商家の娘レトラベラ・ルリミット。
どうやら芋が詰まった木箱を両肩に担いだおにぎりを、手伝っているつもりらしい。
「違う違う今のは、おにぎりに言ったんだぜ!」
もう一度、指さした。
その指先が黄緑色の夏毛に触れた。
ぽきゅ――すると反射的に、片足を持ち上げようとする猫の魔物風。
「まてまてっ、そんな大きな荷物を抱えてるときに、やり返そうとするな!」
ふぉん♪
『シガミー>>危ねぇだろうが!』
両手が塞がっていれば、こうして足が出てくる。
おれは咄嗟に一行表示で叱りつけた。
この画面隅の一文は猪蟹屋の〝音が聞こえる耳栓〟をしてりゃ、全員が見られるが――
この〝>〟を二個に増やすと、猪蟹屋関係者にしか見えなくなる仕組みだ。
それでも蜂のお化け……もといリオレイニアは眼鏡の魔法具を使いこなして、〝>>〟が付いた文字も読むことが出来るようになっている。
「ぎゃにゃぎゅー――!?」
大きな木箱をぐらつかせながらも、浮かせた足を地に着け――ぽぎゅりぎゅり!
ぐりぐりと猫足を踏みしめ、〝おれにやり返す〟のを止めて、耐えている。
生まれてから随分と時が過ぎ、こうして〝分別〟のようなものを身につけつつあるのは良いことだ。
正邪の区別が付くというのなら、ソレは煩悩を生む要因になる。
新たな悪癖を身につけそうな気もするが、流石に煩悩まみれの、おれや根菜と比べりゃ、素直なもんだろぉ。
ふぉん♪
『おにぎり>>さきに行ってるんだもの。蟹味の揚げ芋をたくさん作るまでは、いまの一回やりかえすのを待ってあげるんだもの』
「ぎゅにぅぎぃぎぃー!」と今まで聞いたことがない、耳障りな鳴き声を発しながら、おにぎりが転移陣へ向かっていく。
――あんまり素直でもねぇな。
そして、おにぎりに生じた煩悩は、どうやら〝揚げ芋〟らしい。
『シガミー>>>やい根菜。ビステッカやおにぎりたちを、先に向かわせちまって良いのか?』
おれたちも一緒に行った方が良いんじゃね?
ならば今の手持ちじゃ、戦装束としちゃ心許ない。
迅雷さえ居りゃ、この大軍を率いたとて、向こう数年は余裕で戦えるが、今回は金絡みの戦になる。
屋根の上で〝蜂〟を相手にしている暇で、央都猪蟹屋本店の無人工房に行って使えそうな物を、収納魔法に詰めて来られたんだがなぁ。
その辺の金策絡みの話と、女神像の中身さまや迅雷が調子を戻した理由も、まだ聞けてねぇぞ?
ふぉん♪
『シガミー>>>やい丸茸。何とか言いやがれやい』
一行表示に返事がねぇ。画面隅の小地図によるなら、リオレイニアと辺境伯と一緒に居るが――
ふぉふぉん♪
『イオノ>>>はいはーい。向こうに行ってもやれることわあ、お祭り準備の手伝いくらいだからあ、慌ててもしかたないわよーん♪』
そうなのか……そういうことなら手持ちの食材だけでも何とかなりそうだが。
祭りと言やぁ何はなくとも――〝飯〟だ。
即ち料理番だからこそ、出来る事がある。
ふぉん♪
『シガミー>>>要するに大博打で擦っちまった分を、この祭りで取り返そうって訳だな?』
蟹の身の持ち合わせは、十分ある。
芋は、おにぎりが抱えてた程度じゃ足りんかもしれんが向こうには、ソレこそ美味い芋が売るほどにあるのだ。
おにぎりの煩悩じゃねぇが、〝蟹味の揚げ芋〟。
アレを売りさばけば、多少の実入りが見込めるだろう。
ぐふふふ、やべぇ。楽しくなってきたぞぉ!
おれが迅雷を引っつかみ、収納魔法具の中身を確認し始めた時――{>Logon__rpon__Connect>対話型セッション開始 ⚡ 龍脈言語server01.net}
§
くるりと身をひるがえすと、{Disconnect>対話型セッション終了}
おれは体の自由を、取りもどした。
此処は初等魔導学院の1年A組――つまり、おれたちの学級の教室だ。
ふぉん♪
『シガミー>>>やい星神、こんな所へ連れて来て、どういうつもりだぁ!?』
一行標示で文句を言ってやる。
星神の体はおれが、おれの数年後の姿を模して作った。
結局その体は、依代を無くした星神に取られちまって、今おれの体には、こうしておれが入っている。
ちとややこしいが基本的には、どちらも元はおれの体だ。
毎朝鏡を見る度に自分ですら、目を奪われるほどの器量。
金糸の髪に、透き通るようなきめ細やかな肌。
小さな頭に、実に均整のとれた目鼻立ち。
その双眸は儚げで。細い手足は、まるで弥勒菩薩の像の佇まい……つまり、思わず拝んじまう程に、姿が良い。
便宜上、姉と言うことになっている茅野姫と、猪蟹屋に二人並ぶと、それだけで人だかりが出来るしな。
そんなわけで、おれたち二人の差は、女神御神体一個分の身長くらいのものだ。
そのせいか、こうしてお互いに相手の体を操る事が出来る。
しかし、その力は星神の方がずっと強く、こうして、やろうと思えば、こちらが一方的に操られちまう。
ちっ、星神茅野姫からの一行標示がねぇ――
ふぉん♪
『シガミー>>>おれは揚げ芋を沢山、作らねえといけねえんだぞ。迅雷、何処に居る!?』
辺りを見渡せば、いつもの生意気な子供が肩を落として、しょぼくれてる。
他には……たしか王族に名を連ねる童と、その取り巻きが一人。
大きな教室には、おれたち4人しか居ない。
すっぽこん♪
『イオノ>>>いま誰か、揚げ芋って言った?』
揚げ芋という言葉に釣られ、おれの頭の上に落ちてきた美の女神の依代である、根菜もしくは丸茸さまを引っつかんだ。
§
「あなた方学生の本分は、学業を修めることです。シガミーさんならびに成績不振者には、本日より一週間の補習を受けていただきます」
壇上で、そう宣うのは学院長。
「アリゲッタ辺境伯家ならびに、一大穀倉地域であるポテフィール全域の存続も大事ですが――」
口元を歪めた担任教師ヤーベルトが、紙ぺらを配る。
『初等学院 前期クラス別 成績順位表』
ヤーベルトがトンと、紙の上を叩いた。
こりゃ、おれたちの成績順位か?
担任の指が、成績表の一番下まで落ちていく。
1年A組は全クラス中、最下位で――
指先の項目を見れば――
成績優秀者がクラスごとに3名ずつ、書かれていた。
わが教室からは――
『成績優秀者 1位:レトラベラ・ルリミット
2位:ビステッカ・アリゲッタ
3位:ヴィヴィエラ・R・サキラテ』
いつもの連中だった。
彼奴らめ、「勉強なんてしてない」と抜かしていた癖に……おれを謀りやがったな!
いや待て、眼鏡太朗が1位ってのはどういうことだぜ!?
常日頃から家で学問を修めてきた貴族さまなら、いざ知らず。彼女は商家の出だ。
「――わが学級の存続もー、とーてーもー大事でーす」
『成績不振者 ――位:レイダ・クェーサー
――位:アルミラージ・ラスクトール
――位:ルシィ・ジウェッソン
最下位:シガミー・ガムラン』
お貴族さまや、王族に名を連ねている奴でも、出来の悪いのが居るのなら――
その逆に平民や商家の出でも、出来の良い奴がいてもおかしくはねぇか。
黒板に書かれた『補習』や『追試日程』の文字から察するに、成績不振者であるおれたちは祭りの間もずっと、この教室で学問に励まねぇといけねぇらしい。
「えーっと、そこを何とか――そうだぜ! 芋の町の祭りが終わるまで待っ――」
辺りを窺うと、天井の梁が目に付いた。
まず天井に飛びついて、ソレから廊下側の窓へ飛び移れそうだ。
この際レイダにゃ悪ぃが、おれだけなら――
「はいダメー! 緊急職員会議による決定ですーので、くつーがえりーませぇーん!」
心なしか、やつれた様子の担任教師が――グワララランッ!
いつもの3本の魔法杖だけでなく、小脇に抱えていた追加の杖を、おれの席の両脇へ立てかけた。
ーーー
阿弥陀仏/全ての命を救い、全ての苦しみから解放する阿弥陀の光りを授ける存在。
分別/自己と他を区別する認識。またはソレにより生ずる煩悩に抗うことで、悟りへ至る実践的な教訓。
煩悩/人を煩わせ悩ませるもの。欲望、無知、執着にとらわれた状態。
弥勒菩薩/56億7千万年後にこの世に現れ悟りを開き、ありとあらゆる一切合切を一網打尽に救うとされる未来仏。
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裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
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※表紙のイラストはAIによるイメージです
【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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