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6:拡張DLCと、栽培バグ
746:初等魔導学院補習初日、芋まつり決死行
スタタタタァーン――!
座学が終わり、大神殿の間へ急ぐ。
「付いて来ても、碌な事にはならんぞぉ――お前らぁぁっ!」
何せ、念話を途中で切った五百乃大角おぉ、取っちめに行こうってんだからなぁー。
「まってっ、はぁひぃ――!」
「はぁはぁ、ひぃふぅ――!」
「もう少し速度を、緩め――!」
振り返れば、廊下の端に子供らの姿が見えた。
生意気な子供と、王族《ラスクトール》縁の者は――息も絶え絶え。
下級貴族の方は余裕があるが、それでもLV100のおれに付いてこられる筈もなく。
「こらこーら君たち、廊下を走ってはいけませーんよ」
太枝のような杖に乗り滑るように、おれを追い越していくのは担任教師。
チッ――腕の立つ奴に先行されると、出端を挫かれないとも限らん。
「――でハ、廊下以外ヲ走ってミては?――」
幻聴の迅雷がうるせぇ。
けど確かに相棒なら言いそうだ。
ヴォヴォゥーン!
魔法杖の上に立つ細身の男。
その背中が、廊下の角へ消える。
「よぉーしっ、其処だぁっ!!」
この儘、廊下を進むなら、校舎と王城付近を隔てる城壁を回り込む必要が有るからなっ!
トトォン――ドットトン!
廊下の曲がり角へ減速無しで飛び込み、その侭、壁を蹴り上がる。
眼前に迫る高窓へ手をかざし――すぽん♪
四角く空いた大穴の上窓枠を蹴って、おれは中庭へ飛び出した!
迅雷が居なくても、指輪の収納魔法具を使えば、これくらいの芸当は可能だ。
ヒュオォォオッ――外に人の姿はなく、天気も良い。
芋の祭りとか、五百乃大角の蛮行とかが無けりゃ――
のんびりと王都周辺の薬草という薬草を刈りにでも、行きたい所だぜ。
「――ガムラン町でノ一件もアります。新米冒険者タちの糧ヲ奪ッてはいけないのでは?――」
うん、喧しぃ。
このおれの中に湧いた迅雷の種子は、本当に言いそうなことを言いやがるから、無碍にも出来ん。
空中に飛び出した勢いのまま、体を縮める。
又の間からは、倒の窓枠が見えた。
消した窓へ、再び手を翳し――ぽこっ、がたん!
元通りにして、近道を塞いでやる。
「――、――――!!!」
引き返してきた細身の男の、慌てた声が聞こえた。
「ウカカカッ――♪」
おれの視界が、回転する。
学院の外壁や屋根や――青空が見える。
くそぅ。本当に良い日和だぜ!
フッ――危ねぇっ!
急に現れた、街灯の柱を――ガッ、タタァァン!
蹴り飛ばし、駆け上がる。
レンガで出来たソレに罅が入り、破片がパラパラと落ちた。
やべぇっ、少し壊しちまったな。
ふぉん♪
『解析指南>学院長から追加受注した、学院全棟改修工事の進捗は現在35%です。まだ半分も完了していません。補習授業は午後はありませんので、この機会に工事を済ませておくのが賢明では?』
む、思わぬ伏兵が。
解析指南さんが、まるで迅雷かリオレイニアのような小言を言い始めた。
ふぉん♪
『シガミー>>>わかってる。けどそれは件の〝芋祭り〟に、どーしても参加出来なかった時だ』
諦めるのは、まだ早ぇ。
灯りの魔法具に登ったおれは――
腕時計のカバーを開き、中のボタンを押した。
生体認証――チキピピッ♪
シュボッ、カシカシカシ♪
閉じた瞼越しでも見える光の奔流。
刹那で着替えが完了し――辺りが暗闇に包まれた。
ぷぴぽぽーん♪
「ハッチ閉鎖を確認、ハッチ閉鎖を確認――気密保持開始します」
五百乃大角の声(御神体本人が喋ってるわけじゃない)がして――――ヴュパパパパッ♪
大きな画面一面に、冒険者カードと同じ紋章が出た。
ヴゥゥン――陽光が戻り学院の窓に、中庭の植え込みや、煉瓦造りの柱や、その上に立つ猫の魔物風の姿が映り込んだ。
「みゃぎゃにゃぁ――♪」
五百乃大角が言うには、着ぐるみとか言うらしい――寸胴な姿になった。
早い話が、強化服自律型と同じ作りの、強化服だ。
猫の兜を付けちまうと、外には猫獣人の共用語でしか話せなくなるのが難点だが。
ソレでも此奴を着りゃぁ――目穴の空いてない鉢金の向こう。
見えないはずの景色を見渡せるだけでなく――
神々の叡知が、目に見えるようになるのだ。
元から猪蟹屋印の耳栓を付けてりゃ、目尻まで伸びた機械腕を通して、簡単な画面表示が可能だ。
ソレに加えて、おれの目の前――耳栓の画面の奥行きに、各種の表示が追加される。
耳栓の分と、虎型の分で2枚分の積層表示が使えるようになった。
虎型の上に轟雷を着りゃ、更に10枚もの積層表示が増えて、おれの頓知も増えるんだが――
ふぉん♪
『解析指南>戦術級強化鎧鬼殻〝轟雷〟の使用は推奨できません。』
わかってらぃ。
今から襲撃するのわぁ、〝大神殿の間〟だ。
大扉はくぐれたとしても、ソコに行くまでに細い通路が何本も有りやがるからな。
着るなら――大神殿の間に入ってからだ。
『▼▼▼▼』
学院屋舎の形を描く積層表示に重なり、接近者を強調するのは――動体検知の▼だ。
がやがや――わぁー!
子供らの騒々しい声が、植え込みの向こうから聞こえてきた。
『▼▼▼▼』
その速度は、おれとそう変わらん――チッ!
ヤーベルトが子供らを抱えてるなっ!
ふぉん♪
『――子供たチを置いていくノが、心配だったヨうですね――』
見かけによらず優しい、彼奴らしいな。
しかし、空を飛んでこられると、流石に分が悪ぃ。
§
「(さっき……に――)」
ゴボゴボ――
「(たしか……ぞ)」
ゴボゴボン――
「(上にも……い)」
ゴポポミュギチ――♪
子供らの声が、遠くでしやがる。
「(まさーか……水に隠れ――)」
ギュリュミュギュチッゴポポンッ――♪
担任教師の声、此方を覗き込む人影。
見つかったか!?
強化服はハッチを閉じてしまえば、完全に水が入らない仕組みだ。
つまり、水に浮く。
沈めようとしても、まるで沈まない。
水面を歩いたり転がるしか、出来なくなる。
ソレを無理矢理に全身沈めれば、その反発は凄まじい物になる。
ヴォギュヴォギュヴォギュイボギュムムムッ――――――――♪
虎型を沈めていた噴水は、精々が水深2メートルだ。
それでも掴んでいた、水を噴き出す配管を放し、虎型を解き放てば――
ヒュゴッパァァァァァァァァァァァァァァアァンッ――――!!
噴水の周りに居た子供らの、驚いた顔が見えたのは一瞬。
瞬きの間で、学院の敷地を全て見渡すほどの高空へ飛び出した!
ヒュオオォオォォォッ――――!
「みゃにゃ! みゃぎゃやふぎゃにゃにゃぁ――ニャァ!」
手足を振り回し横を向けば、城壁の向こうが見えた。
乗り越える手間も省けるってもんだぜ――ウカカカッ!
さて、迅雷式隠れ蓑を取り出し身に纏い、風に乗って城壁の向こうへ。
と思ったが、虎型は隠れ蓑ではなく――ぽこん、ジャキィン♪
〝小雨こ番〟を取り出した。
遠くから――キキンコカカカンコワワァン♪
鉄梃を叩くような騒音が聞こえてきたからだ。
この音がするってこたぁ……十中八九、奴が出てくるだろうから、戦いになれば武器を出すことになる。
それと虎型《とらがた》の首に巻くには隠れ蓑の布地が足りないし、この長物を振り回せば足りない隠れ蓑ですら邪魔になると思ったのだ。
幅のある短刀(刃渡り55㎝、刀身幅12・6㎝。ジンライ鋼製)で空中を扇げば、少しくらいなら空も飛べるだろぉ――――ぅおわわわぁっ!?
ブワッワワワワァァァァッ――迫る城壁。
落ちる落ちるっ、意外と飛べねぇ!
慌てたおれは、今度こそ隠れ蓑で風に乗ってみりゃ良いのに――ぽこん、ジャキィン♪
間違えて、もう一本の小刀を取り出した。
コレほどでけぇ大刀だが元は、身の丈五メートル越えの鎧武者に付いた小刀だ。
だから銘は〝小雨〟。
〝ひ番〟から〝や番〟までが轟雷用で、〝こ番〟と〝と番〟が虎型用と言うことになる。
ブワッワワッバタバタバタバタバタタタァァァァッ――プピピッ♪
必死に両手の小刀を振っていたら、体の向きや高さのある位置情報を演算する、邪色魔廃作動の意匠が点いた。
此奴が点くと、体の向きや重心が――
ソレこそ、修行を積んだ達人のソレになる。
ブワッササササァッ――スススィー!
そのお陰か楽に、空中を進めるようになったぞ!
「良し、この儘、城壁を――」
越えようかっていう所で――
ギュギャギュギギギギギッ――――――――!!
城壁の裏から姿を現したのは――
ギュギャギュギギギギギッ――――――――!!
矢鱈と手足が沢山生えた、鉄の塊だった。
「やっぱり……居やがったかっ!」
此処は城壁で、城壁は王城や大神殿を守るためにある。
そして、この向こう側には――
第一王女殿下の魔導工学研究所とは名ばかりの、魔導人形工房が有る。
騒々しい鉄梃音は、鳴子や陣鐘の類いで――
アレが鳴ってると、ゴーレムや学院の教師連中や、場合に良っちゃぁ――魔導騎士団が、おれや曲者を追う手筈になってる。
ガチャガチャガッシャン――プププピピィ?
以前に城壁で叩き落としてやった奴と違って、今度の新しい魔導人形の――目と口は以前のように尖っていなかった。
ヴゥン――ピピピュイ?
六つほどある目玉は円らで何処となく可愛さも感じられたが、全体的な輪郭は、やはり正気の沙汰ではなく。
手足の全てに鉤爪や鉄杭、胴体には不気味な穴や突起物だらけと――
実に凶悪な姿形をしていた。
ガチャッギュギュィーン――プピピィ?
王女殿下の思い人であるニゲル青年だけでなく、臣下や市民からも恐れられる――魔導工学の落とし子。
伊達に設計思想に〝威圧感〟を掲げられてはいないのだ。
ブワッササササァッ――スススィー!
虎型の金剛力を目一杯使い、落ちることなく城壁の向こう側へ。
ププンピィ?
城壁の上。鎮座する業憂無。
異形の怪物が真下からジッと虎型を、蛙が羽ばたく羽虫を見るが如く――見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる。
ちなみに、あの――〝軍用全天球レンズ〟は、おれが王女からの依頼で作ってやった物だ。
ふぉん♪
『解析指南>央都ラスクトール自治領第一王女、ラプトル・ラスクトール姫との契約による、軍用全天球レンズの納品は現在540/1500個(36%)。こちらも、この機会に完遂するべき案件であると見受けられます』
あーうーん、耳が痛ぇなぁ。
ギルドからの正式な依頼として受けちまってるから、此方の方も、有耶無耶に出来ねぇのは確かだが。
だが、おにぎりの様子が、どうにも気になるのだから、仕方が無ぇ。
それに女神の料理番としては――
芋の祭典で振る舞われるだろう、芋をふんだんに使った飯の味も知っときてぇ。
ギュギャギュギギギギギッ――――――――ガッシャドルルルゥン!!
到頭、突き出される鉄杭!!!
解析指南は、迅雷と同じようなことを言ってくれるが、念話で時が止まらねぇ。
つまり紙一重で避ける、自信は無い。
「みゃにゃごっ――にゃぁ♪」
納品する数が6個増えちまうが、仕方がねぇ!
おれは小雨を振り上げ、下を向いた。
ーーー
種子/物事を引き起こす可能性・要因。心の最奥にある無自覚な意識(阿頼耶識)に生まれた膨大な記憶や業のこと。しゅうじ、しゅじと読む仏語。先端生命情報科学(バイオインフォマティクス)の先を行く概念。
轟雷/シガミー・ガムランが着用する戦術級強化鎧鬼殻〝轟雷〟のこと。全長約5・3メートル、総重量約5,700キログラム(基本構成時)。鋼鉄製の鎧武者。歯車型リニアで抜刀する〝太刀風の太刀(全長2・7メートル。90キログラム)〟や、黒刃の〝小雨(全長76・2センチ、重量980グラム)〟などを装備。
※諸説有ります。
座学が終わり、大神殿の間へ急ぐ。
「付いて来ても、碌な事にはならんぞぉ――お前らぁぁっ!」
何せ、念話を途中で切った五百乃大角おぉ、取っちめに行こうってんだからなぁー。
「まってっ、はぁひぃ――!」
「はぁはぁ、ひぃふぅ――!」
「もう少し速度を、緩め――!」
振り返れば、廊下の端に子供らの姿が見えた。
生意気な子供と、王族《ラスクトール》縁の者は――息も絶え絶え。
下級貴族の方は余裕があるが、それでもLV100のおれに付いてこられる筈もなく。
「こらこーら君たち、廊下を走ってはいけませーんよ」
太枝のような杖に乗り滑るように、おれを追い越していくのは担任教師。
チッ――腕の立つ奴に先行されると、出端を挫かれないとも限らん。
「――でハ、廊下以外ヲ走ってミては?――」
幻聴の迅雷がうるせぇ。
けど確かに相棒なら言いそうだ。
ヴォヴォゥーン!
魔法杖の上に立つ細身の男。
その背中が、廊下の角へ消える。
「よぉーしっ、其処だぁっ!!」
この儘、廊下を進むなら、校舎と王城付近を隔てる城壁を回り込む必要が有るからなっ!
トトォン――ドットトン!
廊下の曲がり角へ減速無しで飛び込み、その侭、壁を蹴り上がる。
眼前に迫る高窓へ手をかざし――すぽん♪
四角く空いた大穴の上窓枠を蹴って、おれは中庭へ飛び出した!
迅雷が居なくても、指輪の収納魔法具を使えば、これくらいの芸当は可能だ。
ヒュオォォオッ――外に人の姿はなく、天気も良い。
芋の祭りとか、五百乃大角の蛮行とかが無けりゃ――
のんびりと王都周辺の薬草という薬草を刈りにでも、行きたい所だぜ。
「――ガムラン町でノ一件もアります。新米冒険者タちの糧ヲ奪ッてはいけないのでは?――」
うん、喧しぃ。
このおれの中に湧いた迅雷の種子は、本当に言いそうなことを言いやがるから、無碍にも出来ん。
空中に飛び出した勢いのまま、体を縮める。
又の間からは、倒の窓枠が見えた。
消した窓へ、再び手を翳し――ぽこっ、がたん!
元通りにして、近道を塞いでやる。
「――、――――!!!」
引き返してきた細身の男の、慌てた声が聞こえた。
「ウカカカッ――♪」
おれの視界が、回転する。
学院の外壁や屋根や――青空が見える。
くそぅ。本当に良い日和だぜ!
フッ――危ねぇっ!
急に現れた、街灯の柱を――ガッ、タタァァン!
蹴り飛ばし、駆け上がる。
レンガで出来たソレに罅が入り、破片がパラパラと落ちた。
やべぇっ、少し壊しちまったな。
ふぉん♪
『解析指南>学院長から追加受注した、学院全棟改修工事の進捗は現在35%です。まだ半分も完了していません。補習授業は午後はありませんので、この機会に工事を済ませておくのが賢明では?』
む、思わぬ伏兵が。
解析指南さんが、まるで迅雷かリオレイニアのような小言を言い始めた。
ふぉん♪
『シガミー>>>わかってる。けどそれは件の〝芋祭り〟に、どーしても参加出来なかった時だ』
諦めるのは、まだ早ぇ。
灯りの魔法具に登ったおれは――
腕時計のカバーを開き、中のボタンを押した。
生体認証――チキピピッ♪
シュボッ、カシカシカシ♪
閉じた瞼越しでも見える光の奔流。
刹那で着替えが完了し――辺りが暗闇に包まれた。
ぷぴぽぽーん♪
「ハッチ閉鎖を確認、ハッチ閉鎖を確認――気密保持開始します」
五百乃大角の声(御神体本人が喋ってるわけじゃない)がして――――ヴュパパパパッ♪
大きな画面一面に、冒険者カードと同じ紋章が出た。
ヴゥゥン――陽光が戻り学院の窓に、中庭の植え込みや、煉瓦造りの柱や、その上に立つ猫の魔物風の姿が映り込んだ。
「みゃぎゃにゃぁ――♪」
五百乃大角が言うには、着ぐるみとか言うらしい――寸胴な姿になった。
早い話が、強化服自律型と同じ作りの、強化服だ。
猫の兜を付けちまうと、外には猫獣人の共用語でしか話せなくなるのが難点だが。
ソレでも此奴を着りゃぁ――目穴の空いてない鉢金の向こう。
見えないはずの景色を見渡せるだけでなく――
神々の叡知が、目に見えるようになるのだ。
元から猪蟹屋印の耳栓を付けてりゃ、目尻まで伸びた機械腕を通して、簡単な画面表示が可能だ。
ソレに加えて、おれの目の前――耳栓の画面の奥行きに、各種の表示が追加される。
耳栓の分と、虎型の分で2枚分の積層表示が使えるようになった。
虎型の上に轟雷を着りゃ、更に10枚もの積層表示が増えて、おれの頓知も増えるんだが――
ふぉん♪
『解析指南>戦術級強化鎧鬼殻〝轟雷〟の使用は推奨できません。』
わかってらぃ。
今から襲撃するのわぁ、〝大神殿の間〟だ。
大扉はくぐれたとしても、ソコに行くまでに細い通路が何本も有りやがるからな。
着るなら――大神殿の間に入ってからだ。
『▼▼▼▼』
学院屋舎の形を描く積層表示に重なり、接近者を強調するのは――動体検知の▼だ。
がやがや――わぁー!
子供らの騒々しい声が、植え込みの向こうから聞こえてきた。
『▼▼▼▼』
その速度は、おれとそう変わらん――チッ!
ヤーベルトが子供らを抱えてるなっ!
ふぉん♪
『――子供たチを置いていくノが、心配だったヨうですね――』
見かけによらず優しい、彼奴らしいな。
しかし、空を飛んでこられると、流石に分が悪ぃ。
§
「(さっき……に――)」
ゴボゴボ――
「(たしか……ぞ)」
ゴボゴボン――
「(上にも……い)」
ゴポポミュギチ――♪
子供らの声が、遠くでしやがる。
「(まさーか……水に隠れ――)」
ギュリュミュギュチッゴポポンッ――♪
担任教師の声、此方を覗き込む人影。
見つかったか!?
強化服はハッチを閉じてしまえば、完全に水が入らない仕組みだ。
つまり、水に浮く。
沈めようとしても、まるで沈まない。
水面を歩いたり転がるしか、出来なくなる。
ソレを無理矢理に全身沈めれば、その反発は凄まじい物になる。
ヴォギュヴォギュヴォギュイボギュムムムッ――――――――♪
虎型を沈めていた噴水は、精々が水深2メートルだ。
それでも掴んでいた、水を噴き出す配管を放し、虎型を解き放てば――
ヒュゴッパァァァァァァァァァァァァァァアァンッ――――!!
噴水の周りに居た子供らの、驚いた顔が見えたのは一瞬。
瞬きの間で、学院の敷地を全て見渡すほどの高空へ飛び出した!
ヒュオオォオォォォッ――――!
「みゃにゃ! みゃぎゃやふぎゃにゃにゃぁ――ニャァ!」
手足を振り回し横を向けば、城壁の向こうが見えた。
乗り越える手間も省けるってもんだぜ――ウカカカッ!
さて、迅雷式隠れ蓑を取り出し身に纏い、風に乗って城壁の向こうへ。
と思ったが、虎型は隠れ蓑ではなく――ぽこん、ジャキィン♪
〝小雨こ番〟を取り出した。
遠くから――キキンコカカカンコワワァン♪
鉄梃を叩くような騒音が聞こえてきたからだ。
この音がするってこたぁ……十中八九、奴が出てくるだろうから、戦いになれば武器を出すことになる。
それと虎型《とらがた》の首に巻くには隠れ蓑の布地が足りないし、この長物を振り回せば足りない隠れ蓑ですら邪魔になると思ったのだ。
幅のある短刀(刃渡り55㎝、刀身幅12・6㎝。ジンライ鋼製)で空中を扇げば、少しくらいなら空も飛べるだろぉ――――ぅおわわわぁっ!?
ブワッワワワワァァァァッ――迫る城壁。
落ちる落ちるっ、意外と飛べねぇ!
慌てたおれは、今度こそ隠れ蓑で風に乗ってみりゃ良いのに――ぽこん、ジャキィン♪
間違えて、もう一本の小刀を取り出した。
コレほどでけぇ大刀だが元は、身の丈五メートル越えの鎧武者に付いた小刀だ。
だから銘は〝小雨〟。
〝ひ番〟から〝や番〟までが轟雷用で、〝こ番〟と〝と番〟が虎型用と言うことになる。
ブワッワワッバタバタバタバタバタタタァァァァッ――プピピッ♪
必死に両手の小刀を振っていたら、体の向きや高さのある位置情報を演算する、邪色魔廃作動の意匠が点いた。
此奴が点くと、体の向きや重心が――
ソレこそ、修行を積んだ達人のソレになる。
ブワッササササァッ――スススィー!
そのお陰か楽に、空中を進めるようになったぞ!
「良し、この儘、城壁を――」
越えようかっていう所で――
ギュギャギュギギギギギッ――――――――!!
城壁の裏から姿を現したのは――
ギュギャギュギギギギギッ――――――――!!
矢鱈と手足が沢山生えた、鉄の塊だった。
「やっぱり……居やがったかっ!」
此処は城壁で、城壁は王城や大神殿を守るためにある。
そして、この向こう側には――
第一王女殿下の魔導工学研究所とは名ばかりの、魔導人形工房が有る。
騒々しい鉄梃音は、鳴子や陣鐘の類いで――
アレが鳴ってると、ゴーレムや学院の教師連中や、場合に良っちゃぁ――魔導騎士団が、おれや曲者を追う手筈になってる。
ガチャガチャガッシャン――プププピピィ?
以前に城壁で叩き落としてやった奴と違って、今度の新しい魔導人形の――目と口は以前のように尖っていなかった。
ヴゥン――ピピピュイ?
六つほどある目玉は円らで何処となく可愛さも感じられたが、全体的な輪郭は、やはり正気の沙汰ではなく。
手足の全てに鉤爪や鉄杭、胴体には不気味な穴や突起物だらけと――
実に凶悪な姿形をしていた。
ガチャッギュギュィーン――プピピィ?
王女殿下の思い人であるニゲル青年だけでなく、臣下や市民からも恐れられる――魔導工学の落とし子。
伊達に設計思想に〝威圧感〟を掲げられてはいないのだ。
ブワッササササァッ――スススィー!
虎型の金剛力を目一杯使い、落ちることなく城壁の向こう側へ。
ププンピィ?
城壁の上。鎮座する業憂無。
異形の怪物が真下からジッと虎型を、蛙が羽ばたく羽虫を見るが如く――見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる見られてる。
ちなみに、あの――〝軍用全天球レンズ〟は、おれが王女からの依頼で作ってやった物だ。
ふぉん♪
『解析指南>央都ラスクトール自治領第一王女、ラプトル・ラスクトール姫との契約による、軍用全天球レンズの納品は現在540/1500個(36%)。こちらも、この機会に完遂するべき案件であると見受けられます』
あーうーん、耳が痛ぇなぁ。
ギルドからの正式な依頼として受けちまってるから、此方の方も、有耶無耶に出来ねぇのは確かだが。
だが、おにぎりの様子が、どうにも気になるのだから、仕方が無ぇ。
それに女神の料理番としては――
芋の祭典で振る舞われるだろう、芋をふんだんに使った飯の味も知っときてぇ。
ギュギャギュギギギギギッ――――――――ガッシャドルルルゥン!!
到頭、突き出される鉄杭!!!
解析指南は、迅雷と同じようなことを言ってくれるが、念話で時が止まらねぇ。
つまり紙一重で避ける、自信は無い。
「みゃにゃごっ――にゃぁ♪」
納品する数が6個増えちまうが、仕方がねぇ!
おれは小雨を振り上げ、下を向いた。
ーーー
種子/物事を引き起こす可能性・要因。心の最奥にある無自覚な意識(阿頼耶識)に生まれた膨大な記憶や業のこと。しゅうじ、しゅじと読む仏語。先端生命情報科学(バイオインフォマティクス)の先を行く概念。
轟雷/シガミー・ガムランが着用する戦術級強化鎧鬼殻〝轟雷〟のこと。全長約5・3メートル、総重量約5,700キログラム(基本構成時)。鋼鉄製の鎧武者。歯車型リニアで抜刀する〝太刀風の太刀(全長2・7メートル。90キログラム)〟や、黒刃の〝小雨(全長76・2センチ、重量980グラム)〟などを装備。
※諸説有ります。
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カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
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