滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

１：輪廻転生、おいでませガムラン町

９９：烏天狗（シガミー）、ふたりめの友達

「「ひかりのたま」」
　ポポポゥワァン。

　広ひろくはない渓谷けいこくの亀裂みち。
　左右さゆうの断崖だんがいを、ギリギリ照らせるくらいの灯あかりを灯ともす。

　暗闇くらやみににあらわれる、割れた大卵おおたまご。

　夜目よめが利くとはいえ迅雷びーどろごしだと、色合いろあいがわかりづらい。
　ひかりのたまを指ゆびでうごかして、よーく照らす。

　あらわになる姿すがた。
　あざやかな芥子色からしいろの帽子ぼうしをとって、頭あたまをカシカシと掻かいている。
　頭あたまのうえからピンと突きでた、髪色かみいろとおなじ黒くろい耳みみ。
　利発りはつそうな人ひとの顔かお。けど顔かおつきは、どことなく狐きつねっぽい。

　肩かたをおとし、かなしげに卵たまごのからをみつめている。
　年としの頃ころはレイダよりは上うえ。
　ニゲルよりは下したくらいかな。

　こんな闇夜やみよに、子供こどもがひとりで出歩であるくのはどうかと思うけど、ひとの事は言えないわけで――言わないでおく。

「ざ、残念ざんねんだったね……たまご」
　彼かれにとって〝たまご〟は、いのち拾びろいしたことよりも重要じゅうようらしかった。
　なんて声こえを掛ければ良いのかわからず、思おもったことをそのまま言ってみる。

　すると狐耳きつねみみが、ピクリとコッチを向いた。
　両手りょうてをガシリとつかまれ――上下じょうげに振りまわされた！

「助たすけてくれて、ありがとぉうコォォン、あの高たかささから落っこちて無事ぶじって、一体いったいどんな屈強くっきょうなやつかとおもったら……子供こども？　あ、わかったコォン！　さては屈強くっきょうな子供こどもだね？」
「あわわ――!?　た、たしかに――ぼくは普通ふつうの子供こどもよりは頑丈がんじょうかも……ね」

　助たすかったのはコッチもだけど――彼かれには手刀しゅとうのスキルをつかった、自覚じかくがないのかもしれない。
　ぎゅっ――落ち着かないから、手をつかみ返かえしてとめた。

「うにょるぁー!?」
　ルコル少年しょうねんは、押さえられた腕にふりまわされ、ぴょぴょんと跳ねた。
「〝我われをぉ――連つれもどしぃ――部隊ぶたいぃ〟――ではないぃ――コォォォン？」
　覇気はきのない、ふんにゃり声こえが、渓谷けいこくに木霊こだまする。

「ルコルさまを見たのは、今日きょうが初はじめてだよ」
「ほんとぉぉぉぉぉぉぉぉぉに、リカルルの手のものではないぃ――コォォン？」
　ものすごく疑うたわれてる。

「リカルルさまは町まちでいつも見かけるけど――話はなしたこともないよ」
　リカルルに、ぼくのことがばれたら――どんな面倒めんどうなことになるかわからない。
　素性すじょうはできるだけ、内緒ないしょにしておきたい。

「君きみは黒くろづくめで怪あやしーけど、嘘うそではないぽい――ふぅぅー、安心あんしんしたコォン」
　落ちこんだり疑ったり、安心あんしんしたりといそがしい。
　せわしないやつだけど、悪わるいやつではない気がする。

「リカルルさまのご親戚しんせきってことは、貴族きぞくさまなのかい？」
　立派りっぱな身なりから、コントゥル家の縁者えんじゃというのは嘘うそではないことがわかる。

「そだよ。けど貴族きぞくじゃないコォン。〝さま〟は、いらないコン」
「じゃあ、ルコル。はじめまして、ぼくは――」
　長手甲ながってっこうと高下駄たかげたのない今いまのすがたは、天狗てんぐというには寸足すんたらずらずだ。

「ぼくは――烏天狗からすてんぐだよ♪」
　この小ちいさい天狗姿てんぐすがたは、そう呼ぶことにする。

「〝カラテェ〟だね、すてきな名前なまえだコォン」
「〝烏天狗からすてんぐ〟だよ？」

「カフェラテみたいで、おいしそうだコォン」
　おいしそう？　食べ物ものの名前なまえに似てるのか？
　じゃあ、〝カラテェ〟でいいや。

　　　§

「ガムラン町ちょうで買いとり枠わくが一杯いっぱいになっちゃった物ものを、隣町となりまちに売りに行くとちゅうなんだ」
　真夜中まよなかに出歩であるいてる理由りゆうくらいは、正直しょうじきに説明せつめいする。

「ふむふむ、なるほどコォン。じゃあさじゃあさ城塞都市じょうさいとしまでさ、案内あんないしてあげるからさ――もう一回取いっかいとりにいくのを手伝てつだってくれないコォォン？」
　ルコルが指ゆびさしたのは――割れた卵たまごの殻から。

「じつわさ――明日あしたの朝あさまでに、たまごを持って帰かえらないと、折檻せっかんされちゃうんだコォン」
　ふたたびうなだれる、ルコル少年しょうねん。
「それは大変たいへんだね。けどぼくも、朝あさまでにガムラン町まちにもどらないと――折檻せっかんされかねない」
　金剛力こんごうりきがまた使つかえるようになるのは、明日あすの深夜しんや。
　いますぐガムラン町ちょうに引きかえしても、歩あるくしかないからギリギリ戻もどれるかどうかだ。

「じゃあさじゃあさ、手伝てつだってくれたらさ、我われがこの杖・・・で送おくってってあげるからさ――」
　杖つえ……魔法まほうの杖つえ？
　リオレイニアが姫さんリカルルがらみの急きゅうな用事ようじで、平ひらたい城しろに飛んでかえったとき――本当に・・・空そらを飛んでかえったのを見たことがある。

　ふだんの小ちいさいのじゃなくて、太ふとくて長ながくて〝大おおききな石いしがついた杖つえ〟に持ち替えてた。
　たしかにアレなら、ひとっ飛びで――

「――なんたって、君きみは腕うでが立つコォン。ついて来てくれると、とても助たすかるコォン♪」
　袈裟懸けさがけにした、おおきなカバン。
　その中なかから、ルコルが取り出したのは――

「え？　これが杖つえ……なの？」
　それは冒険者ぼうけんしゃギルドにあるのと、まるっきり同おなじ作つくり。
　どこからどう見ても、何なんの変哲へんてつもない、ただの一人掛ひとりがけの――〝椅子いす〟だった。