滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

２：カブキーフェスタへの道

１１９：カブキ者（シガミー）、ＶＳ眷属

「うふふふっ、くすくすくす、クツクツクツクツ――――コォＯＮおぉん！」
　ぎちり――――――――シュッボゥ！
　ごぉぉぉぉぉぉぉっぉぉわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――!!!

　燃えあがる、命いのちの炎ほのお。
　その青白あおじろい濁流だくりゅうは天てんを焦がし――おれを飲みこむ程ほどにふくれあがる！
　焔ほむらの印いんじゃねぇ!?

　さっき見た指形ゆびがたは、たしかに最弱さいじゃくの焔ほむらの印いんだった。
　たいまつの炎ほのおが、はじけ飛ぶくらいの――初級しょきゅうの法印いんのはず。

「瀑布火炎ばくふかえんの術じゅつ――かっ！」
　両手りょうてで顔かおを覆おおう。

　ぼごうわぁっ――――――――どこまでも膨ふくれあがる、火のない炎ほのお。
「（迅雷ジンライ――――!?）」
　返事へんじがねぇ！

　――――キィィィィィィィィッィンッ♪
　姫さんリカルルそっくりの顔かおに、うかぶ二ふたつの月影つきかげの瞳ひとみ。

　――からだが動うごかねえ！
　ぼっうわぁ――――おれの両腕りょううでに火が移うつる！
　おれは真言マントラを唱となえちゃいねぇ――――燃えてるわけじゃねぇのか？
　氷こおりに浸けたみてぇな――腕うでをつたってながれこむ――つめたい。

「おれぁ、伯爵夫人おくがたさまとやり合うつもりはねぇ――――ないです！」
　迅雷ジンライ、いいかげんに起きろ！
　ジタバタ――――ぅお!?
　もがいたら、腕うでがうごく？
　青あおく燃えてるトコだけ、動うごかせるようになった。

　うしろ頭あたまから、迅雷かんざしを引っこ抜く。
　金糸きんしのような髪かみが、ほどけて――青あおい瀑布火炎だくりゅうに向かって、なびく。

「（おい、どうした!?　なんか言え！）」
　だめだ。神力かみなりがきれたのか、迅雷ジンライの小石いしの灯あかりが消えてる。

「〝法印ほういん〟を知ってるってことわぁ、あなたわぁ――この星ほしの生まれじゃないのねぇ？」
　ふさふさの尻尾しっぽを、大おおきく揺らす――狐耳きつねみみ。
　くるん――――尻尾しっぽがまえに回まわされると、たち上のぼっていた炎ほのおが――――コッチに流れこんできた！

「うっわぁぁぁぁわわぁぁ!?　ほ、星ほしぃ!?　五百乃大角いおのはらみたいな事ことを言うな、わからん！　――避けられねぇ！」
　足あしがうごかん。けど腕うでの炎ほのおが燃え広ひろがった――腹はらのあたりまでが、動うご
かせる！

　ぼごわっ、ごぅおわぁっ――――紙一重かみひとえで避よける、避よける、避よっける。
　ぐりんぐりりん――――尻しりを向けた公爵夫人きつねみみが、尻尾しっぽを蠢うごめかせた。
「きゃっきゃっきゃ♪　――――あら、しぶとい？」
　尻尾しっぽがが――おれを狙ねらってる。
　巨大きょだいな狐火きつねびが、おれを追ってくる。

　あの尻尾しっぽで狐火きつねびを、操あやつってんのか。
　それにしても他ほかの連中れんちゅうは、ドコに行ったんだ!?

　ごぉぅわ――――大おおきく揺れた炎ほのおが、おれの全身からだを覆い尽くす！
「つ、つめてぇぇぇぇっ――――!!!」
　狐火きつねびに、呑みこまれた。ピキパキ――指先ゆびさきが凍こおりつく。
　こ、コレだけの〝人魂ひとだま〟にかこまれてんだ、もう燃やす。
　何なんでも良いから燃やさねぇと――凍こごえ死ぬ。

「ＯＮおぉん――――！」
　真言マントラを唱となえる。
　ぎちり――――――――シュぷすん！
　発火はっかはしたけど、火が噴き出ねぇ――――かまうか、もう氷こおり死じぬ！

「キリキリ――――〝瀑布ばくふ火炎かえんの印いん〟を結むすぶ――――バザラ」
「ウン――――丹田から吹きぷすぷすぷすん出す白煙、ぼっふぁぁ――――ハッタ！」
　半径はんけい、三丈さんじょうを一瞬いっしゅんで焦土しょうどにかえる、焔ほのおの瀑布ばくふが――出ねえ。

　ボシュプシュシュワワワッ――ボッフワァァァァァァァァァァァァァァァンッ！
　あたりが白煙はくえんで覆おおわれた。何なにも見えなくなった。

　霧きりの向こうに揺らめく気配けはい。
　青あいい人魂ひとだまは消えた。冷つめたさがやわらぐ。
「わぁたぁしとー、同おなじ技わざが使つかえるのねぇぇぇぇぇーっ？　ひょっとして、アナタも江戸えどの人？」
　声こえが近ちかよってくる。

　ヴッ――――じゃりぃん♪
　錫杖しゃくじょうを出す。まだかじかむ指先ゆびさきで、しっかりとつかむ。
「え、江戸えどだあ？　東ひがしの都みやこは行ったことがねぇからよく知らん。あんたの正体しょうたいが妖狐ようこでも、五穀豊穣ごこくほうじょうの神かみの眷属けんぞくでも、関係かんけいねぇっ！　――ので、やり合うつもりはねぇ……ないですっ！」

「えっ!?　コッチだって無いわよぅ、そんなの！」
　ぶわさぁっ――ぱちぃん♪
　妖狐ようこが尻尾しっぽを手でなでると、霧きりが消え――指ゆびを鳴らすと、あたりが明あかるくなった。

「いまのは一体いったい!?」
　がやがやがや――姫さんリカルルがニゲルに助たすけだされ、
　工房長ノヴァドが巨大きょだいな魔法杖まほうつえを、隅すみっこへ運はこんでいく。

「どうしたの、シガミー。となり良いかい？　ぼくも参加さんかする」
　どこかから椅子いすを持ってきたニゲルが、横よこに座すわった。

「（おい、巨大きょだいな人魂ひとだまだか狐火きつねびだか、瀑布火炎ばくふかえんの術じゅつだかは、どこいった!?）」
「――どうかシましたか、シガみー？――」
　返事へんじをする迅雷ジンライ。神力めしが切れてたわけじゃ、ねぇみてぇだ。
「――マた口調くチょうが、元もトに戻もドっていまスよ？――」

　当とうの妖狐おくがたさまは、面つらが良い黒いのなんとかに、かいがいしく座すわらされている。
「――エクレア・トルティーヤでス、シガみー――」　
　そうだ、柄繰エクレアだ、柄繰エクレア。

「（今いまな、あの姫ひめさんの母上ははうえのヤツにな――）」
　――――キィィィィィィィィッィンッ♪
　昼中ひるなかには、見ることのできないはずの、月つきの光ひかりをたたえた瞳ひとみ。
　伯爵夫人おくがたが、こっちをみてる。

「（あ、あとで話はなすよ）」
　天井てんじょうも焦げてないし、おれ……ぼくの指先ゆびさきも凍こおってない。
　まさに狐きつねに化かされてた――って訳わけだな。

　アレが、この領地くにの奥方おくがたさまだっていうなら、たとえ妖狐ようこでも悪わるいもんじゃねえ……と思おもう。
　ガムラン町ちょうも城塞都市となりまちも、みんな楽たのしそうに暮らしてる。
　どっちかっていやぁ、ウチの惡神かみさんのほうがタチが悪わるいまであるしな。
　ただ、リカルル以上いじょうに、敵てきに回まわしたらやべえ……やばいのだけは、よーくわかった。

「それで、リカルルちゃぁん。その子わぁ、だぁれぇ？」
「は、はは、はい。あの子は期待きたいのスーパールーキー、シガミーですわぁ！」
「総員そういん、拍手はくしゅ――」

「あなたわぁ、シガミーちゃんっていうのねぇー。私わたくしはコントゥル家名代みょうだいの――ルリーロ・イナリィ・コントゥルでーす。以後いごお見知りおきを？　うふふふ♡」
　なんとなく……ウチの下っ腹いおのはらには、会わせない方が良い気がする。