滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

２：カブキーフェスタへの道

１４９：龍脈の棟梁（シガミー）、央都なにそれおいしーの？

　女神像めがみぞうは数段すうだん高たかい位置いちにあるから――あたりの様子ようすは、よく見えた。
　まえには伯爵とのさんと姫ひめさん。

　その向こうには、隊列たいれつを組む――モサモサ連中れんちゅうがいる。
　ありゃ、革鎧かわよろいのつもりか？
　ペラペラの布ぬのが隙間なくビッシリと張りつけられ――まるでそういう生きもの――蓑虫みのむしみたいだった。

「――んぁ？」
　背後はいごを振りかえる――ぽきゅり♪
　〝猪蟹屋んシシガニヤン〟という金剛力こんごうりきが使つかえるこの服・は、あるいたり殴なぐったりすると、面白おもしろい音おとが出る。

「――シガみー、五時ごジ・七時しチじ……巽たツみ・坤ひつジさるノ方向ほうこウかラも来ていマす・――」
　服ふくのうしろ首くびに差し込まれた迅雷ジンライが、話はなしかけてきた。
「（――わかってる。女神像めがみぞうの、うしろにも居るぞ）」
　コレだけ静しずかな場所ばしょで、ここまで近寄ちかよられれば、気配けはいを感かんじとることはたやすい。
　出来できなけりゃ、いくさ場では死ぬ。

　猫耳頭あたまぼうぐは異様いように大おおきくて――その内側うちがわがすべて光の板ビードロ（大だい）で覆おおわれている。
　ソコには外そとの景色けしきだけじゃなく、いろいろな文字もじや図案ずあんも映うつしだされていた。

　ぴぴぴぴぴっ♪
『▼――Unknown』『▼――Unknown』
　そのなかでも、ひときわ便利べんりなのが、この『動く物を見えモーションる化する窓なんたら』だ。

　ビードロ隅すみの小ちいさな地図ちず。
　女神像めがみぞうのうしろに回まわった二人てきの位置いちが、『▼さんかく』で示しめされている。

「（コイツらは何なんだ？）」
　石いしで出来できた像そうを透かして、〝モサモサした輪郭りんかく〟がみえた。
　モサモサどもは、こっちの様子ようすをうかがっている。

　いくら気配けはいをかんじることが出来できても、〝石いしに隠れた人影ひとかげを見ること・・・・〟は普通ふつう出来できない。
　そして〝気配けはいが届とどかないほど、とおくの敵てきの位置いちを知ること〟も出来できるから――迅雷ジンライが居れば、敵てきに先手せんてを取られることはまずなかった。

「――わかりまセんが首くビにサげた護符アミュレッとハ、イオノファラー教きょウで使つかわれテいる物もノデす・――」
　そして迅雷ジンライは、おれと頭あたまの中なかで内緒話はなしが出来できた。
　本当ほんとうは念話ねんわっていう、あたりの時間じかんが遅おそくなるほどの高速はやさで会話かいわが出来できるんだが、いまは使つかってない。

　ふぉん♪
『＞女神像＃７７８とのライブラリ共有のためには、
　　女神像＃１のアップデートが必要になります
　　未適用のアップデートは５１３４３８個です』

　ビードロに出るこの文字もじは、迅雷ジンライか五百乃大角かみさんがだしてる。
　コレを使つかって会話かいわも出来できるが、大抵たいていは〝神々かみがみのチカラ〟を使つかうための〝手順てじゅん〟なんかを知らせてくる。
　意味いみは正直しょうじき、さっぱりわからん。

　〝神々かみがみのチカラ〟は〝スキル〟という、〝この世界せかいの理ことわり〟とは別・に存在そんざいしている。
　〝宛鋳符悪党アーティファクト〟……いにしえから存在そんざいする発掘はっくつ魔法具まほうぐとか、女神像めがみぞうとかがソレだ。

「――あー、すっごい溜まってる。よーし、いそいで女神像めがみぞうのアップデートおー済ませちゃいましょうかぁねぇ♪・――」
　素すっ頓狂とんきょうな声こえを出す、美の女神いおのはら。
　神かみと言われても疑うたがわない程度ていどには美うつくしかったんだが、御神体ごしんたいの逆さ鏡餅・・・・みたいな体からだになって――なんというか――かわいらしい姿すがたになった。

　美の女神めがみの実体じったいは、目を疑うたがうほどの大食おおぐらい。
　そのせいか、ほんのすこし下したっ腹ぱらが出てた。
　まるで妖怪ようかいのような笑わらい声ごえに、酔っぱらいのような無軌道むきどうな言動げんどう、
　それでも、おれをこの来世らいせに生まれかわらせた――大恩神だいおんじんだ。

　覆われる視界ビードロの中なか。
　和菓子わがしみたいにつぶれた物の形あいこんを、引っかきまわし始はじめる――梅干しいおのはらの平たい奴かーそる。
　いま、五百乃大角いおのはらの御神体からだは、最辺境さいへんきょうのガムラン町ちょうにある。
　迅雷ジンライの収納魔法しゅうのうまほうの中なかを、分け身ぶんしんである平ひらたい姿すがたなら自由じゆうに行き来できるとかで――いまは、ココとガムラン町ちょうの二カ所にかしょに居る。

「（おい、なんかすんのは――待て）」
　まずは向こうの、出方でかたを見てからだ。

「いったい、どういうことですのぉー？」
　父上とのさんに近ちかづくリカルルが、豪奢ごうしゃな剣けんの位置いちを――背中側せなかがわに寄せた。
　ありゃ、脇差しかたなが振れねえくれぇの近ちかさで――抜く・・時ときのしぐさだ。

「まてにゃ、姫さんみゃーご――にゃぁぁ！」
　ココは言ってみりゃ〝総本山そうほんざん〟だ。
　剣けんを抜いたらまずいっ！
　まわりのモサモサに死人しにんが出たら、相当そうとうやべぇことになる。

　ぴぴぴぴぴっ♪
『▼))))』『((((▼』
　動うごきだしたうしろの連中れんちゅうも気になるけど、しかたねぇ――――ぽきゅぽきゅぽきゅ♪

「あっバカシガミー！　何なにやってんのぉぉぉぉ――――!?」
　五百乃大角いおのはらの、間のぬけた怒声どせい。
　きゅっぽぉぉぉぉんっ♪
　轟とどろいたのは、気のぬけた音おと……あっ、おれの尻尾しっぽが抜けたのか!?

　――――――――――――――――――バッヂンッ!!!!!!!!
　なにかが寸断すんだんされ――――――シュュュュコォォォォォォォォォォォンン♪
　あたりが残響ざんきょうに包つつまれ――すこし薄暗うすくらくなった。

　ふぉぉぉっぉん♪
『ＦＡＴＳ＞ＡＯＳのアップデートに失敗しました
　　　　　＞メンテナンスサービスに連絡するか、
　　　　　　ＦＡＴＳシステムを再起動してください』

　何なんか出た。赤あかくチカチカしてて、すげぇ不気味ぶきみだ。

「ああもう、だからまてっていったのに！」
「はっぁぁぁぁぁぁぁぁっ――――――――――――!?　女神像端子めがみぞうたんしを引っこ抜いちゃったのわぁ、シガミーでしょぉー!?」

　わさわさわさわさ。
　モサモサの布ぬの人間にんげんが微かすかな音おとを立てて、そーっと近ちかづいてくる。

「ちょっと、お父とおさま――どーいうことなんですのぉー!?」
　わめく姫ひめさん。
　つかみかかられた伯爵とのさんが、「ぐぇぇぇ、や、やめなさい」と喘あえいでる。

　シャキィィン――――シャキシャキシャキィン♪
　抜刀ばっとうし歩ほをすすめる――包囲ほういの輪。

　カハァ――――！
　口くちをひらく――モサモサども。

　なんかの呪文じゅもんが来る――――「迅雷みゃ、どうすにゃぁ――!?」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「――こねこがいっぴき♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
　なんだっ!?　――――ひょっとして……歌うたかっ!?
　低ひくい声こえで放はなたれた合唱がっしょうは――とてもうるさかった。

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「――キャッツ、ニュー、ワールドぉ、ヘェイ♪♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
　こいつぁ、まえに迅雷ジンライが五百乃大角いおのはらの声こえで歌うたった御囃子おはやしだ。
　おい、五百乃大角いおのはらどうなってんだ！

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「――こねこがいっぴき♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
　まるで弓ゆみを引くように――一斉いっせいに、肩口かたぐちまで引きしぼられる、鉈なたみたいな剣けん。
　切っ先さきが無い上うえに、はじめから引いた剣けんでは――どうしたって防御まもりがおろそかになる。
　やつら、すげぇふざけてるけど――捨て身だ。

　ちっつ、しかたねぇ！
「だすぞにゃー、迅雷みゃー！　仕込みはふぎゃ無しだみゃにゃー――にゃぁ！」
　ヴッ――――じゃりぃぃん♪

　くるくるくるるんっ――――ぱしりっ♪
　錫杖しゃくじょうを構かまえた――――じゃりんっ♪