滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

２：カブキーフェスタへの道

２０９：ギルド住まいの聖女（研修中）、ガムラン饅頭製造販売所

「ぼ、僕ぼくが饅頭屋まんじゅうやの店主てんしゅ!?」
　おどろく青年ニゲル。
「正式せいしきにわぁ、猪蟹屋ししがにや二号店にごうてんになりますわ――しゃらぁしゃらぁ」
　ここは、ガムラン町ちょうギルド支部会館しぶかいかんＢ５Ｆちかごかい。

「シガミー、かわいいぃぃぃぃぃいっ――♪」
　うるせえ、レイダはうるせえ。
「はい、とってもお似合にあいいです、うふふ♪」
　リオもうるさいよ？
　いまおれの格好かっこうは、いつもの食堂しょくどうの簡素かんそな給仕服きゅうじふくじゃなくて。

「併設へいせつされる、我われのアーティファクト仲介所ちゅうかいじょの管理かんりも、おまかせしたいコォォン♪」
　がさり。
　狐耳きつねみみの少年しょうねんが上等じょうとうな服ふくの内うちポケットから、一枚いちまいの絵草紙チラシをとりだした。

『テナント募集
　冒険者ギルドガムラン町支部屋舎内
　３Ｆ～７Ｆ、Ｂ３～Ｂ５まで
　（各フロア１０店舗程度の空きがあります）
　お問い合わせは、
　冒険者ギルド支部受付まで』

「〝１０店舗程度てんぽていどの空き〟って言うかニャ、ただの大部屋おおべやニャーン？」
　猫耳族ねこみみぞくの若わかい女性じょせいが、狐耳きつねみみの少年しょうねんの手元チラシに頭あたまを突っこんでる。

「このフロアは借り手の問い合わせがまったくなくて、区画分くかくわけや内装ないそうまで全部ぜんぶあとまわしにしてたからですわ――しゃらぁしゃらぁ」
　手をひろげ、背後はいごのだだっ広ぴろい隙間すきまを指ししめすのは――本格的ほんかくてきな作つくりの給仕服きゅうじふく。
　つまり、私わたくしですわ……うふふ？

「なぁにその――しゃらぁしゃらぁ――って？」
　子供レイダが率直そっちょくな、ご意見いけんを述べる。

「へへっ、〝しゃらぁしゃらぁ〟は、しゃらあしゃらだぜ！　女子供おんなこどもみてぇだが、致いたし方かたねぇやな、おれぁ、女子供おんなこどもだからなっ！」
　がに股またで腰こしを落とし、啖呵たんかを切ってみせた。
　真っ白しろな前掛けエプロンに付けられた、〝研修中みならい〟の札ふだが揺れる。

「こぉら！　シガミーちゃぁん、給仕服きゅうじふくに身を包つつんでいる間あいだは、侍女じじょになりきるってお約束やくそく
でしょう？」
　紙かみでできた大箱おおはこを抱かかえた少女タターが、来るなり小言こごとを言う。

「はぁぁい。ごめんなさぁぁい、うふうふ、えへへぇ――しゃらぁしゃらぁ」
　体からだをくねらせ、愛想笑あいそわらいをうかべてやる。

「それじゃあ、シガミー！　この箱はこの中身・・を頭あたまに付けたら、プレオープンするわぁよぉぉう♪・」
　いま御神体こいつは、出してやったテーブルの上にいる。
　例れいの強制的きょうせいてきに、収納魔法しゅうのうまほうに捉とらえておく仕組しくみは――ガムラン町ちょうに転移しもどってきたときに、切れちまった。

　まあ、うまいものか面白おもしろい出し物ものがありゃぁ、おびき出せるから――それでやり繰りするしか有るまい。

　御神体ごしんたいがテーブル上じょうに置かれた箱はこへ、飛び乗る。
　ふたを開け、ガサゴソと取りだしたのは――なんだ？
　おにぎりおにぎりみたいなのがくっ付いた――手投てなげ武器ぶきか？

「スチャッ――コレわぁ、ネコミミでぇーす♪・」
　御神体ごしんたいが頭あたまに乗せたのは――たしかに猫耳族ねこみみぞくのニャミカそっくりの〝耳みみ〟だった。

「チゃんと人数分にんズうぶん、有りまス・」

　　　§

「ここですの？　シガミーがあたらしく作つくったった〝お菓子かしが食べられるお店みせ〟というのは？」
　立てたばかりのドアを、蹴破けやぶらんばかりに開けて入はいってくるガムラン町代表ちょうだいひょう。

「おかえりなさいませ、リカルルさまニャン♪」
　水みずの入った透明なビードロの杯さかずきを、客一号ひめさんにだしてやる。
　冷えた温泉おんせんがシュワシュワと弾はじけている。
　甘あまい大根だいこんから取った砂糖ざらめが溶かしてあるから、コレだけでも売り物ものになるけど、一杯目いっぱいめはタダで出すことにした。

「さまは要りませんよ、シガミー――がふたり!?」
　見よう見まねで盆ぼんに甘い水サイダーをのせて来た一号おにぎりと、目の前まえの少女おれを見くらべてる。

「じつわっねぇー、修行しゅぎょうが早はやく終わったからぁ、実戦投入じっせんとうにゅうしてみたのよっねぇー♪」
　おれ、いや私わたしの肩かたから、小ちいさな二人掛ふたりがけのテーブルに、降りたつ御神体いおのはら。

「実戦投入じっせんとうにゅう？　一体いったいどういうコトですか、イオノファラー様さま――あとシガミー……どっちのシガミーも、すっごくかわいいわよ♪」

「に゛ゃーや、みゅぅー？」
　しきりに腹はらを撫でられ、困惑こんわくした一号おにぎりが――伯爵令嬢リカルルの頭あたまを撫で返す。

　　　§

「シシガニャンは精霊せいれいを詰めたゴーレムで、シガミーたちに着てもらうことで・・・・・・・・、〝人ひとの振る舞い〟を覚おぼえてもらったのよぉーん♪」
　話はなしがさっぱりわからんが――迅雷ジンライ。
　あれ？　アイツどこ行った？

「ゴーレムッ――――!?　いま誰だれか、ゴーレムって言った!?」
　とおくで、腰こしの聖剣ヴォルト（安物やすもの）に手を掛ける、二号店店主ニゲルせいねん。

「人ひとの振る舞い？　では例れいの〝殴なぐると殴なぐり返す〟のは、しないようになったのですか？」
　お品書しながきを持ってきた侍女メイドの達人たつじん――の頭あたまにも猫の耳ネコミミが乗せられている。

「レーニアーッ――――っきゃぁぁぁぁぁっ♡」
　頬ほほを染め、叫さけぶ客一号リカルル。
　まあ、わからんでもない。　
　いつもの姿すがたに、猫の耳ネコミミが付いただけだが。
　そのはずなのだが。
　なんかこう、とてもとてもかわいらしく思おもえるのだ。

「殴り癖それは護身ごしんのために残のこしてあるから、あんまり強ゆよく叩たたいたり蹴ったりしたらダメよぉん――命いのちに関かかわるから、ソレだけは本当ほんとうにぃー気ぃおーつけてー
ちょうだぁぁい・」
　一号おにぎりには『餌を与えないでください。 強く押したり叩いたり、 魔法や呪いを掛けないでください。 ※1･3倍のチカラでやり返されます。 ～カブキ-フェスタ事務局～』の札ふだが首くびから提げられてる。
　あの板いた、見つかったのか。

「というわけで、この一号いちごうちゃんには神々かみがみの御業みわざ……女神像めがみぞうと似たようなアーティファクトが詰まってるから、中なかを開けたりしないようにしてくださぁぁぁいねぇぇ♪・」
　ぽきゅぽきゅぽきゅん♪
　奥おくから二号にごうがでてきた。

「（どうなってる!?　おにぎりＳＤＫは一個いっこしかないはずだろ？）」
　ヴッ――ん？
　給仕服メイドふくの小物入れポケットが震ふるえた。　
　取りだすと、ソレはいつもの耳栓みみせん。
　その片側ひとつだけの小ちいさいヤツを――耳みみに差しこむ。

「――私わタしでス、シガミー・――」
　迅雷ジンライか！　見ないと思おもったら。

「――裏天狗うレてんぐト同おナじ要領ようりょウデ、操あやツっていまス・――」
「あ、カラテェーみゃ！」
「どこ行ってたコォン？」
　喫茶店組きっさてんぐみに、まとわり付かれてる。

「例れいの真似まねることで成なす修行しゅぎょうというのは、ひょっとして――」

「そうですわ、リカルル。じつわ修行しゅぎょうしてたのわ、このシシガニャン一号いちごうの方ほうだったのですわ――しゃらぁしゃらぁ」
　これで、シシガニャンまわりのいろんなややこしいのが、なくなってくれると助かるけど。

「そういうことなんだですわの。五百乃大角いおのはらの命令めいれいとは言え、みんなを騙だましててすまなか……大変申たいへんもうし訳わけありませんでしたわ」
　腰こしを落とし、侍女メイドの啖呵たんかを切る。
　謀たばかっていたのは事実じじつだし、せめて正式せいしきな作法さほうで謝あやまっておく。

「ゴーレムって知られると、どうしても自然しぜんな人ひとの動うごきを真似まねできないから、嘘うそをつかせていただいたの。みんなぁ、ご☆め☆ん☆ねぇ――きゃっるぅーん♪」
　おいお前まえさま、謝あやまり方かた。

「ふう、別べつに怒おこる理由りゆうもないですわ。その一号いちごうちゃんは――ギルド再建さいけんに多大ただいな貢献こうけんをしていただきましたし。はい、この話はなしは私わたくしの名において不問ふもんといたしますわ」

「お許ゆるしも出たことだしぃー、引きつづき二号にごうにはシガミーかカラテェーが時々入ときどきはいってるから、そっちはいくら殴なぐっても蹴ってもＯＫオッケーよん♪」
　良くねえよ。
　いつまでも話はなしが進すすまねえから、二号ジンライが持ってきた小ちいさな紙箱かみばこを、姫ひめさんの前まえにおいた。

「あけてみてくれ……くださいませ――しゃらぁ」
　言われるままに、箱はこを開けるリカルル。
「なっ、なななっ――――なー！」
　動揺どうようしているな。
　そうだろう、そうだろーう。
　箱はこの中身なかみは――二匹にひきのシシガニャンの〝顔かお〟だ。

　出来できたばかりの饅頭まんじゅう。
　若草色わかくさいろと薄桜色さくらいろ。
　その形かたちを、すこしだけ変えた。
　給仕メイドとテーブルと椅子いすの背もたれと窓まどとお盆ぼんと饅頭まんじゅう。
　そのすべてに――〝ネコミミ〟を付けた。

　それは意外いがいなことに、ニゲルが考かんがえた。
　それもあっての、饅頭屋店主まんじゅうやてんしゅのお達たっしだ。

「おかえりなさいませ、リカルルお嬢様じょうさま……にゃん♪」
　もちろん、店主ニゲルにも――ネコミミが付いた。