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2:カブキーフェスタへの道
234:天狗(シガミー)という名の神さま、極所作業用汎用強化服シシガニャン自律型/試作個体名おにぎり一号
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「ぐっ――――!?」
ボッファッ、バッサァァァァッ――――隠れ蓑をひろげて、風をうける!
隠れ蓑がなかったら天井がわりの柱に、ぶつかってたところだ。
ボフボフッ――!
端をつかんで旗や扇のように、隠れ蓑をつかう。
風を逃がさない布の形を保つのには、シシガニャンを着てたときの感覚が役に立った。
シシガニャンの猫耳を動かして、聞きたい音だけを耳でとらえる要領だ。
ふぉん♪
『>姿勢制御関連スキルを26個収得しました。
使用したSPは78です』
なんだ、上手くできたと思ったのは……スキルのおかげか。
でもまあ、スススィー。
風をつかめるようになった。
ボフボフッ――スゥゥゥー。
いちど水平を取ったら、あとは左右の傾きだけを気にしてりゃ良い。
「――錫杖とシシガニャンのアいだの反発係数が1ヲ越えていマす。おそラく、汎用強化服ノ耐久設計に音響工学……物性物理学が使用されていマす――」
なんだと、わからんけど似たようなのをスキルで見なかったか。
「――シガミーが収得したのは、その基礎となるスキルだけでス――」
「よし、わからん。しかもさっき五百乃大角が言ってた「1を越えたから気をつけろ」って言ってた奴ともまた別なんだな?」
わからん、わけわからん。
「――はい。イオノファラーが言及したのは頓知の規模のことで、使用したのはそれらを総合的に運用できる――」
『▼▼▼――ピピピッ♪』
ブゥォォォォォォォン――――――――!?
目のまえに木さじが!
ボフボフッ――くるくるくるっ、スィィー。
風を起こして停止。落ちてまた風を掴みなおす。
この高さなら、直に喰らうことはない。
けどこのままいけば、地に落ちて――
第一戦から第五戦までのようにされて、終わりかねない。
悠長に考えてる余裕はなさそうだ。
「(で、ようするになんだって!?)」
「――シシガニャンの〝弾む音〟は攻撃ヲ反らすだケでなく、蓄えタ運動エネルギー……受ケた攻撃ヲ上乗せして打チ返すこトにも利用されているよウです――」
ふぉん♪
『イオノ>そんなのは旧典や古典物理を持ちだすまでもなくて、
リアルタイム物性物理学の基本なんですけど?』
――で、ようするになんだって?
ふぉん♪
『>そこまで強力な音声変換モジュールを内包した、
服内圧チェンバーを設計したのはなぜですか?』
ふぉん♪
『イオノ>そんなの強い方が良いに決まってるでしょ?
それにそれを実際に組み込んだのは、
アンタたちでしょう?』
ふぉん♪
『>そうでした。まさか自分たちが着るための強化服を、敵に回すことになるとは思い至りませんでしたので』
「(うむ、そうだな。神々にも計り知れないこともあるってこったな)」
ふぉん♪
「イオノ>いま私ひとりのせいにしようとしたでしょう?
おすし一回分ツケとくからね」
ちっ、めざとい美の女神め。
「(じゃあ一号、どうすりゃいい?)」
負けても良いが、それじゃ祭りが締まらんことになる。
「――上空かラの攻撃ハ、強化服ノ頭部形状ヲ考えルと、とテも有効でス――」
ふぉん♪
『イオノ>そうわね。あたま重そうだもんね』
「(やり返されるとヤバイなら、そのまえに倒し切れってことか――」
そんな一撃必殺の――それでいて町全部を壊さずにすむ、都合の良い剣技や根術の持ち合わせはねぇ。
「――シガミー、あノ名の無い技ハ……――」
だめだ。ありゃダメだ。
〝滅の太刀〟だろう、ありゃダメだ。
ギルドの土台を掘った地の底で――
シシガニャンを着て放った――
無我の境地。
あんときは、とおくの岩肌を壊滅させただけで済んだけど。
いまはまわりにコレだけの人が居る、あれだけはダメだ。
ふぉん♪
『イオノ>なにそれ、面白そうね♪』
……ルリーロがそばに居ないだろうな?
言いふらすなよ――問答無用で「やってみせて♪」って命令されるに決まってる。
だめだ、あれだけは死んでもやらん。
「――でスが、あのトきはシシガニャンを着ていタから、あれダけの攻撃力ヲ実現できたのではナいですか?――」
まあ生前、あれをやったのは一度きりで。
うまくいったのも、一度だけで。
それで切ったのは、鳥一匹だけ。
いやでもLV100の――
スキルをやたらと取った――
いまのおれが――あれを放つわけにはいかない。
なんせ、見わたす限りまですっ飛んでくかも知れないのだ。
「(よし決めた――このままおちて、その威力で刀を振るう)」
それで決まれば、おわり。
おにぎりが切れて、振り出しに戻っちまったら――
また迅雷と一緒に、歩き方から教えてやる。
切れなくても、動きを止められたら――
猫語でいいから、「参った」してもらう。
おれが切られたら――
迅雷に蘇生薬を使ってもらう。
コレで良い――いくぞ!
隠れ蓑を操り――地へ向かう。
――――ヒュォォォォォォォォォッ!!!
「カカカカッ――――二の太刀はない! コレで決着をつけるっ!」
「やんみゃぁ、にゃんなみゃー!」
迅雷に聞かなくてもわかる。
せまる黄緑色の顔。
すこし眉毛が吊りあがってる――本気だ。
ヴッ――ぱしん♪
小太刀を取りだす。
白鞘の拵えから刀身まで、まるで月を写さない漆黒に染めた。
緩急が付いた抜刀は、つかみづらいはず。
シュッッカァァァァァァァンッ――――――ガッキュギョギ――――ィィンッ!?
悪くない形で放った居合いの――――残心。
ぽきゅぽきゅした……いつもの音じゃない?
意識をシシガニャンの腹の毛皮から――戻す。
視界に映るのは、抜刀したおにぎり。
腰を折り曲げ大きな頭は地につき、到底、抜刀直後の姿勢には見えない。
しかしこいつは、やり返すための得物を、攻撃してきた相手から調達するんだな。
おにぎりが抜いているのは、さっきおれが突き込んだ錫杖だ。
女将さんの木さじも、かっさらってたし。
それをコッチの攻撃にあわせて取りだし――あまつさえ同じ居合いで打ち返してきた。
くるくるくるるるっ――すたん!
さてどうする?
舞台の上、間合いは6シガミーくらい離れた。
すぽん――ヴッ――ぱしん♪
刃こぼれした小太刀を直す。
おれは、おにぎりの前で〝居合い〟はしていないはず。
おれが繰りだした技を、その場で真似してる?
めのまえでぽきゅぽん♪ と起き上がる魔物みたいな奴が――まるで山中で出会った狐狸妖怪。
いや、生前には出会うことのなかった――修験者のように思えてきた。
じりじりじりじり。
ぽきゅぷりん、ぽきゅぷりぃん♪
決着は付かなかった!
もう一度、切りつけるしかない。
ぽきゅぷりん、ぽきゅぷりぃん♪
やめろ、腰を落として尻を振るな。
うわははははははははははっはっ――――――――♪
ウケる観客。なにやってんニャー、カラテェーコォン!
うるせえ。
こっちは――切結んで刃こぼれした小太刀(直したけど)。
あっちは――仕込み刀をコトリの尾羽みたく動かしてんな!
いらつく!
一号が仕込み刀を持ってるってのは、うまくねぇぞ。
長さで負ける。
大道芸にしかならなかった、手習いの剣。
それを見るそばからまねして合わせてきたのは、目のまえの夏毛の魔物みたいな奴だ。
おれが修行のさなか鳥を切ったのは――一度きり。
その一度を一号は、つぎの一撃で引き当てる――怖さがあった。
おにぎりの剣をとめないと、おれのうしろにいる――「ニャー、コォン」うるさいやつらが、切られないとも限らない。
すぽん――じゃりぃん――こっちも錫杖を取りだした。
ぽっきゅ――――!
その隙をつくように、黄緑色が踏み込んできた!
ストォォン――――!
ぶぉん――くるくるるるっ――錫杖の頭をつかむと――ぎゃりりりぃぃぃぃぃん♪
鉄輪が鳴った。
ぽっきゅっ――ザッシュ!
肩が触れあわんばかりの、間合い。
もう、こいつは魔物じゃねぇ――――いっぱしの武人だ。
技の名は無ぇ――さしずめ〝滅〟の太刀。
「――シガみー、バイタルにギルド倒壊時と同ジ波形ガ――」
しゅっかぁ――――ん♪
しずかな剣筋。
――ぁ――――ん♪
――ぁ――――ん♪
固唾を呑んで、静まりかえる会場。
残響が――ふたつ?
黄緑色が振り抜いた錫杖を、見よう見まねで錫杖に戻していく。
その境地は二人分――――――――かちかちん!
ガッギャンッ――――錫杖が鳴った!
なかの刀が折れたような感触。
剣速は達人の域をとうに超え、前世のおれより速えぇ。
そんな黄緑色が――ぷぱぁぁぁんっ♪
熟れすぎた木の実のように――はじけた。
§
ふぉん♪
『>極所作業用汎用強化服シシガニャン自律型
個体名おにぎり一号。
機能を完全に停止しました』
「カカッ――!?」
いくら余裕がなかったとは言え、やっちまった。
最後の一撃はおれの滅の太刀を、黄緑色がきっちりと真似してきた。
それを思い出せはするが、放った瞬間はなにも見えてないから――
おれに刀を止める方法はなかった。
静まりかえる会場。
カシャ――『(Θ_Θ)』
ヴォォォン――♪
丸い玉がどこからか飛んできた。
「――だ、だいじょうぶよ。ちょっと破けたくらい、三秒ルール三秒ルール。またおにぎりを組み立ててあげるから――」
組み立てるってのは、いろいろなことができる迅雷のための道具みたいなSDKのことで。
「――オ言葉でスがイオノファラー。アーティファクトでもアるSDKは組み立テ直せてモ、〝おにぎり一号〟とイう個性ハ二度ト復元できまセん――」
復元できない?
個性ってのは何だ?
「――人とナりや魂そのモのと、オ考えくだサい――」
歩き方からやり直しても、あの〝おにぎり〟は二度と帰ってこないってのか!?
それは、わるいことをした。
まだうまれて三週間しか経っていないのに。
――すっころりぃーん♪
しぼんだ気持ちで強化服をみてたら、足下になんか転がってきた――
「なーんだこれ? 卵か?」
強化服一号を修理して、試しにその卵を食わせてみた。
それは気の迷いでしかなくて、なんでそんなことをしたのかはわからない。
「にゃみゃにゃぁーんご♪」
どたばたどたばたと、せわしない動き。
この小躍り――まちがいない!
こいつは、おにぎりだ!
「ふぅへぇー、お、おどかすなよぉー……いま何て鳴いたんだ?」
「――〝セーブデータを読み込みました〟でス――」
どういう意味だ?
「――〝反魂ノ術ヲ使いまシた〟デす――」
ボッファッ、バッサァァァァッ――――隠れ蓑をひろげて、風をうける!
隠れ蓑がなかったら天井がわりの柱に、ぶつかってたところだ。
ボフボフッ――!
端をつかんで旗や扇のように、隠れ蓑をつかう。
風を逃がさない布の形を保つのには、シシガニャンを着てたときの感覚が役に立った。
シシガニャンの猫耳を動かして、聞きたい音だけを耳でとらえる要領だ。
ふぉん♪
『>姿勢制御関連スキルを26個収得しました。
使用したSPは78です』
なんだ、上手くできたと思ったのは……スキルのおかげか。
でもまあ、スススィー。
風をつかめるようになった。
ボフボフッ――スゥゥゥー。
いちど水平を取ったら、あとは左右の傾きだけを気にしてりゃ良い。
「――錫杖とシシガニャンのアいだの反発係数が1ヲ越えていマす。おそラく、汎用強化服ノ耐久設計に音響工学……物性物理学が使用されていマす――」
なんだと、わからんけど似たようなのをスキルで見なかったか。
「――シガミーが収得したのは、その基礎となるスキルだけでス――」
「よし、わからん。しかもさっき五百乃大角が言ってた「1を越えたから気をつけろ」って言ってた奴ともまた別なんだな?」
わからん、わけわからん。
「――はい。イオノファラーが言及したのは頓知の規模のことで、使用したのはそれらを総合的に運用できる――」
『▼▼▼――ピピピッ♪』
ブゥォォォォォォォン――――――――!?
目のまえに木さじが!
ボフボフッ――くるくるくるっ、スィィー。
風を起こして停止。落ちてまた風を掴みなおす。
この高さなら、直に喰らうことはない。
けどこのままいけば、地に落ちて――
第一戦から第五戦までのようにされて、終わりかねない。
悠長に考えてる余裕はなさそうだ。
「(で、ようするになんだって!?)」
「――シシガニャンの〝弾む音〟は攻撃ヲ反らすだケでなく、蓄えタ運動エネルギー……受ケた攻撃ヲ上乗せして打チ返すこトにも利用されているよウです――」
ふぉん♪
『イオノ>そんなのは旧典や古典物理を持ちだすまでもなくて、
リアルタイム物性物理学の基本なんですけど?』
――で、ようするになんだって?
ふぉん♪
『>そこまで強力な音声変換モジュールを内包した、
服内圧チェンバーを設計したのはなぜですか?』
ふぉん♪
『イオノ>そんなの強い方が良いに決まってるでしょ?
それにそれを実際に組み込んだのは、
アンタたちでしょう?』
ふぉん♪
『>そうでした。まさか自分たちが着るための強化服を、敵に回すことになるとは思い至りませんでしたので』
「(うむ、そうだな。神々にも計り知れないこともあるってこったな)」
ふぉん♪
「イオノ>いま私ひとりのせいにしようとしたでしょう?
おすし一回分ツケとくからね」
ちっ、めざとい美の女神め。
「(じゃあ一号、どうすりゃいい?)」
負けても良いが、それじゃ祭りが締まらんことになる。
「――上空かラの攻撃ハ、強化服ノ頭部形状ヲ考えルと、とテも有効でス――」
ふぉん♪
『イオノ>そうわね。あたま重そうだもんね』
「(やり返されるとヤバイなら、そのまえに倒し切れってことか――」
そんな一撃必殺の――それでいて町全部を壊さずにすむ、都合の良い剣技や根術の持ち合わせはねぇ。
「――シガミー、あノ名の無い技ハ……――」
だめだ。ありゃダメだ。
〝滅の太刀〟だろう、ありゃダメだ。
ギルドの土台を掘った地の底で――
シシガニャンを着て放った――
無我の境地。
あんときは、とおくの岩肌を壊滅させただけで済んだけど。
いまはまわりにコレだけの人が居る、あれだけはダメだ。
ふぉん♪
『イオノ>なにそれ、面白そうね♪』
……ルリーロがそばに居ないだろうな?
言いふらすなよ――問答無用で「やってみせて♪」って命令されるに決まってる。
だめだ、あれだけは死んでもやらん。
「――でスが、あのトきはシシガニャンを着ていタから、あれダけの攻撃力ヲ実現できたのではナいですか?――」
まあ生前、あれをやったのは一度きりで。
うまくいったのも、一度だけで。
それで切ったのは、鳥一匹だけ。
いやでもLV100の――
スキルをやたらと取った――
いまのおれが――あれを放つわけにはいかない。
なんせ、見わたす限りまですっ飛んでくかも知れないのだ。
「(よし決めた――このままおちて、その威力で刀を振るう)」
それで決まれば、おわり。
おにぎりが切れて、振り出しに戻っちまったら――
また迅雷と一緒に、歩き方から教えてやる。
切れなくても、動きを止められたら――
猫語でいいから、「参った」してもらう。
おれが切られたら――
迅雷に蘇生薬を使ってもらう。
コレで良い――いくぞ!
隠れ蓑を操り――地へ向かう。
――――ヒュォォォォォォォォォッ!!!
「カカカカッ――――二の太刀はない! コレで決着をつけるっ!」
「やんみゃぁ、にゃんなみゃー!」
迅雷に聞かなくてもわかる。
せまる黄緑色の顔。
すこし眉毛が吊りあがってる――本気だ。
ヴッ――ぱしん♪
小太刀を取りだす。
白鞘の拵えから刀身まで、まるで月を写さない漆黒に染めた。
緩急が付いた抜刀は、つかみづらいはず。
シュッッカァァァァァァァンッ――――――ガッキュギョギ――――ィィンッ!?
悪くない形で放った居合いの――――残心。
ぽきゅぽきゅした……いつもの音じゃない?
意識をシシガニャンの腹の毛皮から――戻す。
視界に映るのは、抜刀したおにぎり。
腰を折り曲げ大きな頭は地につき、到底、抜刀直後の姿勢には見えない。
しかしこいつは、やり返すための得物を、攻撃してきた相手から調達するんだな。
おにぎりが抜いているのは、さっきおれが突き込んだ錫杖だ。
女将さんの木さじも、かっさらってたし。
それをコッチの攻撃にあわせて取りだし――あまつさえ同じ居合いで打ち返してきた。
くるくるくるるるっ――すたん!
さてどうする?
舞台の上、間合いは6シガミーくらい離れた。
すぽん――ヴッ――ぱしん♪
刃こぼれした小太刀を直す。
おれは、おにぎりの前で〝居合い〟はしていないはず。
おれが繰りだした技を、その場で真似してる?
めのまえでぽきゅぽん♪ と起き上がる魔物みたいな奴が――まるで山中で出会った狐狸妖怪。
いや、生前には出会うことのなかった――修験者のように思えてきた。
じりじりじりじり。
ぽきゅぷりん、ぽきゅぷりぃん♪
決着は付かなかった!
もう一度、切りつけるしかない。
ぽきゅぷりん、ぽきゅぷりぃん♪
やめろ、腰を落として尻を振るな。
うわははははははははははっはっ――――――――♪
ウケる観客。なにやってんニャー、カラテェーコォン!
うるせえ。
こっちは――切結んで刃こぼれした小太刀(直したけど)。
あっちは――仕込み刀をコトリの尾羽みたく動かしてんな!
いらつく!
一号が仕込み刀を持ってるってのは、うまくねぇぞ。
長さで負ける。
大道芸にしかならなかった、手習いの剣。
それを見るそばからまねして合わせてきたのは、目のまえの夏毛の魔物みたいな奴だ。
おれが修行のさなか鳥を切ったのは――一度きり。
その一度を一号は、つぎの一撃で引き当てる――怖さがあった。
おにぎりの剣をとめないと、おれのうしろにいる――「ニャー、コォン」うるさいやつらが、切られないとも限らない。
すぽん――じゃりぃん――こっちも錫杖を取りだした。
ぽっきゅ――――!
その隙をつくように、黄緑色が踏み込んできた!
ストォォン――――!
ぶぉん――くるくるるるっ――錫杖の頭をつかむと――ぎゃりりりぃぃぃぃぃん♪
鉄輪が鳴った。
ぽっきゅっ――ザッシュ!
肩が触れあわんばかりの、間合い。
もう、こいつは魔物じゃねぇ――――いっぱしの武人だ。
技の名は無ぇ――さしずめ〝滅〟の太刀。
「――シガみー、バイタルにギルド倒壊時と同ジ波形ガ――」
しゅっかぁ――――ん♪
しずかな剣筋。
――ぁ――――ん♪
――ぁ――――ん♪
固唾を呑んで、静まりかえる会場。
残響が――ふたつ?
黄緑色が振り抜いた錫杖を、見よう見まねで錫杖に戻していく。
その境地は二人分――――――――かちかちん!
ガッギャンッ――――錫杖が鳴った!
なかの刀が折れたような感触。
剣速は達人の域をとうに超え、前世のおれより速えぇ。
そんな黄緑色が――ぷぱぁぁぁんっ♪
熟れすぎた木の実のように――はじけた。
§
ふぉん♪
『>極所作業用汎用強化服シシガニャン自律型
個体名おにぎり一号。
機能を完全に停止しました』
「カカッ――!?」
いくら余裕がなかったとは言え、やっちまった。
最後の一撃はおれの滅の太刀を、黄緑色がきっちりと真似してきた。
それを思い出せはするが、放った瞬間はなにも見えてないから――
おれに刀を止める方法はなかった。
静まりかえる会場。
カシャ――『(Θ_Θ)』
ヴォォォン――♪
丸い玉がどこからか飛んできた。
「――だ、だいじょうぶよ。ちょっと破けたくらい、三秒ルール三秒ルール。またおにぎりを組み立ててあげるから――」
組み立てるってのは、いろいろなことができる迅雷のための道具みたいなSDKのことで。
「――オ言葉でスがイオノファラー。アーティファクトでもアるSDKは組み立テ直せてモ、〝おにぎり一号〟とイう個性ハ二度ト復元できまセん――」
復元できない?
個性ってのは何だ?
「――人とナりや魂そのモのと、オ考えくだサい――」
歩き方からやり直しても、あの〝おにぎり〟は二度と帰ってこないってのか!?
それは、わるいことをした。
まだうまれて三週間しか経っていないのに。
――すっころりぃーん♪
しぼんだ気持ちで強化服をみてたら、足下になんか転がってきた――
「なーんだこれ? 卵か?」
強化服一号を修理して、試しにその卵を食わせてみた。
それは気の迷いでしかなくて、なんでそんなことをしたのかはわからない。
「にゃみゃにゃぁーんご♪」
どたばたどたばたと、せわしない動き。
この小躍り――まちがいない!
こいつは、おにぎりだ!
「ふぅへぇー、お、おどかすなよぉー……いま何て鳴いたんだ?」
「――〝セーブデータを読み込みました〟でス――」
どういう意味だ?
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長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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