滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

２：カブキーフェスタへの道

２３６：天狗（シガミー）という名の神さま、料理勝負とジンライ

「まさかこんな勝負しょうぶをすることになってしまうとはのぅ、実じつにカカッ――いや、笑わらっておる場合ばあいではないのぅ」
　片膝かたひざを地につけ、首こうべを垂れた。

「いや、わたしに天狗殿てんぐどのをせめる資格しかくはない。なにせ天狗殿てんぐどのの使つかわした〝おにぎり〟には、手も足あしも出なかったのだから」
　頭あたまをあげてくれと懇願こんがんする鬼オルコの首くびには、白しろい前掛けエプロンみたいな布ぬのが掛けられている。

「そう言ってもらえると助たすかるのぉう。ひとつ借り・・と言うことで手打てうち……和解わかいといたそうではないか。もちろん預あずかっとる金かねは返かえすぞぃ？」
「ふぅ、まだ時期じきではないのかも知れない。それで良いわ――天狗殿てんぐどの」
　ガシリと握手あくしゅを交わす鬼おにと天狗てんぐ。

　言わずと知れた、名物めいぶつ受付嬢うけつけじょうの角つのが生えた方ほうと――
　変異種《バリアント》角つのウサギをたったひとりで屠ほふった、強者つわもの。

　そのかたい握手あくしゅで幕まくをあけた、この催もよおしは――

　　　§

「掛け金きんの倍額ばいがくを、ガムラン町金庫ちょうきんこと猪蟹屋会計ししがにやかいけいから捻出ねんしゅつします」
　くいっと白しろい仮面かめんを持ちあげる、リオレイニア。
　手には算木さんぎがわりの白板しろいた。

「かまわないわよ♪」
　ガムラン町代表ちょうだいひょう、挑戦的ちょうせんてきなご令嬢れいじょう。
「しょーちしたぜ！」
　猪蟹屋店主ししｇにやてんしゅ、生意気なまいきざかりの子供こども。

「さぁぁぁぁぁぁぁぁあっ――――見事的中みごとてきちゅうした暁あかつきにわぁ、この美の女神めがみであらせられ奉たてまつる所ところのあたくしさまとのディナーへ、ごっ招しょおっ待たいするっわぁーよぉぉぉっぉぅ♪」
　烏天狗からすてんぐをあらわす『烏からす』と書かれた札ふだと、天狗てんぐをあらわす『天てん』と書かれた札ふだ。
　それを精一杯高せいいっぱいたかく、持ちあげる女神めがみ。
　どれだけ背伸せのびびしても寸足すんたらずな御神体ごしんたいは、観客席かんきゃくせきからは見えない。

　ヴォォォォン――――♪
　巨大きょだいな画面がめんが、背後はいごに立ちならぶ柱はしらのまえに現あらわれた。
　そこに映うつし出されたのは、舞台上ぶたいじょうの白布クロスが掛けられたテーブル。
　その上うえを、てちてちてちと必死ひっしに右往左往うおうさおうする、美の女神いおのはらが憑依ひょういした御神体ごしんたい。

「ただし勝負しょうぶわぁー、オードブルからデザートまでの６回戦かいせん。その全すべての予想よそうを的中てきちゅうさせた人ひとだけガァー」
　うすくかたい烏札からすふだと天札てんふだで、ならんだ皿さらをかんかんかかーん♪
　と交互こうごにに叩たたいていく、お行儀ぎょうぎのわるい美の女神めがみ。

「あの遠とおくそびえる新しんギルド会館かいかん最上階さいじょうかいのペントハウスにー、ご招待しょおたぁいされるって言う寸法すんぽーなんだけどっさー――乗るぅ？」

　うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉっ――――――――♪
　のったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっ――――――――！
　会場かいじょうが震ふるえ、山積やまづみの食材しょくざいがごろごろと転ころげて崩くずれた。

「いいでしょう、いいでしょう。掛け金きんは一律いちりつ２ヘクク。ちいさい子わぁ無料むりょうでご参加さんかぁでぇきぃまぁーす。もっちろんご招待しょうたいされる場合ばあいにわぁ、お子様こさまのご家族かぞくもぉーご一緒いっしょですので、ごあんしんくだぁさぁいぃーませぇー♪」
　わぁー♪
　子供こどもたちの小ちいさな歓声かんせい。

「無料むりょうニャ、やるニャ♪」
「カフェの運用資金うんようしきんが増えたお祝おいわいに、うってつけだコォン♪」
　ルコルたちは……まだ居るんだな。
　別べつに参加さんかするのは良いけど、二人ふたりとも小ちいさい子じゃないからね？
　ちゃんと２ヘクク払はらってもらうからね？

　そうなのだ。リオレイニアが算段さんだんした掛け金・・・というのは、料理勝負りょうりしょうぶの勝敗しょうはいを予想よそうする賭けのことだ。
　おにぎり杯はいの掛け金きんに関かんしては、すでに精算済せいさんずみ。
　フェスタ翌日よくじつからの換金かんきんになってしまうが、ちゃんとギルドカードに加算チャージされているはずだ。

「ちなみにぃー、料理勝負りょうりしょうぶの勝者しょうしゃがつくる超豪華版ちょうごうかばん晩ばんご飯はんわぁ、おかわり自由じゆうのぉ――無限むげんビュッフェ形式けいしきになぁりぃまぁすぅのぉでぇー、各自かくじ誠心誠意せいしんせいいお腹なかおーすぅかぁせぇてぇーきてねぇー♪」

「（おいそんな安請やすうけ合いしていいのか？　冒険者ぼうけんしゃたちは相当喰そうとうくうぞ――）」
　ルコルだって、信しんじじられないほどの大食漢たいしょくかんだし……。

「そんなにいっぱい食べられるか、心配しんぱいだコォン？」
　また声こえが聞こえてくる。
「大丈夫だいじょうぶニャ、いざとなったら猪蟹屋ししがにやで買った収納魔法板しゅうのうまほういたに詰めて帰る・・・・・ミャーッ♪」
　だから君きみらさー。
　なんですでに勝った気で居るの？

「だいじょぉぶ、だいじょおぅぶなのです。あたくしさまには見えます。ここにいるみんなが今晩こんばんたのしく、食事しょくじに興きょうじている様さまが――♪」

　ぱぱぱぁぁぁぁぁん、ぽぽぽんぽぽん♪
　火薬かやくの音おとだ。
　料理勝負りょうりしょうぶが始はじまる。
　え、このまますぐ始はじまるのかよ。
　おれぁ……いや、わしゃぁ天狗てんぐのままなんじゃが!?

　　　§

「――シガミー・――」
「（なんじゃい、迅雷ジンライ）」
　隣となりに立つ裏烏天狗ジンライから、こうして内緒話ねんわが飛んでくるのは、へんな感かんじだ。

「――シガミーは、ツい先サきほドの揚ゲ芋イもをツくった際サいノ自分じブんの手際テぎわヲ覚オぼえていまスか？――」
「（んぁ？　ありゃスキルのおかげだろ。あれがありゃ猪蟹屋ししがにやの揚げ物当番ものとうばんをおれひとりで賄まかなえる）」

「――はイ。シガミーが必要ひツようにせマられ収得しゅうトくシた追加ツいかスキル総数そウすうハ現在げンざい１１２個、そのウち調理ちょウりに転用てンようできルのは約やく２０個ありマす・――」
「（おう、これならたぶんオマエなしでも相当そうとうな食いもんが作つくれるだろ？）」
「――それでス・――」
「（どれでぇい？）」

「――私わタし迅雷ジンライハ使用者マスたーでアるシガミーへ、一騎討イっきうチを挑イどみマす・――」
「はぁ？　一騎討いっきうちだぁー？」
　迅雷ジンライは五百乃大角いおのはらの眷属けんぞくで、それでも遣つかわされただけのおれを何なにから何なにまで手助てだすけしてくれる、無くてはならない相棒あいぼうだ。
　そんなヤツが事こともあろうか――――一対一さしの勝負しょうぶを持ちかけてきやがった！

「（なんだ迅雷ジンライオマエ――――おもしれぇじゃぁねぇか！）」
　おれは横よこを向いて、勝負相手ジンライへ一礼いちれいする。

「よろしくおねがいします、お師匠ししょうさま♪・」
　一礼いちれいをかえす子供こども。その声こえは、まだすこし聞きなれない。