滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

２：カブキーフェスタへの道

２４３：天狗（シガミー）という名の神さま、独楽をまわす

　どごん――――ピキパキパキョ♪
　耳みみにのこる凍こおる音おと。

　なんかのスキルが上手うまいこと、巨大きょだいな氷塊ひょうかいをつくるのに役立やくだってくれた。
　物ものをつくり出すことに掛けちゃ、我われながら相当そうとうなもんだ。
　観客きゃくたちも――――うぉぉぉぉぉぉぉおっ♪
　と驚おどろいてくれた。

　さてどうする？

　氷塊コイツを削けずって雪ゆきにして、色いろとりどりの甘あまい汁たれを掛けてやりゃぁ良い。
　それでこと足りる、簡単簡単かんたんかんたん――まず削けずれ。

　氷こおりを見つめ――解析指南かいせきしなん。
　「（この氷こおりを粉こなにして雪ゆきみたいにするには、どうすりゃ良いかのぉ？）」

　スキル画面がめんに出たのは、氷こおりを回転かいてんさせて包丁ほうちょうを当てて削けずれというもの。
　そりゃＱ廷料理人きゅうていりょうりにんとおなじ手順てじゅんだ――解析指南かいせきしなん。
　「（別べつの方法ほうほうはないかのぉ？）」

　噴霧ふんむした水みずを冷却れいきゃくし――削けずる工程こうていを省はぶいて粉雪こなゆきをつくる。
　霧きりを――一気いっきに冷やす……のか？
　なるほどな。
　けど、その手順のための手間・・・・・・・・が書かれた、スキル画面がめんが――
　舞台じめんにめり込むほど長ながい、長ながすぎだろ。
　豆腐とうふを作つくるのに作つくらされた〝苦水にがり〟もそこそこの手間てまだったけど、雲泥うんでいの差でコッチが難むずしい。

　しかもその理屈りくつが、スキルのおかげでわかるもんだから――
「ぐっ、ぎぎぎぎぎっ――――でぇいっ！」
　おれ……いや、わしと迅雷ジンライと五百乃大角いおのはらにしか見えないであろうスキル画面を、蹴っ飛ばしてキャンセルなしにした。

「はぁはぁはぁはぁ――すっすぅーすっすぅーすっすぅぅぅぅぅっぅ――――！」
　息いきをととのえる。あのまま考かんがえを引っ張られてたら、危あぶなかった。
　時間じかんを掛ければさっきの、〝霧きりから氷こおりにする〟やつも出来できるだろう。
　けど時間制限じかんせいげんがある以上いじょう、べつの手を打たないと負ける。
　生活魔法おばけリオレイニアなら何なにもない所ところに、雪ゆきを降らすことくらい訳無わけないんだろうが。

　手順てじゅんを踏めば水みずを氷こおりにして、取りだすことは出来できた。
　けど吐いた息いきが瞬時しゅんじに凍こおるるような、極寒ごっかんの魔法まほうを使つかえるスキルは取っていない。
　この二ふたつは似ているようで、違ちがうのだ。
　スキルのおかげでソレがわかる。

　じゃあ、どうする。
　物ものをつくるしか能のうがないなら、削けずる道具どうぐをつくるか。
　見ばえがして、きめ細こまかに氷こおりを削けずれる道具どうぐ。
　石臼おしうすに刃やいばでも付けるか？

　スキルは氷こおりの重おもさで刃やいばを食いこませる、ひっくり返かえった石臼いしうすみたいなのを脳裏のうりに浮かびあがらせた。
　これは作つくりが簡単かんたんで、作つくるとしたらどう作つくるかの図面ずめん――スキル画面がめんも小ちいさい。

　けどな石臼いしうすをまわした所ところで、さっきのＱ廷きゅうてい料理人りょうりにんさまに並ならび立てるわけがねぇ。
　どうする!?

　ぱぱぱん♪
「クツクツ――――♪」
「くすくす――――♪」
「ウケケケ――――♪」
　うるせぇぞ、扇子組せんすぐみめ。

　迅雷ジンライを見ると、鍋なべを大鍋おおなべに浮かべて――何なにやってやがんだ？
　なんにしても、あれじゃ地味じみだろ。

　修験者おれたちが山やまを下りて、里さとで披露ひろうしてたみたいな――
　そうか、その手があったか。
　修行ぎょうの合間あいまに、路銀ろぎんを稼かせぐってんで――
　いろんな技わざを身につけた。
　身につけなけりゃ――頭陀行ずだぎょうしなきゃならなかったから、必死ひっしに覚おぼえた。

　　　§

「さてお立ち会い、ここに取りだしたるは特大とくだいの大独楽おおごまでござぁぃ～♪」
　大独楽これは師匠ししょうみたいなやつが、よく使つかってたのを真似まねてつくった。

　手甲てっこうの先さきで持たねぇと、怪我けがをするような鋭利えいりな楔くさび。
　そこから独楽こまの傾斜けいしゃに沿って斜ななめに生えた、鉋かんなのような平刀ひらがたな。

「一巻ひとまき二巻ふたまき三巻さんまき四巻しまき――巻けば巻くほど――♪」
　ぐるぐるぐるぐると、太縄ふとなわを巻き付ける。
　刃物はもののような独楽こまだが、引いて回まわすだけなら太縄なわが切れることはない。

　口上こうじょうを始はじめるまえに、試ためしにテーブルの上うえに投げ落としたとき。
　なんせ巨大きょだいな氷こうりにあわせた超特大ちょうとくだい。
　回まわりはするが、チョットした歪ゆがみが出ていた。
　テーブルを一瞬いっしゅんで粉砕ふんさいするも、あの氷塊はしらを削けずりきるには心許こころもとない。

　スキルが直なおせといった箇所かしょを、叩たたいたり削けずったり強化きょうかしたりしたら。
　微動びどうだにしない、えらく出来できの良い独楽こまになった。

　もういちど試ためしにと、抜いた小太刀かたなの上うえを刃渡はわたしししたら――とんでもなくウケた。
　よーし、あとはコイツを力一杯回ちからいっぱいまわして、氷柱こおりの天辺てっぺんに乗せりゃぁ良い。
　簡単簡単かんたんかんたん。

「みぃごと氷こおりを削けずりりましたらぁ、拍手喝采はくしゅかっさいのほどぉおたのみもぅす！」

「もぅすでごわす♪」
　もうすもうす、もうすでごわす♪
　ちっ、子供レイダめ。
　よけいな合いの手を、入れるんじゃねぇ。

「カァァァァァァァァっ――――!!」
　天高てんたかく巨大独楽きょだいごまを放ほうりあげ――スタタタットトォン――縄なわの端はしを持って、客席きゃくせきの方ほうへ走はしりだす。
　長ながさが足りなかったから、そのまま舞台ぶたいから飛びおりた。

　振りかえる――――ゴゴン！
　よし乗ったな！

　シャシャシャシャギ、シャギシャギシャギィィィィッ――――――――――――!!!
　舞い落ちる粉雪こなゆき。
　あとはアレを器うつわで受けるだけじゃ。

　舞台ぶたいへ駆けもどり、大おおきな盆ぼんの上うえに器うつわを並ならべた。
　足あしが高たかいビードロの器うつわは気をつけないと、すぐに倒れる。
　そこで――自分じぶんの迂闊うかつさに気づいた。

　大独楽おおごまは見事みごとに粉雪ゆきをまいてくれた――
　が、独楽こまは回転かいてんする。
　とうぜん雪それを追うなら盆ぼんを持って、とんでもない速度はやさで氷柱こおりのまわりを駆け回まわらないといけない。
　出来できなくはねぇが――美うつくしくねぇやな。
　出し物ものとしちゃ、下の下だ。

　どうにかならんか……うーん……ならんか？
　あきらめ半分はんぶん、盆ぼんを置いて小太刀かたなを取りだす。
　氷塊はしらを切るくらいしか、出し物ものがなくなった。

　ヴッ――――ぱしん♪
　どうする？
　独楽こまの上に・・開けた穴あなから、鉋屑かんなくずは吹き出してる。
　ならその向きを、一方向いちほうこうに留めりゃ良い・・・・・・。
　ならどうする？

　まわる独楽こまを――まわる勢いきおいとは逆向きに・・・・――まわせば良いんじゃ？
　そう考かんがえたら、体からだが勝手かってに小太刀かたなを抜いた。

「（初級位相じゅくれんの幾何学こまやかさで――）」
　斜ななめめに小太刀やいばを差しこむ。
「（体感じめんをつかんで超感覚つなわたり――）」
　ぐるっと一回転いっかいてん。音おともなく氷塊はしらを切った。

　ぐらつきもしない柱こおり。
　独楽こまの勢いきおいはどんどん増していき、みるまに柱こおりの高たかさが縮ちじんでいく。
　いそがねぇと。

「ちぃぇい――！」
　取り出した苦無くないを、ゴスゴスゴスゴスン！
　切った柱はしらの上うえの部分ぶぶんを一周いっしゅうするように、全部ぜんぶで六本打ろっぽんうちこんだ。
　ヒビが入はいり、さすがにぐらつく氷こおりの柱はしらをっ――
「（耐性強化たいせいきょうか、不壊付与ふかいふよ、幸運効果付与こううんこうかふよ、強運行使きょううんこうし）」
　ヒビが消えた柱はしら――そのまわりに突き出た苦無くない。
　独楽回こままわしにつかった太縄なわを巻きつける。

「（ロープワークからのすばやくまいて、ジャイロマスター呼出たおさないように）」
　力一杯ちからいっぱい、けどこんどは逆向きに・・・・――多少たしょうの加減かげんをしてひっぱった！

　ゴゴゴゴゴゴゴゴリリリリリリィリッ――――!!
　柱こおりは倒たおれることなく回転かいてんし――
　シャシャシャシャギ、シャギシャギシャギィィィィッ――――――――――――!!!
　くるくると四方しほうへ舞い落ちていた粉雪ゆきが、一カ所いっかしょに降り積もりはじめた。

「（体感じめんをつかんでジャイロマスター呼出たおさないように）――いまじゃぁぁぁぁっ！」
　盆ぼんに並ならべたビードロの器うつわで、粉雪ゆきを受け止める。

　おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ――――――――♪
　パチパチパチパチパチパチ――――Ｑ廷料理人きゅうていりょうりにんの出し物ものに勝まさるとも劣おとらない芸ものを、見せられたのではないだろうか。

　見る間に出来上できあがった雪山ゆきやまへ、甘あまく煮た豆まめをかけた。

「どうじゃっあ、わしの手に掛かれば――――」
　出来できた凍こおった菓子かしを、いそいで配膳はいぜんしていく。

「あのう、テェーングさま――」
　手をあげ何なにかを訴うったえるフッカさん。

「女子おなごや、どうしなすった？」
　体からだを抱かかえ縮ちぢこまる、女子おなご。

「ふぇくちゅん！　――たらぁん」
　突然とつぜんの声こえの主ぬしをみれば、それは鼻はなを垂らす子供れいだ。

「お師匠ししょうさま、舞台上ぶたいじょうの気温きおんが平均へいきんより５℃ども下がっております」
　なぬっ!?
　振りかえる。
　巨大きょだいな氷柱ひょうちゅうから、しみ出す冷気れいき。
　そして、霧きりのように舞う粉雪こなゆき。

　みれば、息巻いきまいていた扇子組せんすぐみの鼻はなからも、たらぁーん。

「食しょくというものは、食事しょくじを取る環境かんきょうを整ととのえることから始はじまります、お師匠さま（シガミー）」
　あわてて氷柱こおりを消そうとしたけど――いかん、この大おおきさの物ものを収納しゅうのうする魔法具まほうぐをわしは持ってない。

　ぱちり――――閉じた扇子せんすを氷柱こおりへ向ける、伯爵夫人ルリーロ。
「コォォォォン♪」
　ぼっごぉぉっぉぉぅわぁぁぁぁっ――――！
　青白あおじろい炎ほのおが、氷こおりや飛び散った雪ゆきをかき消した。

　グワラランと落ちる、大独楽おおごまと苦無くない。

「ひぇっくしょい――！」
　五百乃大角いおのはらまで、鼻はなを垂らしてる。
　わし、ひょっとしてやってしまったかのぅ？

　ことり。
「お師匠ししょうさま、ドンマイです。どうぞボクのつくった〝アイスクリーム〟をご賞味しょうみくださいませ」
　迅雷ジンライが差しだした、ビードロの器うつわに乗っていたのは。
　見たことのない――凍こおった真っ白しろい味噌みそ。

　それは女将おかみさんの菓子かしよりも、わしの菓子かしよりもうまくて。

『烏』『烏』『烏』『天』『烏』『烏』
　どうなんだこりゃ――四本目よんほんめ；も大敗たいはい。
　しかも出し物合戦ものがっせんにも、惨敗ざんぱいときた。
　女将トゥナさんが一票入いっぴょうれてくれたのは、刀かたなや独楽こまをつかった芸げいに感かんじ入る所ところでもあったからじゃなかろうか。
　これで、一勝三敗いっしょうさんぱい。

　ひとます、審査員席しんさいんせきの方々かたがたに謝あやまっておく。
「か、かたじけないぇ――っくしょぉぉい――！」
　わしまで寒さむくなってきおったわい。

「カタジーケ――っくちゅん♪」
　子供レイダがまた、くしゃみをする。
　ほんとうに、かたじけないことをした。

ーーー
頭陀行／托鉢。民家を回り食料を鉢にもらう修行。