滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

３：ダンジョンクローラーになろう

２７１：ダンジョンクローラー（シガミー御一行様）、かりゅうのねどこ

「まさか、こんなことになるとは……来世らいせも末すえだぜ」

「にゃがぁー、みゃががぁー♪」
　大蜥蜴おおとかげににまたがった猫の魔物レイダが、ぷすぷすと焦げている。
　どれだけ燃えようが煤すすを払はらえば、あの夏毛なつげは元もとに戻もどるはずだ。
　けど念ねんのため、一応いちおうひっぺがしとく。

　大おおきな背に跳び乗り、うしろから持ちあげた。
「やだみゃぁー、もっとあそぶにゃみゃがぁー♪」とあばれる子猫レイダを、すべらせて下したへ降ろした。

「おい大蜥蜴おおとかげ、コイツがココに居る間あいだは、気に掛けてやってくれねぇか？」
「――新魔王シンマオウシガミー、命イノチにかえてもソノ命メイを果たそう――」
　はぁ――!?　おれが魔王まおうだぁー？

「やめろっ、姫さんリカルルにぶった切られる予感よかんしかしねぇ――!!」
「――ではマスターと――」
「それも、やめてくれ。シガミーで良い、シガミーで」

「――グゥルゥルルルウゥゥゥウ？――」
　うなりだしたぞ？　熱ねつで耳栓みみせんが壊こわれたんじゃ？
「どウやら声こエにならナい声コえヲ、発はッしているようデす・」
　迅雷ジンライが飛んできて、説明せつめいしてくれた。

「火龍かりゅうともあろう者ものが、なんて無様ぶざまなのかしらっ♪」
　にたぁりと笑わらう狐耳きつねみみ……鬼姫おにひめが来た。
　鞘さやに入れたままの細剣ほそけんで、大蜥蜴おおとかげを突つついたりしてる。

「ふぅ、お嬢じょうさま。もう少すこし友好的ゆうこうてきに接せっしてください」
　いつもの小ちいさな魔法杖まほうつえを振りながら、リオレイニアがやってきた。
　彼女かのじょたちが歩あるいてきた道みちが、かすかに凍こおりついている。

　ふぉん♪
『＞時間をかけ念入りに、冷たい魔法を重ね掛けたようです』
　その道みちは、洞窟どうくつの壁かべに空いた穴あなに続つづいていた。

「アナタもシガミーの呼び方かたに、困こまるくらいならば――正式せいしきに配下はいかにくだっては・・・・・いかがですか？」
　ため息いきまじりの小言こごとみたいなのが、こんどは火龍かりゅうへ向けられた。

「シガミー、仮設かせつのキャンプが完成かんせいしました」
　黒くろい護衛騎士ごえいきしエクレアが、親指おやゆびを立てて背後はいごの壁穴かべあなを指ししめす。
「ええ、涼すずしく……とまではいかないけど、コッチよりは快適かいてきよ」
　汗あせをぬぐうフッカ。炎ほのおの魔法まほうが得意とくいってことは、氷こおりの魔法まほうとかは苦手にがてなのかもな。

　結局けっきょくの所ところ、爪つめも火弾かだんも引っこめて、しまいには腹までみせた・・・・・・火龍ヤツを――

「ふむ、退治たいじするのも忍しのびねぇけど……配下はいかにするだぁ？　こいつぁ魔物まものだろーが？」
　ペチペチと首くびのあたりを叩たたいてみたら、日に焼けた石いしみてぇだった。

「すべての魔物まものが人ひとを襲おそうわけでもありませんし、彼かれは共用語きょうようごが話はなせますので」
　視線しせんを背中せなかから長首ながくびの先さきへと移うつす、袖そでひとつ捲まくらないリオレイニア。
　給仕服メイドふくにも冷つめてぇ魔法まほうを、掛けてるんだろうなぁ。
　時間じかんさえありゃ、大抵たいていなんでもやっちまうから――
　今後こんご、別べつのダンジョンに出向でむくなら、ぜひ連れていきたい。

「――ケど、そうすルと廃棄女神像はいきめがみゾう探索たんさくニ支障ししょウが出るかモ知れマせん・――」
　そうなんだよなぁー。魔物まものの群れに、おれ一人ひとりで飛びこませてくれるとは思おもえねぇ。

「――ウム。ココまで火山カザンの勢イキオいが弱ヨワまれば、口クチから火が勝手カッテに吹き出ず話ハナしやすい。礼レイを言うぞ、堅牢ケンロウな盾タテを使ツカう岩壁姫イワカベヒメよ――」

「い、岩壁いわかべっ!?」
　ぽろり――岩壁姫リオレイニアが杖つえを落とした。

「いっ岩いわ……ぶっうふふふふ……ひゅぴ――――♪」
　〝岩壁姫それ〟には姫ひめさんも耐えられなかったのか――くの字になって地に伏せる。
　よ、よせやい。おれまで、つられちまうだろがっ！
　スルスルル――――すとん。
　おれは火龍かりゅうの背中せなかから降りた。
　猫の魔物レイダは、できた仮かりの拠点きょてんとやらに、すっ飛んでったから事ことなきを得た。

「や、やめてやれ。たしかに彼女かのじょの魔法まほうわぁ、岩壁いわかべみてぇに硬かてぇが――」
　杖つえを拾ひろって持たせてやろうとしたら――手元てもとが狂くるった。

　ふすっ。
　まるで〝おもち〟の足音あしおとみたいに――手応てごたえがなかった。
　そんな微かすかな胸元むなもとに、両手りょうてがペタリ。

「だれの胸むねが、岩壁いわかべなのですぅ――か？」
　笑わらってない。

　〝火龍かりゅうの寝床ねどこ〟とは名ばかりの、普通ふつうに暑あついぐらいの洞窟どうくつになった。
　そして〝魔王軍まおうぐん〟とは名ばかりの、魔王軍第一まおうぐんだいいちエリア統括とうかつも――ふたたび腹はらを上うえに向けて降参こうさんする。

「そんな大おおげさな――」
　――もう一度いちど岩いわ……白いのリオレイニアをみたら、仮面かめんの下したから涙なみだが流ながれた。
　やべぇ、からかいすぎた！

　スグに乾かわく頬ほほ――にこり。
　口元くちもとに、ほほ笑みが戻もどった。
　それには、崩くずれ落ちてた鬼姫リカルルまでもが――震ふるえあがった。

　おれたちも片膝かたひざをついて、首こうべを垂れた。

　　　§

「うーん。オマエは雄おすだよなぁ――？」
「――ソウだが？――」
　気づけば女おんなばかりになっちまってた、おれのまわり。
　男おとこが増えるのは、心強こころづよい。

　絵で板エディタを使つかって、橙色だいだいいろの法被はっぴを作つくってやった。

『猪蟹屋三号店』
　と襟えりに入れてやる。
　つぎに背中せなかの〝美の女神めがみをあらわす輪郭かたち〟――
　ウチの店みせの、家紋かもんみてぇな意匠ヤツを入れた。

　けどやっぱり――〝ねがみめんど〟の逆さかさ鏡餅かがみもちのに変えた。
　コッチのがわかりやすいだろう。

　五百乃大角いおのはらが、文句もんくを言いそうなもんだが――
　ふぉん♪
『イオノ＞すこし引っかかるけどＩＰ戦略は重要ですもの、
　　　　　このままで良いわよ』
　このままで良いらしい。

「じゃあ店みせの名前なまえは、どーするかなぁ？」
　でかい目玉めだまをよせた火龍かりゅうと一緒いっしょになって、見物けんぶつしてた姫ひめさんが――

「〝猪蟹屋三号店／かりゅうのねどこ〟でよろしいのではなくて？」
　なんてかってに決めちまった。
　二号店にごうてんである饅頭屋まんじゅうやもニゲルが決めたようなもんだし、別べつにかまわねぇけどな。

「そうですね。悪わるくはないと思おもわれます。どうせ、目を血走ちなしらせた魔術師まじゅつしたちの目には……入らないでしょうし」
　目を血走ちばしらせた魔術師まじゅつしてのは、よくわからんが――

　ふぉん♪
『＞地下二階の魔法が発動しない部屋は魔術師たちにとって、
　　とても良い修行場になるそうです。安宿程度で貸し出しても、
　　おそらく引く手あまたになる見込みだそうです』
　なんかコソコソ話はなししてたのは、ソレか。

　そういや、あの暗くれぇところで、そんなことやったな。
　おれも修行しゅぎょうすりゃ、炎ほのおの魔法まほうくらい使つかえるようになるかも知れねぇ。

　黒筆くろふでで『かりゅうのねどこ』と首後くびうしろに、入れてやる。
　ガムラン町ちょうの文字もじも、だいぶ書けるようになったから、ソッチで書いてみた。

「「あら、素敵すてき♪」――ですね♪」
　よし、これで良いだろ。
　しゃらあしゃらの手本てほんふたりが、そう言うなら。

「じゃぁ店みせの名前なまえはコレで。書き付け……書類しょるいの類たぐいが居るなら、悪わるいんだけどソッチで頼たのむよ」

「良いですわ。子細滞しさいとどこおりなく――いゎ……レーニアが」
　おいやめとけ、もう刺激しげきするな。
「いゎ――――？」
　仮面かめんごしでもわかる。
　彼女リオの表情ひょうじょうは、じつはとても豊ゆたかだ。

　スタスタと拠点キャンプ（仮とやら）へ逃げていく〝ザンマ姫ひめ〟と、追う〝イワカベ姫ひめ〟。
　まあ、アレはアレで仲なかが良い証拠しょうこだから、ほっとく。