滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

３：ダンジョンクローラーになろう

３７２：龍脈の回廊、シガミー（シグナル構造体）ついにあらわる

「サメがぁ割れてぇー、中なかからロボットが出てぇきたぁ――!?・」
　ここは新しんギルド会館かいかん最上階ペントハウス。
　コントゥル家邸宅応接間けていたくおうせつま。
　大おおきく丸まるい花はなのような物ものが散乱さんらんしており、それを片付かたづける従者じゅうしゃたちが右往左往うおうさおうしている。

「ちょっとニゲル！　なぁに、そのぉ寝言ねごとぉ――？・」
　驚愕きょうがくのイオノファラー御神体ごしんたい。

「「「「「「「「「「「ロボットってなぁに？」」」」」」」」」」」
　片付かたづけの手を止める、客人並きゃくじんならびに従者じゅうしゃたち。

「私わたくしは知っていますわ♪　イオノファラーさまのライブラリ……日記帳にっきちょうに書いてありましたもの♪　一言ひとことで言うならラプトル王女殿下おうじょでんかの、ゴーレムのようなものですわ♪」
　ズズズズズッ、ズズズズズズッ、めきめきょ！
　年端としはもいかない少女しょうじょの頭あたまに生はえた木立こだち。
　それが、見る間に――逆再生もどっていく。

　長ながささを小枝程度こえだていどにまで短みじかくした樹角じゅかくには、オルコトリアの拳こぶしくらいの――
　果実かじつが生なっていた。

「「「「「「「「「「ゴッゴーレムゥー!?」」」」」」」」」」
　注目しゅうもくを浴びた王女殿下おうじょでんかが「ららぁぁん!?」とメイド・タターの影かげに隠かくれた。

「――いやいや、ゴーレムなんかよりは、よっぽどマシだけどさ――手に持ってる棒ぼうがやばい！」
　拡声かくせいされた声こえ。
　スマホから聞こえる、覇気はきの感かんじられない声こえの主ぬしは――
　勇者ゆうしゃになり損そこねた、青年せいねんニゲル。

「手にぃ持ってるぅー棒ぼおぉーん？・」
「「「「「「「「「「棒ぼう？」」」」」」」」」」
　自然しぜんと全員ぜんいんの目が、暖炉だんろの上うえに陣取じんどった迅雷ぼうへ注そそがれる。

「ゴーレム〝なんか・・・〟らぁん!?」
　一人ひとり、スマホへ駆けより憤慨する王女殿下ラプトルひめ。
　彼女かのじょの魔道具人形ゴーレムが執拗しつように、青年ニゲルを追いかけ回まわした結果けっか。
　彼ニゲルからは、毛嫌けぎらいされている。

「埒らちがあかないわねぇん。スマホのカメラ使つかえるぅ？　ダイレクト通信つうしんで接続中せつぞくちゅうだからぁいくら使つかってもぉー、平気へいきぃだしぃーさぁー♪・」
　そもそも惑星わくせいヒースに、スマホの通信つうしんインフラは存在そんざいしていない。
　中継機ブースターがわりの女神像通信めがみぞうつうしんネットワークは、基本的きほんてきには無料むりょうだ。

「――そーなのぉーぅ？　じゃあ、ちょっと待って……ビデオフォンに切り替えてっと――みえますかぁー？」
　気の抜けた声質こえしつ。それは逆ぎゃくに言うなら、親したしみやすさに繋つながる。

　ふぉふぉふぉん♪
『３１０６のスマートフォン＞＞＞ビデオ通話中』
　小ちいさなテーブルの上うえ。置かれたスマホ直上ちょくじょう、５０センチ。
　それは表示ひょうじされた。

「――あーぁ？　何なにコレ壁かべ……天井てんじょうかな？」
　リカルルに兵六玉まぬけと称しょうされる程度ていどには、人畜無害なひとあたりのよい外見みため。
　リカルルの猛攻もうこうを退しりぞけ、低警戒度ていけいかいどとはいえ変異種バリアントを単体ソロで討伐とうばつ。
　それなのに依然いぜんとして、黄色きいろい声こえがひとつも掛からないのが彼かれの人ひととなりである。

「にっ、ニゲルさまらぁん♪」
　推しの登場とうじょうに破顔はがんする、ラプトル王女おうじょ。
　黄色きいろい声こえを上げてはいるが、彼女かのじょは別枠べつわくだ。
　ニゲル撃破げきはが婚約こんやくの条件じょうけんであり、今いまのところ彼女かのじょのゴーレムでは――
　鍵剣かぎけんセキュアに歯が立たない。

　ふぉん♪
　切りかわる映像えいぞう。
　映うつし出されたのは――

「「「「「「「「「「ぎゃぁぁぁっ、鬼族オーガだっ!!!」」」」」」」」」」
　倍化ばいかしたオルコトリアよりも、巨大きょだいなな体躯たいく。

「ギャーってなによ、叫さけぶことないでしょ！　か、完全武装かんぜんぶそうした同族どうぞくは確たしかに、ちょっと厳いかついけど――あれ、何なにその大おおきさ？　ニゲル、ちょっと横よこに立ってみてよ」
　憤慨ふんがいし弁明べんめいし、青年せいねんに要請ようせいするのは、ガムラン町ちょうギルド受付嬢うけつけじょうの鬼族オーガの方ほう。
　眉目秀麗びもくしゅうれいなその姿すがたに、女性じょせいファンも多おおい。
　現在げんざい、度重たびかさなるギルド屋舎破壊おくしゃはかいにより、職場ギルドへの立ち入りを制限せいげんされている。

「――無茶むちゃ言うなよっ！　今いまはジッとしてるけど、あの鎧よろい、ちゃんと動うごいてるからな？」
　〝ちゃんと動うごいてる〟というのは、〝場に溶け込んでいる〟ということで。
　冒険者ぼうけんしゃたちなら誰だれもが習得しゅうとくする、〝風かぜに身を任まかせ、なびくような〟――
　狩猟時しゅりょうじの立ち方かたのことだ。

　つまり巨大きょだいな武者よろいは彼ニゲルを、獲物えものとして捉とらえているフシがある。

「じゃぁねぇー、たしかソッチのぉ、収納魔法具しゅうのうまほうぐ箱ばこに入れておいたはぁずぅ――〝空撮くうさつドローン〟おぉー出してーねぇん♪・」
　ごそごそと懐ふところや空中くうちゅうを探さがす、御神体ごしんたい。
　収納魔法インベントリは神々かみがみ、すなわちプレイヤー・・・・・としての基本きほんスキルであり、作成さくせいした収納魔法具アイテムボックスに格納かくのうすることも可能かのうだ。
　そのため、フォルダ分けしていないと、探さがすのに時間じかんが掛かる場合ばあいもある。

「――くうさつどろおん？　なにそれ、聞いたことないんだけど？」
　巨大武者きょだいむしゃを撮影さつえいしつつ、自撮じどりワイプ画面がめんで首くびを傾かしげる青年せいねん。
「んーっとね、ニゲルの生まれた日本にほんでは、発展しなかった・・・・・・・のね……。ラジコンのヘリコプターって言えばわかるぅー？・」
　大おおきな頭あたま（直径約十ちょっけいやくじゅっセンチ）を、置いたスマホへ近ちかづける御神体メガミ。

「――そりゃわかるけど、僕ぼくに操縦そうじゅうなんてムリだよ？」
「大丈夫だいじょうぶ、それはコッチで担当たんとうするから――迅雷ジンライぃ・」
「はイ、イオノファラー。ニゲル、収納魔法具しゅウのうまほうぐ箱側面ばこそくめんノタッチパネルへ触レてください・」
　ヴォッォォォォンッ♪

　メガミの眷属けんぞく。空飛ぶ棒ジンライが、暖炉上だんろじょうの調度品おきものから離はなれると――
　ガチガチガチガチガッチャリッ♪
　迅雷ジンライの細腕アームをぐにゃりと曲げ、壁かべの調度品ちょうどひんが９０度回転どかいてんした。
　拮抗きっこうしていたパワーバランスが崩くずれ、剣士けんしの置物おきものが動うごいてしまったのだ。

「高警戒度こうけいかいどのバリアントを検出けんしゅつ、高警戒度こうけいかいどのバリアントを検出けんしゅつ。ただちに防衛ぼうえいならびに迎撃行動げいげきこうどうを開始かいししてください！」
　それは、最上階ペントハウスに轟とどろく大音量だいおんりょう！

「申モうシ訳わケありマせん、カヤノヒメ。手ヲ放はナしてしまいマした・」
「大丈夫だいじょうぶですわ。すでに〝シガミー構造体こうぞうたい〟のシグナルはコチラに、生りました・・・・・もの♪・」
　顔かおの両脇りょうはじに垂れ下がっていた、桃もものような果実かじつを――ぶちぶちり。
　むしり取ってしまう、星神ほしがみカヤノヒメ。

　状況じょうきょうは混迷こんめいを極きわめていく。
　唖然あぜんとする子供レイダとメイドたちと、執事しつじと鬼の娘オルコトリア。
　子馬テンプーラゴウや伯爵夫人ルリーロや王女殿下ラプトルとガムラン最凶リカルルは、それぞれ目のまえの出来事できごとに目を奪うばわれている。

　暖炉だんろの上うえ。細剣ほそけんが掛けられていた壁かべが――ぱたんとひっくり返かえった。
　全すべての伯爵領家名はくしゃくりょうかめいが点灯てんとうし――レイド村むらのある区域くいきを示しめす光点こうてんは、まるでストロボのような鋭するどい光ひかりを断続的だんぞくてきに放はなっている。

「んなっ!?　バリアント!?　会食準備かいしょくじゅんびは一時中断いちじちゅうだん、即座そくざに警戒態勢けいかいたいせいに移行いこう！」
　ガムラン代表だいひょうリカルルが吠え――
「了解りょうかいしました。全職員並ぜんしょくいんならびに、待機中たいきちゅうの衛兵えいへいを緊急きんきゅう招集しょうしゅう」
　執事しつじが伝令でんれいを走はしらせる。

「イオノファラーさま、お願ねがいしていた通信機つうしんきは今いますぐ、ご用意よういして頂いただけますでしょうか？」
　鳥の仮面のメイドリオレイニアが、御神体メガミを持ち上げ、問う。

「えー、それじゃぁねぇー。作つくっておいたカナル型がたイヤホンを５０と、ギルド会議室かいぎしつの超特大ちょうとくだいモニタ……黒板くろいたと繋つなぐためのスマホは、あたくしさまの予備よびを使つかって良いわよぉ♪・」
　ヴッ――根菜こんさいのようなフォルムの御神体ごしんたいから、むにゃるりと飛び出したのは、紙で出来たダンボール箱ばことピンク色いろのスマホ。

　状況じょうきょうは混迷こんめいを極きわめつづける。

　ふぉふぉぉぉぉん♪
　ニゲル青年せいねんの顔かおを映うつす映像えいぞうが、新あらたに現あられた。
「ニゲルさまらぁん♪♪」
　推しの登場とうじょうに、ふたたび破顔はがんするラプトル王女おうじょ。

　映像えいぞうは上昇じょうしょうしていき、やがて背後はいごを振りかえる。

　森もりの木々きぎの間あいだに立つソレは――木々きぎの大おおきさと比くらべても、とても大おおきい。
　映像えいぞうがうしろへ下がり、ニゲルの姿すがたを映うつしだす。
　ニゲル換算かんさんで、約三倍３ニゲルはある巨体きょたい。

　赤あかい色いろの鎧装束よろいしょうぞくに身を包つつんだ、まさに武者むしゃ、武将ぶしょう、いくさ人びと。
　僧兵猪蟹そうへいししがにが生きていた時代じだい。
　群雄ぐんゆうを割拠かっきょしていた、戦時せんじにおける戦闘服ファッション。

「なぁにこのぉ、でっかぁいお侍さむらいさぁんーわぁー？」
　混迷こんめいを極きわめる状況じょうきょうに、伯爵夫人はくしゃくふじんルリーロ（江戸えどから転生てんせいした稲荷神いなりしんの眷属けんぞく）が口くちを開ひらいた。

　それは甲冑姿かっちゅうすがたの、サムライではあるが――
　ボルトで締められた、複合装甲板コンポジットアーマー。
　作動状況さどうじょうきょうを示しめす各種かくしゅの、パイロットランプ群ぐん。
　ナノカーボンが塗布とふされた、むき出しの関節かんせつと、動力どうりょくをバイパスするシールドワイヤーケーブル。

　天てんを衝つく、太ふとく無骨ぶこつなアンテナ群ぐん。
　バックパックから突き出た、スラスターノズル。
　それは、どこからどう見ても、人型巨大ひとがたきょだい機動兵器きどうへいきであった。

「それっ、同族どうぞくじゃないわよ！　大おおきすぎるし、体が鉄で出来てる・・・・・・・・じゃないか！」
　スマホ映像えいぞうへ駆けよる鬼娘オルコトリア。
　興奮こうふんのあまり、角つのから放電ほうでんしている。

「――よくみたら、格好良かっこういいなぁ。まるでプラモじゃんか♪」
　などと言いつつも、ニゲルは鍵剣セキュアを構かまえたままだ。
　武者プラモはドローンを見つけ、各種かくしゅのパイロットランプを光ひからせたあと――
　その巨体きょたいを、青年ニゲルへ向けた。

　ギュキシシシン――バチバチバチン、ガチャガチャガチャッ♪
　複合装甲板コンポジットアーマーは、一切最適化いっさいさいてきかされておらず。
　動うごくたびに干渉かんしょうした箇所かしょや、余剰部分よじょうぶぶんが――
　バリバリ、バララララッ――剥がれていく。

　プラモと言ったニゲルの言葉ことばは、端的たんてきに武者むしゃを言い表あらしていた。
　武者赤鬼プラモデルは顔部装甲板フェイスアーマーに隠かくれた、外部がいぶスピーカーを使つかい――コワァーン♪

「――あちちっ――まダこの体からだにゃ慣れてネぇから、あちこち噛んじまっていけネぇや・――ニャ♪・」
　無骨ぶこつな体躯たいくに似合にあわない、まるで少女しょうじょのような可憐かれんな声音こわね。

「「「「「「「「「「「だれっ!?。」」」」」」」」」」」
　そのギャップに声こえを揃そろえる、ペントハウス一同いちどう。

「――ナに言っテやがる、みんナのアイドル、シガミーさマに決まってんダろーが・――ニャン♪・」
　ん？　この声こえ、なんか迅雷ジンライみてぇだな？
　巨大きょだいな武者赤鬼アイドルが、首くびをかしげた。