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4:龍撃の学院
453:猪蟹屋四号店(央都拠点)、納品そして
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「随分と立派な、収納魔法具ですのね?」
猪蟹屋四号店(予定)の一室。
机に並べたのは、二本の革ベルト。
ネジ止めされた板は腰に巻き付けやすくするため、かすかに曲げてある。
一つはリカルル専用、まえに作って置いたんだが――
渡すのを、すっかり忘れてた。
そしてもう一つは、さっき作ったミノタウ装備一式用のだ。
どちらも豪奢な拵えでネジ……螺旋の溝を刻んだ釘で、取り付けられている。
「うん。赤いのが姫さんの甲冑一式が入れられる。黒いのがミノタウ装備一式が入れられるようになってる」
収納魔法具と言えば猪蟹屋。猪蟹屋と言えば、おれシガミーの出番だぜ。
近頃じゃ商人連中が、猪蟹屋の収納魔法具を荷物運びに使い出してる。
何も入ってない収納魔法具だけでも売れるんじゃねぇかって、リオと話してるくらいだ。
「壊レた甲冑にかざシて、灯りの収納魔法具ヲ使ってみテください」
使い方を迅雷が説明するが、魔法具の使い方は全部同じ。
特に指示がない場合は、灯りの魔法ひとつで発動する。
「はぁ? 壊れた家宝を一体、どうするって言うのかしら?」
大分、訝しまれてるぞ?
破片ひとつ残さず拾ってきた、姫さんの赤い甲冑。
狐の面は、かろうじて原形を保っているけど――
白い鳥の仮面とかは、ひび割れて折れ曲がってしまっているし。
たしかに狐の耳の先から、機械の尾の先まで。
バッキバキのズタボロだからなぁ。
おれは黒い炭のような色の、収納魔法具を見つめる。
「(おい、ミノタウ装備【片喰・蹄】は、やばくねぇか?)」
ふぉん♪
『>そうですね。完全フル装備のリカルル相手に、
四度の会心で、ほぼ無力化する装備は、
とうてい普段使いには、向きません』
ヴッ――――スポン♪
姫さんがしぶしぶと、割れた甲冑を格納する。
「ではもういチど、灯りノ収納魔法具ヲ使ってみテください」
「んぅにゅ――?」
首をかしげながらも、言うことを聞いてくれる。
高貴な彼女の、こういう所は立派だと思う。
ガシャガシャゴトン♪
展開され現れた甲冑には、当然ヒビなど入っていない。
「「「「うぎゃっ!?」」」」
姫さんにリオに、伯爵さまに参謀の人。
そこまで驚かんでも、良いだろうが。
全部を分解して完璧に調整をするなら、時間も掛かるが――
壊れた欠片を元どおりに繋ぐだけなら、上等な作りの収納魔法具ひとつでこと足りる。
「カラテェー君の早業にも驚きましたが――これはっ!?」
リオレイニアの顔が青ざめている。
「私かイオノファラーガ同席するナらシガミーにモ、修復スキル同等ノ装備メンテナンスガ可能デす」
わざわざ言うことでもないだろ?
それにおれひとりでも、出来るだろうがよ?
ふぉん♪
『>それでは店主であるシガミーが、装備修復にかり出され、
猪蟹屋の店舗業務や、学院生活に支障が出ます』
そういうことか。わかった。
それに、同じことが出来ると知られりゃ――
ふぉん♪
『>同一人物だと、勘ぐられる可能性が高まります』
だな。
「えっ!? 折れた魔剣イヤーイを立ち所に繋いだのを、見たことはありましたけれど――」
自分の甲冑を拾いあげ、その具合を確かめるガムラン最凶。
「烏天狗君に続いてシガミーさんにまで、そんな特技が……猪蟹屋の営業内容が、どんどん増えていきますわ、くすくす?」
茶(というか例の冷たくて甘い飲み物)を運び、勝手に同席した星神さまが――
勝手なことを言いやがる。
烏天狗もおれも、全部おれだろうが!
「ただおれや収納魔法具だと欠けた部分を継ぐのに限度があるから、あとで折を見て工房長なり烏天狗なりに見てもらってくれよ」
〝蹄のロッド〟による、壊され方が良かったってのもある。
光輪みたいに削り斬るような壊れ方だと、格納展開しても装備が短くなっちまうからな。
「まったく、ヒーノモトー国出身者はこれだから――ぱちぽちぺち♪」
リオレイニアが、手にした計算機。
その使い方は伯爵と参謀の二人も、覚えたばかりだ。
「リオレイニア、これはリカルルの甲冑一式の……修繕費用か?」
眉をハの字にする伯爵。
「はい。本来値段など付けられないほどのレア装備修繕費ですが、猪蟹屋の相場でしたらこれくらいになります」
背後に回った男性二人に、金額をよく見せる猪蟹屋番頭株。
「魔物境界線ならいざ知らず、これでは央都の鍛冶ギルドが黙ってないだろう。せめて倍は請求す――」
どうもおかしい。
彼女が提示した金額が、安すぎたらしいぞ。
「いーやいやいや! これはこの収納魔法具で出来ることだ、金なんか取れるかっ!」
手をかざすだけで出来る仕事で、金は取れん。
スキルすら碌に、使ってねぇー。
おれは赤い収納魔法具をつかんで――ヴッ、すぽん♪
甲冑一式を、収納魔法具に格納した。
「それでな。この革ベルトを、腰に巻いてみてくれるか?」
無理矢理、話を進める。
「これで良いかしら?」
腰にベルトを巻き、颯爽と立ちあがる伯爵令嬢。
派手な色が、本当に良く似合いやがる。
収納魔法具には、刻印が刻んである。
「板の横から小さな摘み……取っ手を引っ張りだして、強めに下へ押してみてくれ」
これは裏天狗と強化服を、長く使ったことで――
出来るようになったらしいんだが、何でかはわからん。
文句も言わず――カチリ、ヴォォン!
何も起きない――「もう一回、すこし強めに」
この収納魔法具の機能を使うには、アーティファクトの飯である神力が必要だ。
それを生み出すには、取っ手を強く押さないといけない。
口を尖らせつつも――ヴォヴゥゥン!
「音声入力、朱狐シリーズ装着!」
リカルルが取っ手を押すと、リカルルの声がして――
パァァァァッ――――カシャカシャしゅるるるっパチパチン♪
派手なドレス姿だったリカルルが――
狐面の甲冑一式を、一瞬で身につけた。
「あら!? なにこれ、素敵ですわね♪」
元々、収納魔法はある程度、物を展開する場所をうまい具合に整えてくれる。
装備を仕舞うことや、上から羽織った状態で取り出すことは、今までも出来た。
だがこの最新型は、いま身につけている物と入れ替える。
そう、つまり一瞬で着替えられるのだ。
ふぉん♪
『イオノ>変身ヒーローか、魔法少女みたいねぇん♪』
うるせぇ、わからん。
「へへっ、良いだろっ♪ 着替えるための仕掛けを施してある。使い方にコツが要るから、わからなかったらおれか迅雷に聞いてくれ」
「はイ。収納さレた衣類ニふたたび着替えルときにも、同じよウに取っ手ヲ押シ下げテください。まタ衣類ニ関しテも繕わレ洗濯されたヨうな状態デ取り出されますノで便利デす」
実は素材として魔導伝導率が高いミノタウの角を、ほんの少し使ってるから特別製ではある。
「「「「はぁ!?」」」」
また目を丸くされた。
「どうした? 家宝を仕舞う収納魔法具なら、これくらい便利でも罰は当たらんだろうが?」
それにあくまで登録した、ひとつの装備に関してだけだぞ?
「ねえ、ちょっと……どーいうこと?」
「これは他言無用で……口外しないでください」
「従者ギルドも、黙っていないでしょう」
「はははっ、これはもう笑うしかないのではないか?」
どよどよどよ、わやわやわやわや?
だめだな、うるせえ。埒があかん。
「とにかく、こっちの大鎧。ミノタウロース装備一式入りの収納魔法具を持って帰ってくれ!」
出来が良すぎて文句を言われるとは、思わなかった。
§
「私このたび、央都猪蟹屋店舗内ギルド出張所受付嬢として勤務することになりましたわ、うふふ♪」
書類を手にガムラン町から、蜻蛉返りのリカルル。
いつもの受付嬢の制服に、真っ赤な革ベルト。
太刀緒……剣帯を革ベルトに通し、豪奢な〝まがい物の聖剣〟を帯剣している。
納品したミノタウ装備は、無事受け取ってもらえたようで何よりだが――
書類をひったくる給仕服。
「これ……週一だけじゃないですか。脅かさないでください、お嬢さま!」
ほんとだぜ、寿命が縮まるかと思ったぜ。
ふぅ。週に一日くらいなら、なんとかなるんじゃね?
そう思っていたときが、おれにも有りました。
ーーー
番頭株/やがて番頭になる地位にいる人。
変身ヒーロー/合理性を排除した、特殊能力を持つ正体へのモードチェンジを主体としたヒーロー。
魔法少女/合理性を排除した、特殊能力を持つ正体へのモードチェンジを主体としたヒロイン。
太刀緒/帯剣するため鞘を結ぶ組紐。
剣帯/帯剣するための金具や革帯。
猪蟹屋四号店(予定)の一室。
机に並べたのは、二本の革ベルト。
ネジ止めされた板は腰に巻き付けやすくするため、かすかに曲げてある。
一つはリカルル専用、まえに作って置いたんだが――
渡すのを、すっかり忘れてた。
そしてもう一つは、さっき作ったミノタウ装備一式用のだ。
どちらも豪奢な拵えでネジ……螺旋の溝を刻んだ釘で、取り付けられている。
「うん。赤いのが姫さんの甲冑一式が入れられる。黒いのがミノタウ装備一式が入れられるようになってる」
収納魔法具と言えば猪蟹屋。猪蟹屋と言えば、おれシガミーの出番だぜ。
近頃じゃ商人連中が、猪蟹屋の収納魔法具を荷物運びに使い出してる。
何も入ってない収納魔法具だけでも売れるんじゃねぇかって、リオと話してるくらいだ。
「壊レた甲冑にかざシて、灯りの収納魔法具ヲ使ってみテください」
使い方を迅雷が説明するが、魔法具の使い方は全部同じ。
特に指示がない場合は、灯りの魔法ひとつで発動する。
「はぁ? 壊れた家宝を一体、どうするって言うのかしら?」
大分、訝しまれてるぞ?
破片ひとつ残さず拾ってきた、姫さんの赤い甲冑。
狐の面は、かろうじて原形を保っているけど――
白い鳥の仮面とかは、ひび割れて折れ曲がってしまっているし。
たしかに狐の耳の先から、機械の尾の先まで。
バッキバキのズタボロだからなぁ。
おれは黒い炭のような色の、収納魔法具を見つめる。
「(おい、ミノタウ装備【片喰・蹄】は、やばくねぇか?)」
ふぉん♪
『>そうですね。完全フル装備のリカルル相手に、
四度の会心で、ほぼ無力化する装備は、
とうてい普段使いには、向きません』
ヴッ――――スポン♪
姫さんがしぶしぶと、割れた甲冑を格納する。
「ではもういチど、灯りノ収納魔法具ヲ使ってみテください」
「んぅにゅ――?」
首をかしげながらも、言うことを聞いてくれる。
高貴な彼女の、こういう所は立派だと思う。
ガシャガシャゴトン♪
展開され現れた甲冑には、当然ヒビなど入っていない。
「「「「うぎゃっ!?」」」」
姫さんにリオに、伯爵さまに参謀の人。
そこまで驚かんでも、良いだろうが。
全部を分解して完璧に調整をするなら、時間も掛かるが――
壊れた欠片を元どおりに繋ぐだけなら、上等な作りの収納魔法具ひとつでこと足りる。
「カラテェー君の早業にも驚きましたが――これはっ!?」
リオレイニアの顔が青ざめている。
「私かイオノファラーガ同席するナらシガミーにモ、修復スキル同等ノ装備メンテナンスガ可能デす」
わざわざ言うことでもないだろ?
それにおれひとりでも、出来るだろうがよ?
ふぉん♪
『>それでは店主であるシガミーが、装備修復にかり出され、
猪蟹屋の店舗業務や、学院生活に支障が出ます』
そういうことか。わかった。
それに、同じことが出来ると知られりゃ――
ふぉん♪
『>同一人物だと、勘ぐられる可能性が高まります』
だな。
「えっ!? 折れた魔剣イヤーイを立ち所に繋いだのを、見たことはありましたけれど――」
自分の甲冑を拾いあげ、その具合を確かめるガムラン最凶。
「烏天狗君に続いてシガミーさんにまで、そんな特技が……猪蟹屋の営業内容が、どんどん増えていきますわ、くすくす?」
茶(というか例の冷たくて甘い飲み物)を運び、勝手に同席した星神さまが――
勝手なことを言いやがる。
烏天狗もおれも、全部おれだろうが!
「ただおれや収納魔法具だと欠けた部分を継ぐのに限度があるから、あとで折を見て工房長なり烏天狗なりに見てもらってくれよ」
〝蹄のロッド〟による、壊され方が良かったってのもある。
光輪みたいに削り斬るような壊れ方だと、格納展開しても装備が短くなっちまうからな。
「まったく、ヒーノモトー国出身者はこれだから――ぱちぽちぺち♪」
リオレイニアが、手にした計算機。
その使い方は伯爵と参謀の二人も、覚えたばかりだ。
「リオレイニア、これはリカルルの甲冑一式の……修繕費用か?」
眉をハの字にする伯爵。
「はい。本来値段など付けられないほどのレア装備修繕費ですが、猪蟹屋の相場でしたらこれくらいになります」
背後に回った男性二人に、金額をよく見せる猪蟹屋番頭株。
「魔物境界線ならいざ知らず、これでは央都の鍛冶ギルドが黙ってないだろう。せめて倍は請求す――」
どうもおかしい。
彼女が提示した金額が、安すぎたらしいぞ。
「いーやいやいや! これはこの収納魔法具で出来ることだ、金なんか取れるかっ!」
手をかざすだけで出来る仕事で、金は取れん。
スキルすら碌に、使ってねぇー。
おれは赤い収納魔法具をつかんで――ヴッ、すぽん♪
甲冑一式を、収納魔法具に格納した。
「それでな。この革ベルトを、腰に巻いてみてくれるか?」
無理矢理、話を進める。
「これで良いかしら?」
腰にベルトを巻き、颯爽と立ちあがる伯爵令嬢。
派手な色が、本当に良く似合いやがる。
収納魔法具には、刻印が刻んである。
「板の横から小さな摘み……取っ手を引っ張りだして、強めに下へ押してみてくれ」
これは裏天狗と強化服を、長く使ったことで――
出来るようになったらしいんだが、何でかはわからん。
文句も言わず――カチリ、ヴォォン!
何も起きない――「もう一回、すこし強めに」
この収納魔法具の機能を使うには、アーティファクトの飯である神力が必要だ。
それを生み出すには、取っ手を強く押さないといけない。
口を尖らせつつも――ヴォヴゥゥン!
「音声入力、朱狐シリーズ装着!」
リカルルが取っ手を押すと、リカルルの声がして――
パァァァァッ――――カシャカシャしゅるるるっパチパチン♪
派手なドレス姿だったリカルルが――
狐面の甲冑一式を、一瞬で身につけた。
「あら!? なにこれ、素敵ですわね♪」
元々、収納魔法はある程度、物を展開する場所をうまい具合に整えてくれる。
装備を仕舞うことや、上から羽織った状態で取り出すことは、今までも出来た。
だがこの最新型は、いま身につけている物と入れ替える。
そう、つまり一瞬で着替えられるのだ。
ふぉん♪
『イオノ>変身ヒーローか、魔法少女みたいねぇん♪』
うるせぇ、わからん。
「へへっ、良いだろっ♪ 着替えるための仕掛けを施してある。使い方にコツが要るから、わからなかったらおれか迅雷に聞いてくれ」
「はイ。収納さレた衣類ニふたたび着替えルときにも、同じよウに取っ手ヲ押シ下げテください。まタ衣類ニ関しテも繕わレ洗濯されたヨうな状態デ取り出されますノで便利デす」
実は素材として魔導伝導率が高いミノタウの角を、ほんの少し使ってるから特別製ではある。
「「「「はぁ!?」」」」
また目を丸くされた。
「どうした? 家宝を仕舞う収納魔法具なら、これくらい便利でも罰は当たらんだろうが?」
それにあくまで登録した、ひとつの装備に関してだけだぞ?
「ねえ、ちょっと……どーいうこと?」
「これは他言無用で……口外しないでください」
「従者ギルドも、黙っていないでしょう」
「はははっ、これはもう笑うしかないのではないか?」
どよどよどよ、わやわやわやわや?
だめだな、うるせえ。埒があかん。
「とにかく、こっちの大鎧。ミノタウロース装備一式入りの収納魔法具を持って帰ってくれ!」
出来が良すぎて文句を言われるとは、思わなかった。
§
「私このたび、央都猪蟹屋店舗内ギルド出張所受付嬢として勤務することになりましたわ、うふふ♪」
書類を手にガムラン町から、蜻蛉返りのリカルル。
いつもの受付嬢の制服に、真っ赤な革ベルト。
太刀緒……剣帯を革ベルトに通し、豪奢な〝まがい物の聖剣〟を帯剣している。
納品したミノタウ装備は、無事受け取ってもらえたようで何よりだが――
書類をひったくる給仕服。
「これ……週一だけじゃないですか。脅かさないでください、お嬢さま!」
ほんとだぜ、寿命が縮まるかと思ったぜ。
ふぅ。週に一日くらいなら、なんとかなるんじゃね?
そう思っていたときが、おれにも有りました。
ーーー
番頭株/やがて番頭になる地位にいる人。
変身ヒーロー/合理性を排除した、特殊能力を持つ正体へのモードチェンジを主体としたヒーロー。
魔法少女/合理性を排除した、特殊能力を持つ正体へのモードチェンジを主体としたヒロイン。
太刀緒/帯剣するため鞘を結ぶ組紐。
剣帯/帯剣するための金具や革帯。
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