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4:龍撃の学院
456:央都観光ツアー、カルルと龍の巣
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ぞろぞろぞぞろろろ。
わいわわいがややや。
石組みの大きな通路を、四列縦隊で行進する生徒たち。
先頭はリオレイニア先生。
初心者用魔法杖を掲げ、七色の光の球を先端に灯している。
「みなさぁん。もうすぐですのでぇ、がんばってくださぁい♪」
いつもの給仕服じゃなくて、質素で丈が膝くらいまでの服を着てる。
よそ行きではないが――
ふぉん♪
『ヒント>魔女のお出かけコーデ/襟付き花柄ワンピに、
学院支給のマジックローブ。初夏に最適』
ヒントが何を言っているのか、さっぱりわからんが――
可憐な彼女に、とても似合っているのは確かだ。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ははーい♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
彼女のうしろにA組の生徒と、ツアーの話を聞きつけた他のクラスの生徒たち。
教室二つと半分くらい、子供たちが続いて――
「――――はぁ、ひぃ、ふぅ。ガラガラ、ぐわららん♪」
最後尾はヤーベルト先生だ。
彼の背負った魔法杖は、今日もがらがらとうるさい。
「ヤーベルト先生ー! 遅れていますよー。あと杖がうるさいので、お静かにー♪」
いつもよりすこし、浮かれてるな。
いつも冷静な、彼女にしてはめずらしい。
「おい、五百乃大角さまよ。どうしたぁ、黙り込んで?」
これだけ楽しげな催し物の、真っ最中だってのに――
御神体さまときたら、頭の上でうんうん唸ってやがる。
「うぅうぅーん? シェイクじゃぁ、何のひねりもなさ過ぎでしょぉぅ?」
何の話だ?
ふぉん♪
『>例のアイスを使った冷たい飲み物。その名称を考察中と類推します』
天狗役迅雷が作った、冷たい飲み物。
「そうわねぇ……お姫ちゃんが大層ぉ、お気に召したようだしぃ、この際〝カルル〟なんてどぉおぅ?」
甘く冷たく、とろける喉ごし。
その霊刺秘は、たしかに伯爵令嬢をもてなすために、考案されたものだが。
「「カルル!? かわいいっ!」」
子供がそう言うなら、悪くねぇ名かも知れぬが。
おれは頭上の根菜のような根菜を、ひっつかんだ。
「姫さんの名から、三文字もらったのか……怒られやしねぇか?」
おれが居たころの日の本とは違って、お貴族さまたちは話が分かる御仁ばかりだ。
普段は殺気立ってやしねぇけど――それでもだ。
刀を引っ提げた伯爵や令嬢相手に、好き好んで滅多なことをする必要はない。
それじゃなくても、身の証である〝名〟を、勝手に使うわけにはいかん。
「では、聞いてみましょぉ♪」
取り出したのは御神体の倍は長い、青板。
これはニゲル青年の持ち物を、複製した物で――
ゆえ有って、某伯爵令嬢との通話を可能にしている。
「あ、もしぃもしぃ~♪ リカルルちゃんさん?」
御神体からしたら、でかい板を器用に丸頭にくっつけて――
空中へ向かって話しだす、美の女神。
「「「「「「「「「「「「「もしもしぃ?」」」」」」」」」」」」……ござる?」
〝もしもし〟てのは、結局わからん。
神々の話す言葉は、使い方さえわかりゃ良いことにしてる。
あと、〝ござる〟は言ってねぇだろ。
「そうぅ、あたしあたしぃーあたくしぃさまぁーですぅー。それでさぁー、例のさぁ飲み物のさぁ、お名前なんだけどさぁ――」
人の手の上で、ごろりと寝転がる御神体さま。
「えっ、ぷぐふひっ♪ うけるー、ウケケケケケケケッ♪」
やい、〝受ける〟って何だぜ!?
勝手なことをするなよなぁ?
「じゃぁ、そーいうことでぇ♪ じゃぁまた来週ぅー、はぁーい♪」
女神さまは青板とか通信魔法具で話すときに、妙にクネクネしたりペコペコしやがるから――
「なんか小煩くてイライラしたが、どーなった?」
――嫌味をおりまぜつつ、率直に問いただす。
「「天狗さまに異存がないのでしたら、良くってよ」だってさっ♪」
姫さんの真似らしいが、吃驚するほど似てやららねぇ。
がやがやがやややっ、ざわわわわわっ!
子供たちが、ざわついちまったぜ。
「ねぇ、レイダ?」
「なぁにぃ、ヴィヴィ?」
「イオノファラーさまが使ったのって、とおくの人とお話が出来る魔法具でしょう?」
魔法具だぁ? 子供らは、つまらねぇことを気にしてたみてぇだ。
央都の町では便利な魔法具が、其処彼処で使われてる。
珍しいもんでもねぇだろうが。
それに長い箱形の通信魔法具なんかは、コントゥル家で普通に使われてたはずだろ。
本当のことを言えば女神が宿る御神体は、女神像とおなじことが出来る。
青板がなくても、青板と通話可能らしい。
もっとも人を驚かさねぇように、青板を介してガムラン町の青板と話をしてたんだが――
「(どうやらスマホを介した所で、あまり意味がなかったようですね?)」
そのようだな。
「イオノファラーさま?」
「なぁにー? ヴィヴィヴィーちゃん?」
「ヴィーがひとつ多いです。えっと、その板……薄型の通信魔法具は私たち以外のまえでは、使わない方が良いと思うよ?」
ヤーベルトとリオレイニアも含んだ、全員が大きく頷く。
「そうわのぉ? なんでぇ?」
大首をかしげ、おれの掌でひっくりかえる御神体。
「それを聞きつけた橙色の人たちが、群がってくるからだよ」
橙色の人たち? 十中八九、ミャッドが居る所だな?
ふぉん♪
『人物DB/ミャニラステッド・グリゴリー
ラスクトール自治領王立魔導騎士団魔術研究所ギ術開発部顧問技師』
ラスクトール王家へは王女経由で、ミノタウ素材を渡してあるし――
王女には軍用全天球レンズの納品を、約束した。
けどミャッドの所には、測定魔法具を壊した弁解のついでに顔を出そうと思ってて――
いろいろあって、まだ行けてねぇ。
「あー、知ってる知ってる。橙色の服を着た連中……ひとたちでしょぉー? 平気平気、そんなのが来てもあたくしさまの料理番が、蹴散らしてくれるからぁ――バチィン♪」
目をパチパチさせて、おれと迅雷を見るんじゃねぇやい。
この物見遊山とやらが、早く終わったら――
その足で、顔を出してみるかな。
§
「はい、みなさん注目ー! あの大きな穴が、かの有名な〝龍の巣〟です」
質素なドレスに身を包むリオレイニア先生は、ソレはソレは人目を引いた。
〝魅了の魔眼〟……じゃなかった〝魅了の神眼〟を押さえるはずの魔眼殺し。
それすら殺す、美しさ。
おれたちは断崖絶壁に面した、城壁の内側に整列していた。
太い鉄柵と金網に覆われた、長窓の向こう。
大きな窓一面に広がるのは、巨大な窪み。
最深部には湖が形成され、まるで巨獣の眼光が如き光を放っている。
たおやかな指先に、つられるように群がる生徒たち。
「おい、おまえら。ちゃんと穴の底の湖をみてやれよ」
がやがやがややや。わやわや誰あれ?
綺麗じゃね? 王族の方かしら?
物見遊山の連中までゾロゾロ付いてきちまって、長窓の鉄柵がぎしりと鳴る。
おれは、すかさず手をかけ――ヴヴッ、ギャギチッ!
ジンライ鋼製の針金で鉄柵を、こっそりと補強した。
「(そういや、〝泥音〟はどうした?)」
ふぉん♪
『>現在も上空へ待機させております』
「(飛びっぱなしで、神力は空かんのか?)」
ふぉん♪
『>全天候対応で、常時30%程の充電が可能です』
ってことは?
ふぉん♪
『>故障するまでは、浮いていられます』
おれは真上を見あげるが、何もない。
ずっととおくを鳥が一匹飛んでるくらいで、雲ひとつねぇ。
今日は良い天気すぎて、リオが〝冷てぇ魔法〟を掛けてくれてなかったら――
おれたち全員暑さで、ひっくり返ってた所だ。
ふぉん♪
『>筐体表面に背後の景色を表示していますので、
肉眼で捕らえることは不可能かと』
「(リオの眼鏡でもか?)」
ちらりと見習い先生を盗み見たら、目が合った。
ふぉん♪
『>電磁メタマテリアルによる電界像改竄により、
我々以外に、察知できる者はおりません。
直接、接触でもしない限りはですが』
ふーん、なら良いけどよ。そろそろ用意しとけ。
折角だから人目がある今、天狗さまにご登場願うぞ。
わいわわいがややや。
石組みの大きな通路を、四列縦隊で行進する生徒たち。
先頭はリオレイニア先生。
初心者用魔法杖を掲げ、七色の光の球を先端に灯している。
「みなさぁん。もうすぐですのでぇ、がんばってくださぁい♪」
いつもの給仕服じゃなくて、質素で丈が膝くらいまでの服を着てる。
よそ行きではないが――
ふぉん♪
『ヒント>魔女のお出かけコーデ/襟付き花柄ワンピに、
学院支給のマジックローブ。初夏に最適』
ヒントが何を言っているのか、さっぱりわからんが――
可憐な彼女に、とても似合っているのは確かだ。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ははーい♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
彼女のうしろにA組の生徒と、ツアーの話を聞きつけた他のクラスの生徒たち。
教室二つと半分くらい、子供たちが続いて――
「――――はぁ、ひぃ、ふぅ。ガラガラ、ぐわららん♪」
最後尾はヤーベルト先生だ。
彼の背負った魔法杖は、今日もがらがらとうるさい。
「ヤーベルト先生ー! 遅れていますよー。あと杖がうるさいので、お静かにー♪」
いつもよりすこし、浮かれてるな。
いつも冷静な、彼女にしてはめずらしい。
「おい、五百乃大角さまよ。どうしたぁ、黙り込んで?」
これだけ楽しげな催し物の、真っ最中だってのに――
御神体さまときたら、頭の上でうんうん唸ってやがる。
「うぅうぅーん? シェイクじゃぁ、何のひねりもなさ過ぎでしょぉぅ?」
何の話だ?
ふぉん♪
『>例のアイスを使った冷たい飲み物。その名称を考察中と類推します』
天狗役迅雷が作った、冷たい飲み物。
「そうわねぇ……お姫ちゃんが大層ぉ、お気に召したようだしぃ、この際〝カルル〟なんてどぉおぅ?」
甘く冷たく、とろける喉ごし。
その霊刺秘は、たしかに伯爵令嬢をもてなすために、考案されたものだが。
「「カルル!? かわいいっ!」」
子供がそう言うなら、悪くねぇ名かも知れぬが。
おれは頭上の根菜のような根菜を、ひっつかんだ。
「姫さんの名から、三文字もらったのか……怒られやしねぇか?」
おれが居たころの日の本とは違って、お貴族さまたちは話が分かる御仁ばかりだ。
普段は殺気立ってやしねぇけど――それでもだ。
刀を引っ提げた伯爵や令嬢相手に、好き好んで滅多なことをする必要はない。
それじゃなくても、身の証である〝名〟を、勝手に使うわけにはいかん。
「では、聞いてみましょぉ♪」
取り出したのは御神体の倍は長い、青板。
これはニゲル青年の持ち物を、複製した物で――
ゆえ有って、某伯爵令嬢との通話を可能にしている。
「あ、もしぃもしぃ~♪ リカルルちゃんさん?」
御神体からしたら、でかい板を器用に丸頭にくっつけて――
空中へ向かって話しだす、美の女神。
「「「「「「「「「「「「「もしもしぃ?」」」」」」」」」」」」……ござる?」
〝もしもし〟てのは、結局わからん。
神々の話す言葉は、使い方さえわかりゃ良いことにしてる。
あと、〝ござる〟は言ってねぇだろ。
「そうぅ、あたしあたしぃーあたくしぃさまぁーですぅー。それでさぁー、例のさぁ飲み物のさぁ、お名前なんだけどさぁ――」
人の手の上で、ごろりと寝転がる御神体さま。
「えっ、ぷぐふひっ♪ うけるー、ウケケケケケケケッ♪」
やい、〝受ける〟って何だぜ!?
勝手なことをするなよなぁ?
「じゃぁ、そーいうことでぇ♪ じゃぁまた来週ぅー、はぁーい♪」
女神さまは青板とか通信魔法具で話すときに、妙にクネクネしたりペコペコしやがるから――
「なんか小煩くてイライラしたが、どーなった?」
――嫌味をおりまぜつつ、率直に問いただす。
「「天狗さまに異存がないのでしたら、良くってよ」だってさっ♪」
姫さんの真似らしいが、吃驚するほど似てやららねぇ。
がやがやがやややっ、ざわわわわわっ!
子供たちが、ざわついちまったぜ。
「ねぇ、レイダ?」
「なぁにぃ、ヴィヴィ?」
「イオノファラーさまが使ったのって、とおくの人とお話が出来る魔法具でしょう?」
魔法具だぁ? 子供らは、つまらねぇことを気にしてたみてぇだ。
央都の町では便利な魔法具が、其処彼処で使われてる。
珍しいもんでもねぇだろうが。
それに長い箱形の通信魔法具なんかは、コントゥル家で普通に使われてたはずだろ。
本当のことを言えば女神が宿る御神体は、女神像とおなじことが出来る。
青板がなくても、青板と通話可能らしい。
もっとも人を驚かさねぇように、青板を介してガムラン町の青板と話をしてたんだが――
「(どうやらスマホを介した所で、あまり意味がなかったようですね?)」
そのようだな。
「イオノファラーさま?」
「なぁにー? ヴィヴィヴィーちゃん?」
「ヴィーがひとつ多いです。えっと、その板……薄型の通信魔法具は私たち以外のまえでは、使わない方が良いと思うよ?」
ヤーベルトとリオレイニアも含んだ、全員が大きく頷く。
「そうわのぉ? なんでぇ?」
大首をかしげ、おれの掌でひっくりかえる御神体。
「それを聞きつけた橙色の人たちが、群がってくるからだよ」
橙色の人たち? 十中八九、ミャッドが居る所だな?
ふぉん♪
『人物DB/ミャニラステッド・グリゴリー
ラスクトール自治領王立魔導騎士団魔術研究所ギ術開発部顧問技師』
ラスクトール王家へは王女経由で、ミノタウ素材を渡してあるし――
王女には軍用全天球レンズの納品を、約束した。
けどミャッドの所には、測定魔法具を壊した弁解のついでに顔を出そうと思ってて――
いろいろあって、まだ行けてねぇ。
「あー、知ってる知ってる。橙色の服を着た連中……ひとたちでしょぉー? 平気平気、そんなのが来てもあたくしさまの料理番が、蹴散らしてくれるからぁ――バチィン♪」
目をパチパチさせて、おれと迅雷を見るんじゃねぇやい。
この物見遊山とやらが、早く終わったら――
その足で、顔を出してみるかな。
§
「はい、みなさん注目ー! あの大きな穴が、かの有名な〝龍の巣〟です」
質素なドレスに身を包むリオレイニア先生は、ソレはソレは人目を引いた。
〝魅了の魔眼〟……じゃなかった〝魅了の神眼〟を押さえるはずの魔眼殺し。
それすら殺す、美しさ。
おれたちは断崖絶壁に面した、城壁の内側に整列していた。
太い鉄柵と金網に覆われた、長窓の向こう。
大きな窓一面に広がるのは、巨大な窪み。
最深部には湖が形成され、まるで巨獣の眼光が如き光を放っている。
たおやかな指先に、つられるように群がる生徒たち。
「おい、おまえら。ちゃんと穴の底の湖をみてやれよ」
がやがやがややや。わやわや誰あれ?
綺麗じゃね? 王族の方かしら?
物見遊山の連中までゾロゾロ付いてきちまって、長窓の鉄柵がぎしりと鳴る。
おれは、すかさず手をかけ――ヴヴッ、ギャギチッ!
ジンライ鋼製の針金で鉄柵を、こっそりと補強した。
「(そういや、〝泥音〟はどうした?)」
ふぉん♪
『>現在も上空へ待機させております』
「(飛びっぱなしで、神力は空かんのか?)」
ふぉん♪
『>全天候対応で、常時30%程の充電が可能です』
ってことは?
ふぉん♪
『>故障するまでは、浮いていられます』
おれは真上を見あげるが、何もない。
ずっととおくを鳥が一匹飛んでるくらいで、雲ひとつねぇ。
今日は良い天気すぎて、リオが〝冷てぇ魔法〟を掛けてくれてなかったら――
おれたち全員暑さで、ひっくり返ってた所だ。
ふぉん♪
『>筐体表面に背後の景色を表示していますので、
肉眼で捕らえることは不可能かと』
「(リオの眼鏡でもか?)」
ちらりと見習い先生を盗み見たら、目が合った。
ふぉん♪
『>電磁メタマテリアルによる電界像改竄により、
我々以外に、察知できる者はおりません。
直接、接触でもしない限りはですが』
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