滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

４：龍撃の学院

５２３：ツツィア子爵領紀行、旧カピパラポテパケギウス領ザンクネリキキマギバネロベネグラムタタラディッシュ新町へようこそ

「ほひょほぉうぅ？　このおれっちの正体しょうたいに気づくとわ、ただ者ものではないなぁっ――ひゃっはぁっはぁあぁっ♪」
　じっと見てると、人ひとではない何なにかに思おもえてきた。
　しかも小悪党こあくとうのような小ずるい顔つらが、満面まんめんの笑みを浮かべ――
　あっちへカタカタ、こっちへカッタタタタタタと――
　まったくもって、定さだまりゃしねぇ！

「店主殿マスターよ、この者モノが向けているのは――害意ガイイか？」
　ふぉん♪
『＞シガミー、リオレイニアの痕跡を捉えたときの〝化生モード〟がＯＮになっています」
　惑まどわされねぇのは、火龍かりゅうゲイルと迅雷ジンライだけ。
　迅雷ジンライは何なにかを検出けんしゅつしたが、解析かいせきする間に笑い死にだやられる！
　こいつぁ、やべぇ。超ちょうやべぇ――

　すっぱぁぁぁん――♪
　突然とつぜん、白煙はくえんを放はなつ、おっさんの顔つら。
　狼狽うろたえるおれたちの前まえに、割って入はいってきたのは――

「こらっ、あなたっ！　また旅たびの方かたを困こまらせて、遊あそんでいたわねっ！」
　魔術師まじゅつしの外套姿ローブすがた。
　おっさんと比くらべたら、随分ずいぶんと質素しっそだが――
　編んだ長髪ながかみは艶つややかで、顔色かおいろも血色けっしょくが良かった。

「あみゃ、〝面白れぇみゃぎゃ〟のが消えたみゃんぎゃー？」
　予測演算よそくえんざんとのズレも、解消かいしょうされたぞ。
　無数むすうのおっさんの一秒後みらいが、しゅるしゅると消え――
　色いろの濃い、一人ひとりだけが残のこった。

「「ぎゃっ、猫の魔物ケットーシィが二匹にひきも居るわっ、あなたっ！」」
　おれとおにぎりの姿すがたを見て、おののくご夫妻ごふさい。
「どーしてっ、真ま・似ね・を・するんですのっ――――ひのたまぁ♪」
　自分じぶんの旦那だんなをひっぱたくのに使つかった、紙かみで出来できた扇おうぎのような物は――

　ふぉん♪
『＞張り扇／はりおうぎ。ハリセン。講談師が調子を取るために使う、台を叩く紙製の扇。攻撃力は皆無だが、クリーンヒットするとそこそこの衝撃』
　張り扇はりせんとやらは魔術師かのじょにとって、魔法杖まほうつえでもあるらしい。

「お母かあさんっ！」
　転ころがる父上殿おっさんを、片足かたあしで――カァァンッ♪
　足あしで止めてやる、フッカ嬢むすめ。

「あら、チャッカちゃん。お帰かえりなさい」
　おっさんをひっぱたき、火であぶったのは――
　フッカの母上ははうえらしかった。

　むくりと起き上がった、おっさんの頭あたまがモコモコのフワフワで。
　髭ひげが渦うずを描えがいていて、びょびょびょびょびょびょびょびょ音おとまで立てやがる。

「も、もう勘弁かんべんしてくれっ……」
　この場に彼女かのじょが、リオレイニアが居なくて――本当ほんとうによかった。
　確たしかに、〝力ちからずくで笑わらわされる〟のは――
　とてもとても苦くるしかった。

　　　§

「先さきほどは大変失礼致たいへんしつれいいたしました。おれっち……私わたしがフォチャカの父ちち、ミギアーフ・モソモソでっす。どうぞし・く・よ・ろぉーっ♪」
　尻しりを向けたミギアーフ氏が、踏ん反りかえり――ガァァン！
　地面じめんに頭突き・・・を、食らわせた。

　ビギバキ――石畳いしだたみが割れる・・・。
　モッサモサになった髪かみをひっつめるのにかぶった、あの丸帽子まるぼうしは兜かぶとのように硬いかたらしい。

「本当ほんとうに、うちの人ひとがヴァカでごめんなさい。フォチャカの母はは、クロウリンデ・モソモソに御座ございます。イオノファラーさま♪」
　そう言って茅野姫ほしがみの手を取る、フッカ母はは。

「うふふふ、苦くるしくありませんよ？　プークス？・」
　茅野姫ほしがみが、珍めずしく戸惑とまどってるな。

　なんか、母親ははおやの方ほうも何なにか……有りそうな気配けはいが、しないことも無い。

　おれたちは、半壊はんかいした家いえに通とおされた。
　ふぉん♪
『シガミー＞迅雷、用心して邪魔するぞ』
　ふぉん♪
『＞了解。轟雷、いつでも使用できます』

　　　§

「あのあの、馬車ばしゃが、お家うちを壊こわしちゃってごめんなさい！　すぐに直なおさせますので――シガミー！」
　テーブルの上うえで華麗かれいなターンを決め、おれを指ゆびさす丸茸まるきのこさま。

　元もとから崩くずれれかけてた、気もするが――
　他ほかならぬ、フッカの家いえだぜ。
　相当便利そうとうべんりで頑丈がんじょうで素敵すてきな家いえに、建て直してやるのも――吝やぶさかじゃねぇ。
　おにぎりと迅雷ジンライを使えば、そうだな――

　ふぉん♪
『おにぎり＞手伝うもの』
　ふぉん♪
『＞調度品を最低限にし、今の家を修復するだけなら、５分と掛かりません』

「（ウケケッ、それっ、お素敵すてきじゃぁないのよさぁ♪・）」
　天井てんじょうの一部いちぶに大穴おおあなが空いた……応接室おうせつしつらしき部屋へやを見わたす、丸茸まるきのこ。

「あら、かわいらしい茸きのこですこと、今晩こんばんのスープに入れようかしら？」
　フッカ母ははが丸茸いおのはらを、むんずとつかんで籠かごに入れた。

「そいつぁー、待ってくれねぇかぁ！　そんな丸茸まるきのこみたいな形なりをしちゃいるが、そいつさまは正真正銘美しょうしんしょうめいびの女神めがみ・五百乃大角いおのはらさまだからよ」
　よっぽど敬虔けいけんなイオノフ教徒きょうとでもなければ、おいそれとは信しんじられんだろうが――
　立場上たちばじょう、一応言いちおういっておく。

　ヴォォォォゥン♪
　飛んでった迅雷ジンライから、空飛そらとぶ丸い球・・・がポトリと落ち――
　『（＞△＜）カシャ♪』『（＞△＜）ひゃああ！』
　籠かごから飛び出してくる――球ＢＯＴと女神御神体めがみごしんたい。

「クスクスクス、アナタは面白いことを・・・・・・仰おっしゃられるのね？」
　がしがしり。浮かぶ球たまと、それに乗った丸茸まるきのこさまが――
　再ふたたび、むんずと鷲わしづかみにされ、籠かごへ入れられた。

「……おい、フッカ？」
　おれは出して座すわった長椅子ながいすの、隣となりへ声こえを掛ける。
「な、なぁに？　シガミーちゃん？」
　静しずかに息いきを呑むフッカ嬢じょう。

「お前まえさんの母上ははうえは、とても元気げんきでおれぁ大好だいすきだが――」
　母上殿ははうえどのは――「うふふふ♪」と籠かごを揺らしている。
「だ、大好だいすききだが、なぁに？」
　フッカの目が、かすかに泳およいだ。

「なんか雑ざつじゃね？」
　分類的にはわけるなら、木さじ食堂しょくどうの女将おかみさんや、ウチの丸茸メガミと同おなじ枠わくだぜ。

　ふぉん♪
『＞そうですね。類推するに動作や行動パターンに設けられた閾値が、際限なく〝低い〟のだと思われます』
　わからん、けど〝雑・〟ってことであってるか？

「もーっ、お母かあさんわっ！　いっつも大雑把おおざっぱなんだからっ！　よーっく見てっ！　そんな、〝歌うたって踊おどれる茸きのこ〟なんて居ないでしょっ!?」
　〝雑・〟ってことで良いらしいぜ。
　あと歌って踊れる茸・・・・・・・は、籠の中そこに居るだろ。

「〽ツックッダーン、佃煮佃煮つくだにつくだに♪　お味あじぃーが、染みてるてるるぅー♪」
　籠かごから聞こえてきたのは、素っ頓狂とんきょうな歌声うたごえ。
　なんだぜその、茸きのこソングわ。

　ふぉん♪
『＞楽曲生成ライブラリ稼働率０％です』
　つまり？
　ふぉん♪
『＞鼻歌です。内容から察するに、先ほどイオノファラーが提示した手書きのレシピを表現していると思われ』

「〽グッラッターン、グラタングラタン♪　ベーコンと、チーズがのってる♪」
　籠かごをのぞき込む、フッカ母はは。

「あらやーだ、この茸きのこっ!?」
　大慌おおあわてで取り出され、テーブルの上うえに転ころがされた――美の女神御神体めがみごしんたいと浮かぶ球たま。

「ウケッ？　ダンスはちょっと自信じしんないわぁ――――？・」
　戸惑とまどいつつも大慌おおあわてで、期待きたいに応こたえるべく何かの・・・準備じゅんびを始はじめる丸茸まるきのこ。

「ふぅ。ところで御主人ごしゅじん。あの瓦礫がれき……じゃ無かった、玄関先げんかんさきの看板かんばんは何なんでしょうか？」
　丸茸まるきのこの準備体操じゅんびたいそうから目をそらした、顧問秘書こもんひしょが尋たずねた。

　　　§

　おれたちは玄関げんかんへ赴おもむき、荒あばら屋を振り返かえる。

『旧カピパラポテパケギウス領ザンクネリキキマギバネロベネグラムタタラディッシュ新町役場』
　一枚目いちまいめは、町役場まちやくばの看板かんばん。

『旧カピパラポテパ領ザキキギバベグラムタタラデッシ新町ギルド支部出張所』
　二枚目にまいめは、ギルド支部出張所しぶしゅっちょうじょの看板かんばん

『旧パラベラム冒険者専用訓練ダンジョンへようこそ』
　三枚目さんまいめは、よくわからんがダンジョンの看板かんばんらしかった。

　トリュフ橋はしで見た、やたらと長ながい町名ちょうめい。
　それと同おなじ、看板かんばんたち。
　最後さいごの奴やつは長ながすぎて面倒めんどうになったのか――かなり短みじかくされてた。

「ふぉっふぉっふぉっ♪　おれっちは、当町とうちょうと当とうダンジョンの管理かんりを任まかされております。それが、な・に・か？」
　カールした髭ひげをギュッと伸ばして放す――ヒビビョビョビビビョン♪
　スキルを使つかってなくても、あんまり変わらんな。

「もっとも住人じゅうにんは私わたくしどもと使用人数名しようにんすうめいとー！　年間契約ねんかんけいやくしてくださっている冒険者ぼうけんしゃの方かたのー！　計けい６名めいほどしかおりませんが――!?」
　母上殿ははうえどののそんな大声おおこえ。
　扉とびらが外はずれちまってるから、声こえがよく通とおる。

「やーめーてー！」
　フッカのそんな声こえに、室内なかへ戻もどると――

「この茸きのこ、鳴き声・・・がうるさいですわね――絞めておきましょうか♪」
　持ち上げられた魔法杖ハリセンが、いまにも振り下ろされようとしていた。

「「やばいっ、超面白ちょうおもしろいっ♪」」
「興味深キョウミブカい」「面白おもしろな？」
「にゃぎゃー♪・」「ひひぃん？」
　みんな楽たのしそうだし、おれも丸茸あのやろうが退治される所・・・・・・を是非見ぜひみたい。
　強化服シシガニャンの十連じゅうれん続平手打ぞくひらてうちに匹敵ひってきする高威力こうＡＴＫがなければ、女神御神体いおのはらは壊こわれない。
　当然とうぜん、放置ほうちだぜ♪

　スッパァァァァァァァァァンッ♪
　すっげぇー音おと！
　ゴチン、ひっくり返る丸茸――じゃねぇ!?
　ありゃ浮かぶプロジェクション球ＢＯＴだぜ？

　てちり――。
　姿すがたを消した根菜こんさいが、机つくえの縁ふちに姿すがたをあらわした。
「〽ツックッダーン、グッラッターン♪　ベッエコーン、佃つっくだ・っ煮にィ――イェアハァーッ♪・」
　くるくるくるくるとあまり上手じょうずではない足取あしどりで、回まわりだす佃煮つくだ……じゃねぇ、丸茸まるきのこ。

　ふぉん♪
『＞丸茸でもありません。美の女神イオノファラーです』

　スッパァァァァァァァァァンッ♪
　すっげぇー音おと！
　ゴチン、今度こんどこそ、ひっくり返かえる丸茸――じゃねぇ!?
　ありゃ魔法具箱まほうぐばこか？
　ＬＶ１００のおれでも、使つかえねぇガラクタの。

「〽お味あじぃーが、のってる♪　チーズとぉグラッターァンッ♪・」
　スッパァァァァァァァァァンッ♪
　うるせぇ。あんまり挑発ちょうはつすんな！

　ゴチン、ガドン、ゴロロ、ガララッ♪
　あと、これ以上いじょうガラクタを、ばら撒くんじゃねぇやい！
　机つくえの上うえは、すぐに混雑こんざつし――

「〽ごっはぁーんにもーぉ、合ーぅょねぇ――グラッタァーン、ごっはっ――――――――――――ぴゃぎっ!?・」
　スッ――――パァァァァァァァァァンッ♪
　だから調子ちょうしに乗るなって言ったんだ。

　ひょいひょい、ぽいぽぽぽい――ガチャゴチャガッチャ！
　〝使つかい道みちのない魔法具箱まほうぐばこ〟や、今いままで見たことのない〝鉄てつの野菜やさいのような物もの〟。
　〝無事退治ぶじたいじされた丸茸まるきのこ〟や〝助たすけに入はいろうとした空飛そらとぶ棒ぼう〟までもが――
　次々つぎつぎと籠かごに入れられていく。

「奥おくさま。本日ほんじつの晩ばんさんの食材しょくざいには、何なにを使つかいましょうか？」
　そう言って顔かおをだした年配ねんぱいの使用人しようにんに、満杯まんぱいになった籠かごが手渡てわたされた。