滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

５：大森林観測村ＶＳガムラン町

６５１：厨房ダンジョン、海鮮の狼煙

　厨房ちゅうぼうを覆おおい尽くす、熱ねつのない炎ほのお。
　狐火きつねびを知らぬ村人むらびとやロットリンデたちが、逃げ惑まどう中なか。

　ガムラン町名物リカルル・リギルド受付嬢・コントゥルと、同じく名物メリオレイニアイドの二人・サキラテは――
　おれ三人分程度さんにんぶんていどの近距離ちかいまあいで、対峙たいじしていた。

　こん、かららん♪
　折れた練習用魔法杖ちいさなつえを、リオが投げ捨て――ォォォ♪

「魚足齪疎ゥォタセソさ良散ヨォチれ歩フォも羅綺ラァキを卯熨ゥーノそ差歩不磨サフォフィマ反畄弧雀鷂面忌ソォルコヅミモォイみ！」
　突然とつぜんの経文きょう、いや――真言マントラに近ちかいか？
　まるで聞いたことのねぇ、文言もんごんだが――
　確たしかかに、術じゅつの起こり・・・を感かんじたぞ。

「わっ、高速詠唱はやじゅもん!?」
　村長ジュークが、尻餅しりもちをついた。
「あら本当ほんとう、拙つたないですけれど、ちゃんとした詠唱魔法スペルマジックですわ――さては貴方あなた、宮廷魔導師きゅうていまどうしでしたのねっ♪」
　喜々ききとして棘とげの付いた鉄棒つえを構かまえる、悪逆ご令嬢ロットリンデ。
　当然とうぜんだがリオレイニアは、宮廷魔導師きゅうていまどうしではない。

「杖つえよ！」
　手にしていた、折れていない方ほうの魔法杖つえを、軽かるく振るリオ。
　ぼごごごごぅわわっ――――ぶわぁぁぁあああっぁぁっ！
　膨ふくれ上がっていた蒼白あおじろい炎ほのおが、一斉いっせいに揺らぐ。

「コォォォォオン♪」
　――――ィィイィィィィィイィィィィインッ！
　唸うなるリカルルの眼光がんこう。空中ちゅうを薙ぐ視線ひかりが煌めき・・・・――――ばっがぁぁあぁぁんっ!!
　爆発ばくはつする狐火きつねび。
　流ながれた一条ひとすじの導火線どうかせんは、コントゥル母娘おやこが使つかう〝狐火ウィルオ・仙花ーウィスプ〟。
　五穀豊穣ごこくほうじょうの神かみの眷属けんぞくとしての、血筋ちすじに由来ゆらいする力ちからだ。

　ヴァチヴァチィッ――
　噴煙ふんえんに見え隠かくれするのは、光の紋様ひかりのたて。
『＜ＭＡＧＩＣ・ＳＨＩＥＬＤ＞――ピッ♪』
　――ガラランッ！
　投げ捨てられる、どこかから取り出された盆ぼん。
　画面がめんに表示ひょうじされた〝発動はつどうした魔法まほうをあらわす文字もじ〟も、一緒いっしょに床ゆかに落ちた。

「わわっ!?　方陣記述魔法ピクトペンマジックが――爆発ばくはつしたっ!?」
　起き上がった村長そんちょうが、また尻餅しりもちをついた。
「爆発魔法ばくはつまほう!?　この私わたくしの目の前まえで、爆発魔法ばくはつまほうですってぇぇぇぇっ!?」
　開いた口くちが塞ふさがらない様子ようすの、ご令嬢れいじょう。
　再ふたたび床ゆかに突き刺さる鉄棒つえ――ゴガッビギッガゴン！

「炎ほのおを！」
　眼前がんぜんの仕えるべき主人ケンカあいてへ向かって、大おおきく振られる、リオの練習用れんしゅうよう魔法杖まほうつえ。
　――――ぅごごごごぉうぼぼぼぼぼぼわぅ♪
　狐火きつねびがシュルシュルと、湧き出たのとは逆向ぎゃくむきに戻もどっていく。

「んなっ――なんですのっ、ここここここ、コォォン!?」
　ぼふっしゅる、ぼぼっしゅふる！
　狐火きつねびの湧き・・が、頗すこぶる悪わりぃ。
　すっかり小ちいさくなった炎ほのおが――――ごぉぅわぁぁ、しゅるぽん♪
　リカルルの口くちに、吸い込まれてしまった。

「んごひゅぅっ!?　けほこほけへかはっ――！」
　口くちから白煙はくえんを吐き、崩くずれ落ちるリカルル。

「何なんだぜ今いまの？」
　杖つえを一本いっぽん、折ったと思おもったら――狐火きつねびをリカルルに、突き返かえしちまったぞ。
「わかりマせん。恐おソろシく高度こウどナ、高等魔術こうとうマじゅつト思おモわレますが・」
　うぅむむぅ。呪のろい返がえしとか、術の反動さかなぎを起こさせるような魔術まじゅつだぜ。

　つまり坊主おれの、領分りょうぶんじゃぁねぇ。
　間違まちがいなく、奥方さまルリーロの領分りょうぶんだ。
　鉄鍋なべに籠もったりしてなけりゃ、詳くわしい話はなしくらい聞けたんだが。

　ふぉん♪
『＞＞シガミー、いまは目の前の敵に、集中しましょう』
　そうだったな。

　　　§

「ウケケケッケッ――――よくぞ此処ここまで辿たどり着いたわよ。ほめてやろぉ♪・」
　ちょっと目を離はなした隙すきに、女神の姿の浮かぶ球いおのはらが――
　角つのを生やし甲冑かっちゅうを着込きこみ、矢鱈やたらとなびく外套がいとうを、身に纏まとってやがった。
　知ってる、あの格好かっこうは――魔王という生き物の姿・・・・・・・・・・だ。
　魔王まおうの城しろに飾かざられてた城主じょうしゅの姿絵すがたえに、とても良く似ている。

「ににににるるるるぎ!?」
　ちなみに本体ほんたいは、『Θけもののめ』をしたファロコに捕つかまったままだ。
「怖こわい怖こわい、目が怖こわぁい！・」
　卵イイスタァエッグに抱きついたまま手で、倒さかしまにして振ってみたりされてる。

「何なんの真似まねだぜ？」
　おれは正面しょうめんから、じりじりと。
　迅雷ジンライは――ヴォヴォゥン♪
　床ゆかすれすれを、すべるように飛んでいく。

「何なにって、この格好かっこうですることなんてぇ――悪わっるいことに、決まってるじゃんかぁよぉ！・」
　ヴォヴォゥゥンッ――――♪
　魔王女神さま・・・・・・が――ヴッ♪
　新あらたな球たまを、取り出した。

　くるくるくるるると、空中ちゅうを漂ただよう浮かぶ球・・・・――『Σ(゜ロ゜カシャッ♪)』
　球それには目鼻口めはなくちに見える突起とっきや凹へこみが有り、まるで驚おどろいたような顔かおをしていた。
　ヴュッパパパァァッ――――♪
　球それを覆おおい隠かくすように、人ひとのサイズの五百乃大角いおのはらの姿すがたが現あらわれていく。
　それはまるで、央都おうとや各地かくちに設置せっちされている女神像めがみぞうのようで。

「痛いたい痛いたい、放はなしてー！・」
　魔王まおうが後うしろから、女神めがみの首根くびねっこを押さえつけた。
「グゥフェフェフェッ！・」
　魔王まおうの方ほうが悪あるい面つらをしていて、五百乃大角いおのはらの内面ないめんをよく表あらわせている。
　もちろん、どちらも中身なかみは五百乃大角いおのはらだが。

　ふぉん♪
『＞＞イオノファラー本体は、身動きが取れないようです。もう少し近づけば、ファロコから奪還出来そうです』
　木箱きばこの背後はいごへ回まわり込む迅雷ジンライ。

　浮かぶ球たまは、ニゲルが二個にこ、取っ捕つかまえてくれたから――
　魔王姿まおうすがたの浮かぶ球たまが、最後さいごの一個いっこだったはず。

　ふぉん♪
『シガミー＞＞浮かぶ球の作り置きなんて、有ったか？』
　ふぉん♪
『＞＞安全改良型は、あの一個で最後です』
　だよなぁ。

　ふぉん♪
『マオウファラー＞＞そのとおりだぁぁ。あと残ってるのは全部、改良前の〝爆発しちゃう奴〟だぁぁ。それが４２個もあるのだぁぁ？　それがどういうことか、おかわりだろぉ？　グゥフェフェフェッ！』
　ちっ、内緒話『＞＞』も五百乃大角いおのはら相手あいてじゃ、全部筒抜ぜんぶつつぬけだ！

　マオウファラーの袖口そでぐちから――ガシャバシャリッ！
　橙色だいだいいろの小ちいさな板いたが、飛び出した。
　何なんだあの板いた、穴あなが空いて柄つかのようになった所ところを握にぎってるぞ？

　ふぉん♪
『＞＞樹脂製のセミオートマティックコンパクトピストルです。【地球大百科事典】によるなら、２２１８年製造〝ＦＬＡＭＥＰＡＤーＯ〟。口径は・３８０ＡＣＰ。トリガーガードレーザー付きで装弾数は６＋１発。２・５インチバレルで重量は１９４グラム』
　恐おそろしく寸足すんたらずだが、立派りっぱな武器ぶきってことだな。
　板ぺらそいつの端はしから、おれたちが使つかう耳栓みみせんのような赤光ひかりが煌きらめき――
　女神めがみの耳みみの辺あたりに、狙ねらいを付けた。

　ふぉん♪
『＞＞やい惡神！　召喚の塔を吹っ飛ばした〝浮かぶ球〟を、大筒がわりに使おうってぇのかぁ!?』
　そんなことになったら、ロコロ村むらが壊滅かいめつする。

　ふぉん♪
『メガミファラー＞＞私のことは気にせず、マオウファラーの指示に従って下さい！』
　やかましぃ！

　ヴォヴォヴォゥゥゥン♪
　奇襲きしゅうを諦あきらめた空飛そらとぶ棒ぼうが、戻もどってきた。

　ふぉん♪
『＞＞シガミー、私を耳の後ろに当てて下さい』
　はぁ？　やれというなら、やる。
　やらんと、今世らいせまで終わっちまう。

　＜＜しがみー、きこぇますか？＞＞
　なんだ!?　声こえが聞こえたが――頭あたまの中なかで、聞こえているような。
　それはまるで、偽にせの迅雷ジンライのようで――お前まえ、偽にせの迅雷ジンライか？

　＜＜ＩＮＴＴＲＴＴ０１じんらぃです。にせではぁりません＞＞
　なんだか面妖めんような声こえだぜ。
　＜＜このこぇは、シガミーのほねをゅらしてったぇてぃます。ぬすみぎきされるしんぱぃはぁりません＞＞
　なら助たすかるぜ。
　おれの念話こえさえ絞しぼっておけば、内緒話ないしょばなしが出来できる。

　どうする？
　あの野郎いおのはらは、大爆発だいばくはつする浮かぶ球・・・・を盾たてに、押し切るつもりだぜ？

　＜＜しんぱぃぃりません。ぉにぎりのしゅぅのぅまほぅぐほどではぁりませんが、しんぃきわくせぃでとれたたしゅたょうなしょくざぃがぁります＞＞
　なるほど。
　お誂あつらえ向きに、此処ここは厨房ちゅうぼうだって訳わけだな♪

　＜＜はぃ、そぅぃぅことです＞＞
　おにぎりが居ねぇのが悔やまれるが、迅雷ジンライの収納魔法しゅうのうまほうにも、そこそこの量りょうの食材しょくざいを――
　日々ひび、溜め込んできた・・・・・・・！

　おれは竈かまどに火を入れる――「ひのたまぁ！」
　ぼわぁ、パチパチパチッ！

　じゃぁまずは――あ、此奴こいつが有ったな！
　洗あらい場の下したを探さぐり、笊ざるを取り出した。
　中なかには、血抜き・・・をしておいた――

　＜＜むらのたきでとれたさかなですか、それはじっにぅってっけです。ぃぉのふぁらーのしゅぅちゅぅをみだしてゃりましょぅ＞＞
　震ふるえる迅雷ジンライが、くすぐってぇ。

「しかし、海うみの物ものだか川かわの物ものだか、わからんな」
　大森林だいしんりんに海うみはないが――
「シガミーちゃん……ひそひそ……何なにやってるの？」
「イオ……ルガレイニア先生せんせいが……ひそひそ……戦たたかっていますのに――おいしそうな、お魚さかなですわね♪」
　子供こどもらが、寄ってきた。

　おれは一匹いっぴき、まな板いたの上うえに乗せる。
　うむ。惚とぼけた面構つらがまえをしてやがるぜ。
　神域しんいきで捕れた巨大魚でかいやつに、似てなくもねぇが――なんて魚さかなだぜ？

　しめしめうっひっひ――チーン♪
　ぽこん♪
『超特選森林木魚【中】
　大森林全域で捕れる、回遊魚。
　煮て良し焼いて良しの、海水魚。
　但し味が淡泊すぎるため、生食には適さない』

「海うみの物ものだったか」
「このお魚さかな、木の中なかを流れてた滝・で見たよね」
「ええ、大事だいじな制服せいふくが塩臭しおくさくなってしまって、困こまりましたわ♪」
　困こまりましたわと言う割わりに、その目は――魚さかなに釘付くぎづけだ。

　魚さかなの腹はらを裂き、腸わたを取る。
　塩しおをまぶして、串くしに刺した。

「じゃぁ、お前まえら手伝てつだってくれや」
「よろしくてよ♪」「はぁい♪」
　おれは、魚さかなを焼き始はじめた。

「シガミーちゃん。おいしそうな匂においですわね♪」
　そうだろぅ。迅雷ジンライの中なかには食材しょくざいだけでなく、日の本もとの調味料ちょうみりょうや薬味やくみも揃そろってる。

　子供こどもらが並ならべた皿さらに、焼けた魚さかなを乗せ――
　醤油しょうゆを、ひと垂らし――じゅっ♪

「さぁ皆みんな！　どんどん食ってくれやぁ！　どんどん焼くぞぉ！」
　早速さっそく、ビステッカが席せきに着いた。

　ふぉん♪
『マオウファラー＞＞あれ？　魔王の分は？』
　ふぉん♪
『メガミファラー＞＞あれ？　女神の分は？』
　ふぉふぉん♪
『イオノ＞＞あれ？　あたくしさまの分は？』

　ふぉん♪
『シガミー＞＞惡神さまの分はありません』

「ぎゅぎゅぎゅるー？」
　ファロコの爛々らんらんとした視線ΘΘが、調理台ちょうりだいの上うえの焼き魚ざかなに突き刺さる。
「ぐきゅきゅるるー♪」
　そしてその手ファロコにつかまれた御神体ごしんたいさまからは、盛大せいだいな腹はらの虫むしが奏かなでられた。