滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

５：大森林観測村ＶＳガムラン町

６５６：厨房ダンジョン、魔法自販機の謎

「お米こめなら多分たぶん、村むらのどの倉庫そうこにも置いてありましてよ？　ねえ、ジューク？」
　丸まるい頭あたまをした悪逆ご令嬢ロットリンデに、そう聞かれた村長そんちょうが――

「ロットリンデが見つけてきた――甘あまいお菓子かしになる小ちいさな――豆粒まめつぶだろう――――？」
　台車だいしゃに片足かたあしをのせてガララララーと、すっ飛んで行ってしまう。

　おれたちが居る、竈かまどや無数むすうの焼き釜がまがある大おおきな厨房ちゅうぼう。
　その部屋へやの端はし、隣となりの倉庫そうこへ続つづく通路つうろ。
　その境さかいを越えて、村長そんちょうは進すすんでいく。
　まっすぐ端はしに行き着けば、反対側の通路に・・・・・・・出るはず・・・・。

　此処ここは偽の厨房・・・・なのは、間違まちがいねぇ筈はずだが――
　よく考かんがえたら、繰り返かえされる偽にせの〝端はし〟が、霞んでねぇ・・・・・？

　おれは村長そんちょうを追いかけて、隣となりの倉庫そうこへ飛び込んだ。

　　　§

「おい村長そんちょう、この箱の中身・・・・は、ひょっとしたら――特別製とくべつせいか？」
　厠かわやや、大おおきな食材しょくざいも洗あらえる洗あらい場なんかが付いていて――
　最初さいしょに居た厨房ちゅうぼうに面めんした倉庫そうことは、まるで作つくりが違ちがってるぜ。

「良くわかったね。あ、説明せつめいし忘わすれてたけど、この迷宮めいきゅうには果てがないから・・・・・・・――迷子まいごになったら、戻もどってこられないから気をつけてよ？」
　なんて恐おそろしいことを、口走くちばしりやがる。

　見渡みわたす限かぎりに連つらなる厨房ちゅうぼうや通路つうろや鉄籠てつかごや倉庫そうこが、本当ほんとうに延々えんえんと続いているっていうのかっ!?
　何処どこまでも続つづくというなら、そいつぁまるで――

「元もとの厨房ちゅうぼうに戻もどるときに、村長そんちょうと逸はぐれたらどうなる？」
　箱はこを閉じたときに死んじまうなら、まだましだ・・・・・。
　万まんが一いち、何処どこにも繋つながらぬ、この場所ばしょに死ぬまで取り残される・・・・・・・・・・というなら――
　おれが知ってる地獄じごくと……そう変わらんぞ。

　ふぉん♪
『＞＞この世界における魔法具には、安全機構が組み込まれています』
　安全あんぜんだぁとぉ？
　魔法具まほうぐで穴あなを掘りゃ、転ころんで怪我けがするだろうが？
　それにタターの魔銃オルタネーターは、命いのちを奪うばう為ための魔法具もんだぜ？

「えっとね、たぶんどこか遠とおくに描かれた方陣結界ピクトグラムに飛ばされると思おもうよ？」
　うむ。碌ろくでもねぇことにはなるんだろうが――
　確かに・・・、そう酷ひでぇことにはならねぇらしい。

「碑駒刀蔵無ぴくとうぐらむぅ？」
　ふぉん♪
『＞＞ピクトグラムと呼ばれる、古い時代の魔術行使法です。コッヘル夫人から、おにぎりが師事を受けた古代魔術と呼ばれる物です』
　フェスタで見た、魔法ひかりの神髄すじで絵を描いていた奴やつだよな。
　ふぉん♪
『ヒント＞ピクトグラム／前世代において主流だった〝方律〟と呼ばれる、魔術構文体系による魔術行使法。古代魔術。ピクトペンマジックと呼ばれる方陣記述魔法を用いて、手のひらに図案を描くことで魔術を発動させる。』
　わからん。

　ふぉん♪
『＞＞概略はおにぎりからレポートを受け取っています。つい先ほどリオレイニアが使用した高速詠唱も、古代魔術の流れを汲んでいます』
　古代魔術こだいまじゅつかー、わからん。
　悪逆ご令嬢ロットリンデの爆発魔法ばくはつまほうも……古代魔術おなじものか？

　ふぉん♪
『＞＞ロットリンデの術の行使だけは、別系統の〝マナの流れ〟による物だと言っていました』
　誰だれが？
　ふぉん♪
『＞＞カヤノヒメがです』
　日の本もとで言う所ところの――術印じゅついんや真言マントラみたいな違ちがいか？

　そう易々やすやすと手の内うちを明かす阿呆あほうも、そうそう居ねぇだろうから――
　暇ひまが出来できたらリオレイニアと茅野姫ほしがみさまに、詳くわしいところを聞くとするぜ。
　ふぉん♪
『＞＞ではＴＯＤＯリストへ、入れておきます』

「ええっと、ロットリンデやティーナさんには、〝封鎖空間ふうさくうかん〟の仕組み・・・がわかってるみたいなんだけどさ――」
　村長そんちょうが腰こしの革紐ベルトに付けた剣帯けんたい。
　其処そこに吊り下げられていたのは、剣ではなく・・・・・――
　そこそこの厚あつみがある……板いたぺら？

　引っ張り出したその板いたを、ぱたりと裏返すと・・・・、小ちいさな枠わくが――わさりと生えた・・・・・・・。
　中なかには、小ちいさな人影ひとかげのようなのが二つふたつ。
　片方かたほうの人影ひとかげが手にした何なにか……板いたぺらのような物ものを、仲良なかよくじっと見つめている。

「何なんだこの板いたぺらは、何処どこかの部屋へや……いや、この倉庫そうこか？」
　おれは後うしろ頭あたまに視線しせんを感かんじ、天井てんじょうを見上みあげた。
　まぁ何なにもねぇ訳わけだが。

「（こいつぁ、色界しきかい……いや少すこし違ちがうぜ）」
　手をさっと振りゃ、人影ひとかげも手を振る。
　迅雷ジンライ、今いまおれが見ているもの・・・・・・が、何なにかわかるか？

　ふぉん♪
『＞＞ある種の数理モデルと思われます。イオノファラーの専門分野に該当します』
　なんだと？　根菜こんさいさまに仏道ぶつどうの心得こころえがあったとわ聞いてねぇ……っていうか有る訳わけがねぇ。
　有るならもう少すこしは、達観たっかんしてるだろうぜ。

「これは僕ぼくの、魔法自販機まほうじはんきだよ……じゃよ♪」
　村人むらびとが村長箱そんちょうばこと言ってた――
「あの偽の山道・・・・を、作つくり出した箱はこか？」
　今いまは、ただの板いたぺらだが。

「じつは詳くわしいことは、よくわからないんだよね――使つかうことは出来できるけど……出でき来るのじゃがのぉ」
　ぱたり――又裏返またうらがえすと今度こんどは〝見たことのない金貨・・・・・・・・・〟が歯車はぐるまの中なかを、ぐるぐると回転かいてんしながら――
　板の中・・・へ、埋もれていくのが見えた。
　ぱたり――尚なおも捲めくられる板ぺら一枚・・・・・。

「まてまて、切りが無ぇぜ！　その板ぺら・・・には一体いったい、いくつの裏側がある・・・・・・・・・んだっ!?」
　魔法自販機とやらきりのないいたは気色きしょくの悪わるい色味いろみの毛を、わさりと生やした！

「僕ぼくが、めくれるのは最大さいだいで１７枚まいかな？　……じゃよ？」
　ふぉん♪
『＞＞ＳＳＳ級のレア魔法具というのは、本当のようですね』
　かーっ！　居たぞ、〝そう易々やすやすと手の内うちを明かす阿呆あほう〟が。

「やい、村長そんちょうさまよ！」
　おれぁ本当ほんとうは、四十しじゅうを超えた爺じじいだからな――
「なんだい、シガミーちゃん？」
　板いたぺらを元の板ぺら・・・・・に戻もどす、呆気者そんちょう。

「その箱はこは、お前まえさんの秘剣ひけんいや、奥の手だろう・・・・・・？　そう易々やすやすと人ひとに、見せて良い代物しろものじゃねぇんじゃねぇのかぃ？」
　――到底とうてい、黙だまっちゃ居られねぇ。

「ちがうよ、この箱はこは僕ぼくの切り札・・・じゃなくて――僕ぼくとロットリンデの切り札・・・だよ♪」
　ふぉん♪
『ヒント＞切り札／もっとも有効な手口。とっておきの手段。もしくはカードゲームにおける最強のカード。』

「なら、尚更なおさらだろぉがぁ！　おれが、その箱はこを狙ねらう悪党あくとうだったらどうするっつもりなぁんでぇいっ――――!?」
「ぴゃぁぁぁぁっ――――!?」
　いかん、あまりにも呑気のんきな面つらをしとるから――つい大声おおごえを出しちまった！


「っ――――!?」
　ガゴォン――――ビギバギッ！
　地に走はしる亀裂きれつに、草履ぞうりの足裏あしうらを取られた。

「何なんですの小猿こざる。私わたくしの〝かわいいジューク・・・・・・・・〟に、何なんの文句もんくがおありですの？」
　どっから降って来やがった？


「ロットリンデさま。シガミーのがさつな言動げんどうをどうか、お許ゆるしくださいませ」
　片足かたあしを引き腰こしを落とし、前掛けエプロンを軽かるくく摘まみ上げるリオレイニア。
「っ――――!?」
　だからどっから降って――こっちはサキラテ家の隠密術おんみつじゅつか！

『►►►ピピピッ♪』『►►►ピピピッ♪』
　遅おせぇぞ、動体検知アクティブトラッカー！
　マジ・・でいかん、勘かんが鈍にぶってる！

「わぁー、もうやめろや、切りがねぇ！」
「そうだよ、シガミーちゃんは僕ぼくを、窘たしめてくれただけだよぉう！」
　おれと村長そんちょうは、手に手を取り合い――
　愛想笑あいそわらいを浮かべた。