滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

５：大森林観測村ＶＳガムラン町

６８７：ロコロ村集会所にて、シガミーの行方について

「ちょっと、伺うかがいたいのですけれど――」
　紫色むらさきいろの細身ほそみのドレスがコツコツカツカツと、宴会場えんかいじょうを横切よこぎった。

「何なんでしょうか？」
　クイと眼鏡めがねを軽かるく持ち上げてみせる、給仕服メイド。

「小猿こざるはいま、どうしていますの？」
　やや声こえを潜ひそめているのは、会話かいわの内容ないようが――
　晴れの席せきには似つかわしくない・・・・・・・・ことを、自覚じかくしているからなのだろう。

「詳細しょうさいはわかりかねますが、無事ぶじとは聞いています」
　クイクイと眼鏡めがねを何度なんども、持ち上げて見せるのは――
　侍女じじょとしての彼女かのじょの矜持きょうじを、鑑かんがみるなら――
　最大限さいだいげんに明確めいかくな、敵意表明・・・・である。

「無事ぶじなのは、知っていますわ。あの子供こどもは、たとえ殺ころされても……死ぬような者ではない・・・・・・・・・・のでしょう？」
　女神の料理番シガミーの本質ほんしつを、こともなげに言い当てる――
　悪逆令嬢あくぎゃくれいじょうにして、傾国けいこくの魔物まもの。

「では何なにを、お知りになりたいのですか？」
　メイドは眼鏡めがねから手を放はなし、眼前がんぜんに立つ女性じょせいを見据えた・・・・。
　その手は腰こしに置かれている。
　元辺境伯家もとへんきょうはくけ侍女長じじょちょうとして、あり得ない態度たいど。

「どこに居るのか、教おしえて下くださいな♪」
　その言葉ことばを聞いたメイドの口元くちもとに、とうとう力ちからがこもる。

　悪逆令嬢あくぎゃくれいじょうロットリンデ、彼女かのじょの親したしい人物じんぶつ。
　つまり、フカフ村村長むらそんちょうであるジューク氏。
　彼かれが操あやつる魔法具箱まほうぐばこによって、シガミーたちが――
　メイドが所属しょぞくする冒険者ぼうけんしゃパーティーの仲間なかまが――
　何処どことも知れぬ別べつの地へ、飛ばされるような――
　憂き目にあっている・・・・・・・・・のだ。

「それはわかりかねます。そもそもシガミーたちを、行方知ゆくえしれずにしたのは――！」
　声こえを荒あらげるメイド・リオレイニア。

「はーい、そこまでぇー。シガミーさんが、どこへ行ったかはわかりますよー、プークスクスクスクスッ♪・」
　言い争あらそいを始はじめた、ふたりの間あいだに割って入はいる少女しょうじょ。

「カヤノヒメさま！」
「あら小猿こざる……じゃなかった、シガミーの姉君あねぎみ」
　小ちいさな手を大おおきく伸ばし、二人ふたりを引き離はなす――
　小猿シガミーの姉役あねにして、惑星わくせいヒースをつかさどる星神ほしがみ。

「ここロコロ村むらからみて約やく１０００㎞キロメートル……１０００ドンバーテルほど北きたに、いらっしゃいますわ。プークスクスクス♪・」
　何なにもない宙ちゅうを仰あおぎ見て、何なにかを確認かくにんする――
　シガミーに瓜二つ・・・の、縁者えんじゃ。

「１０００ドンバーテル!?　そんなはずは、だって大森林だいしんりんの果て・・までは、せいぜい２００ドンバーテル……２００㎞キロートルしかありませんのよ？」
　怪訝けげんな表情ひょうじょうを浮かべ、辺あたりへ視線しせんをさまよわせる令嬢ロットリンデ。

「だ、大森林だいしんりんの北きたには――よいしょっ！　海うみが広ひろがってるからねーぇっと！」
　料理りょうりと一緒いっしょに運はこばれてきた木箱きばこ。
　その藁わらの中なかから角つのが生えた少女しょうじょファロコを、引っ張り出す男性だんせい。
　件くだんの魔法具箱まほうぐばこの使い手・・・、フカフ村村長むらそんちょう・ジューク氏である。

「では１０００㎞キロ先さきに、島しまがあるのでしょう？」
　かるく握にぎった手を顎あごに当てる、才女さいじょと名高なだかい侍女メイド。

「いいえ、北きたの海うみにあるのは、小ちいさな島しまがひとつきりですわ」
　額ひたいに手を当てる、傾国けいこくの魔物まものと名高なだかい令嬢れいじょう。

「はい。大陸たいりくからその島しままでの距離きょりが５㎞キロほどで、島全長しまぜんちょうもせいぜい８㎞キロほどしかありませんわ♪　クースクス♪・」
　パタリと取り出されたのは、大おおきめな黒くろい板いた。

　ヴォゥン――♪
　黒板いたに映うつし出されたのは、斜ななめめ上うえから見下みおろした遠景えんけい。
　それは高低こうていを表あらわす描線びょうせんと、文字もじと各種記号せつめい。
　つまりは、とてつもなく詳細しょうさいな地図ちずだった。

「このまま１０００㎞キロも北上ほくじょうしたら、極点きょくてんを越えてトッカータ大陸たいりくの南洋なんようへ到達とうたつしてしまいますわ」
　板いたの表面ひょうめんに、つつつつーと指ゆびをすべらせる令嬢ロットリンデ。
　大陸近たいりくちかくの島しまを通とおりすぎ、一面いちめんが斜線しゃせんだらけの海面かいめんに埋め尽くされても――
　なおも、つつつつつつつつつーと、北上ほくじょうを続つづける。

「何言なにいってるんだい？　北きたには海うみが、どこまでも続いてる・・・・・・・・・ん――いでででっ!?」
「ぎゅぅい、るるるるぅ！」
　やや大おおきな子供こどもに、腕うでを引っ掻かれる村長そんちょう。

「もう、地図ちずに書かれていることが全てではない・・・・・・と、いつも言っているでしょう？　ジュークは少すこし黙だまってなさい！」
　斜線うみだらけになった地図いたを見つめ、考かんがえ込む悪逆令嬢ロットッリンデ。

「正確せいかくを期するなら、南洋なんようではなく北洋となります・・・・・・・ね、プププ－♪・」
　つっ――シュカーン！
　地図ちずを指先ゆびさきで強つよく弾はじく、惑星ヒース星神カヤノヒメ・ガムラン。

　どこまでも続つづくかのように見えた斜線うみが、すぐに終わり――
　地図ちずの上から・・・現あられる、別べつの大陸たいりく。
　その端はしに現あらわれた文字もじや、記号きごうは――
　『トッカータ大陸：最端』を表あらわしていた。

　　　§

「さきほど見て頂いただいていた地図ちずは、じつは更新こうしんまえの物ものですので――誤解ごかいを招まねいてしまったかも知れませんね、クースクスクス♪・」
　ピピプーン♪
　星神カヤノヒメの操作そうさにより、地図ちずが点滅てんめつすると――
　トッカータ大陸たいりくの南端・・は、消えてなくなり――
　またもや、斜線しゃせんだらけの大海原おおうなばらを示しめした。

『▽＃１０２８６――――現在地点より／１００８㎞』
　地図ちずを見つめる女性じょせいたちの首くびが、傾かたむいていく。

「ではシガミーは――」「小猿こざるは――」
「「――一体いったいどこに!?」」
　探さがしている人物じんぶつは、大海原かいめんに浮かんでいることになっている。

「お、お嬢じょうさまが仰おっしゃるには、陸を走る魔物に・・・・・・・囲まれていたらしい・・・・・・・・・ですが？」
　眼鏡めがねをしきりにクイクイと、持ち上げているが――
　これは、態度を悪くしている・・・・・・・・・訳わけでは……ないのだろう。

「はい。ですのでクスクス♪　海うみを示しめした、この謎のエリア・・・・・に、陸地があるのは・・・・・・・間違いない・・・・・ようですわ、クースクスクス♪・」
　何なにがそこまで楽たのしいのか――
　星神茅野姫ほしがみかやのひめの笑顔えがおが、絶える気配・・・・・はなかった。

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ドンバーテル／約１キロメートルを表す単位。