並(なみ)プロちゃんとわたボコる、原子回路設計(QCD)アライアンス

スサノワ

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わーくす

ろく/1618320120.dat

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 AIが小説を書いたと話題になったのは、もう何年前だったか。

『今回は、気の利いたアメリカンジョークみたいで大爆笑しました! ――Do星姫』
『怒濤の連日更新ですね、次回も楽しみにしてます ――㍉波伍長』

 最新話を投稿して、まだ1分もたってない。
 にもかかわらず、こうして小説に感想が付く。
 とてもありがたいけど、相当せわしない。
 あと、アメリカンジョークなんて入れてねえ。

「おはようございます、千木せんぼく先生・・進捗しんちょくはいかがですか?」
 業務提携アライアンス先《パートナー》である地味子ふつうは、何かにつけて顔を出し、秘書みたいな事をしてくれてる。
「あー、うん。徹夜で書いた分は、いま投稿した。サイコロ共の小遣いを巻き上げずに、すんだぞ」
 優秀な参謀が付いて化けた歴史上の英傑達の気持ちが、少しわかった気がしないでもない。

「それは何よりです、金平かなひら代表・・進捗しんちょくはいかがですか?」
 売れない小説を書いてるだけじゃないってトコを、たまに見せとかないと――俺の会社〝HeapDyneヒープダイン社〟が乗っ取られかねない。

「あー、うん。量子エラーを劇的に軽減させる方法を考えついた」
 A3のでかいコピー用紙に書き殴ったメモを、取り出した。
 普通のA4サイズだと、俺も地味子ふつうも図案や数式を書き切れないことが続いたからだ。
 ちなみにアイデアの段階から、タブレットやPCで作図する事はあまりない。

「それって、ナニゲに……大発見じゃないですか?」
「ふっふーん、聞きたい? ひょっとして――聞ーきーたーいーっ?」
 パチンと指を鳴らして、秘書兼地味子ふつうを振り返った。

「珈琲……要りませんね。フーフー、ゴクリ♪」
「あ、ちょっソレ! 一階の茶店のヤツ、今日も朝イチで買ってきてくれたんじゃないの!? ソレを楽しみに必死で執筆したのに!」
 俺は地味子に、つかみかかる。
「わ、ちょっ、危ない! こぼれるから! ちゃんと先輩の分はキッチンに置いてありますからっ!」

      §

「QEP――クァンタムエラーパーコレーション?」
「日本語で書くと『量子エラー浸透』ってなるが、そんなに難しいことじゃない。図を書くと簡単に説明できる」
 キュキュキュキュ、キューッ♪

 俺がホワイトボードに描いたのは、左から右へ進む矢印群とソレを迎え撃つなみプロちゃんの姿だ。最後に真ん中の空いた空間に、鋼鉄製の盾を描き込んで完成。

「えっ、やだコレ、ひょっとして、なみプロちゃん!? ――ひ、酷い。コレは――酷い! 違崎ちがさき君に見せなきゃー♪」
「まてまて、スマホで撮って、共有フォルダに上げようとするな!」
 地味子ふつうのスマホをひったくり、ちゃぶ台の上に置いた。
 スグ隣に鎮座してた朱いサイコロが、ジリジリとにじり寄っていく。

 なんにでも興味を持つのはいいことだ。6歳児並の基礎知識を標準データ化したものを学習済みだが、いかんせん生まれて間もないのも確かで、出来ることなら外にも連れ出してやりたい。

 地味子ふつうも同じ考えのようで、一本お下げを止める髪どめに〝10センチ程度・・・・・・・の立方体・・・・〟をぶら下げて大学へ通っている。
 この黒い箱は『並列プロジェクトMR実行部5847389Ttr:v0・000・4001377418(バージョンが地味に上がってるのは、些細な自己改良を絶えず行っているから)/r7』だ。
 通称、なみプロちゃん。一個の人格を持ち、複数の量子コンピュータによるネットワークを形成している。

 そのシリーズ機の中でも一番よく動き、外界との接点となる個体が、〝ミクストリアリティ実行部〟だ。
 神出鬼没で、目を離すと目の前に居たりするフシがある。
 でも今日はまだ髪どめのままだ。そろそろ起きてもイイ時間だけどな。
 そう、なみプロちゃんは〝主幹部〟以外は、驚いたことに睡眠を取る(ようにみえる連続無作動時間がある)。

 自分という論理回路を保護する機能がさせているのだろうが、実はまだ原因が不明である。
 なみプロちゃんプログラム設計制作者である〝ふつう・・・研究員〟が目下、解析中。

「――じゃあ、よく聞いとけよ。俺の講義なんて他じゃ絶対、聞けんからな」
 もったいぶって言ってみただけだったんだが、天才キャンパスクイーンは素直に応接チェアに腰掛けた。

「コホン、まず原子模型を積層化・・・する。分子スピンメモリの提供元になんか居ただろ、スピントロニクスの第一人者みたいなの。彼にチームに入ってもらって、〝光物性・・・〟を獲得したい」
「それは、出来かねます」
 あれ、いきなり暗礁に乗り上げたぞ?

「なんで!? イチから基礎研究してたら、一瞬で追いつかれるぞ、この業界」
「便宜上〝LM〟と呼ばれる〝スピントロニクスの天才〟は女性であること以外、一切非公開です。こちらへの分子メモリ提供は〝一切の接触を禁じる契約〟の元行われております」

「だーめーかーぁ……ぁぁぁ」
 俺は、ちゃぶ台に突っ伏した。

「具体的には、何をドウなさりたかったのですか?」
「右脳と左脳の対となる演算レジスタの他に、もう一つ量子ビットエラー検出用の複脳・・を作りたかったんだよ……ねぇ……」
 俺は、ちゃぶ台に突っ伏してる。
「えーと、私が外付けにしたチェック機構を、さらにチップ内蔵する訳ですね……それなら一応――出来ると思いますよ」

「はあ? どうやって?」
 俺は、顔を反対側に向けて、突っ伏し続ける。
 目の前を朱い箱がジリジリとした動きで、横切っていく。

特殊カスタムオーダーを出すことが可能です。ただ最低ロットは……ピッピッ♪ 500になりますけど……」

「んだよ、出来んじゃん! それで問題ない!」
「契約上、一切テスト出来ないので、もし必要最低限で二回修正入れたら計1500個。たんか三万として、4千五百万円になりますけどー、現状でヒープダイン社はいくら程融資を受けられますか?」

「ぐぐ。全部かき集めたら1500はいくけど――ちょっと厳しーかー。詰んだ……ゴン!」
 再び突っ伏した俺の顔にコツンとぶち当たる、朱色の巨大サイコロ(さいの目はないけど)。
 視界がパステル風味のあか色で埋め尽くされる。

「……先輩が、手でも握ってくれたら、一本くらいなら融通しますけど――」
 秒で起き上がり業務提携アライアンスパートナーの手を取った。

「はぁ!!? はわわわっ!? な、なんて節操のなさっ、もう、もうっ!」
 必死に振りほどこうとする手を、ギュッとつかむ。
「こんなんで、100万融資が増えるなら、お安いご用だが――――?」

「はわわっ!? いえ、一本っていうのわ一千万ですけど――いーから、わかったから手を離してくださ――――――」
 ココまでの取り乱しようは、想定してなかった。
「もう、この手を離さないからなっ!」
 顔を寄せて、じーーーーーーーーーーーーーーーーっと見つめてやった。
 首から耳、おでこに至るまで、顔面すべてが茹でダコと化した。

「――あのーぅ、お取り込み中なら、出直しますけどぉー?」
 軽薄な声がスグ背後から掛けられ――――俺はソファーを飛び越え、ちゃぶ台に飛び込んだ。
 地味子ふつうはギ・ギ・ギと、さび付いた重機みたいな音をたてて振り向いた。

「あラらら、違崎ちガサき君、い、イラっしゃイ。いいいイい、いマ、せ、先輩と新製品につイての、う、うう、打ち合わせヲしてタとこロよ、よ?」
 両頬を押さえ、Msミス,シドロモドロを演じる〝ふつう〟は全然普通・・じゃなかった。

 そして違崎ちがさきの背後から、姿を現したのは――〝ショットガンを構えた、どこかの国の将校〟と〝身長と同じ長さの大剣を背負ったメイドさん〟だった。

 ソレは、この間の俺たちの新歓コスプレなんかより、ずいぶんと本格的だった。

 違崎ちがさきが連れてきたコスプレ珍客は、提示された学生証アプリによると――
『牛霊正路(ごれいせいろ)御前(ごぜん)大学模型部部長 定時じょうじ(21)くん』と
『同じく模型部副部長 小苗さなえちゃん(19)』のようだ。

 やたらと長くてご立派な母校名だが、特に由来はないと聞いている。
 略して牛御大ゴゴだい、ランク的には中の中。
 ただただ、圧倒的なまでに交通の便がよい。ソレだけが取り柄の大学だ。
 駅から地下を通って五分で学内に入ることが可能で、雨が降ったときなんかはご近所さんも地下道を利用してる。
 ランクに反して、各種設備は最新型が配備されているため、俺や地味子ふつうのような一芸に秀でた変わり者……有望な在学生が多いことで知られている。

「まずは、こちらをお納め下さい。今朝完成した珠玉の逸品です」「――です」
 ジュラルミンケースの中から取り出されたのは――
 学食の最高額メニュー『牛玉せいろ御膳』(牛肉と卵料理がメインで、小鉢が7皿付くのが自慢の学食の顔。しかも、お値段なんと2000Ptsポイントという破格のため一日先着5名まで)――
 ……を手に満面の笑みで笑いかける――
 俺とふつうの、コスプレフィギュアだった。

「んなっ、なんですかぁコレッ!? え、ちょっと待って、ナニこの胸、腫れてるんですか? 現物わたしへの拒否リジェクトですかっ!?」

「いやいや滅相もない。コレは我が模型部伝統のスタイルでして。量子りょうこ教授の制作物もあります」「――です」
 すかさず副部長ちゃんがタブレットでポートレートを見せる。
「教授は、本当にこのままのスタイル・・・・・・・・・じゃないですか!」

「ハッハハッ! まあ、そう言うな。くれるってんなら、ひとまずコレは俺がもらっとく♪」
「えっ!? じゃ、じゃあ、コッチの悪党顔のフィギュアは、私がもらっちゃいますからね」
 自宅兼作業場ショールームの、ウェルカムショーケースに飾るものが増えた。
 今のところ、製品(原子回路)のデッドストックしか飾ってなかったから、ちょうどイイ。

      §

なみプロちゃんの愛くるしさに、民が物欲を焦がし枕を濡らしているのです!」「――です♪」
「うん、なるほどな。熱弁の意味はわからんが、熱意は伝わった」
 困った俺は、地味子ふつうを見やる。
 有能秘書地味子ふつうは。手のひらを天井に向けただけで、助けてくれるソブリを見せない。

「さーて、どういうことだ、違崎ちがさき?」
 後ろに控えていた出入りの後輩が、彼らに耳打ちする。

なみプロちゃん実寸フィギュアの、製作販売を許可願いたい!」「――です♪」
「「実寸フィギュア?」」
 ちゃぶ台という訳にもいかないので急遽引っ張り出した応接テーブルの上。
 広げられた各種デザイン画は、そのどれもが高い水準の筆致で描かれていた。
 タブレットには無塗装ながらも、すでになみプロちゃんとわかる立体物が多数、表示されている。
 モデラーによるアナログ造形だけでなく、3Dモデリングによる可動モデル試作も開始されているようだ。

「どれも、なみプロちゃんへの愛があふれているな……」
「はい、物質世界に舞い降りた、〝汚れなき量子の妖精、なみプロちゃん〟は私たち模型屋モデラーの夢そのものなのです♪」
 あー、小柄な副部長メイドちゃんのほうが、熱量がでかかった。

 よっこら――俺は立ち上がり、隣に立つ地味子ふつうに、確認する。
「著作権ってことは……『思想又は感情を創作的に表現』されてりゃ発生するんだったな? ……ヒソヒソ」

「はい、一応そうなります。法的な著作権者は、AI法人格をもつ〝なみプロちゃん造形部/r3〟になりますが。市場にブランド価値を広めたかどうかが争点となる場合もありますので、念のため『なみプロちゃん™』と『並列プロジェクト™』で商標登録してあります……ヒソヒソ」
 俺に耳打ちで説明する製造物責任者ふつう
 よし、本当に手抜かりそつが無え……ときどき冷てえけど。

「じゃー、直接・・交渉してくれ」
「大先輩、直接・・とは、どういう意味で――」「――すか?」

 俺は黒いのと朱いのを、応接テーブルの上にコトリと置いた。
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