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奥編 moglie

12:明日に向かう町 La città in rotta per domani

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 馬車は大きな門の前に止まる。東門というらしい。
 えぃっと馬車の屋根から飛び降りる。
「やっと着いたね」
「俺はもっと時間がかかると思っていたが、早かったな」
「確かに幸運だった」
「じっさま、おっさん、御者さん、有難う!」
 愛想よく手を振っておこう。
「これ、じっさま言うな」
「おっさん言うな!」
「良ければ儂らの店にも来てくれ! 装飾品アッチェソーリオなど色々便利なものを売っているぞ」
 じっさま風は白髭を撫でながら、報酬の袋を渡してくれる。
 赤やら白やらの石が入っている。青っぽいのもある。
 行掛かり上で引き受けた依頼クエストだったので、文句は言うまい。というより結構奮発して貰ったようだ。

 町に入ったが随分と大きい。旅立ちの村とは全然違う。
「新たな出発だね。なんだかウキウキする!」
「これが、明日に向かう町か……俺が思っていたよりもずっと大きい」
 町全体がコンクリート造りで白っぽい感じだけど、人は多く活気がある。
 日本にはない不思議な感じがする。
「まずは住む処を決めないとな」
 サヤが独言のように言う。
「ねぇ、来たばかりだし、立ち話も嫌だな」
「そうだな。日も高いから酒という訳にはいかないが、茶でも飲みながら話そうぜ!」
 東門の南側は酒場や宿が林立しているようだ。
 近くの店を適当に選んで入ってみると
 びっくり! 舞台パルコシェーニコの上に女性がひとり、竪琴アルパを弾きながら謡っている。
 奥まった所の席に座って、とりあえず聞く。
 高音が良く伸びて、澄んだ綺麗な声だ。

  時は来てそして去り行く
  日々も、月々も、そして歳々も
  おお何と悲しいことよ 私は何と言えば良いのだろうか 
  私の苦悩はただ一つ
  私の望みは変わることはない
  彼女の望みしこと、私の望みしこと
  それは決して私に喜びを与えはしない

  彼女は微笑みを失うことはない
  私は苦しみ、途惑うのみ
  このような戯れに私は身を置く
  二人の間は失われてしまったのだ
  それゆえ、愛は失われる
  もし片方が続いていたとしても
  応えることなどない
  ……

 歌は続く。
「ほぅ、悲恋の歌か?」
「ふむ、店同士の競争が激しいのだろう。こうやって客の関心を惹いているわけだ」
「でも叙事詩サーガって、もっと物語をするのかと思ってた」
「色々な型式ティポがあるのだろう」
「さて」
 とゲッツが叙事詩サーガをBGMに話始める。
「俺からの提案だが、とりあえず住む処は近くにしないか?」
「確かにね。このまま、ハイサヨナラって悲しいもんね」
「みな夫々の職能を磨くのだろう。師匠を探すことも必要だ。金も稼がないとな」
「そうだな」
「それでだ。互いに情報を交換するため、近くに住んで時々会わないか?」
「ふむ、生命の腕輪に記録されるデータは互いに教え合っても増える。時々会って話合うのは合理的だ」
「決まりだ。まずは冒険者ギルドに行って情報収集しよう。俺たちのような冒険者がたくさん居ると思う。それなりの対応はしてくれるだろう」
「分かった!」
 ボクたちは、お茶を切り上げて冒険者ギルドに向かう。
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