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旦那編 marito
16:草編 Da erba
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時が凍る
暗闇の中
淡い光に浮かびあがる男女
まこと近頃
珍しきこともなし
時を重ぬるも 飽きばかり
いつもながらに麗しい
この下人の老人にも
眩しきその姿
あの年寄りも 煩わしい
いつもあらぬ目で
こちらを眺める
何か仕返しを
革の代わりに 編んだ草々で
決して鳴ることのない この鼓
あの年寄りに打たせましょう
爺、爺
何かお呼びでござろうか
いつも傍に置く
この大事な鼓を渡そう
これは見事な鼓
爺はいつも
わが家に尽くしてくれた
その鼓の音を聞かせてくれれば
一夜の褥をともにせん
お嬢さまもお人が悪い
この古老にそのような戯れを
戯れにあらず
われの本心じゃ
必ずや良き音を響かせてみせましょう
鳴らぬ、鳴らぬ
打てども、鳴らぬ
老いゆえに耳が遠なったか
儂の心が足りぬのか
面白可笑しゅうて
男《をのこ》共は
歳を知らぬのか
果つるまで 置くままに
折しも 閃光煌めき 雷鳴轟く
豪雨 老人を打ち叩く
夜風舞い 熱を奪う
老人 深夜まで唯打ち続ける
つい寝てしもうた
夜も更けた
雨の音も聞こえた気がする
あの年寄りは如何した
既に骸か
偽りを真にとり
まこと愚かなものよ
骸の中から 黒き煙立ち上る
漆黒の中 二つの怪しく光る眼
鎌首をもたげ
二つに割れた舌を突き出す
あな恨めしや
儂の心を弄び
一心不乱の恋心
嘲り笑うとは
これは大蛇
爺の執念か
この恨み
その身に受けよ
まこと、まこと知らぬ
これは、ただ戯れ
鎌首を二つに割るがごとき
大口を開き 黒雲を纏い
女を襲う
呪うそれのみ
空間が弾ける!
静寂の欠片が 四方に散る
時が解ける 動きが戻る
大蛇の前に立つ
鎌首を持ち上げ 見下ろして来る
「爺さん もういい」
何故止める
儂の前に 何故立ち塞がる
そこな女子に
受けたる恥辱
晴らしもせずに
逝くるものか
「あれを見な!」
女は笑う、笑う、笑い続ける
大蛇と叫び
長い黒髪を振り乱し
何も観ることのない目を見開く
我を失い 狂うたか
「そうだな……
恨みは十分晴らせたろう」
儂はもう戻れん
このまま悪鬼になって
人を喰らうよりは
いっそ
「あぁ、分かった」
「地獄の業火」
真紅の炎が大蛇を包み
その身を焼け爛れさせる
最期と 叫び 呻く
有難い、有難い
これで逝ける、人で逝ける
「あぁ、爺さん あんたは人だ」
腕輪の効果音が遠くに響く。
“インスタンス・クリア:草編„
暗闇の中
淡い光に浮かびあがる男女
まこと近頃
珍しきこともなし
時を重ぬるも 飽きばかり
いつもながらに麗しい
この下人の老人にも
眩しきその姿
あの年寄りも 煩わしい
いつもあらぬ目で
こちらを眺める
何か仕返しを
革の代わりに 編んだ草々で
決して鳴ることのない この鼓
あの年寄りに打たせましょう
爺、爺
何かお呼びでござろうか
いつも傍に置く
この大事な鼓を渡そう
これは見事な鼓
爺はいつも
わが家に尽くしてくれた
その鼓の音を聞かせてくれれば
一夜の褥をともにせん
お嬢さまもお人が悪い
この古老にそのような戯れを
戯れにあらず
われの本心じゃ
必ずや良き音を響かせてみせましょう
鳴らぬ、鳴らぬ
打てども、鳴らぬ
老いゆえに耳が遠なったか
儂の心が足りぬのか
面白可笑しゅうて
男《をのこ》共は
歳を知らぬのか
果つるまで 置くままに
折しも 閃光煌めき 雷鳴轟く
豪雨 老人を打ち叩く
夜風舞い 熱を奪う
老人 深夜まで唯打ち続ける
つい寝てしもうた
夜も更けた
雨の音も聞こえた気がする
あの年寄りは如何した
既に骸か
偽りを真にとり
まこと愚かなものよ
骸の中から 黒き煙立ち上る
漆黒の中 二つの怪しく光る眼
鎌首をもたげ
二つに割れた舌を突き出す
あな恨めしや
儂の心を弄び
一心不乱の恋心
嘲り笑うとは
これは大蛇
爺の執念か
この恨み
その身に受けよ
まこと、まこと知らぬ
これは、ただ戯れ
鎌首を二つに割るがごとき
大口を開き 黒雲を纏い
女を襲う
呪うそれのみ
空間が弾ける!
静寂の欠片が 四方に散る
時が解ける 動きが戻る
大蛇の前に立つ
鎌首を持ち上げ 見下ろして来る
「爺さん もういい」
何故止める
儂の前に 何故立ち塞がる
そこな女子に
受けたる恥辱
晴らしもせずに
逝くるものか
「あれを見な!」
女は笑う、笑う、笑い続ける
大蛇と叫び
長い黒髪を振り乱し
何も観ることのない目を見開く
我を失い 狂うたか
「そうだな……
恨みは十分晴らせたろう」
儂はもう戻れん
このまま悪鬼になって
人を喰らうよりは
いっそ
「あぁ、分かった」
「地獄の業火」
真紅の炎が大蛇を包み
その身を焼け爛れさせる
最期と 叫び 呻く
有難い、有難い
これで逝ける、人で逝ける
「あぁ、爺さん あんたは人だ」
腕輪の効果音が遠くに響く。
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