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奥編 moglie

51:壁画(その1)Murale:primo

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 「山風やまかぜ!」
 ルシアの投げるカードが上昇して、かなりの高さから急降下するようにポイズン・ビーを切り裂く。
火の槍ランチァ・ディ・フォコ!」
 コーリの火魔法でアイアン・ビートルを吹き飛ばす。
 サヤの弓攻撃に合わせてアルジェがムラサキ・アキツを叩き落す。
 今日は、街の南東側でパーティ戦を実施中。
 新しい仲間が増えたので慣れるために繰り返し戦っている。
 この辺は、風と地の属性の虫がまとめて襲って来る。
 コンビネーションもだいぶまとまって来た。
 そろそろダンジョンにも入れるかもしれない。

 サヤのパートナー、アルジェンタは強い。しかも、警戒アッヴェルティメントを命じて置くと、早期に敵を発見してくれる。頼もしい仲間が増えた。
 黄蘭きらん戦闘バッターリア中はボクの肩に乗っているが、何をしているのか分からないことが多い。少なくとも幻術みたいなものを掛けているようだ。微妙に相手の攻撃が外れる。
 時々、狐火みたいなの飛ばしてるしなぁ

 戦闘バッターリアが一段落している時に、何か石の遺構を見つけた。支石墓ドルメンのような漢字だ。
「何だろうこれ?」
 つい声に出てしまう。
「ほぅ何か入口がありそうだ」
 サヤが興味深げに近付く。
「何だか不気味ですね。気を付けた方が良さそうです」
 コーリは慎重だ。
「とりあえず入ってみよう。危なかったら直ぐ避難すれば良い」
 ゲッツはいつもやる気十分だな。
「分かりました。結界バッリエーラを掛けます。属性の加護プロテツィオーネ・ディ・アトリブート! 気を付けて下さいね」
 ゲッツ、サヤ、コーリ、ルシア、ボクの順で中に入る。
 中は真っ暗だが、あまり広い感じはしない。
ルーメ!」
 コーリの灯り魔法で部屋の中が照らし出される。
「これは?」
 ゲッツの声に周囲を見渡すと、四面の壁に絵が描かれている。
 右側は牛と蛇、左は蠍と人型の怪物のような感じだ。
 正面は不気味な姿の悪魔が描かれている。
「ふむ、不気味な絵だな。何かありそうだ。コーリ、暗いとアルジェには不利だ。明るくしてくれ」
「分かりました!」
 コーリの灯り魔法が追加され、部屋は明るくなる。
 床は石畳で壁は漆喰のような感じだ。
 “くっ„ アルジェがサヤの肩の上で警戒するように短く鳴く。
 ふと見ると、黄蘭が周囲に狐火を出している。戦闘バッターリア直前の状態だ。かなり警戒している。
「そっちだ!」
 サヤの声に右側の壁を見ると、絵の中から大きな角を持った牛が抜け出して来る。
「突進されると危険だな」
 ゲッツが盾を構えで前に出る。
「属性確認します。属性・杖《アトリビュート・バストーネ》!」
 ルシアが属性を付与したカードを投げ付ける。
 カードがふっと牛に吸い込まれる。
「火属性ですね」
 ルシア、落ち着いでるなぁ。動揺している所見たことない。
「了解です。水纏いダ・インドッサーレ・アクア!」
「抑えるのは任せろ!」
 牛は角を下から突き上げるように首を振るが、ゲッツがガッチリ抑える。
「狭い所はやり難いな」
 こういう接近戦になると弓は不利になる。
「狭いから囲うのが良さそう。コーリ、壁で行くよ。ゲッツ、合図したら離れて」
「了解だ」
「よし、いま!」
 ゲッツの移動に合わせて、水魔法を放つ! 
「「氷の壁《ムーロ・ディ・ギアッチョ》!」」
 良い具合に閉じ込める。
「集中攻撃で!」
「分かった。属性・杯《アトリビュート・コッパ》! 山颪やまおろし!」
 水属性を付与した数枚のカードを投げ上げて、上から畳み掛けるように牛に降り注ぐ。
破裂スコッピオ!」
 突き刺さったカードが炸裂して、牛は悲鳴を上げる。
「コーリ、結界バッリエーラの維持お願い。水の球パッラ・ディ・アクア!」
「了解です。氷の壁ムーロ・ディ・ギアッチョ!」
 結局、溺れさせるように水漬けにして倒した。
 牛が消えて行くとほぼ同時に、右側の壁から蛇だ現れる。
「ふむ、ご丁寧に一匹ずつ相手をしてくれるのか」
 ゲッツが笑う。
「気を付けて、毒持ちかもしれない」
「気を付けよう。解毒は頼むぞ」
 槍と盾を構えるゲッツに向かい、蛇は牽制するように鎌首をもたげ、赤い舌を不気味に突き出す。
「属性・貨幣《アトリビュート・デナーロ》!」
 地属性のカードを投げ付けると、牛の時と同様に吸い込まれる。
「予想通り、地を這う蛇は地属性ですね。属性・杖アトリビュート・バストーネ!」
 ルシアはカードに火属性を付与して、蛇に向かい次々に投げる。カードは蛇の鱗を削る。
「負けていられんな」
 サヤは火矢を放ち続け、自律アウトノミアを指令されているアルジェが隙を見て襲い掛かる。時々、硬直リゴーレが掛かるのが結構大きい。
 蛇は大きく鎌首を持ち揚げる。スキルの予備動作だ。
「気を付けろ、何か来るぞ!」
「了解です。風の壁《ムーロ・ディ・ヴェント》!」
 蛇の口から濃い緑色の煙が吐き出される。
「おぅ、毒霧のようだな。気を付けろ!」
 ゲッツの声に、薬剤ポツィオーネを投げる。
解毒剤ポツィオーネ・ディジントッシカンテ!」
 緑色の液体が弾けて飛び散る。
 続いて蛇の尻尾が横薙ぎに迫る。何とか躱したが狙い所がブレていたような気がする。
 肩に乗っていた黄蘭きらんの尻尾がくるくる回っている。お前何か幻術掛けてる?
さざなみ!」
 十枚ほどのカードが波打ちながら襲い掛かる。
破裂スコッピオ!」
 蛇の周囲でカードが一気に炸裂し、蛇がよろめく。
炎の波オンデ・ディ・フィアンマ!」
螺旋スピラーレ!」
「おうりゃぁ! 多連撃アタッコ・マルティプロ!」
 遂に蛇が倒れ、黄色い光と共に消えて行く。
「やれやれ、しぶといなぁ」
「アルフィ、安心するのは早過ぎるぞ」
 左側の壁画から蠍がゆっくりと這い出して来る。
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