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イケボと思っています1

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「あ!この人、最近有名だよね~。」

友達のその声に振り向いた。それは、街頭の大型ビジョンに映し出された、いつもよりすました彼の顔だった。

「知ってる、知ってる!夜中の報道番組に出てたの見たよ。意外とイケメンだよね。」

「私も思った~!」

・・・意外とじゃなくイケメンの部類だと思いますよ。
本日は初秋にふさわしい、ぽかぽかのお天気。頼子の結婚が決まり、その招待状を渡したいと言われ、カフェのテラス席でお茶をすることになった。高校の三年間を同じクラスで過ごした友達の高梨頼子(たかなしよりこ)と東間多恵(とうまたえ)は、思い出した時にどちらからともなくお茶や食事に誘う仲だ。2人は私に付き合って1年の彼いることは知らない。わざと言わなかったわけではない。正真正銘の生まれて初めての彼氏を自慢するほど、私の恋愛値は高くなかっただけ。最近は2人に会うたびに、いつ言おうかと思って落ち着かなかった。そして迎えた今回、結婚が決まった友達の話に便乗してサラッと告白してみようと意気込んできたのだ。ところが、自分たちが座る真向いのビルの側面に大きく映し出され彼が話題になってしまった今は、とてもじゃないが更に言える状況ではなくなった。この人と付き合ってます、と言ったところで信じてもらえそうにないほど、2人の中で彼の知名度がすでにあった事実に驚きおののいて、美味しいと評判のパンケーキの味が私の中で無になった。今後も絶対言えない気がしてきて、小さくため息をつく。

「気になって、ネットで検索しちゃったよ~。そしたらね・・・」

そんな彼女の私が怖くてできない事を多恵は声を潜めて話しだした。

「あの顔じゃん、やっぱりモテるらしくて、女優とかタレントとかいっぱい噂があったよ。なかでもパリコレモデルの松宮鈴子(まつみやすずこ)とは同級生らしくて、それが本命じゃないかって書かれてたわ。若く見えるけど歳は31なんだって。てことは、学生から続いている仲なら長いよね~。」

自分の知らない事実に心臓が嫌な音を立てる。でも、どこかでそうだよね、と納得している自分もいる。容姿、社会的地位、経済力、あんなに魅力的な男性だ。こんなどこをとっても並以下の、恋愛のれの字も知らなかった自分だけを選ぶわけがない。きっと物珍しかっただけなんだ。そう他人から言われる言葉なんて予想がつく。だからこそ、誰にも打ち明けることができなかったこの付き合いは、やはり誰にもバレないうちに終わるのだろうと、心のどこかで思っていた。それでも、後悔しないように、自分の気持ちだけは正直にたくさん彼を好きでいようと心に誓っていた。二つに割れそうな心をなんとか隠して1年。月に2~3回、少しでも会えたらいい方だった付き合いは、お付き合いと言い切れるものなのだろうか。彼が途轍もなく忙しい人だから、これが自分たちなりの付き合い方なんだと理解してきたつもり。でも、ふと普通の恋人はどんな付き合い方をするのだろうかと思う。




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