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同期から見る私の彼氏2

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駅に向かって歩き出した私たちの話題はズバリ結婚に関してのライフサイクル。考えていないわけじゃないけど、自分には遠い未来と思っていた。

「憧れはあるよ。ウェディングドレスとか子供とか。確かに同級生とかが結婚した話を聞くと焦るというか、なんだろう・・・自分ひとり取り残されていく感じはしたけど、それだけだったなあ。」

この春、友達に呼ばれた時の結婚式がなんとなく頭に浮かんだ。郊外の一日一組限定のキレイな結婚式場は、二次会もそこで行われた。悪ふざけした新郎の友人たちが庭にあるプールに次々飛び込んで水しぶきをあげていた。結婚式場にあるプールって入っていいのだろうか、そもそもなんの為にあるのだろうか、と疑問に思った事が思い出される。

「それだけ?」

「うん。だから、結婚相手を探そうとか、お見合いしようとか・・・とういうのも自分にはまだ早いかなって思うんだよね。年齢とかじゃなく、気持ちがまだ成長していないというか。」

ついこの間まで「好き」という感情もわからなかった私は、いつか王子様とは言わないが、自分に似合う誰かが現れるのではないか、そんな事を漠然と思っていた。本当に王子様が目の前にやってくるとは・・・イヤ、王子様ではなく、彼は王様みたいな人だね。彼の口から出る言葉は、いつも正しくて、ハッキリとしていて、仕事には絶対的自信があって。でも、その手が私を撫でる時は、すごく優しくて温かだ。

「そっか。・・・でも、成長を待つんじゃなくて、一緒に成長していければ問題ないんじゃない?親子と一緒でさ、産んだら即お母さんになれるわけないじゃん。子供から学ぶことを多いとか言うじゃん。」

「一緒に成長・・・。」

「そうそう!初めはピンとこないかもしれないけど、一緒にいるうちにしっくりくるというか、馴染むというか・・・。そうやって、お互いの気持ちとか心とか愛情とかを育てて補って支えていけば、無くてはならない、いないと寂しいとか、いないと気になって心配する仲になるんじゃないかな。それが愛であったり、家族になったりとか、そういう成長でもいいと思うんだ。私が思うに成長の形もいろいろだって事。自分の考え方を変える必要はないけど、世間の型にハマる必要もないよ。」

確かに今の私は恋愛途中ではあるけど、世間一般の言う付き合い方ではないと思っている。
仕事が忙しく、経済界では少々有名人の彼。少しの時間があれば会いたいと思うお互いの気持ち。自分がいない間に何かあってはいけないと私を心配する彼の気持ち。それらを総合的に判断して、少し前から私の衣食住は彼の掌の中に収まった。彼の秘書の案により、元私が住んでいたアパートもそのままにしているので、会社や田舎の家族が知っている住所は以前のまま。いつでも元に戻れるのだ。そんな考えを彼は嫌そうだが、「お前の好きにすればいい。それでお前が安心してオレのそばにいれるなら。」
仕事では決して見せない、やさしい瞳でまっすぐと私に語り掛けた。こんな心の弱い私では彼に悪いと思うし、これではいけないとも思う。でも、次美はこんな私でもいいと言ってくれている気がする。かなりの拡大解釈かもしれないが、モデルの松宮鈴子を見た時のモヤモヤが晴れていく気がした。
そんな気分が上向きになり始め頃、私たちのわきに一台の黒い車が止まった。何かな、視線を向ければ、その車の後部座席の窓が下がった。

「・・・気づかぬ振りをして、オレに挨拶もなく帰るつもりか?」

私が今朝も目覚めとともに聞いたその声は、不機嫌オーラを隠さない私の彼氏様こと門田社長だった。

「門田社長!・・・私たちがよくわかりましたね。」

少し驚いた様子の次美ではあったけど、すぐにあきれるような、それでいて拗ねるような顔をした。でも、その言葉は仕事関係にある他社の社長には失礼じゃない?、と私が二人の様子にギョッとする。

「ふん!・・・俺があのホテルで打ち合わせだとお前のチームがセッティングしたんじゃないか。」

え?うちの会社で?もしかして、次美ってあのホテルに彼が来てること知っていたの?でも、広いホテルだし会うわけないと思っていたのかな。

「さすが、むーちゃんの姿を見逃さないないなんて、第一関門突破ね。」

「?・・・第一関門って何?」

次美の口からでた聞きなれない言葉を聞いて首をかしげると、いつの間にか車を降りていた彼の秘書の柿室(かきむろ)さんが私のバッグをさっと持ち上げた。

「こちらへお乗りください。」

すたすたと車によりドアを開け、彼が乗る後部座席へと導く。

「え?・・・でも、友達もいますので今日は・・・。」

そう言って次美の顔を、順に彼の顔を見る。この状況いろいろバレバレでマズイような。最初に盛大なため息を吐いたのは次美だった。

「ふー。・・・いいわ、今日は譲ってあげる。・・・むーちゃん、何かあったら必ず私を頼るのよ。むーちゃんの一人くらい私が面倒みるから。わかった?」

両肩を掴まれ、その勢いに思わず頷くが、意味がさっぱりわからない。譲る?頼る?面倒をみる?でも、それはすべて私に関係しているらしいことはわかる。ほら、行ってと次美に促されて後部座席に乗り込むと私のバッグは、今度は彼が人質として持っているようだった。走り出す車窓から次美に手を振れば、彼女はにこやかに手を振り返してくれた。

「いつまであの女を見ているつもりだ。・・・そろそろ、オレの方を見ろ。」

2人の間にある左手を引かれポスっと音を立てて彼の胸に収まる。いつもの彼の香りが鼻をくすぐり、その温かさに心の安らぎを感じてそっと目を閉じ身体を委ねる。あれ?でも、なんかひっかかる。こんなに安心していていいのかな?何か忘れていない?そこで次美の言葉を思い返す。

『さすが、むーちゃんの姿を見逃さないないなんて、第一関門突破ね。』

『今日は譲ってあげる。』

その言葉は私に向けられたものではない。とすれば・・・。

「ねえ。・・・次美に私たちの事、話したの?」

「・・・」

彼の無言の答えにYESと取った私は、手に力を込めて彼から身体を起こす。これは、ラブラブ、トロトロしている場合じゃない。話をしなければ!





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