塊獣

あなたの嫌いな人

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「ヤツ」のため

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目覚める。

男は照らされ、重い瞼を開くと共に気だるげに洗面所に向かい、カウンターに手をかけ虚ろに鏡と目を合わせた。
逆だった寝癖、浮腫みあがった頬。
まさにその風貌は愚の骨頂という他ないだろう。
自堕落で非生産的、杜撰で貧相な男はいかにもこの世を憎んでいた。
恵まれる花形、贔屓される逸材を背にいつも汚れ仕事を買ってでる役割を任されていた彼にとって、この世は理不尽であり殺生以外の何でもなかった...。

そんな彼にも、愛するモノがいる。

ヤツは男が寝床にいないのを確認し、男の元に向かう。男はヤツが動く音を検知し、迎え入れるようにしゃがむ姿勢をとる。
ヤツは嬉しそうに男の懐に入る。

少しはみ出る...垂れる...?

         抱え直し...抱きしめる?

                  強く鈍く...吹き出た?

その姿は異様...珍妙...愛嬌を極めた、鏡に映るヤツはとても嬉しそうだ、男は嬉々として蕪雑な話題を持ちかける、ヤツは相槌を打つように脈を打つ。
少し暖かいその体は、男の腕に縋り付くようにこびりつく、ヤツと男はまるで愛し合っている、まるで家族のよう、または飼い主とペットのように。
男はヤツを床に置き、汚れた床を拭く、ヤツは呆然としている。
床は鈍く、赤く輝く液体が床に広がり汚れる中、男の手が止まった。
広がる赤、それと相反するように青く冷める手は物悲しげに置かれていた。



ヤツの朝ごはんは済んだようだ。
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