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第一章 ヒナノの誕生日
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第一章 ヒナノの誕生日
蝉が鳴いていた。
夏の音が、頭の奥をじわじわと焼くように響いている。
空はやたらと青くて、雲は絵に描いたみたいにふわふわだった。
今日も、暑い。
だけど、そんなことはどうでもよかった。
「おはよ、ミナト」
声をかけてきたのは、ヒナノだった。
サイドポニーを揺らして、少しだけ日焼けした腕を背中に隠すようにして立っている。
その仕草が、なんだか妙に可愛くて、俺は一瞬だけ視線を逸らした。
「……おはよ。今日、誕生日だよな」
「うん。覚えててくれたんだ」
ニコッと笑って、ヒナノが手を差し出す。
ハッとする。
渡そうと思っていたプレゼントを、俺はまだカバンの中から出していなかった。
焦って中を探る。
ちいさなキーホルダー。クマの形をしていて、夏っぽい麦わら帽子をかぶっているやつ。
雑貨屋で見かけて、「あ、これヒナノに似合いそう」って、反射的に手に取った。
「はい、これ。おめでとう」
「わっ……! 可愛い……」
ヒナノは感激したように、すぐにそれをスマホにつけて見せてくれた。
「ありがとう!」って、何度も繰り返しながら。
こんなふうに、笑ってくれるだけで。
今日という日が特別になる。
この瞬間のために生きてるって、そんな大げさなことさえ思ってしまう。
でも――
どこか、変だった。
このやり取り。
ヒナノの笑い方。
クマのキーホルダーの質感。
全部、見たことがある。
いや、知っている。
初めてじゃない。
初めてなはずなのに、これは――
「……あれ?」
心臓が、どくん、と跳ねた。
何かを忘れている。
けれど、それが何なのか、思い出せない。
頭の奥にひっかかっているような違和感。
夢の中で見たことがあるような景色。
何かが、決定的におかしい。
だけど、目の前のヒナノは、そんな俺のことなんて知らずに、笑っていた。
あたたかく、無邪気に、ただの“日常”として。
今日が、8月5日であることを疑いもしないまま。
──その日から、俺の“誕生日”は、何度も繰り返されることになる。
蝉が鳴いていた。
夏の音が、頭の奥をじわじわと焼くように響いている。
空はやたらと青くて、雲は絵に描いたみたいにふわふわだった。
今日も、暑い。
だけど、そんなことはどうでもよかった。
「おはよ、ミナト」
声をかけてきたのは、ヒナノだった。
サイドポニーを揺らして、少しだけ日焼けした腕を背中に隠すようにして立っている。
その仕草が、なんだか妙に可愛くて、俺は一瞬だけ視線を逸らした。
「……おはよ。今日、誕生日だよな」
「うん。覚えててくれたんだ」
ニコッと笑って、ヒナノが手を差し出す。
ハッとする。
渡そうと思っていたプレゼントを、俺はまだカバンの中から出していなかった。
焦って中を探る。
ちいさなキーホルダー。クマの形をしていて、夏っぽい麦わら帽子をかぶっているやつ。
雑貨屋で見かけて、「あ、これヒナノに似合いそう」って、反射的に手に取った。
「はい、これ。おめでとう」
「わっ……! 可愛い……」
ヒナノは感激したように、すぐにそれをスマホにつけて見せてくれた。
「ありがとう!」って、何度も繰り返しながら。
こんなふうに、笑ってくれるだけで。
今日という日が特別になる。
この瞬間のために生きてるって、そんな大げさなことさえ思ってしまう。
でも――
どこか、変だった。
このやり取り。
ヒナノの笑い方。
クマのキーホルダーの質感。
全部、見たことがある。
いや、知っている。
初めてじゃない。
初めてなはずなのに、これは――
「……あれ?」
心臓が、どくん、と跳ねた。
何かを忘れている。
けれど、それが何なのか、思い出せない。
頭の奥にひっかかっているような違和感。
夢の中で見たことがあるような景色。
何かが、決定的におかしい。
だけど、目の前のヒナノは、そんな俺のことなんて知らずに、笑っていた。
あたたかく、無邪気に、ただの“日常”として。
今日が、8月5日であることを疑いもしないまま。
──その日から、俺の“誕生日”は、何度も繰り返されることになる。
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