天使を好きになった悪魔

【第三章】喫茶店での日々

ルシフェとの再会

　林の中の小道は綺麗に整備されており、木々の隙間から差し込み光がきらきらしていて綺麗であった。
　式場の建物を迂回するように作られている道を進んでいくと式場の裏手に小さな小屋があるのを見つけた。
　建物には明かりがついており、人が居るようであった。

「ここにルシフェさんいるかな？」

　サーナは少し駆け足で建物に近寄った。
　少し躊躇してから扉を軽く叩く。

「はーい？」

　すぐに声が聞こえ、扉が開けられた。
　中から現れたのはルシフェであった。

「あら、サーナちゃんじゃないの。お店にも来てくれないからとっくに町を離れているんじゃないかって思ってて心配だったのよ」

　ルシフェはサーナの姿を認めて微笑んだ。
　サーナは反射的に頭を下げた。
　約束をすっかり忘れていた、なんて言うわけにもいかないので適当な言い訳を考えた。

「ごめんなさい。中々、時間が出来なくて」
「ううん。いいのよ、こうしてきてくれたんだから。ここまで来るの結構大変だったでしょ、お茶を入れて上げるから入って入って」

　ルシフェがサーナを招き入れようとしたとき、アランの存在に気づいた。
　視線が合ったアランは反射的におじぎをする。

「あら？　彼氏さん連れてきたの？」
「あ、アランは彼氏とかそういう人じゃなくてですね」
「えっと、僕はアランって言います。サーナと一緒に旅をしています。冬の間、この町で過ごす予定です」

　サーナは慌てて頬を赤らめる。
　アランは苦笑を浮かべながら説明をする。
　ルシフェはうんうんと頷きながら微笑んだ。

「なるほど、そういうことだったのね。初めまして、アラン君。私の名前はルシフェよ。さあ、二人ともどうぞどうぞ」

　ルシフェはサーナの手を引いて建物の中に招き入れた。
　ルシフェの押しの強さにサーナはたじたじであった。
　アランも内心恐る恐るといった感じで建物の中に入った。

　建物の中は机と本棚が並んでいていかにも作業する場所といった雰囲気だったが窓際には大きなソファも置いてあった。
　ルシフェは二人をその窓際のソファに案内した。
　サーナとアランはちょこんとソファに座る。

　すると、部屋の奥の方から声が聞こえた。

「ルシフェ－？　お客さんでも来たの－？」

　若干気の抜けた声でルシフェを呼びながら奥から人が出てきた。
　その人を見て、サーナとアランは驚いた。

「ルリさん？」
「あれ、サーナちゃんにアラン君？　どうしたのこんなところで」

　奥から現れたのはルリであった。
　喫茶店で働いているときのきっちりした態度とは違い、少しだれているような気の抜けた姿にサーナは驚いていた。
　対するルリは二人の存在に驚いているものの自分の態度は気にしていないようであった。

「えっと、私、ルシフェさんにドレスショップで会いまして、それで式場にも来て欲しいとお誘いを受けたので来たんですけど」

　サーナは簡単に経緯を説明した。
　ルリは息を吐くようにへえっと呟いた。
　ルシフェは三人が顔見知りなのに驚いてリアを見た。

「なになに、リア。知り合いだったの？　だったら教えてよー」
「いやいや。私、あんたがサーナちゃんとアラン君と知り合いなの知らないし」
　
　ルシフェはリアの肩をばしばしと叩きながら笑った。
　リアはそんなルシフェの相手をするのがさも面倒くさそうに軽く受け流していた。
　そんな二人のやりとりをサーナとアランはぽかんとした表情で見ていた。
　喫茶店で見せる姿と全く違うリアの姿に驚いていた。
　ルシフェはリアを小突いたりしながらうっとうしくリアに絡んでいた。

「ごめんね、二人とも。うるさい人で」
「あ、ひどーい。二人とも、リアの言うことなんて聞き流して良いんだからね」

　サーナとアランは苦笑いを浮かべた。
　リアはルシフェのことを軽く受け流しているものの本気で嫌がったりはしていなかった。
　あしらい方が慣れているのを見ると、きっと、二人は仲が良いんだろう、とサーナは思った。
　リアはため息を吐きながらサーナとアランのことを見る。

「あー、とりあえず、二人ともコーヒーでも飲む？」
「あ、はい。いただきたいです」
「はい、お願いします」
「リアー、私は紅茶でー」
「了解。ちょっと待っててね。あんたは自分で淹れなさい」

　リアはルシフェをたしなめながら奥に引っ込んだ。
　どうやら奥にキッチンスペースがあるようである。