8 / 32
第1章 光の戦車はこじらせ屋さん
5 歌(回想)
しおりを挟む
陽が落ちて王宮に灯が灯され始めた頃、カーラが再びやってきた。
「失礼します、お嬢様。お湯殿のご用意ができました」
遂にきた、とレイフは緊張に身体が硬くなる。夕食もほとんど食べられなかった。
貴族の女性にするように湯浴みの手伝いをしてくれようとするのを丁重に断る。他人に裸を見られたり身体に触れられたりして平然としているなんて、貴族はすごいな、とどうでもいいことを考える。
用意されていたのは、足首まである、ふんわりしたワンピースの夜着だった。同じ年頃の娘たちがきゃあきゃあ言いながら読んでいる読み物に出てくるような、身体が透けていたり、紐1本で危うく保たれているようなものではなくてほっとする。
身体に触れるのは恥ずかしくて勘弁してもらい、髪を整えてもらって、軽く化粧をしてもらう。最後に手首と足首に1滴ずつ、ふわりと甘く香る香水をつけて、それが準備の全てだった。
「ではお嬢様、わたくしはこれで失礼したします」
「え、あ、まっ…」
カーラは励ますようにうなずくと退出した。
広い部屋にぽつんと取り残されたレイフは、しばらくカーラが消えたドアに腕を伸ばしていたが、諦める。
この後、どうなってどうなるのだろう。
あまりに心細くて、レイフは精霊たちを現す。
「なあ、私はどうしてればいいんだ?」
精霊たちも困って首を傾げている。それはそうだ。彼らはレイフの一部だ。レイフが知らないことは精霊たちも知らない。
「や、そうだよな」
はあ、とため息をついて、誰も見ていないのをいいことに室内履きを抜いで、ソファに横になる。
昼過ぎにこちらに来てからまだ半日も経っていないのに、ひどく疲れた。クッションを枕にして目を閉じる。
「魔物と戦ってる方がまだマシだよ」
土の精霊が半透明の黄色の狐に姿を変えると、壁をすり抜けて部屋を出て行った。
しばらくして土の精霊は部屋に戻ってくる。
様子を見てきた土の精霊は、何の情報も得られなかったようだった。
「いやいいよ。しばらく誰も来ないってわかっただけで」
レイフはソファから身体を起こした。
「ここ、時間潰せるようなもの、なんもないのな」
部屋の構造としては、居室とひと続きになった寝室、寝室の奥に浴室、という、いたってシンプルな造りだ。
バルコニーに停めた戦車が夜の中に輝いている。
レイフは光の精霊を呼び戻した。
手の中に現した光の精霊は、楽器の形を取っている。精霊使いの村でよく演奏されている、リーリという弦楽器だ。4本の弦を弓で擦って音を出す。亡くなってしまったが、レイフの父はリーリの名手だった。レイフも父に教えを受けて、小さい頃からリーリを弾いていた。
甘く、低く落ち着いた音色が、夜の闇に溶けていく。
久しぶりの演奏は楽しくて、知っている曲を次から次へと弾く。
手持ちの曲を全て弾いてしまい、この前ラシルラの町に来た吟遊詩人が歌っていた、叶わない恋の歌を弾く。父もそうだったが、レイフも1度聴くとその曲を演奏することができた。歌詞も1度聴けば覚えてしまう。曲をざっと弾いてみて、全て覚えていることを確認すると、今度は曲に歌を乗せる。
演奏に夢中になっていたレイフは、背後の扉が開いたことに気づいていなかった。
最後の1音が空間に溶けていく。
「素晴らしいが…婚儀の夜に歌う歌としてはどうなんだ?」
レイフは飛び上がらんばかりに驚いて声の方を見る。
王太子がドアにもたれて立っていた。
「いつから…?」
「3曲ほど前だな」
王太子はレイフの向かいのソファにゆったりと腰掛けた。
「びっくりした。言ってくれよ」
「一応声はかけたが返事がなかった。…何か弾いてくれ」
「何かって何だよ。曲目で指定してくれないと、考えるの面倒くさいだろ」
普段よりラフな格好の王太子を直視できず、顔を逸らす。
「流行りの歌など知らない」
まあそうだろうなとレイフは思う。幼少期から王になるための勉学に追われ、王太子になってからは王を補佐し、今は代理を務めている。王の代理を務めることで次期国王としての研鑽を積むのだ。流行りの歌をじっくり聴く時間などないだろう。王宮の文化の担い手は、王妃をはじめとした女性たちだった。
「仕方ねえな」
レイフはリーリを抱えなおした。さっきの叶わない恋の歌は、言われてみれば今夜には相応しくなかったかもしれない。しかし相応しい歌となると?
レイフはゆっくりと息を吸うと、それと同じ速さで弓を上げる。リーリの甘く低い音が部屋に満ちる。
レイフは軽く目を閉じて歌う。
「火よ 温め 照らす者よ 往く道示したまえ
水よ 潤し 恵む者よ わが伴癒したまえ
風よ 動かし 伝える者よ この糸繋ぎたまえ
土よ 生じさせ 実らせる者よ この身還したまえ」
最後の1音が完全に消えてしまっても、王太子は口を開かなかった。
レイフが目を開くと、王太子がこちらをじっと見ていた。
「精霊使いの村で婚儀がある時に歌う歌だ。これならいいだろ。まあ、普通は周りが歌うんであって、自分じゃ歌わないけどな」
レイフは自嘲気味に笑う。
「隣に掛けてもいいか?」
王太子が尋ねる。レイフは少し眉を上げた。
「いいよ。もちろん」
いつもはそんなことわざわざ尋ねないのに、不思議に思う。
王太子はレイフの隣に掛けると、レイフの頬に手を伸ばした。無意識にビクッと肩が跳ね上がる。王太子は一瞬躊躇って手を引き掛けたが、思い直してそのまま触れる。少しひんやりした、柔らかな頬だった。
「正直、この部屋にそなたはいないのではと思っていた」
レイフは子どものような、それでいて全てを見通しているような、不思議な表情で王太子を見つめていた。
「私は卑小な者だから今になって言うが、そなたにはもうひとつ選択肢があった」
「この国を捨てること」
「気づいていたか」
「この部屋に来てから、気づいた。私はこの国を捨てて、どこかに行ってしまうこともできる。これは王太子からのメッセージなんだって」
「ではそなたは、私を選んでくれたと思っていいのだな?」
王太子の翡翠の瞳にじっと見つめられると、身動きができなくなって、目を逸らせることができない。出会った頃は線が細くて少女のような美しい顔をした少年だったのに、最近王太子はすっかり男になった。レイフが知る限り、最も美しい男に。
レイフは王太子の瞳に釘付けになったまま、僅かにうなずいた。夢でも見ているように、全く現実感がない
王太子は腕の中にレイフを抱き寄せる。レイフは身体を硬くする。
「ありがとう、レイフ。愛している。本当なら、そなたをどこか別の場所に逃さなければならなかった。そなたが求める自由を、本当に与えるならば。だが、私にはできなかった。卑小な私は、自分からそなたの手を離すことができなかった。許してくれ」
「許すなんて…。これは私が決めたことだ」
簡単に王太子の腕の中に抱きこまれてしまったことに戸惑いながら、レイフはなんとか言葉を紡ぐ。他の武人に比べれば華奢に見えるのに、実際にその胸に抱き寄せられると、レイフの身体はすっぽりとその中に収まってしまった。大きくて温かい身体。
「わ!?」
不意に王太子に横抱きに抱き上げられ、思わず首にしがみつく。
「やめてくれ。重いだろ」
柄にもなく動揺しているレイフを見て王太子は笑った。
「意識のある人間は目方どおりの重さではない。自分で重心を取ろうとするし、こうやってしがみついてくれるしな。意識がなくなると、レイフでも重いかもしれないが」
「なんだそれ」
王太子がどこへ行こうとしているのか察して、真っ赤な顔で力なく言う。王太子の肩に顔を埋めると、微かに香水の香がした。何の香だろう、この匂い、好きだ、とレイフはぼんやりした頭で思う。薄い布を通して、互いの体温が伝わる。
開け放されていた寝室のドアを潜る。
「閉めてくれ、両手が塞がっている」
腕の中のレイフに言う。
「なんなんだ」
レイフは王太子に抱き上げられたまま、腕を伸ばしてドアを閉める。
パタン、という軽やかな音が、やけに大きく響いた。
レイフは、大人が3人くらい悠々と横になれそうなベッドにそっと横たえられる。王太子が両手を顔の両横に突いて、閉じ込めるようにして覗き込んでくる。顔が熱い。息がうまくできない。どうして今まで無意識に呼吸できていたんだろう。どうやっていたんだっけ?
「怖いか?」
王太子に尋ねられて、初めてレイフは自分が僅かに震えていることに気づいた。うなずいたつもりだったが、首はほとんど動かなかった。
「そうか」
言葉とは裏腹に、王太子はそのまま顔を寄せてくる。唇が柔らかく重なり、呼吸が絡め取られる。ほんの少しだけかけられた、王太子の身体の重み、その身体が持つ熱。それらに胸が雷に打たれたように締めつけられる。
ふと気がつくと唇は離れていて、王太子の瞳がすぐそばにあった。
王太子は身体を離すとニヤリと笑う。
「これでレイフの貞操は私のものだな」
「え?」
王太子はベッドの反対の端に、背中を向けて横になった。
「明日誰かに、私と寝たのかと尋ねられたら黙ってうなずいておけよ。おやすみ、レイフ」
そのまま灯りを消してしまう。
(ええ!?)
レイフは暗闇で身体を起こして王太子の方を見るが、王太子はもう眠ることに決めてしまったようだった。
肩透かしをくらって、呆然として再び横になる。
(何もする気ないんなら、最初から言っといてくれよ! どきどきし損じゃないか。私の緊張を返せ!)
レイフも王太子に背を向けて目を閉じる。それはもう、ふて寝だった。
この状況だというのに、ずっと緊張しどおしだったせいで、少しホッとしたら眠りが水のようにひたひたとやってきた。
「失礼します、お嬢様。お湯殿のご用意ができました」
遂にきた、とレイフは緊張に身体が硬くなる。夕食もほとんど食べられなかった。
貴族の女性にするように湯浴みの手伝いをしてくれようとするのを丁重に断る。他人に裸を見られたり身体に触れられたりして平然としているなんて、貴族はすごいな、とどうでもいいことを考える。
用意されていたのは、足首まである、ふんわりしたワンピースの夜着だった。同じ年頃の娘たちがきゃあきゃあ言いながら読んでいる読み物に出てくるような、身体が透けていたり、紐1本で危うく保たれているようなものではなくてほっとする。
身体に触れるのは恥ずかしくて勘弁してもらい、髪を整えてもらって、軽く化粧をしてもらう。最後に手首と足首に1滴ずつ、ふわりと甘く香る香水をつけて、それが準備の全てだった。
「ではお嬢様、わたくしはこれで失礼したします」
「え、あ、まっ…」
カーラは励ますようにうなずくと退出した。
広い部屋にぽつんと取り残されたレイフは、しばらくカーラが消えたドアに腕を伸ばしていたが、諦める。
この後、どうなってどうなるのだろう。
あまりに心細くて、レイフは精霊たちを現す。
「なあ、私はどうしてればいいんだ?」
精霊たちも困って首を傾げている。それはそうだ。彼らはレイフの一部だ。レイフが知らないことは精霊たちも知らない。
「や、そうだよな」
はあ、とため息をついて、誰も見ていないのをいいことに室内履きを抜いで、ソファに横になる。
昼過ぎにこちらに来てからまだ半日も経っていないのに、ひどく疲れた。クッションを枕にして目を閉じる。
「魔物と戦ってる方がまだマシだよ」
土の精霊が半透明の黄色の狐に姿を変えると、壁をすり抜けて部屋を出て行った。
しばらくして土の精霊は部屋に戻ってくる。
様子を見てきた土の精霊は、何の情報も得られなかったようだった。
「いやいいよ。しばらく誰も来ないってわかっただけで」
レイフはソファから身体を起こした。
「ここ、時間潰せるようなもの、なんもないのな」
部屋の構造としては、居室とひと続きになった寝室、寝室の奥に浴室、という、いたってシンプルな造りだ。
バルコニーに停めた戦車が夜の中に輝いている。
レイフは光の精霊を呼び戻した。
手の中に現した光の精霊は、楽器の形を取っている。精霊使いの村でよく演奏されている、リーリという弦楽器だ。4本の弦を弓で擦って音を出す。亡くなってしまったが、レイフの父はリーリの名手だった。レイフも父に教えを受けて、小さい頃からリーリを弾いていた。
甘く、低く落ち着いた音色が、夜の闇に溶けていく。
久しぶりの演奏は楽しくて、知っている曲を次から次へと弾く。
手持ちの曲を全て弾いてしまい、この前ラシルラの町に来た吟遊詩人が歌っていた、叶わない恋の歌を弾く。父もそうだったが、レイフも1度聴くとその曲を演奏することができた。歌詞も1度聴けば覚えてしまう。曲をざっと弾いてみて、全て覚えていることを確認すると、今度は曲に歌を乗せる。
演奏に夢中になっていたレイフは、背後の扉が開いたことに気づいていなかった。
最後の1音が空間に溶けていく。
「素晴らしいが…婚儀の夜に歌う歌としてはどうなんだ?」
レイフは飛び上がらんばかりに驚いて声の方を見る。
王太子がドアにもたれて立っていた。
「いつから…?」
「3曲ほど前だな」
王太子はレイフの向かいのソファにゆったりと腰掛けた。
「びっくりした。言ってくれよ」
「一応声はかけたが返事がなかった。…何か弾いてくれ」
「何かって何だよ。曲目で指定してくれないと、考えるの面倒くさいだろ」
普段よりラフな格好の王太子を直視できず、顔を逸らす。
「流行りの歌など知らない」
まあそうだろうなとレイフは思う。幼少期から王になるための勉学に追われ、王太子になってからは王を補佐し、今は代理を務めている。王の代理を務めることで次期国王としての研鑽を積むのだ。流行りの歌をじっくり聴く時間などないだろう。王宮の文化の担い手は、王妃をはじめとした女性たちだった。
「仕方ねえな」
レイフはリーリを抱えなおした。さっきの叶わない恋の歌は、言われてみれば今夜には相応しくなかったかもしれない。しかし相応しい歌となると?
レイフはゆっくりと息を吸うと、それと同じ速さで弓を上げる。リーリの甘く低い音が部屋に満ちる。
レイフは軽く目を閉じて歌う。
「火よ 温め 照らす者よ 往く道示したまえ
水よ 潤し 恵む者よ わが伴癒したまえ
風よ 動かし 伝える者よ この糸繋ぎたまえ
土よ 生じさせ 実らせる者よ この身還したまえ」
最後の1音が完全に消えてしまっても、王太子は口を開かなかった。
レイフが目を開くと、王太子がこちらをじっと見ていた。
「精霊使いの村で婚儀がある時に歌う歌だ。これならいいだろ。まあ、普通は周りが歌うんであって、自分じゃ歌わないけどな」
レイフは自嘲気味に笑う。
「隣に掛けてもいいか?」
王太子が尋ねる。レイフは少し眉を上げた。
「いいよ。もちろん」
いつもはそんなことわざわざ尋ねないのに、不思議に思う。
王太子はレイフの隣に掛けると、レイフの頬に手を伸ばした。無意識にビクッと肩が跳ね上がる。王太子は一瞬躊躇って手を引き掛けたが、思い直してそのまま触れる。少しひんやりした、柔らかな頬だった。
「正直、この部屋にそなたはいないのではと思っていた」
レイフは子どものような、それでいて全てを見通しているような、不思議な表情で王太子を見つめていた。
「私は卑小な者だから今になって言うが、そなたにはもうひとつ選択肢があった」
「この国を捨てること」
「気づいていたか」
「この部屋に来てから、気づいた。私はこの国を捨てて、どこかに行ってしまうこともできる。これは王太子からのメッセージなんだって」
「ではそなたは、私を選んでくれたと思っていいのだな?」
王太子の翡翠の瞳にじっと見つめられると、身動きができなくなって、目を逸らせることができない。出会った頃は線が細くて少女のような美しい顔をした少年だったのに、最近王太子はすっかり男になった。レイフが知る限り、最も美しい男に。
レイフは王太子の瞳に釘付けになったまま、僅かにうなずいた。夢でも見ているように、全く現実感がない
王太子は腕の中にレイフを抱き寄せる。レイフは身体を硬くする。
「ありがとう、レイフ。愛している。本当なら、そなたをどこか別の場所に逃さなければならなかった。そなたが求める自由を、本当に与えるならば。だが、私にはできなかった。卑小な私は、自分からそなたの手を離すことができなかった。許してくれ」
「許すなんて…。これは私が決めたことだ」
簡単に王太子の腕の中に抱きこまれてしまったことに戸惑いながら、レイフはなんとか言葉を紡ぐ。他の武人に比べれば華奢に見えるのに、実際にその胸に抱き寄せられると、レイフの身体はすっぽりとその中に収まってしまった。大きくて温かい身体。
「わ!?」
不意に王太子に横抱きに抱き上げられ、思わず首にしがみつく。
「やめてくれ。重いだろ」
柄にもなく動揺しているレイフを見て王太子は笑った。
「意識のある人間は目方どおりの重さではない。自分で重心を取ろうとするし、こうやってしがみついてくれるしな。意識がなくなると、レイフでも重いかもしれないが」
「なんだそれ」
王太子がどこへ行こうとしているのか察して、真っ赤な顔で力なく言う。王太子の肩に顔を埋めると、微かに香水の香がした。何の香だろう、この匂い、好きだ、とレイフはぼんやりした頭で思う。薄い布を通して、互いの体温が伝わる。
開け放されていた寝室のドアを潜る。
「閉めてくれ、両手が塞がっている」
腕の中のレイフに言う。
「なんなんだ」
レイフは王太子に抱き上げられたまま、腕を伸ばしてドアを閉める。
パタン、という軽やかな音が、やけに大きく響いた。
レイフは、大人が3人くらい悠々と横になれそうなベッドにそっと横たえられる。王太子が両手を顔の両横に突いて、閉じ込めるようにして覗き込んでくる。顔が熱い。息がうまくできない。どうして今まで無意識に呼吸できていたんだろう。どうやっていたんだっけ?
「怖いか?」
王太子に尋ねられて、初めてレイフは自分が僅かに震えていることに気づいた。うなずいたつもりだったが、首はほとんど動かなかった。
「そうか」
言葉とは裏腹に、王太子はそのまま顔を寄せてくる。唇が柔らかく重なり、呼吸が絡め取られる。ほんの少しだけかけられた、王太子の身体の重み、その身体が持つ熱。それらに胸が雷に打たれたように締めつけられる。
ふと気がつくと唇は離れていて、王太子の瞳がすぐそばにあった。
王太子は身体を離すとニヤリと笑う。
「これでレイフの貞操は私のものだな」
「え?」
王太子はベッドの反対の端に、背中を向けて横になった。
「明日誰かに、私と寝たのかと尋ねられたら黙ってうなずいておけよ。おやすみ、レイフ」
そのまま灯りを消してしまう。
(ええ!?)
レイフは暗闇で身体を起こして王太子の方を見るが、王太子はもう眠ることに決めてしまったようだった。
肩透かしをくらって、呆然として再び横になる。
(何もする気ないんなら、最初から言っといてくれよ! どきどきし損じゃないか。私の緊張を返せ!)
レイフも王太子に背を向けて目を閉じる。それはもう、ふて寝だった。
この状況だというのに、ずっと緊張しどおしだったせいで、少しホッとしたら眠りが水のようにひたひたとやってきた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる