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第二章 朱南国
真相は誰の手に
しおりを挟む大した内容じゃない研究結果。
消えた実験器具。
どこかへ移したと考えるのがいいだろうが、誰か共犯者がいることになる。五家の中だと更に厄介だが、直感的に違うだろうと思った。五家の中で、そんなに器用な者は今のところいない。更に言うなら、兄上とつるむことで利益を得ようと考える者が居るかといえば、居ないだろう。椅子から立ち上がり、部屋の扉へ歩みを進めると、夏采が不思議そうに見つめてきた。
「壮透のところへ行く」
「おい、夜中だぜ」
「構わない。壮透のことだ、どうせ起きて仕事してるさ」
後ろから夏采のため息が聞こえるが無視した。瞬移で壮透の部屋まで移動すると、壮透の部屋から気配がする。
「壮透。私だ」
「どうぞ」
「悪いね、入るよ」
壮透の部屋の扉を開けると、そこには夏能と壮透がいた。突然現れた私達を不思議そうに見つめる夏能と、わかっていたかのように眉一つ動かさない壮透。
「おい、夜中だぜ」
「夏能、すまないね。先程全く同じことを夏采からも言われたよ。……壮透、話が」
「……時雨兄上のことですか?」
「! 気づいていたのかい」
一度視線を落とした壮透は、静かに立ち上がると大きな卓の前まで移動し、手をついた。立ち上がる画面に映像が流れる。
「ビライトの者たちが、兄上の部屋を出入りしているという報告がありました。しかし、匿名で」
「……匿名?」
「ええ、誰がこの情報を私にくれたのかは、わかりません。ただ、作られた映像ではないことは確認済みです。となれば、限りなく信用には足るかと……怪しいことに変わりはありませんが」
壮透が卓の映像を消すと、部屋は静まり返った。皆一様に頭を悩ませているのだろう。先程夏采から受けた報告を壮透に共有すると、壮透は少しだけ意外そうに目を見開いた。
「兄上の実験器具が?」
「ああ。兄上のことだ、中途半端に実験を辞めることはないだろう。となれば、実験が完成したか、もしくは」
「実験を更に進めるための後ろ盾を得た……ですか?」
壮透の発言に頷いて返す。
先程見せてもらった映像と組み合わせるなら、ビライトという後ろ盾を得たと考えるのが本命だろう。ただ、こんなに簡単に尻尾を掴ませるだろうか? あの兄上が。
壮透も同じように考えているのか、眉間に深い皺を刻んでいる。
「怪しいけど、事実だけは整理しておこう。それから、法葉も兄上のところに通っているよ」
「法葉が? よろしいのですか?」
「良いも悪いもないさ。彼女が通っている思惑を探り中だ」
ため息をもらしながら笑うと、壮透は更に眉間の皺を濃くした。
「誰が兄上側なのか……探る必要がありますね」
「そうだね、壮透。五家の監視は私がするから、国外の監視をお願いしてもいいかい?」
「ええ。国外は宇宙界の定例の見回りもありますから」
「ああ、頼んだよ。それから……近々、ヴィーに行く用事があるかい? 確認してほしいことがある」
不思議そうに目を見開く弟に、夏采が仕入れた情報を渡す。目を見開くと言っても、見慣れた者でなければ気づかないほど、僅かな変化だが。
そして気がつけば、また朝を迎えようとしていた。
しばらく経ったある日、壮透が血相を変えて部屋に飛び込んで来た。
「兄上!!」
「どうしたんだい、珍しいね君がそんなに焦るなんて」
「双子です」
「……まさか」
そう。壮透の妻であり法葉の妹、法華が身籠ったのだ。血相を変える理由など聞かなくてもわかる。双子ということは、魂結びと魂解きが顕出しない限り、虐げられる運命は変えられない。
「……そういえば、最近香卦良のところには行ったかい?」
「行っていません。……兄上が言っていた件、先日蕾殿に尋ねましたが、答えはありませんでした。しかし、香卦良なら……何かしら答えがあるやもしれませんね」
壮透と頷き合い、香卦良のもとへ向かった。
香卦良は既にわかっていたのか、私達を招き入れると卓に座るように促し、お茶を出してくれた。
「壮透、おめでとう。双子とは難儀ではあるが、まずは法華の無事のお産を祈ろう。……して、それ以外にお前たちには話があるようだな」
「かたじけない、香卦良。本命の話だが……デンス、という言葉を知っているか?」
壮透の言葉を聞いてすぐ、香卦良は顔色を変え乱暴に立ち上がった。香卦良の取り乱す姿などこれまで見たことがなかった我々は、呆気に取られた。
「どこでその名を聞いた!?」
「……待ってくれ、落ち着け香卦良。私達は、時雨兄上がビライトの者と話しているのを盗聴したんだ」
「盗聴……時雨が、言っていたのか」
驚いたように目を瞠る香卦良は、額に汗を浮かべていた。少しよろけるように腰掛け、深いため息をついている。
「だから、本当にデンスと言ったのかも少し怪しいが、何か知っているなら教えてくれないか? ……その様子で、知らないとは言わせないが」
壮透と目配せしながら、香卦良の次の言葉を待つ。大して過ぎてない時間が、無限のように感じられた。
「……そうか。……紅蓮、出てこい。お前にも居てもらったほうがいい」
香卦良の呼びかけに応じるように、奥から父上が現れた。失踪していたはずの、父が。死んだ人を見ているかのような、いたたまれない感情が体中を支配して、気がつけば先程の香卦良のように、立ち上がって叫んでいた。
「父上!? なぜここに!!」
「白蓮、壮透。久しいな。訳合ってここに身を寄せ、姿を眩ませていた」
少しだけ老けたように見える父。恐らく無精髭のせいだろう。なんてことはない、と言わんばかりに香卦良の隣へ腰掛ける父を、まだ信じられない面持ちで見つめていた。
「久方ぶりの再会を喜ぶ時間をやりたいところだが、すまない紅蓮。……時雨が気づいたかもしれん」
「偲への執着が、そこまで辿り着かせたか。恐ろしい奴よ」
苦笑いする父を、何処か遠くに見ていた。
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