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大人はずるいよ!

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 トイレで用を足したゾラは、洗面所で手を洗いながらぼやいた。

「大人はずるいよ!」

 今日は一日、叱られてばかりだった。
 夕食のとき、嫌いな人参を皿の端に寄せて、パパに叱られた。

「もう! 残さず食べなさい」

 けれどゾラは知っている。パパの皿には、彼の嫌いなピーマンが最初から入っていないことを。
 お風呂に入る前、おもちゃをしまおうと思ったゾラをママが叱った。

「もう! 片付けしなさい」

 けれどゾラは知っていた。ママの引き出しだって化粧品でいつもごちゃごちゃしているのだ。それに、今ちょうど片付けようと思っていたのに。

 極めつけは、きちんと歯磨きをして寝る支度をしていたのに、二人から「もう! 早く寝なさい」と言われたことだ。

 ゾラはすっかり頭にきていた。だって、パパもママものんびりリビングでくつろいでいて、ちっとも寝る気配がない。
 きっと、自分が寝てから美味しいものを食べたり、遊んだりするんだ。そう思うと胸がもやもやする。

「こんなもやもや、いらないよ」
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