植物人-しょくぶつびと-

一綿しろ

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梅の木

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 ふう、とため息をつく。
 女癖の悪い金持ちの男の末路。正直そこはどうでもいい。
 問題なのは出てきた女たちだ。植物妖になったのは阿賀梅子という女らしい。
 そしてもう一人、その姉の桜子……。俺は懐のはがきを取り出す、俺に殺めの依頼をしてきたものだ。そこに記された名前は「友岡桜子」姉と同じ名前だ。
 先ほどの老婆が恐らくこの「友岡桜子」なんだろう。結婚して名字が変わったんだろう。

「つまり、あのばあさんは妹の駆除を頼んできたって事だよな」

 婚約者を食われたんだ、色々とあったんだろう。妹に対し怨みは持つかもしれない。
 そう思い梅の木を見る。先ほどの思念ではやはり人型を取っていた。だが今の彼女は完全に植物化している、恐らく養分を温存する為に木になってそのまま……なんだろうが……何かがひっかかる。
 なぜ、これだけ人をたぶらかせる力を持った植物妖が木の姿になって養分を温存する必要があったのか?
 あの梅の木には絶対に思念が残っている。理由についてはいずれ知る事になるだろうから、考えるのはやめよう。今は周りの植物化達を枯るのが先だ。

 大量の植物化たちを前に俺はため息をついた。

──

 
 最後の植物化を枯らした時、辺りはすっかり暗くなっていた。さて、梅の木に取り掛かるか。そう思った時に懐の電話がなる。

「はい、橘……」
『依頼人の友岡ですが、作業状況はどうなりました?』

 あの老婆の声だ。

「どうも、とりあえず周囲の奴らは全員枯り終えました、後は梅の木だけです」
『そうですか、わかりました』
「ところで……あの梅の木。あれはあんたの妹さんですよね?」

 俺がそう尋ねると電話越しなのに老婆がピリついたのがわかる。

「本当に枯っていいんですか?」
『……あなたは黙って仕事をすればいいだけです。余計な詮索はしないで下さい』
「そりゃ、失礼しました」

 俺が言い終える前にブツッと電話が切れる。
 おかっかねえ。声だけなのに凄みというか迫力というか、けど詮索するなと言われてもな、

「教えてくれなくても、見る事になるからなあ」

 まあ、その事は言わないでおくか。それに……ちらりと梅の木を見る。あれには「本物」が使われているはずだ。回収しない訳にはいかない。
 梅の木に近づきそっと幹に触れる。やはり思念が残っている。
 依頼主のは悪いがどっちみち思念を開放しないとこいつを枯れないからな。

「お前の思念見せてもらうぞ」

 そう言うと俺は意識を梅の木に集中させた。
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