ネメスアルカ〜世界が滅亡するまでの物語〜

吉永 悠

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第三話 男女二人、ひとつ屋根の下

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「お、お邪魔します……」

恐る恐る乃々華の部屋へ入る響也。

「何言ってるのよ」

「え?」

「今日からあんたも住むんだから、ただいまでしょ?」

さも当たり前のように乃々華はそう告げる。

「……ふふ、ははは! そうだな、ただいま……ただいま!」

「ふふ、おかえりなさい。そしてただいま!」

「あぁおかえり」

 ただいま、おかえり。一人暮らしが長い響也にとっては久しく言葉にして呟いたものだ。
 家で待ってくれる人がいる、一人じゃないという現実を身に感じ喜びを露わにする。

乃々華の部屋は一人で住むには広すぎであり、三LDKほどあった。

「私も最近引っ越してきたばかりであまり散らかってないから空いてる好きな部屋使ってちょうだい」

「あぁ。そうさせてもらうよ」

自分の部屋を確保した響也は荷解きを始める。ベッドやテレビ等は予め取り付けられていた。

(元々客室用の部屋を譲ってくれたのか……)

乃々華の心遣いに内心感謝しながら荷解きを進めていく。

「終わった?」

「丁度終わったよ。あ、晩飯どうする?」

時刻は十八時三十二分。夕飯時である。

「その事について話そうと思ってね。家事分担しようかなって」

「なるほどな。乃々華は何ができるんだ?」

ここで乃々華は視線を泳がせる。

「え、えっとぉ……」

「……掃除は?」

「お手伝いさんがいたから……」

「……買い物は?」

「……お、お手伝いさんがいたから……」

「…………料理は?」

「!! 料理なら任せて!!」

ここで先ほどとは一転、目を輝かせ乃々華は胸を叩く。

「おお! 何が作れるんだ?」

「えっと、カップラーメンとインスタントラーメンとめちゃくちゃ頑張ればゆで卵が作れるわ!」

「……ほう」

響也は呆れ果て、ジト目で乃々華を見つめる。

「な、何よ! 凄いことでしょ!」

「あのな、カップラーメンもインスタントラーメンも料理には含まん。と言うか体に良くないからそういうのは禁止!」

「そ、そんなぁ!!!! カッペヌードルもポークラーメンも食べれないなんていやぁぁぁ!!!」

子どものように駄々をこね始める乃々華。

(ってかお嬢様かと思えば意外とそういうのも食べるんだな……)

体に悪いものが食べたくなる気持ちは響也にも分からなくはない。しかし、そこで自分に甘え食べ始めてしまうのは良くない。

「俺が美味しい料理作ってやるから。カッペヌードルやポークラーメンなんか二度と食べなくてもいいぐらい美味いやつ作ったる!」

「ほ、本当?」

「あぁ! こう見えて家事は得意だし料理は一番得意なんだよ!」

涙目で子犬のような顔で見つめる乃々華についつい甘やかすようなことを言ってしまう。

(結局甘やかしちゃったな……)

「そ、そういうことなら仕方ないわね! 貴方には料理という重大な任務を任せるわ! 必ず遂行させなさいよね!」

「Sir,yes,sir!」

響也は敬礼したところである事を思い出す。

「所で他の家事は誰がするんだ?」

「あっ」

◇ ◇


結局全ての家事をする事になった響也。しかし、その顔は心做しか嬉しそうではあった。

(ま、住まわせてくれるわけだしそのぐらいしないとバチ当たるよな)

せっせこお風呂掃除に励む響也。残るは食事の用意だけとなった。

「よし! 乃々華、今日何が食べたい?」

「うーん、そうねぇ。肉じゃがが食べたいかなぁ」

「おっけー。俺のお手製肉じゃがを作ってやらァ!」

気合いを入れて調理に勤しむ響也。その姿を後ろから眺める乃々華。

(こうやって誰かとわいわいしながら家にいるのも久しぶりね)

瀧山は仕事が忙しいためほぼ家におらず、乃々華の母親は小さい頃に病で他界したためにほぼ一人で家にいることが多かった。

「響也! 私も手伝っていいかしら?」

「ん? おう! じゃあまずはじゃがいもの皮を……」

「こうね!」

「ぎゃあ!!!! 違う!こうだ!」

「うーん難しいわね」

「あー! ピューラー使え! 初心者に包丁はまだ無理だ!」

「あ、これなら簡単ね」

「あぁぁぁぁ!!! なんでこんなにちっちゃくなるまで剥くんだよぉぉ!!」

「えへ、ついつい楽しくて」

「えへじゃない! 可愛い顔したってそうはいかないぞ!」

「え!? 可愛い!? きゅ、急に何言い出すのよあんたは!!」

「いってぇ! なんで俺が叩かれんだよォ!」

二時間後……

「はぁ、はぁ。やっと完成だ……」

「私もやれば出来るわね!」

「コツ掴むまでくそ苦労したがな……」

だがコツ掴んでからはトントン拍子で調理が進んで行った。

「ま、手際はいい方だ。今度ちゃんと料理教えるよ」

「ほんと!? やったー! 絶対、ぜ~ったい!約束だからね!」

ふんふふんと鼻歌を口ずさむ所を見ると本当に嬉しそうだと感じる。

(ま、こういうのもありだなぁ)

「よし! 早く食べようぜ! お腹空いて動けねぇ!」

「えぇ!」

二人は手を合わせ食事の挨拶をする。

「「いただきます!」」

◇ ◇

カポーン

「ふぅ。いい湯加減だ」

食事も終え響也は後片付けした後お風呂へ入った。

(何か今日一日だけで色々あったなぁ)

 二つのネメスアルカに選ばれ、自分が特異点であると教えられ世界の命運を握るかもしれない存在であることを聞かされると整理するのも大変だろう。

(俺なんかが世界を救えるのか……)

『虚無の黙示録』そこには自分の事は書かれていなかったという。そもそも本当にそんなのがあるかも分からない。

(あの人達を本当に信じてもいいかもまだ分からない)

十三人の英雄の内の二人、林田時信と四宮瀧山。もしかすると二人が嘘をついている可能性だってある。

(ま、今俺に出来るのは二つのネメスアルカの制御と覚悟を決めて本契約を結ぶこと、だな)

響也はネメシアを志すのを辞めるつもりは無い。それしか響也に道は無いのだ。

(俺を必要としない世界でやっと俺を必要としてくれるかもしれない事なんだ)

その決意は揺るぎないものであることを確信し、響也は風呂を上がった。


◇ ◇

「あの肉じゃが、美味しかったな」

部屋に戻った乃々華は食事の風景を思い出す。久しぶりに誰かと食べた食事。十何年ぶりだろうか。

「あの味、お母様の味つけに似てたかも」

今は亡き母親の手作りの肉じゃがの味を思い出す。肉じゃがを所望した理由も単純に母の作った肉じゃがが好きで忘れられないというだけだった。

「あいつ、こんなわがままな私でも一緒にいてくれるんだ……」

今まで我慢しかしてこなかった乃々華が初めてわがままを言った相手である響也の事を思い浮かべる。

「うっ……/// 何よ、こんなの私がすごい意識してるみたいじゃない……!」

 思春期特有の異性を意識する気持ちが止まらない乃々華。

「私はネメシアになって世界を救うのよ。色恋に耽っている余裕はないわ」

自分の覚悟を見つめ返す。

「大人になりなさい、乃々華。いつまでも子どものままじゃダメ。全てを捨てる覚悟をしなさい」

それは自己暗示のものだった。

何が彼女をそこまで思い詰めさせるのか、それは誰も知る由もないことなのだ。
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